EIH(運動誘発性疼痛抑制)|最小有効量と 6 週運動処方テンプレ

臨床手技・プロトコル
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EIH(運動誘発性疼痛抑制/運動誘発性鎮痛)とは?

結論:EIH( exercise-induced hypoalgesia )は、運動の直後に「同じ刺激でも痛みを感じにくくなる」現象で、運動器慢性疼痛に対する運動療法の鎮痛の土台として重要です。EIH(疼痛抑制)は、運動の部位・強度・時間の設計に直結し、同じメニューでも「効く日/効かない日」を説明できる“手がかり”になります。

一方で慢性疼痛では反応のばらつきが大きく、抑制系の効率低下や中枢感作、恐怖回避・カタストロフィなどの影響で EIH が減弱・消失し、場合によっては運動後痛(フレア)が増悪します。本記事は、最小有効量 → その場で反応確認 → 段階的に漸増の型で、EIH を臨床の運動処方に落とし込むための実務ガイドです。

EIH のメカニズムと疼痛抑制効果(要点)

EIH は単一機序では説明できません。研究知見を臨床目線でまとめると、①下行性疼痛抑制系( PAG–延髄–脊髄 )の賦活、②内因性オピオイド/エンドカンナビノイド放出、③セロトニン・ノルアドレナリンの調節、④痛みの時間的加重( wind-up )の低下、⑤不快感への認知的再評価、などが関与すると考えられています。

慢性疼痛では、抑制系の“効き”が落ちている、痛みに注意が集まりやすい、運動への恐怖が強い、といった条件で EIH が出にくくなります。初期は非疼痛部位の有酸素低~中強度から入り、運動直後の反応(痛み・動作・自信)を確認しながら処方を作るのが安全です。

エビデンスに基づく“最小有効量”の目安

研究間で処方は多様ですが、臨床転用しやすいパラメータ(時間・強度・回数)を表に整理しました。基本は安全域で 1 セット → 直後に反応を再評価 → 必要なら 2 セット目です。

微調整は “時間 → 強度 → 回数” の順で行い、痛み増悪があれば様式・部位の切替で対応します(強度を上げる前に、分割や休息、非疼痛部位への変更を優先します)。

運動様式ごとの初期プロトコル目安(成人・2025 年版)
運動様式 初期プロトコル 期待される EIH 注意点
有酸素(歩行/自転車) RPE 12–14(会話可能・痛み増悪なし)で 10–20 分、または 4–6 分 × 2 局所・遠隔とも効果。強度 ↑ で効果 ↑ だが過用に注意 痛みが強い日は 5–10 分の分割で開始
動的レジスタンス 30–50% 1RM / 2–3 セット / 8–12 回 小~中等度の EIH 疼痛部位は可動域内でフォーム優先
等尺性収縮 30–60 秒 × 3 セット(痛部は回避またはサブ痛) 健常では限定的;慢性疼痛では反応差が大きい 痛み ↑ ならモード変更(有酸素へ)
PNF/レジスタンス(筋痛症など) 低負荷・高反復でリズミカルな協調を強調 筋筋膜痛で有望とされる所見 トリガー誘発は回避

EIH をリハビリに活かす臨床実装:初回~ 6 週の処方テンプレ

初回は「非疼痛部位の有酸素( RPE 12–13 / 10–15 分 )」から開始し、直後に痛み( NRS )と機能課題(例:立ち上がり、歩行、上肢課題)を再評価します。反応が良ければ、同条件で自宅も 2–3 回/週に広げ、まずは“再現性のある 1 パターン”を作ります。

そのうえで 2 週目以降に動的レジスタンスを 1~2 メニュー追加し、6 週で “有酸素 90–150 分/週+全身レジスタンス 2 回/週” を目標に漸増します。反応が乏しい場合は、強度を上げる前に部位・様式・分割で調整し、教育(運動の安全性と進め方)を併用します。

初回~ 6 週の運用フロー(成人・慢性運動器痛を想定)
期間 ねらい 推奨メニュー その場で確認する反応
初回 安全域で “効く型” を作る 非疼痛部位の有酸素( RPE 12–13 / 10–15 分 ) 運動直後の NRS、動作のしやすさ、安心感(続けられそうか)
1–2 週 再現性と自己管理を獲得 同条件を 2–3 回/週、必要なら分割( 4–6 分 × 2 ) “翌日” の痛み増悪(フレア)の有無、活動量の変化
3–6 週 全身負荷へ拡張し、生活へ汎化 有酸素の総量を増やしつつ、全身レジスタンスを追加(週 2 回) 運動の自己効力感、恐怖回避の変化、週単位の機能改善

現場の詰まりどころ:EIH が出ない/運動後痛が増えるとき

慢性疼痛では「EIH が出ない」だけでなく、「運動後痛(フレア)が前に出てしまう」ことが臨床のボトルネックになります。ここは “強度を上げる/根性で続ける” ではなく、刺激の質と量を組み替えるほうが成功率が上がります。

続けて読む:EIH が出にくい慢性疼痛患者の見極めと運動処方プロトコル

EIH 運用で起こりやすい失敗と対策(成人・慢性運動器痛)
よくある失敗 起こりやすい背景 対策(現場でやること)
初回から強度を上げすぎる 「効かせたい」意識が先行し、反応確認を飛ばす まずは最小有効量で 1 セット。直後の NRS と動作で “効く型” を固定
痛い部位にこだわり過ぎる 局所の痛みに注意が集中し、恐怖回避が強い 非疼痛部位の有酸素から開始し、安心感が出てから局所へ段階移行
フレア後も同じ処方を続ける 患者も治療者も “調整ルール” が曖昧 時間を短く・分割へ。強度を下げ、休息を増やし、様式を切替
評価が運動前だけで終わる 運動直後の反応を見ていない 運動直後に NRS と機能課題を必ず再評価し、次回処方の根拠にする

禁忌・中止基準(OK/NG 早見)

運動開始の可否は「安静時痛・炎症所見・全身状態」の 3 観点で判断します。軽度の痛みや局所の腫脹のみであれば、低強度・短時間・分割での導入が目安です。

鋭い痛みや神経症状の悪化、めまい・動悸・強い夜間痛などの全身サインがあれば中止し、再評価や医師への連絡を優先します。

運動開始の安全基準(成人・一般整形/慢性運動器痛を想定)
項目 OK NG(中止/医師連絡)
安静時痛 NRS ≤ 3 NRS ≥ 7、夜間痛の悪化
炎症所見 軽度・局所のみ 著明な腫脹/熱感、発熱を伴う
運動中症状 筋疲労、軽い張り 鋭い痛み、神経症状の悪化
全身状態 軽微な倦怠 めまい、動悸、息切れ増悪、冷汗

臨床のコツ(反応が出にくい時)

反応が出にくい時は、①非疼痛部位の有酸素から始める、②強度を RPE 11–12 まで下げる、③セット間の休息を十分に取る、④好きな運動様式を優先する、⑤教育(運動の安全性と “調整ルール” )を併用する、⑥その日の “最小有効量” で止める、の 6 点を徹底します。

評価の全体像を整理したい場合は、続けて読む:評価ハブ(評価の全体像)

よくある質問

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EIH(疼痛抑制)が出たかどうかは、現場でどう確認しますか?

運動の直後に「痛み( NRS )」と「簡単な機能課題(立ち上がり、歩行、上肢課題など)」を再評価し、運動前と同条件で比較します。数値が下がることだけを追うのではなく、動作のしやすさや安心感(続けられそうか)も合わせて確認すると、処方調整がうまく回ります。

慢性疼痛で EIH が弱い/出ないのは、なぜですか?

抑制系の効率低下や中枢感作に加え、恐怖回避やカタストロフィなどの心理要因で “痛みに注意が集まりやすい状態” になると、EIH が出にくくなります。強度を上げるより先に、非疼痛部位・分割・休息・様式変更で “安全にできる条件” を作るのが現実的です。

運動後痛(フレア)が出た場合は、運動を中止すべきですか?

フレアの強さと持続、全身サイン(めまい・動悸など)、神経症状の悪化がないかで判断します。多くは “中止” ではなく “調整” が必要です。時間を短くして分割にし、強度を下げ、休息を増やし、様式や部位を切り替えて再開します。

有酸素と筋トレ、どちらを優先しますか?

初期は再現性を作りやすい “低~中強度の有酸素” を優先し、EIH の反応確認と自己管理ができてから、全身の動的レジスタンスを少量追加するのが安全です。どちらも “最小有効量” を守り、反応のフィードバックで漸増します。

おわりに:EIH を疼痛マネジメントに組み込む

臨床では、EIH を「魔法のスイッチ」として期待しすぎず、安全の確保 → 最小有効量 → 反応確認 → 漸増 → 再評価のリズムで、患者さんごとの“ちょうどよい負荷”を探っていくことが重要です。痛みが完全に消えなくても、日常生活動作や活動量の中で「動ける幅」を少しずつ広げることが、中長期のアウトカムにつながります。

関連:痛みの評価(主観スケール)の全体像

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参考文献(主要)

  1. Wewege MA, Jones MD. Exercise-Induced Hypoalgesia in Healthy Individuals and People With Chronic Musculoskeletal Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Pain. 2021;22(1):21–31. https://doi.org/10.1016/j.jpain.2020.04.003
  2. Vaegter HB, Jones MD. Exercise-induced hypoalgesia after acute and regular exercise: experimental and clinical manifestations and possible mechanisms. Pain Rep. 2020;5(5):e823. https://doi.org/10.1097/PR9.0000000000000823
  3. Tomschi F, et al. Hypoalgesia after aerobic exercise in healthy subjects: systematic review and meta-analysis. J Sports Sci. 2024;42(7):574–588. https://doi.org/10.1080/02640414.2024.2352682
  4. Pacheco-Barrios K, et al. Exercise-induced pain threshold modulation in healthy subjects: systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2020;15(12):e0242947. PubMed
  5. Xu ZH, et al. Exercise-Induced Hypoalgesia Following Proprioceptive Neuromuscular Facilitation and Resistance Training in Myofascial Pain Syndrome. J Pain Res. 2022;15:3027–3041. PMC
  6. 矢吹 省司. 難治性慢性疼痛患者のリハビリテーション診療. リハビリテーション医学. 2021;58(2):186–191. https://doi.org/10.2490/jjrmc.58.186

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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