排痰は「必要性→安全→移送・排出→再評価」で考える
排痰・気道クリアランスでは、最初から「どの手技を使うか」を決めるのではなく、まず分泌物を自力で動かして排出できているかを確認します。自己排出が難しい場合は、安全性を確認したうえで、痰を中枢側へ動かす必要があるのか、中枢まで来ているが出せないのか、咳そのものが弱いのかを分けて考えると、次の介入を選びやすくなります。
この記事では、成人の臨床場面を中心に、排痰の必要性確認、安全確認、評価、手技選択、再評価、記録までを1つの流れで整理します。ACBT・PEP・体位排痰などの細かな手順を網羅するのではなく、「今どこで詰まっていて、次に何をすべきか」を判断できることを目的とします。
排痰を考えるときの基本フロー
- 気道クリアランスを追加する必要があるか確認する
- 開始前に安全性と中止・相談が必要な所見を確認する
- 痰・咳・呼吸状態から「移送・排出・咳力」のどこがボトルネックか考える
- 目的に合う手技を選び、患者反応を見ながら実施する
- 介入前と同じ指標で再評価する
- 有効だった条件と次回方針を記録する
まず「排痰手技を追加する必要があるか」を確認する
気道分泌物があるからといって、すべての患者に排痰手技を追加するわけではありません。自力の咳や日常的な体動で十分に分泌物を移送・排出できている場合は、手技を増やすことより、現在の自己排出能力を保つことが優先される場合があります。
一方、分泌物が貯留している、痰を中枢側へ動かせない、中枢まで上がっても喀出できない、咳力が低下しているといった場合には、気道クリアランスを検討します。
成人気管支拡張症では、European Respiratory Society(ERS)の2025年ガイドラインで気道クリアランス手技を教えることが強く推奨されています。一方、特定の1手技が他の手技より優れているという根拠はなく、患者ごとに個別化することが示されています。疾患や病態によって適応は異なるため、「痰がある=同じ排痰法」と考えないことが重要です。
| 状態 | 考え方 | 次の対応 |
|---|---|---|
| 自力で痰を移送・排出できる | 追加の排痰手技が必ず必要とは限らない | 咳、体動、呼吸状態を確認し、必要以上に介入を増やさない |
| 痰が上がってこない | 末梢から中枢への移送が不足している可能性 | 体位、呼吸パターン、ACBT、PEPなどを検討する |
| 痰は上がるが出せない | 排出段階がボトルネックの可能性 | ハフィング、咳、休息の組み合わせを検討する |
| 咳が弱く自己排出が難しい | 咳力・自己排出能力の不足を考える | 咳介助や吸引など、別の排出支援が必要か確認する |
手技を選ぶ前に安全性と中止・相談条件を確認する
排痰では、どの手技を行うかより先に、現在の状態で介入を進めてよいかを確認します。SpO2など単一の数値だけで開始・中止を決めるのではなく、呼吸困難、呼吸仕事量、循環症状、意識状態、出血、嘔気などを含めて判断します。
以下は「この値なら必ず中止」という一律の基準ではなく、介入継続より状態確認や報告を優先するための観察ポイントです。個々の目標値、医師の指示、酸素療法の条件、疾患特性、施設基準を優先してください。
| 確認領域 | 注意する変化 | 対応 |
|---|---|---|
| 呼吸 | 持続する酸素化悪化、呼吸困難の増悪、著しい努力呼吸、喘鳴・呼吸音の急な悪化 | 介入を中断し、姿勢・酸素条件・病態を再確認する |
| 循環 | 胸痛、冷汗、著明な動悸、顔面蒼白など新たな循環症状 | 中止してバイタルを再確認し、必要時に報告する |
| 意識・神経 | 意識状態の悪化、失神前駆、指示理解が困難になるほどの状態変化 | 安全を確保し、排痰より状態評価を優先する |
| その他 | 血痰・喀血の増加、嘔吐、強い疼痛、著しい疲労など | 原因を確認し、再開の可否を判断する |
排痰前は「痰・咳・呼吸・所見・耐容性」を確認する
開始前評価では、項目を増やすことより、手技選択に影響する情報をそろえることが重要です。少なくとも、分泌物、咳・自己排出能力、呼吸状態、分泌物貯留を示唆する所見、体位・手技への耐容性を確認します。
| 評価 | 確認すること | 判断へのつなげ方 |
|---|---|---|
| 分泌物 | 量、粘稠度、色、喀出のしやすさ、普段との変化 | 移送・排出のどちらが難しいか考える |
| 咳・自己排出 | 自発咳、ハフィングの可否、痰を口腔外まで出せるか、疲労 | 自己排出で完結できるか、排出支援が必要か判断する |
| 呼吸状態 | SpO2、呼吸数、呼吸困難、呼吸仕事量、酸素条件 | 介入可能な状態か、負荷を下げる必要があるか確認する |
| 分泌物貯留を示唆する所見 | 呼吸音、胸郭運動、痰の移動感、体位による変化、画像・病態情報 | どこへ働きかけるかの仮説を立てる |
| 耐容性 | 座位・側臥位などの体位、疼痛、疲労、逆流、循環反応 | 実施できる体位・負荷・手技を絞る |
聴診所見は重要ですが、呼吸音だけで「この区域に痰がある」と断定するのではなく、痰の性状、画像情報、体位変換への反応、咳後の変化などと合わせて解釈します。
「痰が出ない」を移送・排出・咳力の3段階に分ける

排痰手技を選ぶときは、「痰が出ない」という結果だけを見るのではなく、どの段階がボトルネックになっているかを整理します。本記事では、臨床で次の手技を選びやすくするために「移送」「排出」「咳力・自己排出」の3段階で考えます。
| ボトルネック | 考えやすい状態 | 介入の方向 | 再評価 |
|---|---|---|---|
| 移送 | 痰が中枢まで上がらない、分泌物貯留を疑う所見が残る | 体位、呼吸コントロール、胸郭拡張、ACBT、PEPなどを検討 | 痰の移動感、呼吸音、喀出のしやすさなどの変化 |
| 排出 | 痰が中枢まで来るが口腔外へ出し切れない | ハフィング、咳、休息を組み合わせる | 喀出の有無、疲労、呼吸困難 |
| 咳力・自己排出 | 咳が弱い、喀出動作を完結できない、分泌物が残る | 咳介助、体位調整、吸引や機械的咳介助の適応確認 | 自己排出能力、残存分泌物、呼吸状態 |
実際には複数の問題が重なることがあります。たとえば「末梢から痰を動かしにくい」うえに「咳も弱い」場合は、移送を促しても最後の排出で止まります。1つの手技だけで解決しようとせず、どの段階まで進んだかを再評価して次の介入につなげることが重要です。
手技は病名ではなく目的と患者反応から選ぶ
ACBT、PEP、体位排痰などは「どれが最も強いか」で選ぶのではなく、現在のボトルネック、患者自身が実施できるか、体位・呼吸負荷へ耐えられるか、実施後に分泌物排出が改善するかで選びます。
各手技を詳しく比較したい場合は、ACBT・PEP・体位排痰の違いと使い分けで整理しています。
| 目的 | 選択肢の例 | 選択時に確認すること | 実施後に見ること |
|---|---|---|---|
| 分泌物を中枢側へ移送する | 体位調整、ACBT、PEP、呼吸を利用した気道クリアランス | 分泌物の状態、体位耐容性、呼吸負荷 | 痰が上がるか、所見が変化するか |
| 中枢の痰を排出する | ハフィング(FET)、有効な咳 | 痰の位置、咳で疲労しないか | 喀出の有無、呼吸困難、疲労 |
| 咳力不足を補う | 咳介助、適応があれば機械的咳介助など | 咳力、疾患、禁忌・注意事項、実施環境 | 分泌物を排出できたか、負担が増えていないか |
| 自己排出が難しい分泌物へ対応する | 吸引を含む排出支援の適応確認 | 分泌物の位置、自力排出能力、呼吸状態 | 分泌物残存、呼吸状態、安全性 |
自己排出が難しく、非侵襲的な排痰手技だけでは気道クリアランスを保てない場合は、吸引が必要な場面と判断フローも確認してください。
実施時間や回数は固定せず、反応を見ながら調整する
気道クリアランスでは、「10分行えばよい」「ハフィングを何回行えばよい」と一律に決めるより、目的と患者反応を基準に調整する方が実践的です。患者ごとに分泌物量、呼吸予備能、咳力、疲労、体位耐容性が異なるためです。
基本は、1つの仮説を立てる→負担の少ない条件から試す→同じ指標で反応を見る→継続・変更・終了を決めるという流れです。
| 段階 | 行うこと | 判断 |
|---|---|---|
| 1. 仮説 | 移送・排出・咳力のどこが主な問題か決める | 今回の介入目的を1つ明確にする |
| 2. 実施 | 目的に合う手技を、耐容可能な条件から行う | 苦痛や疲労を増やしてまで続けない |
| 3. 反応確認 | 痰、咳、呼吸状態、呼吸音などを確認する | 介入前と同じ項目で比較する |
| 4. 次の判断 | 継続、別手技への変更、終了、他職種への相談を決める | 「出なかった」だけで効果なしと決めない |
たとえば喀痰が得られなくても、分泌物が中枢側へ移動した、咳がしやすくなった、呼吸音や呼吸仕事量が変化したなど、次の排出につながる反応がみられる場合があります。逆に、喀痰量が増えても著しい疲労や呼吸状態の悪化を伴う場合は、その方法をそのまま継続するとは限りません。
効果判定は介入前後の「同じ指標」で行う
排痰の再評価では、介入前と介入後で同じ条件・同じ指標を見ることが重要です。実施した手技名だけを記録しても、何が有効だったのかは判断できません。
| 項目 | 介入前 | 介入後 |
|---|---|---|
| 痰 | 量、粘稠度、移動感、喀出困難 | 移動・喀出の変化、残存感 |
| 咳 | 咳・ハフィングの有効性、疲労 | 排出しやすくなったか、疲労が増えていないか |
| 呼吸 | SpO2、呼吸数、呼吸困難、呼吸仕事量、酸素条件 | 同条件または条件変化を明記して比較 |
| 所見 | 呼吸音、胸郭運動、体位による変化 | 同じ部位・条件で変化を確認 |
| 耐容性 | 疼痛、疲労、体位保持、息切れ | 同じ方法を次回も継続可能か判断 |
記録は「前提→判断→手技→反応→次回」で残す
記録で重要なのは、「排痰実施」とだけ残すことではありません。次の担当者が、なぜその手技を選び、患者がどう反応し、次に何を変えるのかを追えるようにします。
| 項目 | 記録例 | 残したい情報 |
|---|---|---|
| 前提 | O2 1 L/分、端座位。右下肺野で分泌物貯留を疑う呼吸音。自発咳あり。 | 酸素条件、体位、開始前所見 |
| 判断 | 咳は可能だが痰が中枢へ上がりにくく、移送が主なボトルネックと判断。 | なぜその手技を選んだか |
| 介入 | 体位調整と呼吸コントロール後、胸郭拡張とハフィングを患者反応に合わせて実施。 | 手技、体位、条件 |
| 反応 | 痰が中枢へ移動し自己喀出あり。呼吸困難の増悪なし。 | 痰・呼吸状態・耐容性の変化 |
| 次回 | 同条件で再現性を確認し、自己実施可能な方法へ移行を検討。 | 継続・変更・再評価の方針 |
排痰・気道クリアランス記録・再評価シートを使う
本文の判断フローを臨床で使いやすいように、「排痰・気道クリアランス 記録・再評価シート A4 v2」を作成しました。
実施時間やハフィング回数を固定する形式ではなく、必要性・安全確認→ボトルネック→選択した手技→実施中の反応→再評価→次回方針を1枚で追える構成です。
排痰・気道クリアランス 記録・再評価シート A4 v2
PDF版は印刷・記録用、Excel版は院内運用に合わせて確認・編集したい場合に利用できます。実際の運用では、施設の手順や記録ルールを優先してください。
排痰で迷いやすいのは「強い咳・手技固定・効果判定」です
排痰がうまくいかないとき、手技を追加する前に「何を解決しようとしているのか」を再確認します。よくあるのは、痰がまだ中枢まで移動していないのに強い咳を繰り返すこと、前回効いた手技を病態が変わっても続けること、喀痰量だけで効果を判断することです。
| よくある失敗 | 問題 | 修正 |
|---|---|---|
| 痰が上がる前から強い咳を繰り返す | 疲労や息切れが先行し、排出までつながらない | まず移送が必要か確認し、排出段階で咳を使う |
| 毎回同じ手技を行う | 現在のボトルネックと介入が一致しない可能性がある | 開始前に移送・排出・咳力を再評価する |
| 喀痰量だけで効果を決める | 呼吸状態や分泌物移送の変化を見落とす | 痰、咳、呼吸、所見、耐容性を前後で比較する |
| 時間・回数を達成することが目的になる | 患者反応より手順遵守が優先される | 効果と負担を確認し、継続・変更・終了を判断する |
排痰・気道クリアランスでよくある質問
Q1. 排痰は何分行えばよいですか?
一律の実施時間を設定するのではなく、分泌物の状態、患者の耐容性、選択した手技、介入後の反応から調整します。時間を満たすことより、目的とした「移送」「排出」「自己排出支援」が進んでいるかを確認してください。
Q2. 痰が出なかったら排痰は無効ですか?
喀痰が得られなかったことだけでは判断できません。痰が中枢側へ移動したか、咳がしやすくなったか、呼吸音・呼吸困難・呼吸仕事量が変化したかなど、介入目的に対応した指標で再評価します。一方、目的とした変化がなく負担だけが増える場合は、手技や仮説を見直します。
Q3. 自力で痰を出せない場合はすぐ吸引ですか?
分泌物の位置、咳力、呼吸状態、非侵襲的な方法で自己排出できる余地があるかを確認します。体位調整やハフィングなどで排出可能な場合もありますが、自己排出が困難で気道クリアランスを保てない場合は、吸引を含む別の排出支援を検討します。
次の一手
- 呼吸評価全体を整理する:呼吸リハの評価・介入の全体像
- 排出困難への対応を確認する:吸引が必要な場面と判断フロー
参考文献
- 日本呼吸器学会咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版作成委員会.咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025.日本呼吸器学会;2025.日本呼吸器学会公開ページ
- Chalmers JD, et al. European Respiratory Society clinical practice guideline for the management of adult bronchiectasis. Eur Respir J. 2025;66(6):2501126. European Respiratory Society
- Herrero-Cortina B, et al. European Respiratory Society statement on airway clearance techniques in adults with bronchiectasis. Eur Respir J. 2023;62(1):2202053. doi: 10.1183/13993003.02053-2022
- Zisi D, Chryssanthopoulos C, Nanas S, Philippou A. The effectiveness of the active cycle of breathing technique in patients with chronic respiratory diseases: A systematic review. Heart Lung. 2022;53:89-98. PubMed: 35235877
- Strickland SL, Rubin BK, Drescher GS, et al. AARC clinical practice guideline: effectiveness of nonpharmacologic airway clearance therapies in hospitalized patients. Respir Care. 2013;58(12):2187-2193. doi: 10.4187/respcare.02925
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

