間接嚥下訓練は「目的→所見→1手」で選びます
間接嚥下訓練は、食べ物を使わずに口腔・呼吸・喉頭周囲・姿勢などを整え、直接訓練へつなげるための準備的なアプローチです。現場で迷いやすいのは、メニューが多く、嚥下体操・口腔ケア・呼吸練習・シャキア訓練・CTAR などを「何のために選ぶか」が曖昧になりやすい点です。
この記事では、間接嚥下訓練を目的→所見→メニュー→負荷設定→進行条件→記録の順に整理します。読後に、患者さんごとに「今やる 1 手」と「次に増やす条件」を決められる状態を目指します。
間接嚥下訓練とは、直接訓練へ進む前の安全域を広げる訓練です
間接嚥下訓練は、ボーラスを使わずに嚥下関連機能を整える訓練の総称です。直接訓練が「実際に食べる条件」を使うのに対し、間接訓練は口腔内環境、呼吸、咳嗽、喉頭挙上、舌の操作、姿勢などを整え、食べる前の安全域を広げる役割があります。
ただし、間接訓練は“たくさん実施すれば良い”ものではありません。大切なのは、最初に「どの所見を変えるために行うか」を決めることです。目的が曖昧なままメニューを増やすと、効果判定も記録もぼやけます。
メニューは「目的→所見→まず 1 手」で選びます
間接嚥下訓練は、メニュー名から選ぶよりも、目的と所見から逆算した方が安全です。最初に狙いを 1 つに絞り、その根拠となる所見を確認し、まず 1 つのメニューから始めます。
直接訓練の食形態・一口量・姿勢・ペースまで含めた組み立ては、直接嚥下訓練の進め方で整理しています。本記事では、直接訓練へ入る前の準備段階に絞ります。
| 目的 | よくある所見 | まず選ぶ 1 手 | 確認ポイント |
|---|---|---|---|
| 口腔内を整える | 乾燥、痰、食残、口腔内汚染、口唇閉鎖不良 | 口腔ケア、湿潤、口唇閉鎖練習 | 訓練前に口腔内が整っているか |
| 呼吸と咳嗽を整える | 喀出が弱い、痰が多い、湿性嗄声が出やすい | 呼吸練習、咳嗽・咳払い練習 | 声の濁りや呼吸苦が増えないか |
| 嚥下反射のきっかけを作る | 嚥下開始が遅い、口腔内にため込みやすい | 冷刺激などの感覚入力 | 反応があるか、過刺激になっていないか |
| 喉頭挙上を支える | 喉頭挙上が弱い、咽頭残留が疑われる、複数回嚥下が増える | CTAR、シャキア訓練など | 頸部痛、代償、疲労の残り方 |
| 舌の送り込みを整える | 口腔内残留、送り込み低下、舌運動の不正確さ | 舌可動域練習、舌抵抗運動 | 速さより正確さを優先できているか |
| 姿勢を安定させる | 座位が崩れる、頸部が不安定、食事姿勢が保てない | 骨盤・体幹支持、頸部アライメント調整 | 訓練前に安全な姿勢が作れているか |
負荷設定は「フォーム・疲労・翌日反応」で決めます
間接嚥下訓練で成果が出にくい原因の 1 つは、負荷が軽すぎる、または強すぎることです。回数だけを増やすのではなく、フォームが保てるか、訓練後に呼吸・声が悪化しないか、翌日に頸部痛や強い疲労が残らないかを見ます。
負荷を上げるときは、回数・セット数・保持時間・休息時間・姿勢条件のうち、変更する要素を 1 つに絞ります。同時に複数変えると、悪化したときに原因を戻せなくなります。
| 状況 | 負荷の置き方 | 進め方 | 注意サイン |
|---|---|---|---|
| 疲労が強い | 短時間・低頻度から開始 | 1 セットを短くし、反応を見て調整 | 後半でフォームが崩れる |
| 頸部・肩の緊張が強い | フォーム優先の軽負荷 | 姿勢支持を整えてから実施 | 頸部痛、頭痛、肩の代償 |
| 喀出が弱い | 呼吸・咳嗽を優先 | “出せる”感覚を作ってから次へ進む | 湿性嗄声、呼吸苦、疲労増悪 |
| 口腔内残留が目立つ | 舌・口唇の正確性を優先 | 速さより運動方向と保持を確認 | 急ぐほど動きが雑になる |
進行は「安定してできる→1 つだけ上げる」で判断します
ステップアップの基準は、回数をこなせたかではなく、同じ条件で安定して実施できたかです。フォームが崩れず、訓練後に呼吸・声が悪化せず、翌日に頸部痛や強い疲労が残らない場合に、次の段階を検討します。
進めるときは、回数・保持時間・セット数・姿勢条件・抵抗量のうち、1 つだけ上げます。反対に、湿性嗄声が増える、呼吸苦が出る、頸部痛が残る、代償が増える場合は、前の条件へ戻します。
| 判断 | 見るポイント | 次の対応 |
|---|---|---|
| 進めてよい | フォーム安定、呼吸・声の悪化なし、翌日疲労が少ない | 変更点を 1 つだけ増やす |
| 維持する | できるが後半で少し崩れる、疲労が残りやすい | 同条件で安定するまで継続 |
| 戻す | 湿性嗄声、呼吸苦、頸部痛、代償増加 | 回数・保持時間・抵抗量を下げる |
記録は「目的・所見・負荷・反応・次回 1 手」で書きます
間接嚥下訓練の記録は、実施メニュー名だけでは不十分です。目的と所見が書かれていないと、次回に同じ訓練を続ける理由や、直接訓練へ進む根拠が伝わりません。
最小限の型は、目的、所見、メニュー・負荷、反応、次回 1 手です。特に「次回 1 手」を入れると、チーム内で訓練の再現性が上がります。
| 項目 | 書く内容 | 記録例 |
|---|---|---|
| 目的 | 何を変えたいか | 喀出力を高め、食前のクリアリングを安定させる |
| 所見 | 根拠となる観察 | 痰が多く、訓練前に湿性嗄声を認める |
| メニュー・負荷 | 何をどれだけ実施したか | 呼吸練習+咳嗽練習を短時間で実施 |
| 反応 | 実施後の変化 | 咳払い後に声のクリアさ改善。呼吸苦なし |
| 次回 1 手 | 次に変える要素 | 同条件で継続し、安定すれば回数のみ微増 |
A4 記録シートを使って、目的と次回 1 手を残します
間接嚥下訓練では、実施したメニューよりも「なぜ選んだか」「どの反応を見たか」「次回何を変えるか」を残すことが重要です。下の A4 記録シートでは、目的、所見、メニュー、負荷、反応、次回 1 手を 1 枚で整理できます。
印刷して使う場合は、患者さんごとに毎回すべてを埋めるよりも、迷った部分や次回変更する条件を中心に記録すると運用しやすくなります。
現場の詰まりどころは「とりあえず実施」から抜けることです
間接嚥下訓練は、メニューが多いぶん“何となく嚥下体操をする”形になりやすいです。詰まりどころは、目的が曖昧、負荷設定が曖昧、直接訓練への進行条件が曖昧、の 3 つに集約されます。
- 負荷設定で迷うときは、フォーム・疲労・翌日反応を見る
- 進行で迷うときは、安定してできてから 1 つだけ上げる
- 記録の書き分けは 摂食機能療法の記録テンプレ で確認する
| よくある失敗 | 起きる理由 | 対策 |
|---|---|---|
| 目的が曖昧なまま体操を続ける | 所見とメニューがつながっていない | 目的→所見→メニューを 1 行で書いてから開始する |
| 負荷を一気に増やす | 回数・保持時間・抵抗量を同時に変えている | 変更点は 1 つに絞り、戻れる条件を残す |
| 呼吸・痰を見ずに直接訓練へ進む | 誤嚥後に回復する力を確認していない | 湿性嗄声、咳嗽、喀出、呼吸苦を確認してから進める |
同じところで詰まり続ける場合は、手順だけでなく学べる環境も確認しましょう。
評価・記録・報告の型が職場で共有されていないと、個人の努力だけでは再現性が上がりにくいことがあります。
PT キャリアガイドを見るよくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 間接嚥下訓練だけで終わってもよいですか?
A. 目的によります。口腔内環境の改善、呼吸・咳嗽の安定、姿勢調整などは、それ自体が安全性に関わります。一方で、食べる動作の再獲得を目指す場合は、条件が整った段階で直接訓練へつなげる設計が必要です。
Q2. 直接訓練へ移る目安は何ですか?
A. 姿勢が安定している、呼吸が破綻しない、口腔内が整っている、咳嗽や咳払いでクリアリングできる、という条件を確認します。最初は少量・観察しやすい条件から始めます。
Q3. メニューは複数組み合わせてもよいですか?
A. 可能ですが、最初は 1 つに絞る方が効果判定しやすいです。複数行う場合も、目的を分けて記録し、どの所見に対して何を実施したかが分かるようにします。
Q4. シャキア訓練や CTAR は誰にでも使えますか?
A. 誰にでも同じ負荷で行うものではありません。頸部痛、肩こり、疲労、代償動作が出やすい場合は、姿勢や負荷を下げて実施します。喉頭挙上や咽頭残留が疑われる所見と結びつけて選ぶことが大切です。
Q5. 記録では何を残せばよいですか?
A. メニュー名だけでなく、目的、所見、負荷、反応、次回 1 手を残します。例として「湿性嗄声あり。呼吸練習+咳嗽練習を短時間実施。咳払い後に声のクリアさ改善。次回も同条件で継続」などです。
次の一手
参考文献
- American Speech-Language-Hearing Association. Adult Dysphagia (Practice Portal). ASHA
- Logemann JA. Approaches to management of disordered swallowing. Bailliere’s Clin Gastroenterol. 1991;5(2):269-280. PubMed
- Logemann JA, Rademaker AW, Pauloski BR, et al. A randomized study comparing the Shaker exercise with traditional therapy: a preliminary study. Dysphagia. 2009;24(4):403-411. doi:10.1007/s00455-009-9217-0. PubMed
- Park JS, Hwang NK. Chin tuck against resistance exercise for dysphagia rehabilitation: A systematic review. J Oral Rehabil. 2021;48(8):968-977. doi:10.1111/joor.13181. PubMed
- Royal College of Speech and Language Therapists. Eating, drinking and swallowing guidance. RCSLT
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


