排痰プロトコル|評価・手技・記録の型

臨床手技・プロトコル
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排痰プロトコルは「安全→評価→手技→記録」で回します

排痰( Airway Clearance )は、痰を出す手技だけでなく、「安全に始める」「どの手技を選ぶ」「どこで止める」「どう記録する」までをそろえることで再現性が高まります。本記事では、 PT / OT / ST が病棟や外来で共有しやすいように、排痰前の最小評価、手技選択、 10 〜 12 分セッション、中止基準、記録例を 1 つの標準プロトコルとして整理します。

このページで答えることは、成人の臨床場面で排痰を迷わず回すための「手順と記録の型」です。薬物療法、疾患別治療、人工呼吸器管理の詳細、各手技の細かな理論比較は深掘りせず、必要に応じて関連ページへつなぎます。

呼吸リハの全体像から迷いを減らす

呼吸評価・介入の全体像へ

関連:吸引が必要な場面と判断フロー

関連:ACBT・PEP・体位排痰の比較と使い分け

排痰プロトコル記録シートを使う

本文の手順を現場で使いやすいように、 A4 1 枚の記録シートにまとめました。排痰前の安全確認、最小評価、手技選択、介入内容、再評価メモを 1 枚で整理できます。

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排痰を“型”にすると何が決まるか

排痰を型にする目的は、介入者ごとのばらつきを減らし、チームで同じ判断をしやすくすることです。痰が多い患者さんに対して、毎回「とりあえず咳」「とりあえず吸引」「とりあえず体位変換」になると、効果判定も記録も曖昧になります。

日本呼吸器学会の「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第 2 版 2025」では、咳嗽・喀痰の総論や原因疾患、評価に関する項目が整理されています。さらに、成人気管支拡張症領域では、 ACBT 、 PEP 、重力を利用したドレナージなどの気道クリアランス手技が Statement として整理されています。本記事ではそれらを踏まえ、臨床で使いやすい最小プロトコルに落とし込みます。

日本呼吸器学会:咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第 2 版 2025ERS Statement on airway clearance techniques

対象とゴールは「換気・移送・排出」で分けます

排痰の対象は「痰が多い人」だけではありません。痰を動かせない、喉元まで上がるが出せない、咳が弱くて排出できないなど、詰まりの位置で必要な介入が変わります。最初にゴールを分けると、手技選択と記録が整理しやすくなります。

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排痰のゴール設定(成人・病棟運用の例)
ゴール 見る指標 記録のコツ 落とし穴
換気を保つ SpO2 、呼吸数、努力呼吸、会話のしやすさ 開始前、直後、 10 分後の変化を書く 直後だけ良くなり、その後の悪化を見落とす
痰を動かす 湿性ラ音、左右差、区域、痰が上がる感覚 「どの区域の音がどう変わったか」を書く 喀痰量だけを見て、区域の変化を見ない
排出させる ハフ、咳の有効性、喀出回数、疲労 「ハフ ○ 回、咳 ○ 回、喀出 ○ 回」と書く 強い咳を反復して疲労させる

最初に中止基準を決める

排痰では、どの手技を選ぶかより先に「どこで止めるか」を決めます。呼吸状態が不安定なまま体位変換や咳嗽練習を進めると、低酸素、呼吸困難、疲労、循環症状を悪化させる可能性があります。

以下は成人病棟で共有しやすい早見表です。実際の判断は、医師の指示、施設基準、患者さんの病態を優先してください。

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排痰介入の中止・中断基準(成人・病棟の早見)
区分 中止・中断の目安 その場でやること 記録に残す一言
呼吸 SpO2 低下が持続、呼吸困難の増悪、喘鳴の悪化 休息、姿勢調整、酸素条件の確認、報告 「介入中に SpO2 低下が持続したため中断」
循環 胸痛、冷汗、著明な動悸、顔面蒼白 中止、バイタル再測定、医師・看護師へ報告 「循環症状を認めたため中止し報告」
神経 意識低下、強い不穏、失神前駆 安全確保、臥位、観察強化 「意識レベル変化を認め中止」
その他 強い悪心・嘔吐、血痰の増悪、強い苦痛 体位調整、誤嚥リスク確認、報告 「悪心または血痰増悪により中止」

排痰前の最小評価は 2 分で取る

時間が限られる場面では、すべてを細かく評価しようとするより、手技選択に直結する情報を先に取ります。最小評価は、痰、咳、呼吸、聴診、体位耐性の 5 つです。

この 5 項目を押さえると、「痰を動かす段階か」「出す段階か」「吸引や報告を優先する段階か」が判断しやすくなります。吸引の判断まで含めて整理したい場合は、吸引が必要な場面と判断フローもあわせて確認してください。

排痰前の 2 分評価(成人・最小セット)
評価項目 見ること 次の判断
量、粘稠度、色、出やすい時間帯 粘い場合は加湿・水分・呼気延長を意識する
自発咳の有無、ハフの可否、咳で疲れるか 咳が弱い場合は強咳反復を避ける
呼吸 SpO2 、呼吸数、努力呼吸、会話可能性 不安定なら排痰より安全確保を優先する
聴診 湿性ラ音の区域、左右差、体位での変化 局在があれば体位・呼吸介助を検討する
体位耐性 前傾座位、側臥位、端座位を保てるか 耐性が低ければ短時間・低負荷で行う

手技は「移送・排出・咳力」の 3 類型で選ぶ

気道クリアランスを評価・実施・再評価の3ステップで回す流れ
排痰は、必要性と安全性を評価し、手技を選んで実施し、効果を再評価して次の計画へつなげます。

手技選択は病名だけで決めず、どこで詰まっているかで整理します。末梢で痰が動かない場合は移送、喉元まで上がるが出せない場合は排出、咳そのものが弱い場合は咳力を優先します。

ACBT 、 PEP 、体位排痰、呼吸介助は単独で考えるより、患者さんの詰まりに合わせて組み合わせると実装しやすくなります。各手技の細かな違いは比較記事で扱い、本記事ではプロトコルに組み込む視点に絞ります。

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排痰の詰まり別:手技選択の早見(成人)
詰まり サイン 優先手技の例 NG になりやすいこと
移送障害 湿性ラ音が局在、咳が空振り、痰が上がらない 体位調整、胸郭拡張、呼気延長、必要に応じて PEP いきなり強い咳だけで疲労させる
排出障害 喉元まで上がるが喀出できない ハフ( FET )、休息、咳 1 回、 O-PEP の併用 深吸気と強咳を連発して息切れを増やす
咳力不足 咳が弱い、痰で SpO2 が落ちる、自己喀出が困難 介助咳、体位調整、必要時は吸引・ MIE の適応確認 本人の咳だけで押し切る

標準セッションは 10 〜 12 分で固定する

セッション時間を固定すると、病棟で再現しやすくなります。ここでは、準備、拡張、移送、排出、再評価の 5 フェーズに分け、 10 〜 12 分で回す型を示します。

重要なのは、最初から強く出そうとしないことです。呼吸を整え、痰を動かし、最後に出す順番にすると、疲労や低酸素を避けながら効果判定しやすくなります。

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排痰セッションの標準手順( 10 〜 12 分 )
フェーズ 時間 やること 評価ポイント
準備 1 分 前傾座位または側臥位を整え、呼吸を落ち着かせる SpO2 、呼吸数、苦痛の有無
拡張 3 分 胸郭拡張を促し、吸気後に止めずゆっくり吐く 息切れ、湿性ラ音の変化
移送 3 分 体位を保ち、呼気を長めにする。必要に応じて PEP を使う 痰が上がる感覚、咽頭部の痰感
排出 2 分 ハフ 2 〜 3 回、休息、咳 1 回を 1 セットにする 喀出の有無、疲労、呼吸困難
再評価 1 〜 3 分 聴診、SpO2 、呼吸数、苦痛を再確認する 区域の音、SpO2 の戻り、次回の工夫

記録は「前・介入・後・次回」で残す

排痰の記録は、実施した事実だけでは不十分です。次の担当者が同じように再現できるように、介入前、介入内容、介入後の変化、次回の工夫を分けて残します。

特に重要なのは、酸素条件、体位、時間、回数、区域の変化です。「排痰実施」だけでは、何が効いたのか、次に何を変えるべきかが判断できません。

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排痰の記録例( SOAP / 経過記録で使える最小セット )
項目 書き方の例 記録のポイント
SpO2 94%( O2 1 L )、 RR 22 、右下肺野に湿性ラ音あり 酸素条件と区域を残す
介入 前傾端座位で 10 分。拡張 3 分 → 呼気延長 3 分 → ハフ 3 回+咳 1 回 時間、体位、回数を書く
喀出 2 回。右下肺野の湿性ラ音が減少し、 SpO2 96% に回復 音とバイタルの変化を書く
次回 同体位で継続。ハフ前に休息を入れ、疲労軽減を図る 次の 1 工夫を残す

現場の詰まりどころは「咳・体位・判定」で起きやすい

排痰で詰まりやすいのは、手技の知識不足だけではありません。咳を強くさせすぎる、体位調整に時間を使い切る、効果判定が喀痰量だけになる、という運用上のズレで結果が不安定になります。

まずは よくある失敗10 〜 12 分セッション、関連ページの 吸引の適応判定 をセットで確認すると、病棟内で説明しやすくなります。

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排痰で起きやすい失敗と修正(病棟)
よくある失敗 なぜ起きる 最短の修正 記録に残す一言
強い咳を連発させる 「出す=咳」と考え、移送前に咳を増やす ハフ → 休息 → 咳 1 回に制限する 「咳回数を制限し疲労が軽減」
体位が決まらず時間切れ 準備時間がセッションに含まれていない 準備 1 分を標準手順に組み込む 「体位調整を 1 分で固定し実施」
効果判定が曖昧 喀痰量だけを見て、区域やバイタルを見ない 聴診区域、SpO2 、呼吸数を前後で確認する 「右下肺野の湿性ラ音が減少」

手順を整えても毎回同じところで詰まる場合は、個人の努力だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。

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よくある質問( FAQ )

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. ハフ( FET )はどう教えると失敗しにくいですか?

「曇りガラスを曇らせる息」をイメージしてもらい、最初は 2 回までにします。ハフのあとに必ず休息を入れ、最後に咳を 1 回だけ使うと、疲労や過換気を避けやすくなります。

Q2. 体位ドレナージは全員に必要ですか?

全員に必要ではありません。湿性ラ音が局在している、体位変換で痰感や聴診所見が変わる、末梢で痰が動いていないと考えられる場合に検討します。体位耐性が低い場合は、前傾座位や短時間の側臥位など安全な範囲で行います。

Q3. どのくらいの頻度で行えばよいですか?

まずは 10 〜 12 分の標準セッションを 1 回実施し、痰量、呼吸状態、疲労、聴診所見の変化で調整します。頻度は患者さんの状態、医師の指示、施設方針を優先してください。

Q4. うまく痰が出ない日は何を優先しますか?

咳を増やす前に、体位、胸郭拡張、呼気延長を見直します。介入後に喀出がなくても、湿性ラ音の区域が変化したり、痰が上がる感覚が出たりしていれば、移送は進んでいる可能性があります。

Q5. 吸引との使い分けはどう考えますか?

自己喀出が可能で呼吸状態が安定している場合は、排痰手技で移送と排出を促します。一方で、痰が気道に貯留して SpO2 低下や呼吸困難が続く、咳が弱く自己喀出が難しい、誤嚥リスクが高い場合は、吸引の適応を医師・看護師と確認します。

次の一手


参考文献

  1. 日本呼吸器学会.咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第 2 版 2025.2025.日本呼吸器学会公開ページ
  2. Herrero-Cortina B, et al. European Respiratory Society statement on airway clearance techniques in adults with bronchiectasis. Eur Respir J. 2023;62(1):2202053. doi: 10.1183/13993003.02053-2022
  3. Zisi D, Chryssanthopoulos C, Nanas S, Philippou A. The effectiveness of the active cycle of breathing technique in patients with chronic respiratory diseases: A systematic review. Heart Lung. 2022;53:89-98. PubMed: 35235877

著者情報

rehabilikun(理学療法士) rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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