間接嚥下訓練の種類と選び方|目的・所見からメニューを決める

臨床手技・プロトコル
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間接嚥下訓練は「障害されている機能」から選びます

間接嚥下訓練には、口腔器官の運動、感覚刺激、CTAR・シェーカー法、呼吸・咳嗽に対する訓練などがあります。大切なのは、メニュー名から選ぶのではなく、何の機能が問題なのかを評価し、その機能に合う訓練候補を絞ることです。

この記事では、成人の摂食嚥下障害を対象に、間接嚥下訓練の種類を機能別に整理し、目的→所見→訓練候補→反応の再評価までつなげます。口腔ケアや姿勢調整との違い、所見だけで訓練を決めないための考え方も確認できます。

直接訓練と間接訓練のどちらを選ぶかで迷っている場合:
直接嚥下訓練と間接嚥下訓練の違いを先に確認してください。本記事は「間接訓練を選ぶと決めた後、何を候補にするか」に焦点を当てます。

間接嚥下訓練の種類|目的別に全体像を確認します

間接嚥下訓練は、食物や液体などのボーラスを用いず、嚥下に関係する機能へ働きかける訓練です。直接訓練へ進む前だけに行うものではなく、評価された問題に応じて直接訓練と併用することもあります。

日本摂食嚥下リハビリテーション学会のeラーニングでは、間接訓練として口腔器官、鼻咽腔閉鎖・咽頭収縮・喉頭閉鎖、準備・口腔期、咽頭期、呼吸および頸部・体幹などが体系的に整理されています。1

間接嚥下訓練の主な種類と狙う機能
狙う機能 訓練候補の例 選択前に確認したいこと
口唇・舌などの口腔器官 口唇運動、舌の可動域運動、舌抵抗運動など 運動範囲、筋力、左右差、協調性、口腔内残留との関係
鼻咽腔閉鎖・咽頭収縮・喉頭閉鎖 対象機能に応じた発声・発語を用いる訓練など 声質、発声能力、鼻咽腔閉鎖や気道防御に関する評価
嚥下誘発に関わる感覚入力 温度触覚刺激など 嚥下開始の状態、刺激への反応、VF・VEを含む評価結果
舌骨上筋群・舌骨喉頭運動など CTAR、シェーカー法など 舌骨・喉頭運動、UES開大に関する見立て、頸部機能、負荷耐性
呼吸・咳嗽・気道防御 呼吸訓練、随意咳嗽の練習、対象に応じた呼気筋力訓練など 呼吸状態、咳嗽能力、喀出、疲労、原疾患
頸部・体幹機能 頸部・体幹の可動性や支持性を目的とした運動 可動域、姿勢保持能力、疼痛、呼吸への影響

この表は「この所見なら必ずこの訓練」という対応表ではありません。同じ症状でも原因となる機能障害は異なるため、所見→原因となる機能の評価→訓練候補の順に考えます。

選び方は「目的→所見→訓練候補→反応」で整理します

間接嚥下訓練を選ぶときは、最初に変えたい機能を明確にします。そのうえで根拠となる所見を確認し、必要なら追加評価を行って訓練候補を絞ります。

間接嚥下訓練の選び方と進め方を整理した図版
図:評価した所見から機能障害を整理し、訓練候補を選び、実施後の反応を確認して次の一手につなげます。

ここでいう「1手」は、最初に効果を確認する中心的な介入を明確にするための整理です。複数の機能障害がある患者さんで、複数の訓練を併用してはいけないという意味ではありません。

所見から間接嚥下訓練の候補を絞る考え方
確認した所見 次に確認したい機能 候補となる方向性
口唇閉鎖が弱い、舌運動が不正確、口腔内残留がある 口唇・舌の運動範囲、筋力、協調性、感覚、残留の原因 問題となる機能が確認できれば、口腔器官の運動を検討する
嚥下開始の遅れが疑われる 感覚、認知・注意、口腔内保持、咽頭期開始の状態 原因を評価したうえで感覚刺激などを候補にする
喉頭挙上低下やUES開大障害が疑われる 舌骨・喉頭運動、UES開大、咽頭残留の部位と原因 CTARやシェーカー法などを候補として検討する
咳嗽が弱い、喀出しにくい 随意咳嗽、呼気筋力、呼吸状態、分泌物、気道クリアランス 呼吸・咳嗽訓練や対象に応じた呼気筋力訓練を検討する
頸部・体幹の支持性や可動性が低い 可動域、疼痛、姿勢保持、呼吸、全身耐久性 頸部・体幹機能への訓練と環境調整を分けて検討する

選択のポイント:「咽頭残留があるからCTAR」「嚥下開始が遅いから冷刺激」のように、1つの所見から訓練を自動的に決めないことが重要です。同じ所見でも原因が異なれば、選ぶ訓練も変わります。

口腔期の問題では、動かしにくい機能を具体化してから選びます

口唇閉鎖、舌運動、食塊形成・送り込みなどに問題が疑われる場合は、「口腔機能が低い」とまとめず、どの機能が低下しているかを分けて評価します。

たとえば舌運動では、可動域低下、筋力低下、運動速度・協調性の問題は同じではありません。舌抵抗運動が候補になるのは、筋力への介入が目的に合う場合です。可動域や運動方向の問題が中心なら、目的に合わせて内容を変える必要があります。

また、口腔内残留だけから舌筋力低下と判断することはできません。感覚、義歯、注意機能、食形態、唾液量なども含めて原因を考えます。

口腔運動訓練や感覚刺激については研究結果が一様ではなく、神経原性口腔咽頭嚥下障害を対象としたシステマティックレビューでも有効性には不確実性が残っています。3「実施されている訓練だから全員に有効」と考えず、対象者と目的を明確にして反応を再評価します。

嚥下開始の遅れには、感覚刺激を自動的に選ばないようにします

温度触覚刺激(thermal-tactile stimulation)は、嚥下誘発に関わる感覚入力を目的として用いられてきた方法です。ただし、「嚥下開始が遅い」という臨床所見だけで適応を決めるのは避けます。

嚥下開始の遅れに見えても、覚醒・注意、口腔内保持、食塊操作、感覚低下、運動開始など複数の要因が関係します。必要に応じてVF・VEなども含めて病態を確認し、刺激前後で本当に変化があるかを評価します。

温度触覚刺激に関するシステマティックレビューでは、支持するエビデンスは低いレベルにとどまり、詳細な評価のうえで個別に効果を確認することが推奨されています。4

CTAR・シェーカー法は、舌骨喉頭運動やUES開大の見立てから検討します

CTAR(chin tuck against resistance)やシェーカー法は、舌骨上筋群などへ負荷をかける代表的な訓練です。CTARのシステマティックレビューでは、舌骨上筋群の活動や嚥下機能への効果が報告されています。5シェーカー法についても、UES開大などを対象とした研究があります。6

ただし、咽頭残留があるだけでCTARやシェーカー法を選ぶわけではありません。咽頭残留には舌根後退、咽頭収縮、舌骨・喉頭運動、UES開大など複数の要因が関係します。可能な範囲で原因となる機能を確認してから候補にします。

また、CTARとシェーカー法では姿勢、身体負荷、実施方法が異なります。本記事では種類と選択までにとどめ、具体的な方法・負荷設定・中止判断は個別記事へ分けます。

呼吸・咳嗽の問題では「飲み込む力」と「出す力」を分けて考えます

摂食嚥下障害では、嚥下運動そのものだけでなく、呼吸との協調や気道へ侵入した物質を排出する能力も重要です。随意咳嗽が弱い、喀出しにくい、呼吸耐久性が低い場合は、呼吸・咳嗽に対する訓練を候補にします。

呼気筋力訓練(EMST)は、対象によって呼気筋力や嚥下関連アウトカムへの効果が報告されていますが、疾患やアウトカムによって結果は異なります。システマティックレビューでは嚥下安全性や呼気筋力への改善を示す研究がある一方、咳流量への効果が明確でないレビューもあります。7,8

そのため、「咳が弱い=EMST」とせず、呼吸器疾患、循環動態、疲労、認知機能、実施可能性、気道クリアランスの問題を分けて考えます。

口腔ケア・姿勢・全身状態は、訓練メニューとは分けて整えます

間接嚥下訓練を選ぶ前に、口腔内環境、姿勢、覚醒、呼吸、疲労などを確認します。本記事ではこれらを「訓練そのもの」と一括りにせず、訓練や経口摂取を成立させるために整える条件として区別します。

日本摂食嚥下リハビリテーション学会のeラーニングでも、口腔ケアは間接訓練とは別の項目として体系化されています。1

間接嚥下訓練の前に確認する条件
確認項目 見ること 問題がある場合
口腔内環境 乾燥、汚染、食物残渣、痰、義歯など 必要な口腔ケアや環境調整を先に行う
姿勢 骨盤・体幹、頭頸部、支持面、安定性 支持条件や座位条件を調整する
覚醒・認知 指示理解、注意、日内変動 実施時間や課題の複雑さを調整する
呼吸・循環 呼吸苦、呼吸数、酸素化、全身状態 訓練負荷より安全性を優先する
疲労・疼痛 頸部痛、肩の負担、全身疲労 方法・負荷・実施時間を見直す

むせ・湿性嗄声・残留だけで、原因や訓練を決めないようにします

臨床では、むせ、咳払い、湿性嗄声、口腔内残留、複数回嚥下などが訓練選択の手掛かりになります。ただし、これらは原因を確定する所見ではありません。

成人嚥下障害では、咳や咳払いなどの症状と、実際の喉頭侵入・誤嚥が常に一致するとは限りません。また、明らかな症状を伴わない不顕性誤嚥もあります。単一所見に依存せず、病歴、身体所見、臨床嚥下評価を統合し、必要に応じてVF・VEなどの機器評価へつなげます。2

判断の境界:「この訓練を行えばよい」と原因を説明できない場合は、メニューを追加するより再評価を優先します。特に咽頭期の病態が不明確なまま抵抗運動や感覚刺激を続けるのではなく、何を変えたい訓練なのかを再確認します。

負荷設定は訓練ごとに分け、一律の回数で決めません

間接嚥下訓練には、筋力トレーニング、感覚刺激、呼吸訓練など性質の異なる方法が含まれます。そのため、「間接訓練は○回×○セット」のような共通の負荷設定はできません。

筋力を目的とする訓練では負荷量・反復・休息・フォームが重要になる一方、感覚刺激では刺激に対する反応の確認が中心になります。呼吸・咳嗽訓練では呼吸状態や疲労にも配慮が必要です。

具体的な負荷は、対象者、目的、訓練方法、研究で用いられたプロトコル、全身状態を確認して設定します。特にCTARとシェーカー法については、姿勢や頸部負担を含めて個別に判断します。

複数の訓練を組み合わせるときも、目的を分けます

複数の機能障害があれば、間接嚥下訓練を複数組み合わせることがあります。ただし、メニューを増やすこと自体を目的にはしません。

たとえば、舌運動低下と咳嗽力低下の両方がある場合は、それぞれ「口腔期の機能」と「気道防御」という異なる目的があります。何に対する介入なのかを分けておけば、再評価時に継続・変更・終了を判断しやすくなります。

rehabilikunでは、最初の整理として「目的→所見→1手」を使います。これは訓練を1種類に限定するルールではなく、目的のない「とりあえず嚥下体操」を避けるための実務フレームです。

記録は「狙う機能・根拠・条件・反応・次の判断」を残します

間接嚥下訓練の記録では、メニュー名だけでなく「なぜその訓練を選んだか」が分かる形にします。実施回数だけでは、継続する根拠や変更した理由を後から確認できません。

間接嚥下訓練の記録で残す項目
項目 記録する内容 記録例
狙う機能 何を変えたいか 舌の前方・側方運動の改善
根拠となる所見 訓練を選んだ理由 舌側方運動に左右差あり。口腔内残留を認める
実施条件 方法、負荷、姿勢など 座位、舌運動を鏡で確認しながら実施
反応 実施中・実施後の変化 運動方向の再現性改善。疲労時に速度低下あり
次の判断 継続・変更・追加評価 同条件で再評価し、残留との関連を確認する

記録の目的は「訓練を実施した証明」だけではなく、評価→選択→反応→再評価の流れをチームで追えるようにすることです。

間接嚥下訓練で避けたい3つの選び方

間接嚥下訓練で迷ったときは、メニューを増やすより「何を根拠に選んだか」を確認します。

間接嚥下訓練で起こりやすい選択のずれ
避けたい選び方 問題点 修正方法
とりあえず嚥下体操を行う 狙う機能と効果判定が不明確になる 先に目的と根拠所見を1つ明確にする
1つの症状から訓練を決める 異なる病態を同じ訓練へ結びつける可能性がある 原因となる機能を追加評価する
回数を増やせば効果が高いと考える 訓練の種類によって負荷設計が異なる 目的・方法ごとに負荷と反応を確認する

よくある質問

Q1. 間接嚥下訓練は、直接訓練を始める前だけに行うのですか?

A. 前段階だけに限定されません。経口摂取が難しい段階で用いることもあれば、直接訓練で明らかになった機能的な問題に対して並行して行うこともあります。直接・間接のどちらか一方に固定せず、評価結果と目標から組み合わせます。

Q2. 間接嚥下訓練は複数組み合わせてもよいですか?

A. 複数の機能障害があれば組み合わせることがあります。ただし、各訓練の目的を分けて記録し、どの所見に対して何を実施したかを追えるようにします。目的が説明できないメニューを増やす必要はありません。

Q3. 咽頭残留があればCTARやシェーカー法を選べばよいですか?

A. 咽頭残留だけでは決められません。舌根後退、咽頭収縮、舌骨・喉頭運動、UES開大など複数の要因が関係するため、原因となる機能を評価してから訓練候補を決めます。病態が臨床評価だけでは分かりにくい場合は、VF・VEなどによる確認も検討します。

次の一手


参考文献

  1. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会. e-ラーニング試用版:摂食嚥下リハビリテーションの介入. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
  2. American Speech-Language-Hearing Association. Adult Dysphagia. Practice Portal. ASHA
  3. Cheng I, Sasegbon A, Hamdy S. A systematic review and meta-analysis of the effects of intraoral treatments for neurogenic oropharyngeal dysphagia. J Oral Rehabil. 2022;49(1):92-102. doi:10.1111/joor.13274. PubMed
  4. Schwarz M, Ward EC, Ross J, Semciw A. Impact of thermo-tactile stimulation on the speed and efficiency of swallowing: a systematic review. Int J Lang Commun Disord. 2018;53(4):675-688. doi:10.1111/1460-6984.12384. PubMed
  5. Park JS, Hwang NK. Chin tuck against resistance exercise for dysphagia rehabilitation: a systematic review. J Oral Rehabil. 2021;48(8):968-977. doi:10.1111/joor.13181. PubMed
  6. Logemann JA, Rademaker AW, Pauloski BR, et al. A randomized study comparing the Shaker exercise with traditional therapy: a preliminary study. Dysphagia. 2009;24(4):403-411. doi:10.1007/s00455-009-9217-0. PubMed
  7. Brooks M, McLaughlin E, Shields N. Expiratory muscle strength training improves swallowing and respiratory outcomes in people with dysphagia: a systematic review. Int J Speech Lang Pathol. 2019;21(1):89-100. doi:10.1080/17549507.2017.1387285. PubMed
  8. Templeman L, Roberts F. Effectiveness of expiratory muscle strength training on expiratory strength, pulmonary function and cough in the adult population: a systematic review. Physiotherapy. 2020;106:43-51. doi:10.1016/j.physio.2019.06.002. PubMed

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療従事者の実務に役立つ情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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