褥瘡(圧迫創傷)× 低栄養:栄養と除圧を“同時に”立て直す実務
褥瘡(圧迫創傷)は「皮膚の処置」だけでは改善しにくく、低栄養と除圧不足が同時に崩れているケースが多いです。しかも現場では、体位変換が回らない、食事量が上がらない、記録が続かない、で “やったつもり” が積み上がります。
本記事は、褥瘡ハイリスク/褥瘡ありの患者に対して、栄養(入口と目安)と除圧(最小要件)を同時に回すための運用だけに絞って整理します。
1 分でわかる結論(優先順位)
最初に決めるのは、「何を優先して固定するか」です。褥瘡は “全部を完璧に” より、条件を減らして再現性を上げる方が改善が速くなります。
| 場面 | まず固定する 1 手 | 次にやる 1 手 | 見直しの合図 |
|---|---|---|---|
| 体位変換が回らない | 骨突出の “当たり” を消す(踵骨・仙骨・大転子) | 小さな体位調整(マイクロムーブ)+支持面の調整 | 赤みが残る/痛み増悪/ずれが増える |
| 食事量が上がらない | 摂取量の見える化(何割食べたか)+ 48 時間で手を打つ | ONS(高エネルギー・高たんぱく)を “期間を決めて” 追加 | 体重が落ちる/浮腫が増える/創の進みが止まる |
| アルブミンが低い | 炎症・水分変動を含めて “栄養の入口” を再評価 | 体重変化・摂取量・筋量の変化でモニタリング | CRP 高値持続/体重が戻らない/食事が増えない |
| ケアが属人化 | 除圧の条件(当たり・ずれ・踵骨免荷)を記録に残す | 栄養の条件(摂取目安・ONS 有無)をセットで共有 | 担当が変わるとやり方が変わる |
最初の 48 時間フロー(評価 → 介入 → 再評価)
| タイミング | 栄養(入口) | 除圧(最小要件) | 記録(条件固定) |
|---|---|---|---|
| 0〜24 時間 | 体重変化・食事摂取量・脱水/浮腫の把握 | 踵骨・仙骨・大転子の “当たり” を消す | 体位・支持面・当たりの有無を 1 行で残す |
| 24〜48 時間 | 摂取が足りない原因を 1 個に絞って介入(形態・回数・ONS) | ずれ(剪断)の入口(頭側挙上・前滑り)を潰す | 痛み/不快の有無、皮膚所見の変化をセットで記録 |
| 48 時間で再評価 | 摂取量が上がったか/体重が落ちていないか | 赤みが残らないか/当たりが戻っていないか | できている条件だけ “残す” /無理な条件は捨てる |
栄養は「スクリーニング → 計画 → モニタリング」で回す
褥瘡リスクでは、まず栄養スクリーニングで入口を揃え、必要なら包括的評価につなげます。特に、意図しない体重減少は見逃しやすいので、体重変化と摂取量を最優先で押さえます。
なお、血清アルブミンなどの単独評価は、炎症・腎機能・水分状態の影響が大きく、栄養状態と相関しにくいことがあります。「数値の上下」より、「体重・摂取・筋量(できれば握力など)」で運用するとブレが減ります。関連:褥瘡予防の基本フロー|評価→除圧→再評価
目安:エネルギー・たんぱく質・水分の考え方
目安は “推定値” なので、摂取量と体重変化で微調整します。数値の暗記より、不足を早く見つけて埋める運用が重要です。
| 項目 | まずの目安 | 不足のサイン | 現場の打ち手 |
|---|---|---|---|
| エネルギー | 体重変化を見ながら “不足を作らない” | 体重減少、食事摂取 7 割未満が続く | 間食・回数分割・主食/主菜の濃縮、ONS を検討 |
| たんぱく質 | 「毎食」入る形にする | 主菜が残る、肉/魚が食べにくい | やわらか食・形態調整、乳製品・卵・豆製品を足す |
| 水分 | 脱水/浮腫を “症状で” 見る | 尿量低下、口渇、浮腫増悪 | 飲水導線の工夫、必要なら医師/管理栄養士と調整 |
ONS(栄養補助食品)と栄養強化の使い分け(いつ、何を、どれくらい)
食事だけで埋まらないときは、ONS を “いつまでやるか” まで決めて導入すると継続しやすいです。目的は「飲ませる」ではなく、不足を埋めて体重減少を止めることです。
| 開始の目安 | 選び方 | 運用のコツ | 見直し |
|---|---|---|---|
| 摂取量が上がらない(例:食事が 7 割未満が続く) | 高エネルギー/高たんぱくを優先 | 飲める時間帯を固定(間食枠) | 体重・摂取量・浮腫で調整 |
| 食が細い・量がそもそも入らない | 少量高密度(少ない量でカロリーが取れる) | 冷やす/味を 1 つに固定 | 続けられる味・形態に寄せる |
| 導入したが続かない | 種類を増やさず “ 1 つで回す” | 記録は「飲めた/飲めない」だけで良い | 目的(不足を埋める)に戻って整理 |
除圧・体位変換は「型」より “当たりが消えたか” を基準にする
褥瘡予防・悪化予防の本質は、圧の分散とずれ(剪断)の低減、そして踵骨などの高リスク部位を確実に浮かせることです。体位の “型” を追いすぎると、体型・拘縮・疼痛・支持面で破綻しやすくなります。
まずは、踵骨・仙骨・大転子の “当たり” を消すことを最小要件にして、可能なら体位変換や小さな体位調整(マイクロムーブ)を上乗せします。支持面(寝具)を使っても、体位変換を完全に置き換える発想は危険です。
現場の詰まりどころ/よくある失敗
- 体位変換が「何時間おき?」で止まる:間隔の正解探しより、当たりが消えたか・痛みが増えていないかを基準にします。
- 除圧はできている “つもり”:踵骨・仙骨・大転子は見落としやすいので、毎回そこだけ確認して記録に残します。
- 栄養はアルブミンだけで判断:炎症や水分変動でぶれるため、体重・摂取量・浮腫・筋量の変化で運用します。
- ONS が続かない:種類を増やさず、時間帯を固定して “不足を埋める” 目的に戻します。
- 新人に任せきりで属人化:まずは観察・記録の型を揃えるのが近道です。臨床の準備テンプレは マイナビコメディカルの無料ダウンロード も併用すると、教育の抜けを減らせます。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 「体位変換は 2 時間おき」ができません。どう優先順位を付けますか?
まずは “間隔” より、踵骨・仙骨・大転子の当たりが消えているかを確認し、当たりを消す条件(体位・支持・クッションの入れ方)を固定します。次に、可能な範囲で小さな体位調整(マイクロムーブ)を積み上げます。痛みや不快が強い場合は、鎮痛や体位の微調整をセットで設計します。
Q2. アルブミンが低いのに、栄養を強化しても上がりません。
血清アルブミンは炎症・腎機能・水分状態などの影響が大きく、栄養状態と単純に連動しにくいことがあります。体重変化、摂取量、浮腫、筋量(可能なら握力など)で “不足が埋まっているか” を見て、必要なら医師・管理栄養士と方針を調整します。
Q3. ONS はいつから始めて、いつまで続けますか?
食事摂取が不足している状態が続くなら、早めに「期間を決めて」導入します。目標は、体重減少を止める/摂取量を底上げすることです。続けられない場合は、味の固定・時間帯固定・少量高密度など、継続しやすい運用に寄せます。
Q4. 除圧とリハ(離床・歩行)の優先順位はどう考えますか?
除圧は “当たりが消える条件” を固定した上で、離床・活動を進めます。離床で座位時間が増える場合は、座位での圧集中(仙骨・坐骨)とずれを評価し、クッション・座り方・休憩の取り方までセットで設計します。
次の一手(関連リンク)
参考文献
- National Pressure Injury Advisory Panel, European Pressure Ulcer Advisory Panel and Pan Pacific Pressure Injury Alliance. Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries: Clinical Practice Guideline. The International Guideline: Fourth Edition. 2025. Nutrition in Pressure Injury Prevention
- National Pressure Injury Advisory Panel, European Pressure Ulcer Advisory Panel and Pan Pacific Pressure Injury Alliance. 2025. Repositioning for Pressure Injury Prevention
- Langer G, Wan CS, Fink A, Schwingshackl L, Schoberer D. Nutritional interventions for preventing and treating pressure ulcers. Cochrane Database Syst Rev. 2024;Issue 2:CD003216. DOI: 10.1002/14651858.CD003216.pub3(PubMed: 38345088)
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


