痛みの評価|NRS・VAS・VRS・FPS-R・BPI の実践ガイド【図解&テンプレ付】

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痛みの評価|NRS・VAS・VRS・FPS-R・BPI の実践ガイド【図解&テンプレ付】

結論:痛みの評価スケールは「同じ説明(アンカー)」「同じ条件(体位・場面・時間帯)」「同じ記録ルール」を揃えるほど、介入効果の判定精度が上がります。

本記事は代表的な 5 つ( NRS / VAS / VRS / FPS-R / BPI )を、選び分け → 30 秒手順 → 解釈のコツ → よくある失敗まで、臨床でそのまま使える形にまとめました。

関連:痛み評価を含む「評価スケール全体の整理」は 評価ハブ(一覧・使い分け) にまとめています。

5 分で迷わない:疼痛評価の基本フロー(病棟・外来)

疼痛評価の基本フロー(成人・2025 年版)
順番 やること 記録の型(例) よくある落とし穴
1 場面を固定(安静/運動/夜間) 安静時 NRS:/10、運動時 NRS:/10、夜間 NRS:/10 場面が混ざって比較不能
2 アンカーを固定(同じ説明文) 「 0=痛みなし、 10=想像できる最大の痛み 」 説明の言い回しが毎回変わる
3 第一選択を決める(迷ったら NRS 現在 6/10(安静) 尺度を毎回変える
4 慢性痛・がん痛はBPIで「干渉」を確認 干渉:仕事 8/10、睡眠 5/10 強度だけで方針が止まる
5 変化量で効果判定(同条件で再評価) 運動時 NRS:6 → 3(同じ課題・同じ時間帯) 条件が違うのに「改善」と判断

「どれくらい変われば意味がある?」の目安(臨床的に重要な変化)

痛みは主観的指標なので、点数の変化だけでなく「活動・睡眠・歩行への影響」「本人の満足度」を合わせて判断します。ここでは、現場で使いやすい目安を整理します。

疼痛強度の変化の目安( NRS / VAS )
尺度 目安(変化量) 解釈(ざっくり) 補足
NRS( 0–10 ) 2 点 または 30% 程度の改善 「改善した」と感じやすい目安 ベースラインが高いほど「 % 」で見た方が納得しやすい
VAS( 0–100 mm ) 10–20 mm 程度の改善 臨床的に意味のある変化の目安 急性・慢性、重症度で揺れるため「場面固定」が最重要

疼痛評価スケールの使い分け(全体像)

疼痛評価スケールの使い分け(成人・2025 年版)
尺度 主目的 適した場面 強み 注意点/落とし穴
NRS( 0–10 ) 強度の経時追跡・効果判定 病棟・外来の迅速測定、カンファ共有 手順が簡便/応答性が高い 説明(アンカー)と条件を毎回同一に
VAS( 10 cm ) 微小変化の検出(連続量) 研究/外来の標準化、感度重視 0–100 mm で精密記録が可能 視覚・理解に不利な例は NRS / VRS を検討
VRS(段階評定) 概括分類(なし/軽度…) 高齢者・認知機能低下の配慮 理解しやすく短時間 段階間隔は等間隔とは限らない
FPS-R(顔スケール) 小児の自己申告( 0–10 の偶数 6 段階 ) 小児(目安: 4 歳以上) 図示で直感的に選べる 顔は感情ではなく痛みの強さ
BPI(簡易疼痛質問票) 強度+生活干渉の包括評価 慢性痛・がん痛、目標設定・教育 行動変容に直結しやすい 自己記入の理解度を確認

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. NRS と VAS はどちらが「正確」ですか?

「正確さ」よりも、同じ条件で繰り返せるかが優先です。日常臨床の追跡なら NRS が運用しやすく、研究など標準化を徹底できる場面では VAS が選ばれます。大事なのは、体位・時間帯・課題(安静/運動)を固定して比較することです。

Q2. 「安静時」と「運動時」は同じ尺度でまとめていい?

まとめない方が安全です。安静時と運動時は痛みの性質が違いやすく、別系列で追跡すると「何が改善したか」がチーム共有しやすくなります。

Q3. NRS で 0.5 刻みは使っていい?

使えますが、施設内でルールを揃えるのがおすすめです。記録の再現性が目的なので、整数で統一しても臨床的には十分な場面が多いです。

Q4. 小児に FPS-R を使うときの説明は?

「この顔は気分じゃなくて痛みの強さだよ」と短く伝えます。選んだ数値は 0・2・4・6・8・10 の 6 段階として記録し、同じ説明で繰り返します。

Q5. 慢性痛で NRS が下がらないとき、何を見ればいい?

強度だけでなく、生活への干渉(睡眠・歩行・仕事など)に介入目標を置くと前進しやすいです。BPI は「干渉が最大の領域」を見つけて、ペーシングや環境調整、自己管理教育に繋げやすい点が強みです。

Q6. 「痛み 6 → 5 」は改善といえますか?

条件が揃っていても、臨床的に意味のある変化かは別です。目安として NRS は 2 点または 30% 程度の変化を 1 つの基準にしつつ、活動や睡眠の改善( BPI の干渉など)も合わせて判断します。

Q7. どのタイミングで測るのが良いですか?

まずは「介入前」「介入直後」「次回(同じ条件)」の 3 点を揃えると、効果判定がブレにくいです。痛みが日内変動しやすい場合は、時間帯も固定します。

NRS(Numerical Rating Scale)

目的と利点

0(痛みなし)〜 10(想像できる最大の痛み)で評定します。経時的な変化と介入の応答性を捉えやすく、日常臨床の第一選択になりやすい尺度です。

標準手順( 30 秒テンプレ )

  1. 場面を指定:「いまこの瞬間の安静時の痛みは…」※運動時・夜間は別系列。
  2. 読み上げ:「 0 は痛みなし、 10 は想像できる最大の痛みです。何点ですか?」
  3. 記録:整数または 0.5 刻み(施設 SOP に合わせ統一)。

解釈と共有

  • 例:介入前後 6 → 3。同一の説明文・体位・時間帯で測定されているか確認します。
  • 安静時/運動時/夜間は別系列でグラフ化すると、チーム共有が一気に楽になります。
0 2 4 6 8 10 現在値:6 0=痛みなし 10=想像できる最大の痛み
NRS:0〜10。アンカー説明は毎回同一の文言で実施。

VAS(Visual Analogue Scale)

目的と利点

10 cm の直線上に印を付け、左端からの距離をmmで測定( 0–100 )します。微小変化の検出に向きます。

標準手順(失敗しない 3 ステップ)

  1. 10 cm の直線を提示:「左端は痛みなし、右端は最悪の痛みです」。
  2. 患者に現在の痛みに相当する位置に印を付けてもらう。
  3. 左端から印までをmmで測定し、0–100で記録。

注意点

  • 認知・視覚障害がある場合は不適; NRS や VRS に切替を検討します。
  • 紙・フォーマット差は誤差要因です。同一用紙で継続します。
0 mm(痛みなし) 100 mm(最悪の痛み) 0 20 40 60 80 100 記録:73 mm
VAS:10 cm 線上の印を mm で測定( 0–100 )。

VRS(Verbal Rating Scale)

目的と利点

言語ラベル(例:なし/軽度/中等度/高度)で評定します。理解しやすく短時間で、認知機能に配慮したい場面に適します。

標準手順とコツ

  • 段階を提示して「現在の痛みに最も近い段階」を 1 つ選んでもらいます。
  • 段階間隔は等間隔とは限らないため、同一患者の経時比較で運用します。
  • 必要に応じて段階に説明語(日常生活への影響など)を補足します。
なし 軽度 中等度 高度 日常生活に影響なし 時々気になる 動作で支障あり 休息や介助が必要
VRS:段階ラベルから 1 つ選択。段階数・文言は施設で統一。

FPS-R(Faces Pain Scale – Revised)

目的と利点

小児に用いられる代表的な顔スケールです。0・2・4・6・8・10の 6 段階で自己申告します。顔は痛みの強さであり、気分(悲しい/嬉しい)ではない点を短く説明します。

0 2 4 6 8 10 0 2 4 6(選択) 8 10
FPS-R:顔は痛みの強さを表す。段階数は 6( 0,2,4,6,8,10 )。

BPI(Brief Pain Inventory)

目的と利点

痛みの強度(最強・最弱・平均・現在)と、生活への干渉(一般的活動・気分・歩行・仕事・人間関係・睡眠・生活の楽しみ)を可視化します。慢性痛の目標設定・教育・行動変容に直結しやすい点が強みです。

運用の要点

  • 強度 4 指標+干渉 7 ドメインを「見える化」して共有します。
  • 「最も高い干渉 → 先に対処(ペーシング/環境調整/自己管理教育)」の順で介入すると、話が進みやすいです。
BPI:痛みの強度( 0=なし / 10=最大 ) 0510 最強( 24h )最弱( 24h )平均( 24h )現在 8/102/105/106/10
強度は 4 指標を別系列で取得。条件(説明・体位・時間帯)を統一。
BPI:生活への干渉( 0=なし / 10=最も強い ) 0510 一般的活動気分歩行通常の仕事人間関係睡眠生活の楽しみ 7/104/106/108/103/105/106/10
最も高い干渉ドメインに優先介入(ペーシング/環境調整/教育)。

共通の失敗と対策(チェックリスト)

測定の再現性を高める 5 つのコツ
ポイント 理由 実装例
同じ説明(アンカー) 説明差で点数がブレる NRS 読み上げテンプレを固定し、カルテ文言も統一
同じ条件で測定 体位・時間帯で強度が変動 安静/運動/夜間を別系列で固定して追跡
同じ用紙・目盛 用紙差は VAS の誤差要因 病棟共通の 10 cm VAS を使用
系列で可視化 効果判定は変化量で評価 週次グラフで 3 条件を追跡(介入とセットで確認)
対象に応じた選択 認知・視覚・年齢に左右 小児は FPS-R、高齢者は VRS も検討

次にやること(チームで動ける形にする)

  • 施設ルールを 1 枚に:測定条件(体位・時間帯・課題)とアンカー文言を「統一メモ」として共有。
  • ボトルネックを 1 行で:安静/運動/夜間のうち「どれが高いか」を言語化して、介入優先度を揃える。
  • 生活課題へ接続:慢性痛は BPI の干渉で「最も困っている 1 つ」を先に解決する。

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参考文献

  • Raja SN, et al. The revised IASP definition of pain. Pain. 2020;161(9):1976–1982. doi: 10.1097/j.pain.0000000000001939 (PubMed: 32694387
  • Hjermstad MJ, et al. Studies comparing Numerical Rating Scales, Verbal Rating Scales, and Visual Analogue Scales for assessment of pain intensity: a systematic literature review. J Pain Symptom Manage. 2011;41(6):1073–1093. doi: 10.1016/j.jpainsymman.2010.08.016 (PubMed: 21621130
  • Hicks CL, et al. The Faces Pain Scale – Revised: toward a common metric in pediatric pain measurement. Pain. 2001;93(2):173–183. doi: 10.1016/S0304-3959(01)00314-1 (IASP:resource
  • Cleeland CS, Ryan KM. Pain assessment: global use of the Brief Pain Inventory. Ann Acad Med Singapore. 1994;23(2):129–138. (PubMed: 8080219
  • Farrar JT, et al. Clinical importance of changes in chronic pain intensity measured on an 11-point numerical pain rating scale. Pain. 2001;94(2):149–158. doi: 10.1016/S0304-3959(01)00349-9 (PubMed: 11690728
  • Dworkin RH, et al. Interpreting the clinical importance of treatment outcomes in chronic pain clinical trials: IMMPACT recommendations. J Pain. 2008;9(2):105–121. doi: 10.1016/j.jpain.2007.09.005 (PubMed: 18055266

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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おわりに

痛み評価は「安全の確保 → 条件固定 → スケール記録 → 再評価」のリズムを揃えるほど、介入の良し悪しがクリアになります。次に備えて、面談準備チェックと職場評価シートも手元に置いておくと抜け漏れが減ります。こちらからダウンロードできます。

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