EER×PALの決め方と見直しフロー【DRIs 2025】

栄養・嚥下
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EER × PAL の実務(目的とリスク)

EER(推定エネルギー必要量)は、「健康な人」を前提とした参考値=仮説であり、そのまま臨床の目標値とみなすのは危険です。本稿では、DRIs 2025 の EER 表と PAL(身体活動レベル)をベースに、「まずどのくらいから始めるか」を決める運用プロトコルに絞って整理します。エネルギー必要量の全体像や BEE × AF × SF による TEE の考え方は、総論記事(エネルギー必要量の基本)を参照してください。

EER は生活期〜回復期のベースラインを決める道具と位置づけ、病期や疾患の変動が大きい症例では「参考レンジ」にとどめます。運用では栄養スクリーニングや体重・浮腫・摂取状況の経時変化と組み合わせて、設定値の妥当性を定期的に検証し直すことが重要です。「一度決めたら終わり」の数字にしないことが、過小評価・過大評価の両方を避けるポイントです。

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運用フロー(現場テンプレ)

  1. 前提整理:年齢・性・身長・体重に加え、病期(回復期/生活期など)、発熱・炎症・安静度を確認し、「EER をそのまま当ててよいか」をまず判断します。
  2. PAL を仮設定:病棟 ADL・離床時間・歩数・職種の聞き取りから少し控えめに PAL を決めます。本人申告だけでなく、看護記録や活動量計の情報を合わせます。
  3. EER を試算:DRIs 2025 の該当表から、年齢区分・性・PAL に応じた EER(kcal/日)を参照し、「このレンジなら妥当そうか」を臨床像と照らし合わせて暫定目標を置きます。
  4. 1–2 週で検証:体重推移(±0.5〜1.0 kg/週)、食事摂取量、活動量、症状(浮腫・全身倦怠など)を確認し、過不足のサインがあれば PAL と目標量を 5–10%単位で補正します。
  5. 並行評価:栄養リスクそのものは GNRI や MNA-SF などのスクリーニングツールで二重化し、「量の設定」と「リスク層別」を分けて考えます。

PAL の目安(数値ではなく行動像で決める)

PAL 区分と行動像(成人・病棟〜生活期の実務目安)
区分 行動像 判断材料
低い 安静多め・離床はリハ時中心。トイレもポータブル中心。 ベッド上活動が主、歩数 < 2–3 千/日。離床時間は 1–2 時間程度。
ふつう 病棟内 ADL 自立〜一部介助。3 食とも椅子座位、トイレ歩行。 離床は 3 食+トイレ+短距離歩行、歩数 3–7 千/日。
やや高い 院内での移動量が多い/積極的訓練。長距離歩行や階段練習が入る。 歩数 7–10 千/日。作業療法・歩行訓練が増量され、日中ほぼ座位〜立位で過ごす。
高い 肉体労働に近い活動/長距離歩行やスポーツ習慣がある生活。 万歩計で 1 万歩超。階段昇降や荷物運搬などの重作業が日常的。

PAL は数値そのものより「行動像」で決める方が、患者本人の理解も得やすくなります。自己申告は過大評価・過小評価どちらにも振れやすいため、歩数計・活動量計・看護記録などで必ず裏取りを行いましょう。

現場の詰まりどころ

  • 誰が PAL を決めるか曖昧:医師・管理栄養士・リハ・看護のどこで「最終決定」するかが決まっておらず、カンファレンスごとに数値がブレるケースがあります。役割分担を決め、「誰が入力し、誰が承認するか」をカルテ様式で固定すると運用が安定します。
  • 活動量情報が共有されない:PT/OT が歩数・離床時間を把握していても、NST や主治医へ情報が流れず、古い安静度のまま EER が維持されてしまうことがあります。週 1 回は「歩数の代表値」と「離床パターン」を簡潔に共有する仕組みを作ると再評価がしやすくなります。
  • 平日と休日のギャップ:平日リハ介入時の活動量を前提に PAL を設定し、そのまま休日や退院後にも当てはめると、実際の生活より高めに見積もってしまうことがあります。退院調整では「リハなしの 1 日」を想定した PAL を別に考えると安全です。
  • 「食べられていない」の原因整理:EER が高いのか、摂取不足なのか、吸収障害や症状(悪心・口内炎など)が強いのかが混在し、「足りないからとりあえず増量」の方針になりがちです。エネルギー量・摂取量・症状のどこにボトルネックがあるかを分けて整理することで、介入の優先順位が明確になります。

参考資料

  1. 厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2025 年版)」策定検討会報告書・総論および活用の留意事項。WebPDF

おわりに

EER × PAL は、あくまで「最初の仮説」を置くためのフレームです。臨床では、EER 設定 → 1〜2 週の経過観察 → 5–10%単位の微調整 → 再評価というサイクルを回すことで、患者ごとの妥当なレンジに近づいていきます。特に回復期〜生活期の症例では、活動量と症状の変化がエネルギー必要量に直結するため、「数字を決めたあとにどう運用するか」が介入効果を左右します。

本記事をきっかけに、施設内で PAL の決め方や再評価のタイミングを共通言語化できると、NST や主治医との連携がスムーズになり、過小評価・過大評価の両方を避けやすくなります。日々のリハ評価で得られる歩数や離床パターンの情報を、エネルギー処方の見直しにも積極的に活かしていきましょう。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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よくある質問

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EER × PAL はどのくらいの頻度で見直すべきですか?

急性期を除く回復期〜生活期であっても、少なくとも週 1 回は「体重・摂取量・活動量」をまとめて確認し、明らかな過不足がないかを確認することをおすすめします。炎症や浮腫が落ち着いている時期で、体重・ADL が安定していれば、月 1 回程度の見直しでも十分なケースもありますが、退院前後・活動量が変わるタイミングでは再設定の機会を逃さないようにしましょう。

高齢フレイル患者でも DRIs 2025 の EER をそのまま使ってよいですか?

DRIs の EER は「健康な集団」を前提に算出されているため、フレイルが進行している高齢者ではそのまま当てはまらないことがあります。特にサルコペニアや高度 ADL 低下がある場合、EER のレンジをやや低めに見積もったうえで、体重・筋量・活動量の変化を見ながら段階的に調整する方が安全です。逆に炎症や回復期リハで活動量が増えている時期には、EER を下回ると易疲労や体重減少につながることもあるため、経時的な観察が欠かせません。

活動量計がない病棟で PAL をどう推定すればよいですか?

歩数計やウェアラブルが使えない場合でも、離床時間と移動パターンからおおよその PAL を推定できます。例えば「3 食すべて椅子座位」「トイレは自立歩行」「午後に病棟内を 2–3 周」といった情報がそろえば、「ふつう」〜「やや高い」のどこに当てはまりそうかイメージしやすくなります。看護記録(安静度・見守りレベル)やリハの記録(歩行距離・階段練習の有無)も参考にし、複数職種の情報を合わせて判断することがポイントです。

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