Burke 側方突進スケール( BLS )の評価法と解釈

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Burke Lateropulsion Scale( BLS )とは?(この記事の結論)

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BLS( Burke Lateropulsion Scale )は、寝返り・座位・立位・移乗・歩行の 5 場面で「受動的な姿勢修正への抵抗」や「側方へ押す挙動( lateropulsion )」を観察し、0–17 点で重症度を定量化する評価法です。プッシャー行動の有無と変化を短時間で把握でき、急性期〜回復期の方針決定や経過モニタリングに向きます。

臨床で詰まりやすいのは「どの場面が点数を引き上げているか」「 BLS と SCP( Scale for Contraversive Pushing )で判定が割れるときにどう読むか」です。本稿では手順の標準化・場面別の観察ポイント・カットオフ( ≥ 2 と ≥ 3 )の使い分け・記録の型までを 1 本で整理します。

BLS の特徴( SCP / 4PPS との違い)

BLS の強みは、“機能場面に沿って” lateropulsion を拾えることです。SCP は 3 成分で簡潔に判定しやすい一方、BLS は寝返り〜歩行までをカバーし、場面ごとの「出やすさ/出にくさ」や回復の順序を記録しやすい設計です。

一方で、回復期ではBLS と SCP の分類が一致しないケースが報告されており、「どちらが正しいか」よりも“どの場面で何が起きているか” を言語化する運用が有効です。4PPS( Four-Point Pusher Score )は段階づけが単純で教育に向きますが、細かな変化量の追跡は BLS が得意です。

BLS の構成( 5 場面・ 0–17 点)

  • 寝返り(仰臥位):修正誘導に対する抵抗・押し返し
  • 座位:外乱や修正誘導に対する抵抗・側方押し
  • 立位(配点が大きい):直立の修正に対する抵抗の強さ・持続
  • 移乗:立ち上がり/着座など姿勢転換での押し・修正拒否
  • 歩行:動的課題での側方推進・修正抵抗(歩行でのみ顕在化する例に注意)

採点の要点は「抵抗の強さ」「どの角度で出るか」「どれだけ持続するか」です。点数そのものより、“どの場面で点が付いたか” が臨床判断に直結します。

実施手順( 5 場面のコツ)

  1. 準備:評価者の立ち位置・介助入力(手の当て方)・合図(声かけ)を固定します。再評価の比較精度は「条件固定」で決まります。
  2. 寝返り:体幹を中間位へ誘導し、反対側へ押し戻す反応、抵抗の出現角・強さ・持続を観察します。
  3. 座位:修正誘導に対して、復元に抵抗するか/側方へ押すかを確認します。骨盤の偏位と上肢支持(押し)が出やすいです。
  4. 立位:直立へ戻す入力に対して抵抗が出るか、出るなら「いつ・どれくらい」かを追います。点数が上がりやすい局面なので、合図と入力は特に一定化します。
  5. 移乗:立ち上がり・着座の局面で、非麻痺側への能動的な押し、修正拒否、踏み替えの乱れを観察します。
  6. 歩行:側方への逸脱、介助入力への抵抗、手すり/杖への過依存を観察します。静的場面で軽微でも、歩行で目立つことがあります。

再評価は同一の合図・同一介助レベル・同一視線条件で行い、記録に条件を残すと一貫性が上がります。

スコアリングで詰まりやすい 3 点(現場のコツ)

  • 角度が曖昧になる:床の目印(テープ)や壁の垂直基準を使い、出現角を “だいたい” で終わらせない。
  • 介助入力が変わる:修正誘導が強すぎると抵抗を誘発しやすく、弱すぎると見逃しやすい。評価者内で “手の当て方” を固定する。
  • 場面間で所見が割れる:歩行のみで lateropulsion が顕在化する例、立位だけ強い例は珍しくありません。点数の合計より “場面差” を優先して読む。

カットオフと解釈( ≥ 2 と ≥ 3 の使い分け)

  • 拾い漏れを避けたい運用BLS ≥ 2 を目安にスクリーニングとして使う。
  • 分類の整合を高めたい運用≥ 3 を採用すると、分類の妥当性が改善したという提案があります(重症度層別化にも使いやすい)。
  • 変化量の読み:報告では、測定誤差の指標として SEM が約 0.8 点、真の変化の目安として MDC が約 2.2 点とされています。おおむね 2 点前後の変化は “実質的な変化” として検討価値があります(前提は条件固定)。

運用例:日々の回診・病棟では ≥ 2 で拾い、カンファレンスの層別化や介入計画では ≥ 3 を採用する、のように “目的別” に線引きを決めておくとブレが減ります。

BLS・ SCP ・ 4PPS の使い分け(比較表)

※ 表は横にスクロールできます。

プッシャー関連 3 指標の比較(成人・急性〜回復期)
指標 構成 主な観察 カットオフの考え方 向いている使い方
BLS 5 場面(寝返り・座位・立位・移乗・歩行)
合計 0–17 点
修正誘導への抵抗、側方へ押す挙動 ≥ 2(拾い)/≥ 3(分類の整合を重視) 場面差の言語化、細かな変化の追跡
SCP 3 成分(姿勢左右差・伸展・修正抵抗) 座位/立位での左右差と修正抵抗 各成分の基準に準拠 短時間の判定、重度例の識別
4PPS 4 段階の簡易スコア プッシャー行動の有無・程度 提案基準に準拠 教育・共有、簡便な重症度把握

よくあるミスと対策( OK / NG 早見表)

※ 表は横にスクロールできます。

BLS 運用で起きやすいミスと修正(評価者間の差を減らす)
よくある NG 起きやすいズレ OK(対策) 記録に残すと良い項目
合図が毎回違う 抵抗の出現タイミングが変わり、点がぶれる 声かけスクリプトを固定(短文で統一) 合図の文言、介助レベル
修正入力が強すぎる/弱すぎる 抵抗を誘発/見逃し “どこに手を当てるか” を手順化し、評価者内で固定 手の当て方、入力方向
立位だけで点が跳ねる理由が不明 介入方針が曖昧になる 立位の「出現角」「持続」を言語化し、場面差で読む 出現角(目安)、持続時間
歩行を省略する 歩行でのみ lateropulsion が出る軽度例を落とす 歩行は必ず確認(短距離でもよい) 逸脱方向、補助具の種類

リハでの考え方( lateropulsion を “分解” して介入)

プッシャー行動は “原因が 1 つ” というより、姿勢の主観的垂直・注意配分・体幹制御・感覚入力の偏りが重なって表れます。そこで介入は①体幹の基準づくり → ②荷重移動 → ③動作課題の順で組み、BLS の “点が付いた場面” に合わせて組み替えると迷いが減ります。

  • 体幹・基準づくり:座位で骨盤を整え、正中化を “見る/触れる” 入力で固定しやすくする。
  • 荷重移動:立位で非麻痺側への過荷重が強い場合、荷重移動の量と速度を段階化して “抵抗が出ない範囲” を探る。
  • 動作課題:移乗や歩行でのみ点が付く場合、課題中の視線・支持物・介助入力を整え、逸脱のパターンを再現性高く把握してから難度を上げる。

記録の型( 30 秒で書けるテンプレ)

  • BLS 合計:◯/17
  • 点が付いた場面:寝返り(◯)/座位(◯)/立位(◯)/移乗(◯)/歩行(◯)
  • 主所見:修正誘導に対し(抵抗/押し)を認め、特に(場面)で(出現角・持続)が目立つ
  • 条件:評価者( )・介助レベル( )・合図( )・視線条件( )・補助具( )
  • 次回の比較ポイント:(場面)での(抵抗の強さ/持続/出現角)

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

BLS の「 ≥ 2 」と「 ≥ 3 」はどちらを使うべきですか?

拾い漏れを減らしたい運用では ≥ 2 を目安にし、分類の整合や層別化を重視する運用では ≥ 3 を採用する、という “目的別” の使い分けが現実的です。施設内で線引きを固定すると、評価者間の解釈差が小さくなります。

改善の “意味のある変化” はどのくらいですか?

報告では、測定誤差の指標として SEM が約 0.8 点、真の変化の目安として MDC が約 2.2 点とされています。再評価で最も重要なのは条件固定(合図・介助・視線・補助具)です。

BLS と SCP の判定が割れたら、どう解釈しますか?

どちらが “正しい” かより、どの場面で lateropulsion が出ているかを優先します。たとえば歩行のみで顕在化する、立位でのみ強い、など “場面差” は介入設計に直結します。必要なら BLS の場面別所見と SCP の成分所見を並べ、カンファレンスで共有できる形に整えるのが有効です。

参考文献

  1. D’Aquila MA, Smith T, Organ D, Lichtman S, Reding M. Validation of a lateropulsion scale for patients recovering from stroke. Clin Rehabil. 2004;18(1):102–109. DOIPubMed
  2. Clark E, Hill KD, Punt TD. Responsiveness of 2 scales to evaluate lateropulsion or pusher syndrome recovery after stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2012;93(1):149–155. DOIPubMed
  3. Bergmann J, Krewer C, Müller F, Jahn K. A new cutoff score for the Burke Lateropulsion Scale improves validity in the classification of pusher behavior in subacute stroke patients. Gait Posture. 2019;68:514–517. DOIPubMed
  4. Bergmann J, Krewer C, Rieß K, et al. Inconsistent classification of pusher behaviour in stroke patients: a direct comparison of the SCP and the BLS. Clin Rehabil. 2014;28(7):696–703. DOIPubMed
  5. Chow E, et al. Reliability and validity of the Four-Point Pusher Score ( 4PPS ). J Rehabil Med. 2019. Europe PMC
  6. Shirley Ryan AbilityLab( RehabMeasures ). Burke Lateropulsion Scale. Web

おわりに

BLS は “合計点” だけでなく、どの場面で lateropulsion が出るかを言語化できるのが最大の価値です。評価条件を固定し、場面差を記録し、点が付いた局面に合わせて介入を組む――この順で回すと、経過の読み取りが一気にラクになります。次の一手として、面談準備チェックと職場評価シートをまとめた マイナビコメディカルの記録テンプレ も、臨床の整理に役立ちます。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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