構音・音声障害の ST 評価(この記事のゴール)
臨床で伸びる学び方の流れを見る(PT・OT・ST 共通ガイド)
本記事では、構音・音声障害に対する言語聴覚士( ST )の評価を、聴覚的評価・発声発語器官の評価・簡便指標 の 3 本柱で整理します。ディサースリアや音声障害の症状を「何となく聞き取りにくい」で終わらせず、どこをどの順番で見ればよいかを具体的にイメージできることがゴールです。
急性期〜回復期の脳血管障害を主な想定として、病棟でのベッドサイド評価から外来でのフォローまでをカバーします。嚥下や高次脳機能を含めた ST 評価の全体像は、総論としてまとめた 言語聴覚士が行う評価の全体像【成人・脳血管障害編】 もあわせて参照してみてください。
構音・音声障害で何を評価対象とするか
構音・音声障害の評価では、まず「何を評価対象にしているのか」を整理しておくと、視点がブレにくくなります。大きくは、①聞こえている音声(明瞭度・声の質・高さ・大きさ・リズム)、②どうやって出しているか(呼吸・発声・共鳴・構音器官の動き)、③どの場面でどれくらい困っているか(日常会話・電話・長文・集団場面)という 3 つの観点が軸になります。
ST は発話の障害像だけでなく、「嚥下障害が背景にないか」「注意低下や高次脳機能障害が発話に影響していないか」などの横断的な視点も求められます。そのため、構音・音声の評価は単独で完結させるというより、嚥下評価や高次脳機能評価と組み合わせて全体像を捉える前提で組み立てると臨床に活かしやすくなります。
聴覚的評価:明瞭度・プロソディ・自然会話
聴覚的評価の基本は、自然会話・自発話・音読といった 実際の発話をよく聴くこと です。聞き取りやすさ(明瞭度)、声量、話速、声の高さと変動、イントネーションや区切り方などを、できるだけ具体的な言葉で記録します。「聞き取りにくい」「モゴモゴしている」といった主観的な表現だけでなく、「 3 語文レベルで聞き返しが必要」「固有名詞で聞き返しが増える」など、条件を添えて記述すると後から見直しやすくなります。
自然会話では「自己紹介」「今日の体調」「病前の仕事や趣味」など、患者さんが話しやすいテーマから始めます。そのうえで、音読では短文→長文と難易度を上げていき、発話の崩れ方や疲労の影響を観察します。聴覚的評価は客観指標に比べて主観に左右されやすいので、同僚と録音を聴き合いながら表現のすり合わせをしておくと、記録の質が安定しやすくなります。
発声発語器官の評価:呼吸・声質・構音器官
構音・音声障害では、呼吸・喉頭・口腔器官などの「発話器官そのもの」の状態を把握することが不可欠です。呼吸では、発話に使える呼気の長さや、話し始めのタイミング(息を吸ってから話せているか)、発話中の息切れなどを観察します。声質については、粗造性・気息性・努力性・震え・声帯閉鎖の弱さを聴覚的に捉え、必要に応じて耳鼻咽喉科への紹介を検討します。
口唇・舌・軟口蓋・下顎の評価では、静的な可動域だけでなく、素早い交互運動や持続運動での協調性・疲労の出方を見ます。例えば舌の左右移動や上下運動、頬の膨らまし、軟口蓋挙上時の鼻咽腔閉鎖などは、嚥下機能とも関わる部分です。構音・音声評価の場面で得られた所見は、嚥下評価や食形態・姿勢の検討にも活かせるため、後から見返しても分かるよう具体的にメモを残しておくと有用です。
簡便指標:MPT・DDK・発話速度など
聴覚的な印象に加えて、簡便な客観指標を押さえておくと、経時変化や他職種との共有がしやすくなります。代表的なものとして、最大持続発声時間( MPT )、反復発音( DDK :/pa/・/ta/・/ka/・/pataka/)、短文音読の時間計測などが挙げられます。これらは特別な機器がなくてもベッドサイドで実施できる点が利点です。
以下は、よく用いられる簡便指標の例をまとめたものです(数値はあくまで目安であり、年齢や体格、全身状態によって解釈を調整する必要があります)。
| 指標 | 実施方法の例 | 観察ポイント | 備考 |
|---|---|---|---|
| MPT | /a/ を楽な高さと大きさで可能な限り持続 | 持続時間、声質の変化、息切れの有無 | 呼吸機能・声門閉鎖・努力の影響を受ける |
| DDK | /pa/・/ta/・/ka/・/pataka/ を一定時間で繰り返す | 速度・規則性・途切れ・誤りのパターン | 構音器官の協調性や筋力低下の評価に有用 |
| 音読時間 | 一定文字数の文章音読を計時 | 話速、詰まり、ブレスの取り方、読み誤り | 注意・高次脳機能の影響も含めて解釈 |
これらの指標は、単純に「何秒だから良い・悪い」と判断するのではなく、「聴覚的印象」と組み合わせて意味づけることが重要です。例えば MPT が短くても、こまめにブレスを挟むことで日常会話は成立しているケースもあり、その場合は「呼吸の工夫」を優先的に指導するなど、支援方針の検討材料として活用します。
評価場面の組み立て方(ベッドサイド 10〜15 分ルーチン)
忙しい病棟でも運用しやすいように、構音・音声評価は 10〜15 分で回せるルーチン を持っておくと便利です。一例として、①自然会話(自己紹介・現在の体調など)、②自発話(最近の出来事や趣味)、③短文〜長文の音読、④ MPT と DDK、⑤発声発語器官のチェック、という流れが考えられます。状況によっては、①と④だけ先に実施し、②③⑤ を別日に回すなど柔軟に分割しても構いません。
疲れやすい方や、注意低下の強い方では、最初からフルセットを目指さず、「今日は音読と MPT まで」「次回は発声発語器官を中心に」と計画的に分けた方が結果の信頼性も上がります。評価のたびに同じ順番・同じ指示で実施することで、日々の変化を捉えやすくなり、治療効果のモニタリングにも役立ちます。
現場の詰まりどころ(よくある評価の落とし穴)
構音・音声評価でよく見かける悩みは、「聴覚的な印象をうまく言語化できない」「 MPT や DDK を測っても、その後どう活かせばよいか分からない」「失語や高次脳機能障害とディサースリアの切り分けが難しい」といったものです。特に新人 ST ほど、詳細な検査よりも日々の業務に追われ、観察の言語化が後回しになりがちです。
対策としては、①自分なりの評価テンプレートを持ち、同じ観点で聴く癖をつけること、②簡便指標は「どこに負荷をかけている検査か」を理解したうえで意味づけること、③失語・高次脳・嚥下など他の障害との関係を意識して、診断名に固執しすぎないこと、が実践的です。また、録音や動画をチームで共有し、経験のある ST にコメントをもらうことで、「聴き方」の引き出しを増やしていくことも有効です。
よくある質問
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Q. どこまで ST が評価し、どのタイミングで耳鼻咽喉科や音声外来に相談すべきですか?
A. ST 評価では、発話の明瞭度・声質・呼吸様式・構音器官の動きを把握し、「どの場面でどれくらい困っているか」を整理するところまでが基本です。声のかすれや気息性嗄声が強い、強い嗄声が急に出現した、誤嚥のリスクが高い、など喉頭そのものの問題が疑われる場合は、早期に耳鼻咽喉科や音声外来への相談を検討します。その際、ST は評価結果と具体的な場面(電話で聞き取りにくい、長く話すと声が出にくくなる等)を添えて情報提供すると、連携がスムーズになります。
Q. MPT や DDK の数値が毎回バラつきます。どう解釈すればよいですか?
A. MPT や DDK は、動機づけや理解度、姿勢、測定条件の影響を受けやすく、ある程度のバラつきは避けられません。単回の数値で判断するのではなく、複数回の平均値や、「以前より極端に短くなっていないか」「疲労で後半に崩れていないか」といったパターンに着目することが重要です。また、同じ時間帯・同じ姿勢・同じ指示で評価することで、条件差によるブレを減らすことができます。
Q. PT・OT・看護に構音・音声評価の結果をどう伝えると共有しやすいですか?
A. 専門用語だけで説明するのではなく、「どの場面で・どの程度・どう困っているか」を具体的に伝えることが重要です。例えば「長く話すと声がかすれて聞き取りにくくなるので、重要な説明は最初に短くまとめてもらえると助かります」「歩行中は息が上がって声が出にくくなるため、会話は立ち止まって行いましょう」など、場面と工夫をセットで提案すると、多職種も日々のケアに取り入れやすくなります。
おわりに(聴覚的印象・器官評価・簡便指標を 1 セットに)
構音・音声障害の評価は、聴覚的印象・発声発語器官の評価・簡便指標の 3 本柱をセットで押さえることで、「どの部位のどの機能に負荷がかかっているのか」を立体的に捉えやすくなります。そのうえで、具体的な会話場面や生活場面を想定しながら、訓練内容や環境調整(話す時間帯・話す長さ・話し方の工夫)につなげていくことが ST の役割です。
評価の組み立て方や、多職種との連携の仕方は、そのまま自分のキャリア形成にも直結します。今の職場でどこまで学べるのか、どのような症例に触れられるのかを整理したいときは、面談準備チェック( A4 ・ 5 分)や職場評価シート( A4 )を活用して、一度立ち止まって棚卸ししてみるのも一案です。詳しくは マイナビコメディカルのまとめページ に整理しているので、情報収集の一環として参照してみてください。
参考文献
- Duffy JR. Motor Speech Disorders: Substrates, Differential Diagnosis, and Management. 4th ed. St. Louis: Elsevier; 2020.
- 日本音声言語医学会編. 音声言語医学テキスト. 東京: 医学書院; 2015.
- 日本リハビリテーション医学会監修. 脳卒中リハビリテーション診療ガイドライン. 東京: 金原出版; 2021.
- Yorkston KM, Beukelman DR, Strand EA, Bell KR. Management of Motor Speech Disorders in Children and Adults. 3rd ed. Austin, TX: Pro-Ed; 2010.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

