はじめに|ROM を“臨床で活かす”ための視点
関節可動域(ROM)は、疼痛や可動制限の評価だけでなく、介入の優先順位づけ、ゴール設定、インフォームド・コンセントの根拠づけにも直結します。本稿は、測定の原則から関節別の“外せないポイント”、記録と判定のコツまでをまとめ、A4 記録表(Excel/印刷用)を配布します。
測定の原則|軸・肢位・再現性
- 基本肢位と軸合わせ: Neutral Zero の考え方に基づき、関節ごとに定まる基本肢位で測定。視差・ゼロ合わせを毎回確認。
- 固定と代償の管理: 体幹・肩甲帯などの代償を抑える固定を先に準備。痛み増悪時は中止・再評価。
- 記録の統一: AROM→PROM の順で左右、痛み・エンドフィール・測定肢位まで同じ様式で残す。
測定ガイド全体像は当ブログの 評価ハブ にも整理しています(インライン内部リンク)。
関節別|ここだけは外さない測定要点
- 肩: 外旋/内旋は肘 90°屈曲位で上腕軸に回旋。水平屈曲/伸展は肩外転 90°位で前後へ。
- 肘・前腕: 回外/回内は前腕軸中心に回旋(手掌の向きで確認)。
- 手関節・手指: 掌屈/背屈、橈屈/尺屈は第三中手骨や橈尺骨長軸を参照。
- 股・膝: 股外旋/内旋は股屈曲 90°・膝屈曲 90°位での回旋を基本。
- 足部: 背屈/底屈を用い、屈曲/伸展は使用しない。前額面は外がえし/内がえし、複合運動として回外/回内を区別。
- 頚部・体幹: 屈曲/伸展・側屈・回旋を基本面に沿って評価。
記録と判定|AROM・PROM・エンドフィール
本記事の記録表は、右/左 × AROM/PROMを同一フォーマットで管理し、痛み(R/L)・エンドフィール・測定肢位まで残せる設計です。再評価時の比較や多職種連携の情報共有に有用です。
参考可動域(“標準値”ではなく“参考値”)の扱い
参考可動域は年齢・性別・測定肢位等で変動します。本記事のテンプレートでは「参考可動域 (°)」欄を空欄とし、必要に応じて最新改訂の記述を参照して各施設で記入できるようにしています(2022 年 4 月発効の改訂で足部の用語等が整理)。
ダウンロードと埋め込み
- 📄 印刷用(HTML・A4):rom-a4-form.html
測定中止の目安と配慮
状況 | 中止の目安 | 対応 |
---|---|---|
痛みの急激な増悪 | VAS で急上昇/顔面苦悶・防御性収縮 | 即時中止→安静位で評価更新、原因部位の再同定 |
不安定性やクリック出現 | 関節雑音+不安定感 | ストレスを避け、徒手検査や画像所見の有無を確認 |
炎症・手術直後 | 熱感・腫脹・紅斑、術式で可動域制限の指示あり | 医師指示と術式プロトコルを優先、痛み回避域で評価 |
著作権と引用の注意(要点のみ)
- 自作の記録表(フォーマット・デザイン)は配布可。数値や測定手順等の事実・データは著作権の保護対象外。
- 学会資料の図表を丸ごと複製は避ける。引用する場合は主従関係・必要最小限・出所明示など第32条の要件を満たす。
参考文献
- 久保 俊一, 中島 康晴, 田中 康仁. 関節可動域表示ならびに測定法改訂について(2022年4月改訂). Jpn J Rehabil Med. 2021;58(10):1188-1200. doi:10.2490/jjrmc.58.1188. [PDF]
- 日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会・日本足の外科学会. 関節可動域表示ならびに測定法(2022年4月1日発効)修正点の解説. [PDF]
- 日本理学療法士協会. 関節可動域表示ならびに測定法改訂に関する告知(2022年4月運用開始). [Web]
- 文化庁. 著作権法の概説(著作物の範囲/事実・データは保護対象外). [PDF]
- 文化庁. 引用の要件(第32条)解説. [Web]