多系統萎縮症(MSA)の理学療法評価|評価順と記録シート

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多系統萎縮症(MSA)の理学療法評価は、安全確認から始めます

多系統萎縮症(MSA)の理学療法評価では、最初からすべての尺度を実施するのではなく、起立時症状、嚥下・呼吸、転倒の危険を確認し、その日に実施できる評価を決めることが重要です。その後、UMSARSで病勢、SARAで失調、歩行・バランス評価で移動機能を確認します。本記事では、初回の安全確認から完全評価、再評価までの順番と、同じ条件で比較するための記録方法を整理します。

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「初回10分」はUMSARSやSARAをすべて採点する時間ではありません。起立時症状、嚥下・呼吸、転倒リスクを確認し、当日にどこまで評価するかを決めるためのトリアージです。

初回は「安全確認 → 機能 → 病勢」の順で方向づけます

初回に優先するのは、精密な採点ではなく、起立・歩行・嚥下評価を安全に進められるか判断することです。起立時の前失神、嚥下後の湿性嗄声、吸気性喘鳴などがある場合は、歩行評価や運動負荷を先に進めず、症状に応じて休止・報告・専門職への連携を検討します。

安全確認後は、起立、歩行開始、方向転換、停止などの機能を観察し、最後にUMSARSやSARAなどの尺度へ進みます。状態が不安定な日にすべてを完了させる必要はありません。実施できなかった項目と理由を残し、別日に補完します。

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MSA患者を初めて評価するときの順番
順番 確認すること 次の判断 記録すること
① 安全確認 起立時症状、むせ・声質変化、呼吸音、当日の全身状態 起立・歩行・嚥下課題を実施できるか 症状、出現した姿勢・時間、回復までの経過
② 機能確認 起立、歩行開始、方向転換、停止、狭い場所での動作 転倒につながる場面と必要な介助 補助具、装具、介助量、破綻した場面
③ 病勢評価 UMSARS、失調がある場合のSARAなど 今後追跡する尺度と評価項目 得点、未実施項目、実施条件
MSA理学療法評価の進め方を示した図。安全確認、当日の実施範囲の決定、必要な評価の選択、再評価の順に整理している
図:MSAの初回評価では、安全確認後にその日の実施範囲と必要な評価を決め、再評価では時間帯・内服・補助具・介助量などの条件をそろえます。

MSAの評価は「全例で確認する項目」と「状態に応じて選ぶ項目」に分けます

MSAでは、自律神経障害、パーキンソニズム、小脳失調、嚥下・呼吸障害などの現れ方が患者ごとに異なります。そのため、全員に同じ検査を一律に実施するのではなく、病勢と安全に関わる項目を共通して確認し、機能評価は患者の症状と介入目標に合わせて選択します。

UMSARSはMSAの全体像を追う中心的な尺度です。一方、SARA、TUG、歩行速度、バランス尺度などは、UMSARSの代わりではなく、失調や移動機能を詳しく把握するために追加します。

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MSAの理学療法評価で確認する領域
領域 評価の候補 主な目的 運用上の注意
病勢・生活への影響 UMSARS ADL、運動機能、自律神経所見、全体障害度を追う Partごとの役割と測定条件を確認する
小脳失調 SARA、必要に応じてICARS 失調の程度と変化を把握する 得点だけでなく、崩れた条件を記録する
起立・移動 TUG、歩行速度、施設で使用しているバランス尺度など 転倒につながる動作と必要な介助を把握する 患者の能力と評価目的に合う指標を選ぶ
自律神経・起立時症状 臥位・立位のBP、HR、症状確認 離床や歩行を安全に実施できるか判断する UMSARS Part IIIと施設の起立評価を混同しない
嚥下・呼吸 問診、食事場面、声質・呼吸音の観察、施設で採用するスクリーニング 誤嚥や上気道障害の可能性を拾う 異常時はST、医師、耳鼻咽喉科などへつなぐ

UMSARSは4つのPartを区別して使用します

UMSARSは、MSAの症状と障害を複数の側面から評価する尺度です。Part Iは問診による生活への影響、Part IIは運動機能、Part IIIは自律神経検査、Part IVは全体障害度を確認します。

理学療法でPart I・II・IVを追跡する場合でも、Part IIIがUMSARSに含まれることを明確にしておきます。Part IIIの測定方法と、離床の安全確認を目的に施設で行う起立時BP・HR測定は、目的と条件を分けて記録してください。

UMSARSの項目別の見方や記録方法は、UMSARSの評価方法と記録の型で整理しています。

失調はSARAを軸に、必要性がある場合にICARSを追加します

SARAは8項目・0〜40点で失調を評価する尺度です。比較的短時間で実施しやすいため、失調の経過を繰り返し確認する指標として使用できます。ICARSは評価範囲が広いため、詳細な失調評価が必要な場合の候補になります。

どちらを使う場合も、得点だけでは介入につながりにくいことがあります。歩行、立位、上肢課題などで、速度を上げたとき、視覚情報が減ったとき、疲労したときなど、動作が崩れた条件を短く併記します。

歩行・バランス評価は患者の能力と目的に合わせて選びます

歩行・バランス評価では、尺度を多く実施するより、転倒につながる場面を特定することが重要です。特に、起立、歩行開始、方向転換、停止、狭い場所への進入を観察します。

TUG、歩行速度、バランス尺度などは、すべてを必須とせず、患者の能力と介入目標に合わせて選びます。歩行が困難な患者では、座位保持、立ち上がり、移乗、介助量、連続して活動できる時間などを代替指標として記録します。

MSA評価記録シートPDF

以下の記録シートでは、MSAの評価項目、実施条件、未実施理由、再評価時の変化をA4用紙1枚にまとめられます。すべての欄を毎回埋めるのではなく、患者ごとに追跡する指標を決めて使用してください。

MSA評価記録シートPDFを開く

A4・1ページ/病勢・失調・起立時症状・嚥下・再評価条件を整理

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起立時の評価は「数値・症状・時間」をセットで記録します

起立性低血圧を確認するときは、臥位から立位への血圧変化だけでなく、前失神、眼前暗黒、ふらつき、脱力、反応や会話量の変化を確認します。数値上の変化が小さくても症状が強い場合があり、反対に血圧が低下しても自覚症状が乏しい場合があります。

測定条件は施設の手順に従い、安静時間、姿勢、測定時刻、食事や内服との関係、カフ位置を記録します。UMSARS Part IIIを実施する場合は尺度で定められた条件を用い、通常の離床評価と異なる場合は別々に記録します。

起立時症状が出現した場合は、起立後何分で現れたか、着座または臥位でどのように回復したかを残します。症状が強い、回復しない、意識状態や呼吸状態に変化がある場合は、歩行評価を続けず、医師や看護師へ報告します。

嚥下・呼吸の変化は歩行評価より先に確認します

MSAでは嚥下障害に加え、吸気性喘鳴などの上気道症状が問題になることがあります。食事中のむせだけでなく、湿性嗄声、痰の増加、食事時間の延長、体重減少、夜間や運動後の呼吸音を確認します。

理学療法士による観察は診断の代わりではありません。異常を認めた場合は、食事や運動負荷をそのまま続けず、医師、看護師、言語聴覚士、耳鼻咽喉科などへの連携につなげます。

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MSAで中止・報告を検討する嚥下・呼吸所見
確認した所見 その場の対応 共有する内容
新たな吸気性喘鳴、夜間の異常な呼吸音 負荷を上げず、速やかに医療者間で共有する 出現時刻、姿勢、運動との関係、持続時間
むせ、湿性嗄声、喀出困難の増加 嚥下状態を再確認し、必要な専門評価へつなげる 食品・水分、食後または会話後、疲労との関係
発熱、痰の増加、呼吸苦 離床・運動負荷を見直し、医師・看護師へ報告する 体温、SpO₂、呼吸状態、痰の変化
摂取量低下、体重減少、脱水が疑われる所見 栄養・水分状態を多職種で確認する 摂取量、食事時間、体重変化、疲労

再評価では得点より先に実施条件をそろえます

再評価の間隔は、病期、症状の変化、介入目的、外来・入院などの診療環境によって決めます。すべての患者に一律の間隔を当てはめるのではなく、定期評価に加えて、転倒、起立時症状、嚥下・呼吸状態、介助量が変化した時点で再確認します。

施設内で定期評価の周期を定める場合は、4〜8週ごとなどの運用も考えられますが、これは一律の医学的基準ではありません。進行や状態変化が速い場合は短い間隔で安全項目を確認し、安定している場合は定期評価時に同じ尺度を実施します。

比較前に固定する条件

  • 評価した時刻
  • 食事・水分摂取との時間関係
  • 服薬から評価までの時間
  • 靴、装具、歩行補助具
  • 介助者数と介助量
  • 休息時間と課題の順番
  • 疲労、眠気、体調

条件をそろえられなかった場合は、前回値と単純比較せず、変更した条件を記録します。評価できなかった場合も空欄にせず、「起立時症状のため中止」「呼吸状態の変化により未実施」など、欠測理由を残してください。

記録例

記録例:
内服60分後に評価。四点杖、右側見守りで実施。立位2分後に眼前暗黒と反応低下を認めたため着座。約3分で症状消失。本日は歩行速度とTUGを中止し、座位機能とUMSARSの実施可能項目を記録した。

MSA評価で起こりやすい4つの失敗

MSA評価で比較を難しくするのは、尺度の不足よりも、評価条件、実施順、未実施理由が残っていないことです。次の4点を確認してください。

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MSA評価で起こりやすい失敗と修正方法
失敗 問題になる理由 修正方法
初回10分ですべて採点しようとする 安全確認が不十分になり、評価条件もそろわない 初回は当日の実施範囲を決め、残りは分けて実施する
UMSARS Part IIIと起立評価を同じものとして扱う 測定条件と評価目的が曖昧になる 尺度としての測定と安全判断用の測定を分けて記録する
複数の歩行・バランス尺度を毎回実施する 負担が増え、どの指標を追うか不明確になる 介入目標に合う指標を1〜2個選び、条件を固定する
未実施項目を空欄にする 機能低下なのか、体調による欠測なのか判断できない 中止理由、症状、代わりに確認した指標を記録する

MSAの理学療法評価でよくある質問

各質問をタップすると回答が開きます。

UMSARSとSARAはどちらを使えばよいですか?

目的が異なります。UMSARSはMSAによる生活への影響、運動機能、自律神経所見、全体障害度を確認する尺度です。SARAは小脳失調の程度を確認します。失調が主要な問題であれば、UMSARSにSARAを追加して追跡します。

初回評価でUMSARSをすべて実施する必要がありますか?

状態が不安定な日に無理に完了させる必要はありません。先に安全確認を行い、実施できるPartと項目を記録します。未実施項目は、理由を残して別日に補完します。

MSA-PとMSA-Cで評価項目を変えますか?

安全確認の基本は共通です。そのうえで、パーキンソニズム、小脳失調、自律神経障害、嚥下・呼吸障害のうち、実際に生活や移動を制限している症状に合わせて追加評価を選びます。病型名だけで評価順を固定しないことが重要です。

起立時の血圧が基準に達していなければ歩行できますか?

血圧値だけでは決められません。前失神、眼前暗黒、反応低下、脱力などの症状、回復までの経過、当日の全身状態を合わせて判断します。症状が強い場合や回復しない場合は、歩行評価を続けず医療者間で共有します。

再評価は何週間ごとに行いますか?

一律の間隔ではなく、病期、症状変化、介入目的、診療環境に合わせます。施設で4〜8週などの定期評価を設定する場合でも、転倒、起立時症状、嚥下・呼吸、介助量に変化があれば予定を待たずに確認します。

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参考文献

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著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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