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この記事は「介護職の腰痛対策 ボディメカニクス」をキーワードに内容を構成しております。こちらのテーマについて、もともと関心が高く知識を有している方に対しても、ほとんど知識がなくて右も左も分からない方に対しても、有益な情報がお届けできるように心掛けております。それでは早速、内容に移らせていただきます。
医療や介護の世界における労働者の悩みとして、腰痛の発生が以前から問題となっております。そして、様々な技術が進歩する現代においても、この問題は解決しておらず、腰痛に悩まさせる方は非常に多くなっております。
この腰痛を予防するために重要となるものがボディメカニクスになります。みなさまはボディメカニクスという言葉についてご存知でしょうか?ボディメカニクスとは簡単に言うと、最小限の力で介護ができる介護技術を意味します。
ボディメカニクスは正しく理解して実践することができれば、学んだその日から効果を発揮するテクニックになるため、非常に有効な腰痛予防対策といえます。
是非、ボディメカニクスについて理解を深め、新人職員や腰痛に悩んでいる職員にボディメカニクスについてお伝えしていただき、1人でも多くの腰痛を予防できればと考えております。また、今までにボディメカニクスについて学ぶ機会がなかった方もいらっしゃると思います。そんな方でも、この記事を読むことで明日からの臨床でボディメカニクスを活用することができるようになることを目標にします。特に、下記のポイントを理解できるようにします。
- 職場における腰痛発生状況について
- ボディメカニクスとは
- ボディメカニクスの8原則について
こちらの記事がボディメカニクスにおける理解力の向上および臨床業務における腰痛予防に少しでもお力添えになれば幸いです。是非、最後までご覧になってください!
【簡単に自己紹介】
30代の現役理学療法士になります。
理学療法士として、医療保険分野と介護保険分野の両方で経験を積んできました。
現在は医療機関で入院している患者様を中心に診療させていただいております。
臨床では、様々な悩みや課題に直面することがあります。
そんな悩みや課題をテーマとし、それらを解決するための記事を書かせて頂いております。
理学療法士としての主な取得資格は以下の通りです
登録理学療法士
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士として働いていると、一般的な会社員とは異なるリハビリ専門職ならではの苦悩や辛いことがあると思います。当サイト(rehabilikun blog)ではそのような療法士の働き方に対する記事も作成し、働き方改革の一助に携わりたいと考えております。
療法士の働き方に対する記事の 1 つが右記になりますが、"理学療法士は生活できない?PTが転職を考えるべき7つのタイミング"こちらの記事は検索ランキングでも上位を獲得することができております。興味がある方は、こちらの記事も目を通してくれると幸いです☺
腰痛の発生要因と原因
職場における腰痛は、特定の業種のみならず多くの業種及び作業において認められています。
腰痛の発生要因としては、腰部に動的あるいは静的に過度の負担を加える動作要因、腰部への振動、温度、 転倒の原因となる床・階段の状態等の環境要因、年齢、性、体格、筋力、椎間板ヘルニア、骨粗鬆症等の既往症又は基礎疾患の有無等の個人的要因、職場の対人ストレス等に代表される心理・社会的要因などが挙げられ、要因は多岐にわたります。
腰痛の発生要因は、このように多元的であるほか、作業様態や労働者等の状況と密接に関連し、変化することから、職場における腰痛を効果的に予防するには、労働衛生管理体制を整備し、多種多様な発生要因によるリスクに応じて、作業管理、作業環境管理、健康管理及び労働衛生教育を総合的かつ継続的に、また事業実施に係る管理と一体となって取り組むことが必要となります。
介護職の腰痛は特に多い
職場における腰痛は、「4日以上の休業を要する職業性疾病」のうち、約6割を占める労働災害となります。腰痛の発生が多い業種の全業種に占める割合を見ると、商業(小売業)で12.1%、運輸交通業(道路旅客・貨物運送業)で12.9%、保健衛生業(社会福祉施設、医療保健業)で26.6%となっております。
業種別の割合の推移を確認してみると、運輸交通業は2008年をピークに減少傾向にあり、商業も2008年をピークに減少傾向にあります。しかし保健衛生業では、医療保健業が横ばいであるものの、社会福祉施設では、2002年の363件から2011年は1002件と、約2.7倍に増加しております。
2000年の介護保険制度の導入以降、介護労働者数は1.7倍程度に増加していますが、腰痛は労働者数の増加を上回るペースで発生していることになります。
ボディメカニクスで腰痛を予防
このように、医療従事者は労働者の中でも特に腰痛を引き起こしやすい職業になりますので腰痛予防対策は欠かせないものになります。
腰痛の要因は多岐に渡りますので、腰痛予防対策といっても、「環境的要因」「個人的要因」「心理・社会的要因」それぞれへの対策が必要になります。
「環境的要因」や「心理・社会的要因」については個人の問題というよりは、職場全体の問題となるため、個人では対処しきれない部分があると思います。一方、「個人的要因」についてはボディメカニクスを正しく活用することができれば、効果的な腰痛予防対策に繋げることができます。
医療従事者が腰痛を引き起こしやすいことについては、業務の性質上ある程度仕方がないことだと思います。しかし、私たちとしては自分の身体を守るため、対象者に安全なケアや看護を提供するためにも、腰痛の発生を食い止めなければなりません。是非、ボディメカニクスについて正しく理解して日々の業務に活かしていただきたいと思います。
ボディメカニクスとは
ボディメカニクスとは、「body:身体」と「mechanics:機械学」から生まれた造語になります。ボディメカニクスは、物理学と力学の諸原理を利用した経済効率のよい動作とされ、ボディメカニクスの活用により動作を行う者の身体負担を軽減させることが実証されています。
医療や介護においてボディメカニクスを活用した身体介助を実施することで、最小限の力で身体介助を行なったり、介助者の身体負担を軽減した状態で介護を行うことができます。
ボディメカニクスについては「介助者の腰痛予防対策」という視点で考えることが多いとは思いますが、ボディメカニクスの活用は介助される人にとっても利点となります。物理学と力学的に効率の良い動作で介助されることになるため、無駄な力が働かずに、安全で安楽な身体介助へと繋がります。
ボディメカニクスの 8 原則
- 足を広げて支持基底面積を広くする
- 重心を下げて骨盤を安定させる
- 対象者と自分の重心を近づける
- 対象者の身体を小さくまとめる
- 身体をねじるような介助は避ける
- 介助者は大きくて強い筋肉を使用する
- 移動時は水平移動と引く介助を意識する
- てこの原理を活用して介助する
足を広げて支持基底面を広くする
支持基底面とは、身体の床面に接している部分の外周により作られる広さ(領域)をいいます。支持基底面が広く、重心線が支持基底面の中心に近いほど姿勢の安定性は高くなります。
支持基底面が広いほど姿勢の安定性は高くなりますが、闇雲に足を広げても動きにくくなりますので適度に足を広げることが重要となります。
足の広げ方の目安としては、「肩幅よりも少し広めに開き、つま先は膝と同じ方向へ向ける」で良いと思います。このような姿勢がボディメカニクスの活用に適しております。
重心を下げて骨盤を安定させる
身体重心は、身体全体の重さの中心になります。静止立位時の重心は、骨盤内で仙骨のやや前方にあります。成人男性の場合、足底から身長の約56%、成人女性では約55%の位置します。
また、重心から床に垂直に下ろした線を重心線と呼びます。重心線が支持基底面の中心に近いほど姿勢の安定性は高くなり、かつ重心位置が低いほど姿勢の安定性は高くなります。
つまりボディメカニクスを活用するのであれば、腰をおろして(膝を曲げて)重心位置を低くした姿勢で介助をすることが望ましいということになります。重心位置を低くしたほうが、安定した姿勢で介助者に負担をかけずに力を発揮することができます。
どの程度、重心位置を低くすればいいのかという疑問が生まれると思いますが、パワーポジションという姿勢を思い浮かべれば良いと思います。
パワーポジションとは、「もっとも力が出やすい構え」になります。パワーポジションをとることで、静止状態から前後左右への動き出しや素早い切り返し動作が可能になる、瞬時に力を発揮できるようになるなど、パフォーマンス向上に様々なメリットがあります。
パワーポジションのポイントは、骨盤を軽く前傾させて股関節をしっかり曲げることになります。この姿勢をとることで、下半身でもっとも強い力を発揮できるお尻の筋肉を効果的に使用することができます。上体を落とす際に膝を曲げて重心を低くするのではなく、股関節を曲げる意識をすると正しい姿勢をとることができます。
対象者と自分の重心を近づける
このポイントについては、意識しなくても介助者は自然に実行している可能性が高いと思います。
ベッド上に寝ている対象者を全介助でベッドの頭側に移動する時があると思いますが、恐らく対象者にできる限り近づいてから上方に引き上げていると思います。
対象者に近づく理由としては、近づいた方が身体介助で必要とする力が少なくなるからということになります。対象物が遠いほど、その重心が不安定になり重さを感じやすくなります。
移乗動作に置き換えて考えても同様の結果となります。対象者との距離が離れていると重心が不安定となり、安全な移乗介助ができないだけでなく、腕や腰に負荷がかかり腰痛を引き起こす可能性が高くなります。
対象者に密着し、互いの重心を近づけることで、対象者の重量を足や背中、腕といった広範囲の筋肉で支えることができ、必要最低限の力で身体介助を行うことが可能となります。
対象者の身体を小さくまとめる
ベッド上における移動の話にはなりますが、相手の体が広がっている状態(手足が伸びている状態)よりも、まとまっている状態(うでを組む、ひざを曲げるなど)のほうが身体介助を行う際に必要な力が少なくなります。
対象者の手足が伸びていると、その分、物理学・力学的にも介助に必要な力が大きくなります。また、ベッド上と接触する手足には摩擦が生じますので、摩擦力の分も介助量が増大します。
介助量の話に加えて、手足が伸びていることは移動時に手足が柵の間に引っかかったり、何かにぶつかったりする危険性にも繋がります。リスク管理という視点においても、身体介助を行う時は出来る限り身体はコンパクトにまとめたほうが良いと思います。
しかし、少しでもご自身で動ける方は体をまとめることで手足が使いにくくなり、逆に介助者の負担が増えることもありますので、対象者の身体機能を考慮して柔軟に対応して頂けたらと思います。
身体をねじるような介助は避ける
身体介助をする時に介助者の身体を捻るような介助方法になる場合があると思います。例えば、ベッド上に寝ている対象者を全介助でベッドの頭側に移動する時に身体を捻っていないでしょうか?
筆者も思い返すと経験年数が浅い頃、ベッド上での姿勢変換や移乗介助の時に、身体を捻って介助をしておりました。しかし、身体を捻る介助は力も入りづらいですし、身体を痛める可能性も高いため、実施してはいけません。
腰から身体をねじった姿勢、すなわち体幹を回旋させた姿勢は重心と重心線のバランスが崩れ、不安定な姿勢となります。この姿勢は身体に力も入れにくい状況となるため、腰への負担が大きくなります。
身体を捻った介助を行うのは控え、肩と腰が平行のまま身体介助ができるように努める必要があります。
介助者は大きくて強い筋肉を使用する
部分的な筋肉だけで身体介助をすると、身体を痛める可能性が高くなります。可能な限り大きい筋肉、多くの筋肉を動員させて介護者自身の身体を痛めないようにすることが重要になります。
今まで述べてきたことを実践すると大きな筋群を活動させることができます。例えば、「重心を下げて骨盤を安定させる」ことで大殿筋を効果的に活用することができます。
また、「身体をねじるような介助を行う」ことで腹斜筋などの小さな筋肉を痛める可能性が考えられますが、「身体を捻らずに、肩と腰が平行のまま介助を行う」ことで脊柱起立筋をメインに使用することに繋がります。
手首や腕の小さな筋肉は無理をすると簡単に痛めてしまいます。手首の筋肉を痛めるも仕事にも日常生活にも支障がでますので、大きくて強い筋肉を使用するようにして自分の身体を守れるように心掛けましょう。
移動時は水平移動と引く介助を意識する
介護というと要介護者の身体を頻繁に持ちあげるイメージがあるかもしれませんが、持ち上げるような介助は介助者に大きな負担がかかってしまいます。
最近では介護技術における研修会などで「ノーリフティングケア」をテーマにしているものもよく見かけます。ノーリフティングケアとは、持ち上げ・抱え上げ・引きずりなどのケアを廃止し、リフト等の福祉用具を積極的に使用するとともに、職員の身体に負担のかかる作業を見直すものであり、私たちに必要な視点であると思います。
対象者を持ち上げるような介助方法は行わず、基本的に水平移動をさせましょうというのがひとつ重要になると考えます。水平移動は重力の影響がないため、上下に持ち上げて移動するよりも小さな力で移動させることができます。
もうひとつは、押すのではなく自分の方に引きよせるように移動させることが重要になります。対象者を押して移動させようとすると、力が前方へ広がって分散してしまいます。実際にやってみるとわかると思いますが、力がうまく伝わらないと思います。
対象者を移動させる時には、持ち上げるような介助をするのではなく水平移動を心掛けることと、押すのでなく引いて移動させるようにしましょう。
てこの原理を活用して介助する
てこの原理という言葉を使うと、また物理学的なことかと頭が重くなる方もいらっしゃるかと思いますが、こちらでの考え方は非常にシンプルでございます。
身体介助を行うときに、支える部分(支点)・力を加える部分(力点)・加えた力が働く部分(作用点)の関係を利用すると、介助者の発揮する力が小さくても、効率的に身体介助を行うことができます。
例えば、ベッド上に仰向けになっている対象者を全介助で起き上がらせる場合に、予め下肢をベットから下ろすことがあると思います。これがまさに、てこの原理の活用であり、作用点となる下肢をベッドから下ろすことで少ない力で身体を起き上がらせることが可能となります。
腰痛対策にはストレッチも効果的(これだけ体操)
東京大学医学部附属病院の特任教授であり、医学博士である松平浩先生が考案した腰痛に効く体操(これだけ体操)が短時間で実施することが可能であり、数あるストレッチの中でも優れています。
体操も複雑な動きがなく、誰でもすぐにできるシンプルな動きばかりであるため、継続しやすい内容となっています。
これだけ体操 ① 腰を反らす
以下のような場合に実施すると効果が期待できます
- 重い荷物を持った後
- 前屈みの作業を続けた後
- 座りっぱなしが続いた後
【回数と頻度の目安】
- 予防の場合:反らして 3 秒間保つ × 1 ~ 2 回
- 治療の場合:反らして 3 秒間保つ × 10 回(手の押し込みを徐々に強くする)
これだけ体操 ② 腰を横に曲げる
以下のような場合に実施すると効果が期待できます
- 腰の左右どちらかに違和感があるとき
- 片側ばかりで荷物を持ってしまったとき
- 長時間足を組んでしまったとき
【回数と頻度の目安】
5 秒間保つ × 5 回(手の押し込みを徐々に強くする)
これだけ体操 ③ 腰をかがめる
以下のような場合に実施すると効果が期待できます
- 長時間立ったり歩いたりして、腰に反り気味の負荷がかかったとき
- 外回りの多い営業の人、ハイヒールを長時間はいている人、妊婦さん
【回数と頻度の目安】
3 秒間保つ × 1 ~ 2 回
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
この記事では「ボディメカニクス」をキーワードに考えを述べさせていただきました。
こちらの記事がボディメカニクスにおける理解力の向上および臨床業務における腰痛予防に少しでもお力添えになれば幸いです!
参考文献
- 小河一敏,坂井謙次,日高真美子.ボディメカニクスの基礎となる力学的原理に焦点化し系統立てた体験演習型授業の教育効果.日本看護学教育学会誌.J.Jpn.Acad.Nurs.Ed.Vol.30,No.1 ,July,2020,p15-31.
- 今井恵,伊丹君和.看護者の腰痛予防対策のためのボディメカニクス教育に関する文献検討.聖泉看護学研究.Seisen J.Nurs.Stud., Vol.8,2019,p53-58.
- 栗原章,職業性腰痛の現状と展望.日本腰痛会誌.8(1),2002,p10-15.