側臥位ポジショニングの手順と記録(運用プロトコル)
本ページは、側臥位(特に 30° 側臥位=半側臥)を「やったつもり」で終わらせず、チームで再現できる条件として残すための運用プロトコルです。全体像(基本 8 ポイント/背抜き/禁忌など)を先に押さえたい場合は、ポジショニングとは?基本 8 ポイントと実務フローを先に読むと、判断が速くなります。
ねらいは 3 つです。①大転子直上などの一点集中を避ける、②前滑りやシワによるずれ(剪断)を作らない、③麻痺肩やラインを守りつつ安楽と呼吸を両立する。これを「確認 → 記録 → 再評価」まで回せる形に落とし込みます。
安全チェック(禁忌・レッドフラッグ)
側臥位は “角度の誤差” よりも、当ててはいけない部位と引っ張ってはいけないラインで失敗します。迷ったら先に安全チェックを通し、体位は短時間から始めます。
※スマホでは表が横スクロールできます。
| 領域 | 危険サイン | その場の対応 | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| 皮膚/創部 | 発赤・水疱・疼痛の新出/増悪、湿潤、デバイス圧 | 当たりを外す/シワとずれを解除(背抜き) | 皮膚所見を記録し、次回は支持条件を変更 |
| 呼吸/循環 | SpO₂ 低下、呼吸困難、努力呼吸、顔色不良 | 角度を浅く/頭頸部の圧迫を解除 | 短時間から再導入し、モニタリング頻度を上げる |
| 整形外科 | 術後の肢位制限、脱臼既往、骨折固定部の疼痛 | 禁忌肢位を回避し、支点を変更 | 制限内容を記録し、チームで条件を共有 |
| 神経 | しびれ・疼痛の増悪、麻痺側への偏荷重、痙縮誘発 | 牽引を解除し、前方支持へ戻す | 再現性のある “避ける肢位” を言語化して残す |
標準フロー( 5 ステップ)
側臥位は「正解の姿勢」を作るより、目的 → 条件 → 確認 → 記録で回す方が崩れにくいです。まずは下の 5 ステップを固定します。
- 目的を 1 つに絞る:例)「仙骨部の負担軽減」/「右肺換気の補助」/「麻痺肩の牽引回避」
- 準備:ピロー、タオルロール、くさびクッション、膝間クッション、ライン保護材を先に並べる
- 設定:骨盤・体幹の整列、骨突出のオフロード、ライン保護を同時にチェックする
- 確認:皮膚(当たり)/ずれ(剪断)/疼痛・安楽/呼吸の変化を 30〜60 秒で見る
- 記録と再評価:角度・支持点・ライン経路を “再現できる語句+数値” で残す
側臥位( 30° 側臥位 )の作り方:最小セット
側臥位の狙いは “真横に寝かせる” ことではなく、大転子直上を避ける・骨同士を当てない・前滑りを作らないの 3 点を両立することです。基本は 30° 側臥位で半側臥を作り、体幹長軸に沿った支持で “面” を増やします。
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| 目的 | 置く(支える)場所 | 避ける当たり | 確認( 30〜60 秒 ) |
|---|---|---|---|
| 大転子の一点集中を避ける | 体幹の後方に “くさび” を入れて半側臥を作る | 大転子直上、腓骨頭の圧迫 | 当たりが “点” ではなく “面” になっている |
| ずれ(剪断)を減らす | 背抜き(シワ除去)+ 膝間クッションで骨同士を分離 | シーツのシワ、膝同士の摩擦 | 体幹が前滑りしていない/皮膚が引かれない |
| 麻痺肩の牽引を避ける | 上肢を “前方で受ける”(枕・クッションで前方支持) | 上肢が体幹の下に巻き込まれる | 肩の突っ張り・疼痛が出ない |
| ラインを守る | ライン経路を “見える化” して、当たりと牽引を外す | ドレーン・胃瘻・酸素チューブの局所圧 | 牽引なし/圧迫なし/固定が外れない |
手順(チェックポイントつき)
- 真横を避ける:体幹の後方に支持を入れ、半側臥( 30° )の角度を作ります。
- 骨盤 → 体幹 → 頭頸部の順に整えます(ねじれ・過度な側屈を減らす)。
- 膝間クッションで骨同士(膝・足部)の接触とずれを減らします。
- 上肢は前方支持:麻痺側肩は “吊る” のではなく、前方で受けて牽引を回避します。
- 最後に背抜き:シワと前滑りの入口を潰し、当たり・ラインを再確認します。
片麻痺を伴う側臥位の注意点(肩・下肢・環境)
片麻痺では、側臥位が「安楽」でも、肩の牽引と下肢の回旋ストレスで後から痛みが出やすいです。最初に守るべき 3 点だけ固定します。
- 肩:麻痺側は “体幹の下に巻き込まない”。前方支持で牽引を避けます。
- 骨盤:後傾と体幹のねじれが出る場合は、体幹後方の支持量を増やして半側臥を保ちます。
- 下肢:膝間クッションで骨接触を分離し、股関節の内旋・外旋が強制されない高さにします。
呼吸・循環を狙うときの設計(観察と微調整)
呼吸を狙う側臥位は、角度よりも 胸郭の自由度と頸部の圧迫回避が効きます。努力呼吸が出る場合は、側臥位をやめるのではなく、支持条件を “軽く” して短時間から試します。
- 観察:SpO₂、呼吸数、努力呼吸、咳嗽のしやすさ(体位前後)
- 微調整:体幹後方支持を浅くする/頭頸部の枕高を下げる/胸郭前方の圧迫物を抜く
- 記録:「呼吸が楽になる角度」「苦しくなる条件」を言語化して残す
記録テンプレ(コピーして編集)
記録は “長文” よりも、再現できる条件が残ることが重要です。まずは下の 6 行を埋めるだけで、次回の再現性が上がります。
【側臥位( 30° ) 記録テンプレ】
体位:____(例:左 30° 側臥位)/開始:__:__ 終了:__:__
目的:____(皮膚/呼吸/疼痛/麻痺肩 など 1 つ)
支持物:体幹後方(__)/膝間(__)/上肢前方支持(__)
ライン:牽引(なし・あり)/当たり(なし・あり:__)
確認:皮膚(__)/ずれ(なし・あり)/疼痛 NRS(__)/呼吸(SpO₂ __)
再評価:次回は____(角度・支持・時間・体位変更)
よくあるミスと対策(側臥位で崩れやすいポイント)
側臥位は “その場の安楽” だけで止めると、後から皮膚・肩・ラインで破綻します。崩れ方をパターン化しておくと修正が速いです。
※スマホでは表が横スクロールできます。
| 崩れ方(あるある) | 起きる理由 | 直し方(優先手) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| “真横” になって大転子が当たる | 体幹後方の支持が不足し、角度が立つ | 体幹後方に支持を追加して半側臥( 30° )へ戻す | 角度/後方支持の種類と位置 |
| 前滑りしてシワが増える | 背抜き不足、膝間が浅く骨接触が残る | 背抜き → 膝間クッションを “高さ” で調整 | 背抜き実施/シワとずれ所見 |
| 麻痺肩が痛い/引っ張られる | 上肢が体幹の下に巻き込まれる | 上肢を前方支持し、肩甲帯が落ちない条件を作る | 上肢支持の位置/疼痛の変化 |
| ラインが引かれる/当たる | ライン経路が体位で変化し、局所圧が生じる | 経路を変える/保護材で当たりを外す/固定を確認 | 牽引の有無/当たり部位 |
現場の詰まりどころ(修正が効かない時の見直し順)
うまくいかないときは、技術よりも “見直す順番” が曖昧なことが多いです。側臥位は次の順で戻すと、迷いが減ります。
- ずれ(剪断):シワ/前滑り/背抜き不足がないか
- 一点集中:大転子・腓骨頭・外果・膝同士の当たりがないか
- 牽引:麻痺肩・ドレーン・胃瘻・酸素チューブが引かれていないか
- 安楽と呼吸:表情/訴え/努力呼吸で “無理” が出ていないか
また、手順の型を作りたいのに院内で教わりにくい(標準手順がない)場合は、まず “学べる環境” を確保する方が早いこともあります。情報収集の一つとして、面談準備チェックと職場評価シートも使えます(体位管理を含む教育体制の確認に便利です)。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1.30° 側臥位が “正解” ですか?
万能の正解ではありません。ただし臨床では「真横で大転子が当たる」「前滑りでずれが増える」を避けやすく、再現性が高いのが 30° 側臥位です。まずは 30° を基準にし、呼吸・疼痛・体型に合わせて支持量で微調整するのが安全です。
Q2.麻痺側は “下” と “上” どちらの側臥位が良い?
目的で決めます。皮膚保護なら当たりを避けやすい側、呼吸なら換気が楽になる側、肩の疼痛が強いなら牽引が出ない側を優先します。結論を急がず「短時間 → 反応(疼痛・呼吸・皮膚)」で選び、条件を記録してチームで共有するのが安全です。
Q3.ラインが多い人は側臥位を避けるべき?
避けるのではなく「経路の見える化」と「当たりの外し方」を先に整えます。牽引が出る場合は、体位よりもライン固定や経路変更で解決することが多いです。最初は短時間で導入し、皮膚と固定の変化をセットで記録します。
Q4.安楽そうでも、すぐ崩れるのはなぜ?
多くは “支える場所が点” になっているか、背抜き不足でずれが残っています。体幹後方の支持で半側臥を保ち、膝間で骨接触を分離し、最後に背抜きでシワと前滑りを潰すと安定します。
Q5.記録はどこまで書けばいい?
最小限は「体位名(角度)」「支持点」「ライン」「確認(皮膚・ずれ・疼痛・呼吸)」「次回の修正点」です。長文より “同じ条件を再現できる” 語句と数値を残す方が、チームで回ります。
次の一手(関連:深掘りと横展開)
参考文献
- European Pressure Ulcer Advisory Panel, National Pressure Injury Advisory Panel and Pan Pacific Pressure Injury Alliance. Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries: Clinical Practice Guideline. 2019. NPIAP
- 日本褥瘡学会学術教育委員会 編. 褥瘡予防・管理ガイドライン 第 5 版. 照林社; 2022.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


