やる気スコア(Apathy Scale)のやり方・使い方【評価用紙とカットオフ】

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やる気スコア(Apathy Scale)とは

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やる気スコア( Apathy Scale )は、アパシー(やる気の低下)傾向を 自己記入式 14 項目でスクリーニングする評価法です( 4 件法・合計 0–42 点)。日常生活の「始める力」「興味」「持続」「感情反応」「社会的関わり」を問う設問で、本人の主観的な“やる気の低下”を見える化します。

適応としては、脳卒中・パーキンソン病・認知症・うつ病などで「リハビリへの参加が続かない」「楽しみが少ない」と感じる場面が典型です。本記事では、やる気スコアのやり方(実施手順)使い方(結果の読み方)アパシースケールのカットオフや運用上の注意点、さらに 評価用紙(記録・集計シート)のダウンロードまで、臨床での実装に必要なポイントをまとめます。

実施手順(やる気スコアのやり方)

  1. 目的と所要時間(約 3–5 分)を最初に説明し、「過去 1–2 週間の普段の状態を思い浮かべてお答えください」と伝えます。
  2. 実施前に眠気・疼痛・せん妄・薬剤影響(眠剤・抗精神病薬など)の有無をチェックし、明らかな可逆因子があれば先に対応します。
  3. 各設問は「最も近いもの 1 つ」を自己記入してもらいます。迷った場合は第一印象で選択してもらい、評価者は説明の追加にとどめ、選択肢を誘導しないようにします。
  4. 視力や書字が難しい場合は、評価者が選択肢を読み上げて丸を付ける「代理記入」も可としますが、その旨を記録欄に残します。

採点方法とカットオフ(アパシースケール)

  • 各項目 0–3 点、合計 0–42 点で集計します(高得点ほどアパシーが強いと解釈)。
  • 14 点以上を臨床的アパシーの目安とする報告が多く、16 点を閾値とする研究もあります。施設内でアパシースケールのカットオフ(運用値)を統一しておくことが重要です。
  • 単回値だけで「改善/悪化」と判断せず、同じ時間帯・同じ条件での再評価の推移を重視します。
  • うつ症状・せん妄・疼痛など他の要因と重なりやすいため、「高得点だから=意欲がない」と短絡せず、背景要因を診療録に併記します。

評価項目の“見ているポイント”(要約)

  • 始める力:自分から行動を始めるか、声かけや段取りの支援がないと動き出せないか。
  • 興味・好奇心:趣味・交流・ニュース・テレビなどへの関心の広さと頻度。
  • 持続・努力:一度始めた活動をどの程度続けられるか、途中でやめてしまわないか。
  • 感情反応:嬉しい・楽しい・達成感といったポジティブ感情の表出の有無。
  • 社会的関わり:家族・友人・スタッフとの会話や関わりを自発的に持とうとしているか。

採点の目安(行動例のイメージ)

  • 軽度:誘えば趣味や体操を始められる/予定や役割があると動けるが、自発性はやや乏しい。
  • 中等度:誘っても腰が重いことが多い/楽しみや達成感を感じにくい日が増えている。
  • 高度:ほとんど自分から活動を始めない/身だしなみや会話への関心が乏しく、声かけにも反応が薄い。

判定の判断ポイント(自己記入スケール共通)

  • 頻度語の解釈をそろえる:「ときどき」「よくある」などの曖昧な表現は、例(ときどき=週に数回など)を示してから回答してもらいます。
  • 迷った場合:第一印象で選択してもらい、評価者は選択を誘導しません(「どちらでも良い」は避ける)。
  • 境界域の扱い:14–16 点は経時推移で判断し、2–3 点以上の変動を“臨床的な変化の候補”として MDT で共有します。
  • 状態要因の併記:睡眠不足・疼痛・薬剤変更日など、スコアに影響し得る要因はコメント欄に必ず記録します。

記録・集計の実務(やる気スコア評価用紙の使い方)

やる気スコアは、定期的な再評価を前提とした記録・集計の仕組み作りが重要です。評価用紙は「単回の結果」と「時系列の推移」をセットで見られるレイアウトにすると、カンファレンスや家族説明で活用しやすくなります。

AS の運用ポイント(記録・解釈のチェック項目)
項目 要点 記録欄の例
方式 自己記入( 4 件法 )を基本とし、代理記入時はその旨を明記 回答欄 ○/総点/代理記入の有無
所要時間 約 3–5 分。集中が切れないタイミングを選ぶ 実施日・実施時刻・場所
判定 14–16 点以上で要注意(施設で統一したカットオフ) 解釈メモ(うつ疑い・せん妄・疼痛など)
再評価 急性期 1–3 日ごと/回復期 1–2 週ごと/生活期 1 か月ごとを目安 前回スコア/推移グラフ/次回予定日

現場の詰まりどころ(アパシー評価の落とし穴)

  • 「うつ」との線引きに迷う:抑うつ気分が前景にあると、アパシー単独かうつ病に伴うものか判別が難しくなります。スコアだけで診断せず、精神科・神経内科と情報共有する前提で使います。
  • 高齢認知症患者での解釈:重度認知症では自己記入が困難なことも多く、介護者情報とのギャップが生じがちです。自己記入スケールにこだわらず、行動観察や他の BPSD スケールと組み合わせます。
  • リハ非参加の「言い訳」になってしまう:やる気スコアが高いからといって、リハの中止や縮小だけに直結させるのは危険です。環境調整・プログラムの魅力付け・小目標設定など、介入の工夫とセットで解釈します。
  • 改善しているのにスコアが変わらない:本人の自己認識とスタッフ評価が一致しないこともあります。スコアのみで評価せず、「どの項目が変わったか」「現場の行動はどうか」をチームで確認します。

よくある誤りと対策

  • 説明不足で自己回答がブレる → 毎回同じ説明スクリプトを読み上げるフォーマットを作成し、担当者によるばらつきを減らします。
  • 家族が代筆してしまう → 本人の主観を尊重する評価であることを事前に説明し、家族には「迷ったときの補足説明」にとどめてもらいます。
  • 睡眠不足・疼痛日をそのまま比較する → 条件が大きく異なる日は「参考値」として扱い、同条件で再評価してから判断します。
  • スコアだけでゴール設定してしまう → 点数ではなく、具体的な行動(例:週に 1 回の外出、日中座位時間の延長など)に落とし込んだ目標と組み合わせます。

配布:やる気スコア評価用紙(記録・集計シート)

原法の設問本文は著作権の観点から掲載しません。以下は、項目本文を含まない記録・集計専用のシートです。院内で原著・日本語版の配布条件を確認したうえで、運用ルールに沿ってご利用ください。

共通ツール(アパシー以外の意欲評価にも共通で使用可能)

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップすると閉じます。

Q1.やる気スコアの適応は?どんな患者さんに使うとよいですか?

脳卒中・パーキンソン病・認知症・うつ病などで、「リハビリに乗ってこない」「楽しみが少ない」といったアパシーが疑われる場面に適しています。特に、ADL や歩行能力は改善しているのに生活全体の活動量が増えないケースでは、やる気スコアで主観的な意欲低下を可視化することで、多職種と問題を共有しやすくなります。一方で、重度認知症やせん妄など自己記入が難しい場合は、無理に実施せず行動観察や介護者からの情報を優先します。

Q2.アパシーと「うつ」はどう違いますか?

アパシーは主に「自発性・やる気の低下」を指し、必ずしも強い抑うつ気分を伴わない点が特徴です。一方うつ病では、気分の落ち込み・罪責感・希死念慮などが前景に立ちます。臨床では両者が重なっていることも多く、やる気スコアだけで鑑別することはできません。スコアはあくまで重症度の把握と経時変化のモニタリングに用い、診断や治療方針は主治医を中心にチームで検討することが重要です。

Q3.何点以上なら必ず主治医に報告すべきですか?

文献上は 14–16 点以上をアパシーのカットオフとする報告が多く、高得点であるほど注意が必要です。ただし、点数だけをもって「報告する・しない」を決めるのではなく、行動面の変化(食事量・離床時間・リハ参加状況など)と合わせて判断します。一般的には、境界域以上(例:14 点以上)かつ「日常場面に影響している」と感じる場合には、コメントを添えて主治医や MDT カンファレンスで共有するとよいでしょう。

Q4.やる気スコアの評価用紙は自由にコピーして使ってよいですか?

アパシースケール原著や日本語版には、それぞれ著作権や使用条件があります。院内でのコピー利用が認められているかどうかは、原著論文や配布元の指示を必ず確認してください。本記事で配布しているシートは項目本文を含まない記録・集計用のフォーマットであり、「誰に・いつ・どの条件で実施したか」「スコアがどう変化したか」を整理するための補助ツールとしてご利用ください。

おわりに

アパシーは、「安全が確保されても活動が広がらない」「筋力や ROM は改善しているのに生活が変わらない」といった場面で、リハビリテーションのリズムを崩しやすい要因です。やる気スコアを用いて主観的な意欲低下を数値化しつつ、環境調整・関わり方・小さな成功体験の積み上げを丁寧に組み合わせることで、「動き出しにくさ」を少しずつほぐしていくことができます。

一方で、評価やカンファレンスの工夫だけでは限界を感じる職場も少なくありません。「教育体制や人員配置が整った環境で、もう一段ステップアップしたい」と感じたら、面談準備チェックリストと職場評価シートを活用しつつ、自分に合う学びやすい職場について考えてみるのも 1 つの選択肢です。

参考文献(外部リンクは新規タブで開きます)

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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