ノルディックウォーキング理学療法|適応と運用プロトコル

臨床手技・プロトコル
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この記事のゴール(誰に・何を・どうやって)

本稿は理学療法士向けに、ノルディックウォーキングを安全かつ再現性高く運用するためのプロトコルを 1 本にまとめたものです。いわば「ノルディックウォーキング 理学療法」の実践編として、適応判定 → 道具選定 → 技術指導 → FITT 処方 → モニタリング → 記録までをチェックリスト発想で整理します。理論や効果・エビデンスの詳細は、別記事の効果解説編に集約し、本稿では「どう現場で回すか」に専念します(背景理解が必要な場合は効果解説編を参照してください)。

臨床の積み上げ方を整理する(PT キャリアガイド)

ノルディック杖を使ったリハビリの適応とリスクスクリーニング

「ノルディック 杖 リハビリ 適応」を決める軸は、運動で得たい目標とリスクのバランスです。フレイルや低活動、転倒不安、姿勢前傾、心血管リスク是正が必要な症例では、上肢支持を得ながら歩行量を増やせる点で有効です。一方、急性心不全・不安定狭心症、未治療の重度高血圧、急性感染・発熱、重度起立性低血圧や転倒多発例、医師から明確な運動制限が出ている場合は実施しません。評価時はバイタル・既往・転倒歴・歩行自立度をセットで確認し、「どの条件なら安全に増やせるか」を具体的に言語化しておきます。

適応・禁忌・注意の早見表(成人・外来/2025 年版)
区分 代表例 現場での対応
適応 フレイル、低活動、転倒不安、姿勢前傾 平坦路から短時間×複数セットで開始し、RPE 11–13 を目安に漸増
注意 膝 OA・腰痛、PAD、COPD、PD など 痛み・SpO₂・歩容を逐次確認し、時間・頻度・地形を症状に合わせて調整
禁忌 急性心不全/不安定狭心症、未治療重度高血圧、急性感染 医師の許可が出るまで実施しない(別の運動療法で対応)

道具の決め方(ノルディック杖・シューズ)

ポール長は「身長 × 0.68」を起点に、初心者はやや短めから開始し、フォームが安定したら数センチ単位で微調整します。立位でポールを持ったときに肘がほぼ 90°前後になるのが目安です。先端は屋外用ゴムチップで路面摩擦を確保しつつ、濡れた路面や砂利での滑走に注意します。ストラップは後方への押し出し後、手を軽く開いてもポールを自然に支えられる程度のテンションに設定し、「握りっぱなし」にならないようにします。シューズは踵の安定性と前足部の屈曲性を優先し、段差・斜面でのグリップも確認しておきます。

技術指導のキューポイント

  • 胸郭を開き、やや前傾を意識しつつ目線は水平に保つ(うつむき過ぎに注意)。
  • 歩幅は普段よりわずかに広く、踵接地 → ローリング → つま先離地を意識する。
  • 対側上肢でポールを後方へ押し出し、ストラップで荷重を受けてから手を軽く開放し、過剰把持を避ける。
  • 股関節伸展と体幹回旋を同調させ、下肢筋力だけに頼らない。下り坂では推進より制動を優先する。

導入時は、まず屋内で 5〜10 分のフォーム練習(ポールなし → 片手 → 両手)を行い、その後に平坦路で 10〜15 分× 2 セットを目安にします。慣れないうちは速度よりも「リズム」と「フォームの再現性」を優先し、1 回ごとに息切れ・痛み・ふらつきの有無を確認します。

処方(FITT 設定と漸増)

開始設定は 1 回 10〜15 分× 2 セット、週 3〜5 日、RPE 11–13(会話可能レベル)を基本とします。漸増順序は「時間 → 歩数 → 地形」の順で、1〜2 週ごとに 5〜10% ずつ増量するイメージです。まず 12 週間を 1 サイクルとして設計し、「症状が出たら時間を戻す」「悪天候時は屋内歩行に切り替える」など、あらかじめ“ブレーキのかけ方”も含めて共有しておくとセルフマネジメントがしやすくなります。

漸増モデル(12 週間・一例)
時間(1 回) 地形 メモ
1–2 10–15 分× 2 平坦路 フォーム自動化、RPE 11–12 を維持
3–6 20–25 分 平坦路中心 歩数を増やし、長い勾配は避ける
7–10 25–35 分 平坦+軽い起伏 RPE 12–13、症状ベースで時間・地形を微調整
11–12 30–40 分 軽い起伏を選択 週 3–5 回で定着を図り、自己管理への移行も検討

モニタリングと中止基準

  • 都度チェック:RPE、脈拍、SpO₂、膝・腰・下肢の痛み、息切れ、ふらつき。
  • 中止基準:胸痛や強い息切れ、SpO₂ < 90%、強いめまい・ふらつき、下肢痛の急増、失調など。
  • 屋外では天候・気温・路面状況(濡れ・砂利・斜面)を確認し、必要に応じて屋内歩行や別モダリティに切り替える。
中止基準と現場対応(成人・2025 年版)
兆候 判定例 対応
SpO₂ 低下 < 90% が持続 即時中止、座位安静と呼吸指導、必要に応じて医師へ報告
胸痛・失神前兆 胸部圧迫感、冷汗、強いめまい・ふらつき 速やかに中止し、救急評価を含めた対応を検討
下肢痛の急増 VAS/NRS の急上昇、跛行の明らかな悪化 その場で終了し、平坦路・短時間歩行に戻して再評価

病態別ショートガイド

パーキンソン病(PD):上肢スイング促通・姿勢是正・行進リズムの付与に有用です。すくみが強い日は広い平坦路での介助下練習から始め、凍結のトリガーになりやすい環境(狭い通路・障害物・複雑な交差点)は避けます。オン・オフや薬効ピークとの関係も確認します。

末梢動脈疾患(PAD):第一選択は監督下標準運動療法(SET)であり、ノルディックウォーキングは歩行距離確保や動機づけとして補助的に位置づけます。疼痛の発現距離・回復時間・皮膚色を観察し、痛みが長く残る負荷は避けます。足部の水疱・潰瘍の有無も必ず確認します。

COPD:呼吸困難スケールと SpO₂ を並行してモニタし、数分歩行+休憩を繰り返す間欠的な歩行で累積時間を稼ぎます。口すぼめ呼吸やペーシングとセットで指導し、「息切れの怖さ」を軽減することも重要です。

変形性膝 OA/腰痛:痛み増悪時は歩幅とポールの押し出しを控え、平坦路での短時間分割を優先します。膝内反モーメント(KAM)は一律に低下するわけではない点を理解し、「痛み・腫れ・動作の崩れ」が出る負荷は避ける方針で調整します。

評価と記録テンプレ

  • 主要アウトカム:6 分間歩行試験(6MWT)、TUG、歩行速度、転倒不安(FES-I)、バランス自信度(ABC)、転倒件数など。
  • 二次アウトカム:血圧・心拍、脂質プロファイル、体重・腹囲、質問票ベースの QOL など。
  • SOAP 記録例:S)息切れ軽度・膝痛なし / O)RPE 12・SpO₂ 95%・6MWT + 40 m / A)ノルディックウォーキング技術の習熟が進み、自己効力感も向上傾向 / P)来週は 15 → 20 分へ延長し、フォーム維持を優先して継続。

現場の詰まりどころ

現場でありがちな詰まりどころは、①「散歩の延長」で始めてしまう/②適応・禁忌の確認が曖昧なまま負荷を上げてしまう/③フォーム評価が主観頼みになるの 3 点です。ノルディックウォーキングは一見「安全そう」に見えるため、事前の心血管リスク評価やバイタル確認が抜け落ちやすく、結果として息切れや疼痛悪化のトラブルにつながります。また、患者さん任せの自己流フォームになると、上肢の過剰把持や前屈み姿勢が強調され、期待した効果が得られません。

対応としては、「開始前に必ずチェックする 3 点セット(バイタル・転倒歴・歩行自立度)」と、「 1 回目は必ず PT が横でフォーム確認する」というルールをチームで共有しておくと運用が安定します。評価指標も 1〜2 種類に絞って固定し、毎回の変化を短時間で確認できるようにしておくと、継続のモチベーションにもつながります。

おわりに

ノルディックウォーキングは、「杖歩行」と「有酸素運動」の中間に位置するようなツールであり、上肢支持を活かして安全に歩行量を増やせる一方で、適応と運用を誤ると痛みや心血管イベントのリスクも孕んでいます。本稿のように、適応判定 → 道具 → 技術 → FITT → モニタリング → 記録という流れであらかじめ“型”を決めておくと、スタッフ間での指導のばらつきが減り、効果検証もしやすくなります。

日々の臨床では、「歩いてもらいたいけれど、どう始めればいいか分からない」「散歩以上・ランニング未満の負荷をかけたい」といった場面が少なくありません。そうしたときに、ノルディックウォーキングを一つの選択肢として安全に提案できると、退院後や在宅期の活動性を高めるうえで大きな武器になります。チーム内で本プロトコルを共有し、施設ごとの環境や対象者に合わせて微調整しながら運用してみてください。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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よくある質問

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Q1. フレイル高齢者にもノルディックウォーキングは勧めてよいですか?

適切な適応判定とリスク評価を行えば、フレイル高齢者はむしろノルディックウォーキングの良い対象になり得ます。最初は 5〜10 分の平坦路歩行から開始し、RPE 11 前後(楽〜ややきつい)を目安に無理のない範囲で実施します。バイタル・転倒歴・歩行自立度を事前に確認し、ふらつきや痛みが出た場合はその場で終了して、原因を整理してから再開することが重要です。

Q2. ノルディック杖の高さ調整で迷ったときの簡単な目安はありますか?

基本は「身長 × 0.68」と、立位でポールを握ったときに肘がほぼ 90°になることの 2 点を確認します。初心者や痛みのある症例では、やや短めから開始した方が上肢での過剰な引き込みを抑えやすく、安全側に倒しやすいです。実際の歩行場面で数メートル試歩してもらい、肩のすくみ・肘の過伸展・体幹前傾などが強く出る場合は、再度 1〜2 cm 単位で調整します。

Q3. 心疾患や PAD のある方にはどの程度まで負荷を上げてよいですか?

心疾患では主治医からの運動許可の範囲を厳守し、心拍数・自覚的運動強度・症状(息切れ・胸痛・動悸)をセットで観察しながら少しずつ負荷を調整します。PAD では標準的には「痛みの出る手前〜やや出る程度」まで歩行し、痛みが引くまで休むというパターンを繰り返しますが、痛みの残り方や皮膚の色調、創部の有無をよく確認し、悪化サインがあれば早めに医師へ共有します。いずれも“無理をさせない”より、“安全に少しずつ伸ばす”視点が重要です。

参考文献

  1. Tschentscher M, Niederseer D, Niebauer J. Health Benefits of Nordic Walking: Systematic Review. Am J Prev Med. 2013;44(1):76–84. DOI
  2. Church TS, Earnest CP, Morss GM. Field testing of physiological responses associated with Nordic Walking. Res Q Exerc Sport. 2002;73(3):296–300. DOI
  3. Bechard DJ, et al. The effect of walking poles on the knee adduction moment in patients with varus gonarthrosis. Osteoarthritis Cartilage. 2012;20(11):1285–1290. DOI
  4. Breyer MK, et al. Nordic Walking improves daily physical activities in COPD: randomized controlled trial. Respir Res. 2010;11:112. Link
  5. Salse-Batán J, et al. Effects of Nordic walking in people with Parkinson’s disease: Systematic review & meta-analysis. Health Soc Care Community. 2022. DOI
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