- 構音・音声障害の ST 評価プロトコル|聴く→器官→簡便指標で“運用”に固定
- この記事でできるようになること
- まずはこれだけ| 10–15 分で回す最小セット
- 聴覚的評価のコツ|「聞こえ方」を 5 つに分ける
- 発声発語器官の見方|「動き」と「声の作り方」を分ける
- MPT・DDK の使い方|数値→意味→次の確認に落とす
- 切り分けの軸|ディサースリア/ AOS /音声障害を混ぜない
- CAPE-V・GRBAS・VHI の使い分け|「誰の視点」で残すかを揃える
- 耳鼻科・音声外来へ繋ぐ赤旗|“様子見”にしない条件
- 現場の詰まりどころ|よくある失敗と回避の手順
- 多職種共有に落ちる| 3 行テンプレ(申し送り用)
- よくある質問( FAQ )
- 次の一手(行動)
- 参考文献
- 著者情報
構音・音声障害の ST 評価プロトコル|聴く→器官→簡便指標で“運用”に固定
構音・音声障害(ディサースリア/音声障害など)の評価は、検査名を増やすよりも、①聴覚的評価(聞こえ方)→②発声発語器官(動き)→③簡便指標(追跡)の順番を固定したほうが、所見がブレずに回ります。本記事は、急性期〜回復期の脳血管障害を主な想定に、ベッドサイドでも回せる 10–15 分ルーチンと、多職種共有に落ちる記録の型までまとめます。
同ジャンル回遊( 3 段 ):まずは「全体像 → 標準化 → 各論」で迷いを減らします。 脳卒中の ST 評価まとめ(全体像)へ
サブ導線(総論/標準):最初の 24–48 時間の最小セット
サブ導線(代表的な各論):失語症評価( SLTA / WAB / CADL の使い分け ) / 高次脳機能評価( CBA )
この記事でできるようになること
ゴールは 3 つです。①構音・音声を同じ観点で聴いて言語化できる、②器官所見と結びつけて「原因の当たり」をつけられる、③ MPT や DDK を数値で終わらせず、次の確認と共有に落とせる。ここまで揃うと、申し送りや家族説明が一気にラクになります。
まずはこれだけ| 10–15 分で回す最小セット
※表はスマホでは横スクロールで見てください。
| 順番 | 見るもの | 観察ポイント(例) | 記録の型(短く) | 次の一手 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 前提(安全・疲労) | 覚醒、呼吸苦、痰、SpO2、疲労で悪化 | 「実施条件:座位 30°、食後、疲労 2/3」 | 条件固定(姿勢・時間帯・声かけ) |
| 2 | 聴覚的評価(聞こえ方) | 明瞭度、話速、抑揚、声量、嗄声、気息性、努力性 | 「明瞭度↓、話速↑、嗄声(気息性)↑」 | “どの場面で困るか”を具体化 |
| 3 | 発声発語器官(動き) | 口唇・舌・軟口蓋・下顎、呼吸様式、頸部緊張 | 「舌尖運動↓、軟口蓋挙上△、努力性あり」 | 原因仮説(運動/協調/緊張) |
| 4 | 簡便指標(追跡 1〜2 個) | MPT、/pa-ta-ka/ などの反復、音量の維持 | 「MPT:◯秒( 2 回平均 )」「DDK:◯回/秒」 | “数値→意味→次の確認”へ |
| 5 | 共有( 3 行 ) | 困り場面、原因仮説、ケア側の工夫 | 「困り:電話×。原因:声量維持×。工夫:短文+対面」 | 申し送り・家族説明に転用 |
聴覚的評価のコツ|「聞こえ方」を 5 つに分ける
“なんとなく聞き取りにくい”を避けるコツは、聞こえ方を 5 つに分けて短く書くことです。①明瞭度(どれくらい伝わるか)、②話速(速い / 遅い)、③抑揚(単調 / 過大)、④声量(小さい / 維持できない)、⑤声質(嗄声、気息性、努力性など)。まずは同じ順番で書くだけで、所見が揃います。
発声発語器官の見方|「動き」と「声の作り方」を分ける
器官所見は、口唇・舌・軟口蓋・下顎の動きに加えて、呼吸(吸気の準備/呼気の持続)と頸部の過緊張を一緒に見ます。構音が崩れるときほど、発声の土台(呼気と声門閉鎖)が不安定なことがあるため、「動き」だけで完結させないのがポイントです。
MPT・DDK の使い方|数値→意味→次の確認に落とす
MPT や DDK は便利ですが、測って終わるとチームに残りません。おすすめは、数値を「原因仮説」と「次の確認」に必ずつなげることです。※表はスマホでは横スクロールで見てください。
| 指標 | 数値が低い/崩れるときの見立て | 次の確認(最短) | 記録に残す一言 |
|---|---|---|---|
| MPT | 呼気保持が難しい/声門閉鎖が弱い/疲労で維持できない | 姿勢と吸気準備、声量の維持、疲労での低下パターン | 「MPT:◯秒。後半で息漏れ↑」 |
| DDK(/pa-ta-ka/ 等) | 口唇・舌の速度低下/協調不良/指示理解や学習効果の影響 | 練習 1 回→本番 2 回、同条件で平均、疲労での崩れ | 「DDK:◯回/秒。 2 回目で改善=学習効果」 |
| 音量(維持) | 呼気・姿勢・注意の影響、努力性で破綻 | 短文→長文で崩れ方、歩行や ADL での変化 | 「長話で声量↓、対面距離で改善」 |
DDK の測定条件( 5 秒、練習、 2 試行の扱いなど)をより細かく固定したい場合は、別ページに手順をまとめています:オーラル DDK( ODK )の測り方と解釈。
切り分けの軸|ディサースリア/ AOS /音声障害を混ぜない
※表はスマホでは横スクロールで見てください。
| 観点 | ディサースリア | 発語失行( AOS ) | 音声障害(主に声) |
|---|---|---|---|
| 主座 | 運動実行(筋力・協調・速度) | 運動計画(音の並べ替え・開始) | 発声(声門/共鳴/過緊張など) |
| 聞こえ方 | 一貫して不明瞭、話速・抑揚の崩れ | 誤りが変動、試行錯誤、自己修正 | 嗄声、気息性、努力性、声量低下 |
| ヒント | 器官所見と一致しやすい | 長い語・複雑で悪化しやすい | 会話量や疲労で悪化しやすい |
| 次の一手 | 運動要素(速度/協調)と負荷条件を固定して追跡 | 課題設定(短→長、反復、自己モニタ)でパターン確認 | 声の衛生、負荷調整、必要時に耳鼻科連携 |
CAPE-V・GRBAS・VHI の使い分け|「誰の視点」で残すかを揃える
音声評価の尺度は、「どれが正解」よりも、①評価者( ST / 医師 )の聴覚印象と②本人の困り( QOL )を分けて残すと、再評価と連携が一気にラクになります。以下は臨床で迷わないための使い分けです。
※表はスマホでは横スクロールで見てください。
| 尺度 | 何を残す? | 向いている場面 | 注意点(運用) |
|---|---|---|---|
| CAPE-V | 聴覚的な声質(重症度など)を標準化して記録 | 外来/回復期での追跡、医師連携の情報提供 | “同じ条件・同じ課題”で再評価する(録音も有用) |
| GRBAS | 声質を 5 観点で簡潔にスコア化 | 短時間のスクリーニング、チーム内共有 | 評価者間差が出るため、所見の短文併記で補強 |
| VHI | 本人の「生活上の困り」を数値化( QOL ) | 介入の価値説明、本人目標と成果の可視化 | 設問の転載は避け、入手先に誘導(運用は要約で) |
臨床では、( 1 )CAPE-V or GRBAS(評価者視点)+( 2 )VHI(本人視点)の二段で残すと、評価の説得力が上がります。CAPE-V と GRBAS はいずれも聴覚印象を扱いますが、継続的に追うなら CAPE-V、短時間で揃えるなら GRBAS が扱いやすい、という整理が実務的です。CAPE-V と GRBAS の信頼性比較に関する報告もあります。
耳鼻科・音声外来へ繋ぐ赤旗|“様子見”にしない条件
音声の問題は良性のことも多い一方で、直接観察(喉頭の評価)が必要な病態も混じります。ここでは、現場で迷いにくいように「赤旗」をチェックリスト化します。
※表はスマホでは横スクロールで見てください。
| 赤旗 | 例 | 推奨アクション | 情報提供の一言 |
|---|---|---|---|
| 呼吸・気道の危険 | 喘鳴/吸気性狭窄音、息苦しさが強い | 早期に耳鼻科で喉頭評価(緊急度を上げる) | 「呼吸困難+声の変化」 |
| 嚥下関連の悪化 | 嚥下痛、強いむせ、体重減少、誤嚥が疑わしい | 嚥下評価と併行して耳鼻科連携 | 「嚥下症状と同時期に嗄声」 |
| 持続する嗄声 | 感染後でも改善せず、一定期間続く | 一定期間(例: 4 週)を超えるなら喉頭の直接評価を検討 | 「◯週持続、改善なし」 |
| 腫瘍リスク | 喫煙歴、頸部リンパ節、血痰、耳への放散痛など | 早期に耳鼻科紹介(がん疑いを見落とさない) | 「リスク因子あり」 |
ポイントは「声の訓練を頑張る」前に、必要な人は先に喉頭を見てもらうことです。赤旗がある場合や、嗄声が一定期間続く場合は、直接観察(喉頭評価)が推奨される、という整理が現実的です。
現場の詰まりどころ|よくある失敗と回避の手順
ここは “読ませるゾーン” です。先にアンカーで必要箇所へ飛べるようにしておきます。
- よくある失敗へ
- 回避の手順(最小セット)へ
- 関連:測定条件を固定する → オーラル DDK( ODK )の測り方と解釈
※表はスマホでは横スクロールで見てください。
| 起きがち | 原因 | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 「聞き取りにくい」で止まる | 聴く観点が固定されていない | 明瞭度→話速→抑揚→声量→声質の順で短く書く | “ 5 観点” のうち悪いものを 2 個だけ残す |
| MPT/ DDK を測ったが活かせない | 数値の意味づけが無い | 数値→原因仮説→次の確認(姿勢/疲労/課題)を 1 行で | 「後半で崩れる」「 2 回目で改善」などパターンを書く |
| 毎回バラついて追えない | 条件(姿勢・声かけ・練習)が揃っていない | 練習 1 回→本番 2 回、同時間帯、同姿勢で固定 | 実施条件(座位角度、疲労、時間帯)を先に書く |
| 失語・高次と混ざる | “言語” と “運動” の切り分けが曖昧 | 短い復唱・単音節・自発話で崩れ方を比較 | 「理解は保たれるが明瞭度↓」のように分けて記載 |
多職種共有に落ちる| 3 行テンプレ(申し送り用)
専門用語だけだと伝わりません。おすすめは “場面+困り+工夫” を 3 行で揃える形です。
- 困り:どの場面で聞き取りにくいか(例:電話、歩行中、長話)
- 原因仮説:声量維持、話速、嗄声、器官運動など( 1 個に絞る )
- 工夫:短文、対面、立ち止まる、最初に要点、復唱確認 など
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
どこまで ST が評価し、どのタイミングで耳鼻咽喉科や音声外来に相談すべきですか?
ST は、明瞭度・声質・話速などの聴覚的所見、器官所見、簡便指標( MPT / DDK など)から、「どの場面でどの程度困っているか」を整理し、共有できる形に落とすのが基本です。一方で、赤旗がある場合や、嗄声が一定期間続く場合は、喉頭の直接評価(耳鼻科/音声外来)を先に検討します。相談時は “困り場面” と “継続期間” を添えて情報提供すると連携がスムーズです。
CAPE-V・GRBAS・VHI はどれを使うべきですか?
迷ったら「評価者の聴覚印象」と「本人の困り」を分けて残します。具体的には、CAPE-V または GRBAS(評価者視点)+ VHI(本人視点)の二段が実務で強いです。使い分けの要点は 尺度の使い分け にまとめました。
MPT や DDK の数値が毎回バラつきます。どう解釈すればよいですか?
単回の数値で判断せず、同じ条件で複数回(例:練習 1 回→本番 2 回)行い、平均やパターンで見ます。姿勢、声かけ、理解、疲労の影響が大きいので、条件を先に固定するとブレが減ります。「後半で崩れる」「 2 回目で改善する」などの所見は、数値以上に次の一手につながります。
PT・OT・看護に構音・音声評価の結果をどう伝えると共有しやすいですか?
「どの場面で・どの程度・どう困っているか」を具体的に伝え、工夫をセットにします。例として「歩行中は息が上がって声が出にくいので、会話は立ち止まって行う」「重要な説明は短文で最初に要点を伝える」など、日々のケアに落ちる形にすると伝わりやすいです。
ディサースリアと失語症の“混ざり”を最短で見分けるコツはありますか?
短い復唱、単音節、姓名など “言語負荷が低い課題” と、自発話(説明、雑談)で崩れ方を比べます。理解面の影響が強い場合は課題条件で変動しやすく、運動要素が主なら課題が変わっても一貫して不明瞭になりやすい、という違いが出ます。必要に応じて、失語評価のページも併せて確認してください:失語症評価( SLTA / WAB / CADL )。
次の一手(行動)
- 運用を整える:脳卒中の ST 評価まとめ(最小セット)
- 共有の型を作る:高次脳機能評価( CBA )の記録フレーム
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Kempster GB, Gerratt BR, Verdolini Abbott K, Barkmeier-Kraemer J, Hillman RE. Consensus auditory-perceptual evaluation of voice: development of a standardized clinical protocol. Am J Speech Lang Pathol. 2009;18(2):124-132. doi:10.1044/1058-0360(2008/08-0017). PubMed
- Jacobson BH, Johnson A, Grywalski C, et al. The Voice Handicap Index (VHI): Development and Validation. Am J Speech Lang Pathol. 1997;6(3):66-70. doi:10.1044/1058-0360.0603.66. DOI
- De Bodt MS, Wuyts FL, Van de Heyning PH, Croux C. Test-retest study of the GRBAS scale: influence of experience and professional background on perceptual rating of voice quality. J Voice. 1997;11(1):74-80. doi:10.1016/S0892-1997(97)80026-4. PubMed
- Karnell MP, Melton SD, Childes JM, Coleman TC, Dailey SA, Hoffman HT. Reliability of clinician-based (GRBAS and CAPE-V) and patient-based documentation of voice disorders. J Voice. 2007;21(5):576-590. doi:10.1016/j.jvoice.2006.05.001. PubMed
- Ferraro EL, et al. Hoarseness: When to observe and when to refer. Cleveland Clinic Journal of Medicine. 2023;90(8):475-482. PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


