痛みの強さの評価:NRS・VAS・VRS・FPS-R・BPI

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痛み、疼痛とは

痛みは、個人の経験に根ざした不快な感覚・情動体験であり、単なる組織損傷の有無では語りきれない多面的な現象です。臨床では「どこが・いつ・何をした時に・どんな痛みか」を聴取しつつ、身体・心理・社会の各側面を合わせて理解することが重要です。理学療法では、評価の出発点として痛みの強さと性状、日内・日差の変動、誘発・寛解因子を丁寧に可視化します。

一方で、痛みは行動や意思決定、活動量、睡眠、気分にも影響します。したがって、数値化(例:NRS、VAS)だけでなく、日常生活や QOL への影響までを含めて記録することが、介入方針と効果判定の精度を高めます。慢性痛では心理社会的要因(イエローフラッグ)にも配慮し、教育的アプローチや自己効力感の支援と組み合わせていく姿勢が求められます。


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痛みの評価方法(全体像)

疼痛評価は、大きく「主観的評価」「観察による客観的評価」「生理指標の活用」に分けられます。主観的評価は最も基本で、痛みの強さ・性状・パターン・生活支障度などを自己申告で把握します。観察指標は、小児・認知症・重度障害など自己申告が難しい状況で有効です。生理指標は補助的位置づけで、他要因の影響に注意して解釈します。

理学療法では、数値化とストーリーの両立が要点です。例として「NRS で 6 → 3 に低下」「朝は軽い・午後に悪化」「しゃがみ込みで鋭い痛み」「歩行距離は 200 m → 600 m」など、強度と機能・活動を一体で追跡します。慢性痛例では「疼痛の生活影響(就労、家事、睡眠)」まで定点観測し、教育(ペーシング、セルフケア)と併走します。

痛みの主観的評価(痛みの強さ)

自己申告による痛みの強度は、介入効果判定やカンファレンスでの共有に直結します。単一時点の値ではなく、時系列・場面別(安静時・運動時・夜間)や再現可能な測定条件(同じ説明、同じ用紙・目盛)での信頼性を確保しましょう。尺度により特徴が異なるため、対象や場面に応じた選択が有効です。

以下に代表的な尺度の要点と使い分けを示します。慢性痛や多部位痛では、強度だけでなく生活影響まで扱う質問票(BPI など)を併用すると、目標設定と患者教育が進めやすくなります(例:BPI)。

疼痛スケールの使い分け早見(成人・2025 年版)
尺度 目的 対象/場面 強み 注意点
NRS(0~10) 強度の簡便な経時変化 ほぼ全般、ベッドサイド迅速評価 順守率・応答性が高い報告 アンカー説明の一貫性が必須
VAS(10 cm) 感度の高い連続量 研究・外来での標準化評価 微小変化の検出に有利 視覚/認知面で不利な例あり
VRS(言語 4–5 段階) 強度の概括分類 高齢者・認知機能の低下に配慮 説明が短く理解しやすい 段階間の幅が一定でない
FPS-R(顔のイラスト) 小児の自己申告 3 歳以上の小児 0・2・4・6・8・10 の 6 段階 表情=感情の影響に注意
BPI(簡易疼痛質問票) 強度+生活影響 がん痛から慢性痛まで 目標設定・教育に有用 自己記入の理解度を確認

NRS(Numerical Rating Scale)

0 が「痛みなし」、10 が「想像できる最大の痛み」。説明文(アンカー)の一貫性を守り、安静時・運動時・夜間など条件を固定して追跡します。順守性・応答性の点から推奨されるレビューがあり、臨床の第一選択になりやすい尺度です。

VAS(Visual Analogue Scale)

10 cm の直線の左端=「痛みなし」、右端=「最悪の痛み」。左端から印までを mm 単位で測定し、0 ~ 100 mm として記録します。細やかな変化の検出に向きますが、視覚・理解の負荷に配慮します。

VRS(Verbal Rating Scale)

「なし・軽度・中等度・高度」など言語の段階で表す方法。認知機能に配慮できる一方、段階間隔の不均一性に留意します。

FPS-R(Faces Pain Scale – Revised)

表情イラストから現在の痛みに最も近い顔を選択。スコアは 0・2・4・6・8・10。小児の自己申告に有効で、言葉を補助する説明を短く一定にします。

簡易疼痛質問票(BPI)

痛みの強度(最強・最弱・現在・平均)と、生活への干渉(歩行・仕事・睡眠・気分など)をセットで可視化します。慢性痛の目標設定や、患者教育(ペーシング・自己管理)に直結しやすいのが利点です。

理学療法士の役割

「痛みの数字」だけに閉じず、機能・活動・参加までの文脈で評価・共有し、行動変容を支えることが理学療法士の強みです。例えば、「しゃがみ込みで刺す痛み→股関節屈曲・荷重戦略の修正」「午後悪化→ペーシングと作業分配」など、痛みと動作のリンクを明確化します。

慢性痛では、教育と自己効力感の支援、漸増的な活動(グレーデッド・アクティビティ)、運動誘発性鎮痛(EIH)の説明と体験を組み合わせます。生活影響の尺度(例:PDAS)や行動記録を併用し、週次で小さな改善を積み上げましょう。

参考文献

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