CST-J×コグニサイズの導入手順|OT向け
CST-J とコグニサイズは、どちらも「認知面に働きかける活動」ですが、現場では同じものとして混ぜると設計がぶれやすくなります。結論からいうと、CST-J は集団での会話・参加の枠、コグニサイズは運動 × 認知負荷の足し方として分けて考えると、OT の導入が安定します。
このページで答えることは、対象選定・負荷調整・記録の残し方です。答えないことは、認知症非薬物療法全体の比較や、CST-J 全 14 セッションの詳細テーマ一覧です。まずは「誰に、どのくらいの負荷で、何を記録すれば次回につながるか」を 1 ページで固めます。
記録シート(A4 PDF)
セッションを回すときに一番困るのは、「何をどこまで書くか」が担当者ごとに違うことです。最初に記録の型を 1 枚へそろえると、介入の質より先に共有の質が安定します。
以下は CST-J × コグニサイズ 実施・記録シート(OT 向け) の PDF です。必要に応じて印刷して使ってください。
PDF を記事内でプレビューする
最短 5 分フロー(迷ったらこの順番)
最初にそろえるのは「対象」「負荷」「休憩・調整ライン」の 3 つです。ここが曖昧だと、楽しかったかどうかは残っても、次回にどうつなげるかが残りません。
ポイントは 小さく始めて、同条件で振り返る ことです。最初から盛り込みすぎず、1 回に 1 つだけ動かすと比較しやすくなります。
スマホでは表を横スクロールできます。
| 順番 | やること | 判断の目安 | 記録(最小) |
|---|---|---|---|
| 1 | 対象を決める | 会話が概ね成立し、集団参加が保てる。せん妄・強い興奮・明らかな不穏が前景にある場合は先行対応。 | 参加可否(可 / 保留)+理由 |
| 2 | 負荷を決める | 運動は会話が崩れない範囲から。認知課題は「少し間違うが止まらない」程度で開始。 | 運動(内容 / 回数)+認知課題(種類) |
| 3 | 調整ラインを共有 | 息切れ増悪、めまい、胸部症状、表情不良、集中の崩れが強い場合は休憩・内容変更。 | 中止 / 調整の有無+所見 |
CST-J とコグニサイズの役割分担
この 2 つを混同しないことが、実装でいちばん大切です。OT が設計するときは、枠組みは CST-J、負荷の足し方はコグニサイズ と整理するとブレが減ります。
つまり「今日は何を話すか・どう参加を作るか」は CST-J 側で決め、「どこに運動 × 認知の二重課題を足すか」はコグニサイズ側で決めるイメージです。
| 項目 | CST-J | コグニサイズ | OT での使い方 |
|---|---|---|---|
| 主役 | 会話、参加、テーマ活動 | 運動 × 認知課題 | 集団の流れは CST-J で作り、難易度調整はコグニサイズで足す |
| 見ること | 発話、参加の維持、気分反応 | 運動中の認知負荷、処理速度、疲労 | 「話せるか」と「同時課題に耐えられるか」を分けて観察する |
| 負荷の上げ方 | 話題、役割、手がかり量を調整 | 回数、テンポ、課題種類を調整 | 1 回に 1 つだけ変更して再現性を残す |
| 記録の軸 | 参加度、反応、会話の流れ | 疲労、ミスの増え方、遂行の安定性 | 次回の「1 変更点」まで書ければ十分 |
対象の選び方(結論:参加できる “形” を先に作る)
CST-J は集団でのやり取りを土台にするので、最初に作るべきは課題ではなく 参加できる形 です。座席配置、聴覚・視覚補助、話す順番、休憩の取り方が整っていないと、課題を変えても場は安定しません。
見立ては「会話の成立」「疲労しやすさ」「移動・立位の可否」の 3 点で十分です。特に導入初回は、できる / できないよりも、どの条件なら参加が保てるかを優先して見てください。
セッション設計(結論:CST-J の枠に “運動 × 認知” を 1 つだけ足す)
設計は 導入 → 活動 → まとめ の枠を崩さないことが重要です。コグニサイズは便利ですが、最初から運動・計算・会話・役割を全部のせすると、難しすぎて場が止まりやすくなります。
おすすめは、最初は座位で始めて、認知課題も 1 種類だけに絞ることです。会話が保てることを優先しつつ、「少し間違う」「少し迷う」程度の負荷を作ると、単純作業になりすぎず続けやすくなります。
負荷の上げ下げ(詰まったら “どれか 1 つだけ” を動かす)
現場で多い失敗は、難しすぎて沈黙になるか、簡単すぎて活動にならないかの二択です。調整は「運動」「認知」「環境」のうち、毎回 1 つだけ動かしてください。
1 回に複数を変えると、うまくいった理由も失敗した理由もわからなくなります。引き継ぎの質を上げるには、再現性のある微調整が必要です。
| 困りごと | よくある原因 | 次回の調整例 | 記録に残す一言 |
|---|---|---|---|
| 沈黙が増える | 認知課題が難しい / 提示が速い | 課題を 1 段下げる(語想起 → しりとり など) | 「課題難度を 1 段下げ」 |
| 疲労が強い | 運動量が多い / 休憩が少ない | 回数を減らし、休憩を固定(例:3 分ごと) | 「回数↓ 休憩固定」 |
| 盛り上がらない | 話題が合わない / 役割が曖昧 | 役割を与える(司会 / カード配り / 記録係) | 「役割付与」 |
| 歩行が不安定 | 環境要因 / 見守り不足 | 座位へ変更、または見守り配置と動線を再設計 | 「環境再設計(座位へ)」 |
記録の残し方(結論:疲労・反応・達成度だけで十分)
記録は細かくしすぎると続きません。最初は 主観的疲労(RPE など) / 反応(症状・表情) / 達成度 の 3 点で十分です。そこに「次回の 1 変更点」が残れば、引き継ぎは成立します。
配布 PDF もこの最小構成に寄せています。施設の様式に合わせた追加は、運用が安定してからで問題ありません。
現場の詰まりどころ(よくある失敗)
よくある失敗 と 回避手順 を分けておくと、担当者間で話が噛み合いやすくなります。関連:高次脳機能障害の作業療法評価
よくある失敗
| 失敗 | 起こりやすい理由 | 見直す場所 |
|---|---|---|
| 課題が難しすぎる | 認知課題を盛り込みすぎている | 課題数と提示スピード |
| 運動が速すぎる | テンポ優先で会話が崩れる | 回数、テンポ、休憩間隔 |
| 声かけが多すぎる | 手がかりを出しすぎて参加が受け身になる | 役割設定と順番 |
| 環境ノイズが強い | 周囲刺激が多く集中が続かない | 座席配置、人数、動線 |
回避手順
| 手順 | やること | 残す記録 |
|---|---|---|
| 1 | まず課題数を減らす | 「認知課題 1 種へ」 |
| 2 | 次に運動量を下げる | 「回数 / テンポ調整」 |
| 3 | 役割を与えて参加を作る | 「司会 / 配布 / 記録を分担」 |
| 4 | 最後に環境を見直す | 「座席 / 人数 / 動線を調整」 |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
CST-J は何回くらいで組むと回しやすい?
原法と CST-J の研究は 14 セッション、週 2 回、7 週間 を基準にしています。実務では回数だけを真似るより、毎回の流れ(導入 → 活動 → まとめ)と記録の粒度を固定する方が大切です。まずは「同じ型で続けられるか」を優先してください。
二重課題はどこから始める?
最初は「運動は座位」「認知は 1 種類」の組み合わせがおすすめです。たとえば座位ステップ+しりとりのように、会話が崩れない範囲から始め、次回はどれか 1 つだけ上げてください。
集団が成立しない(脱線・沈黙が多い)ときは?
課題難度より先に、役割と提示スピードを見直します。司会、カード係、記録係などの役割を入れると、参加の入口が作りやすくなります。話題は生活に近いものへ寄せた方が戻りやすいです。
中止や調整の判断は何を見ればいい?
息切れの急な増悪、めまい、胸部症状、明らかな表情不良、集中の崩れが強い場合は、その場で休憩か内容変更を行います。記録には「何が起きたか」「どう変えたか」を 1 行で残せば十分です。
家庭版(iCST)との違いは?
iCST は介護者主導の個別実施が前提です。施設内の OT 実践では、まず集団での型を作り、その後に個別化を考える方が運用は安定します。
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参考文献
- Spector A, Thorgrimsen L, Woods RT, Royan L, Davies S, Butterworth M, et al. Efficacy of an evidence-based cognitive stimulation therapy programme for people with dementia: randomised controlled trial. Br J Psychiatry. 2003;183(3):248-254. DOI: 10.1192/bjp.183.3.248
- Yamanaka K, Kawano Y, Noguchi D, Deguchi D, Kamei Y, Kato C, et al. Effects of cognitive stimulation therapy Japanese version (CST-J) for people with dementia: a single-blind, controlled clinical trial. Aging Ment Health. 2013;17(5):579-586. DOI: 10.1080/13607863.2013.777395
- Orrell M, Yates L, Leung P, Kang S, Hoare Z, Whitaker C, et al. The impact of individual Cognitive Stimulation Therapy (iCST) on cognition, quality of life, caregiver health, and family relationships in dementia: a randomised controlled trial. PLoS Med. 2017;14(3):e1002269. DOI: 10.1371/journal.pmed.1002269
- Nishiguchi S, Yamada M, Tanigawa T, Sekiyama K, Kawagoe T, Suzuki M, et al. A 12-week physical and cognitive exercise program can improve cognitive function and neural efficiency in community-dwelling older adults: a randomized controlled trial. J Am Geriatr Soc. 2015;63(7):1355-1363. DOI: 10.1111/jgs.13481
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


