住宅改修の失敗とやり直し事例【段差・手すり・トイレ・浴室】

臨床手技・プロトコル
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住宅改修の失敗は「工事」ではなく「評価のズレ」で起きる

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段差・手すり・トイレ・浴室は、住宅改修の中でも「失敗→やり直し」になりやすい 4 大ポイントです。原因は工事の出来不出来よりも、動作の失敗条件(疲労・夜間・急ぎ・片手)介助者の条件を見落とし、把持点や高さの前提がズレることにあります。

本記事では、よくある失敗パターンを「起きる問題→原因→修正案→再発防止チェック」で整理し、現場でそのまま使える“再設計の型”に落とします。採寸や写真の残し方を含む家屋調査の基本は 家屋調査チェックリスト(PT 向け) も合わせて使うと、手戻りが減ります。

なぜ失敗するのか:ズレやすいのは「把持点」「高さ」「動線」

住宅改修は環境を変える介入ですが、狙いは動作の失敗を減らすことです。失敗が起きやすいのは、①把持点(どこを持つか)②高さ(便座・段差・座面)③動線(最短で安全に通れるか)の 3 つが、本人の能力と介助条件に噛み合っていないケースです。

特に排泄と入浴は「急ぎ」「夜間」「濡れ」「衣服操作」など失敗条件が重なります。ここを先に潰すと、改修全体の満足度が上がり、再訪問や追加工事も減ります。

失敗とやり直し事例:段差・手すり・トイレ・浴室の定番パターン

下の表は、現場で遭遇しやすい “やり直し” の代表例です。ポイントは、修正案を「工事」だけで終わらせず、用具・配置・手順(声かけ)までセットで再設計することです。

住宅改修の失敗事例(段差・手すり・トイレ・浴室)と修正の型
カテゴリ 失敗例(何をしたか) 起きる問題 原因(評価のズレ) 修正案(やり直し) 再発防止チェック
段差 玄関に踏み台だけ設置 一歩目が不安定で転倒リスクが残る 把持点がなく、重心移動が遅れる 踏み台+縦手すり(把持点)をセットにする 一歩目の失敗(つまずき/前方突っ込み)を観察したか
段差 屋外段差をスロープ化 押し歩行で疲労、雨天で滑る 勾配と耐久性(疲労条件)の見落とし 手すり追加/段差分割/動線変更(別ルート)を検討 雨天・荷物・疲労時の条件で試したか
手すり 手すりを増やしすぎる 迷いが増え動作が遅くなる 主動線の優先順位が未整理 主動線と排泄に絞って把持点を“減らす” 最優先場面(トイレ/浴室/玄関)を決めたか
手すり 横手すり中心で設置 立ち上がりが改善しない 立ち上がりは前方への重心移動が鍵(縦把持が必要) 縦手すり(立ち上がり用)+横手すり(移動用)に再設計 立ち上がりの失敗(膝折れ/反動)を見たか
トイレ L 字手すりを定番で採用 旋回で手が離れふらつく 旋回と衣服操作の“片手条件”を見落とし 縦手すりの位置を近づけ、把持を途切れさせない 立つ→旋回→衣服→着座を “一連” で確認したか
トイレ 手すりのみ設置(便座高は未調整) 立ち上がり困難が残る 座面高と下肢出力のミスマッチ 便座高調整(補高)+把持点をセットで見直す 座面高を数値で残したか(調整の余地があるか)
トイレ 便器前のスペースを詰めた 介助者が入れず介助事故 介助者視点(足場・回り込み)の不足 配置変更(収納移動)+介助スペース確保を優先 介助者の動作(回り込み・支え方)を確認したか
浴室 浴槽またぎを手すりで解決 濡れ床で滑り、恐怖心が増える 滑り・疲労・温度の条件を軽視 シャワーチェア/滑り止め/出入り動作の簡略化を先行 濡れ条件で “同じ動作” を再現できたか
浴室 浴室内の手すり位置が遠い 把持できず、結局つかまり先が不安定 動作中の把持到達(リーチ)を見ていない 把持点を近づけ、洗体中も届く位置へ再設計 洗体(前屈)と立ち上がりの両方で届くか
浴室 出入口の段差に未介入 出入りでつまずきやすい 「浴槽」ばかり見て出入口を後回し 出入口段差の解消(すり付け等)+把持点の追加 浴室の失敗が “どこで” 起きているか特定したか
全体 改修を先に決め打ち 回復で不要になり使いにくい 時間軸(回復・増悪)を見込んでいない 可逆性の高い手段(用具・配置)で試してから固定化 1 か月後の変化を想定しているか

やり直しが必要になったときの最短手順:原因は「 1 つ」まで絞る

やり直し対応で重要なのは、原因を増やさないことです。現場では「手すりも高さも動線も…」と論点が膨らみますが、まずは失敗が起きる場面を 1 つに固定し、その場面で “何が途切れたか(把持/支持/注意)” を特定します。

やり直し対応の最短フロー(再訪問・電話確認にも使える)
手順 やること コツ 記録の一言
① 場面固定 失敗が起きる動作を 1 つ決める(例:トイレの立ち上がり) 頻度が高い or 事故が重い場面を優先 「失敗場面:トイレ立位旋回」
② 途切れ特定 把持・支持・注意のどれが途切れたか “手が離れる瞬間” を見る 「把持が途切れ、右へふらつく」
③ 代替案で試行 用具・配置でまず再現性を確認 工事は最後。まず “回る形” を作る 「縦手すり仮設で失敗減少」
④ 固定化 必要なら改修で固定化(位置・高さを確定) 位置は “動作” で決める 「把持点を 10 cm 近づけて固定」
⑤ 再評価 疲労・夜間・急ぎ条件で再確認 “できる” ではなく “崩れない” を見る 「夜間動線でも転倒リスク低下」

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

「手すり位置」を決めるとき、最重要ポイントは何ですか?

最重要は “把持が途切れない” ことです。立ち上がり・旋回・衣服操作の中で、どの瞬間に手が離れて不安定になるかを見て、その瞬間に届く位置へ把持点を置きます。迷ったら、トイレと浴室の失敗場面を優先して決めます。

便座高はどれくらいが目安ですか?

目安はありますが、最終的には本人の下肢出力と立ち上がり戦略で決めます。重要なのは “数値を残して調整できる状態” にすることです。補高で試して、成功条件が再現できたら固定化を検討します。

浴室は改修したのに怖がって入れません

怖さの正体は多くが “滑り” と “またぎ” です。手すり追加より先に、滑り止め、椅子、出入り手順(足の運び)を見直し、成功体験を作ると改善しやすいです。その上で、把持点が届くかを再評価します。

家族が「お金をかけたくない」と言うときはどうしますか?

可逆性の高い手段(配置変更・福祉用具)で “まず回す” 形を作り、事故リスクが残る部分だけ改修を提案するのが現実的です。目的を「自立」より「事故を減らす」「介助量を減らす」に置くと合意が取りやすくなります。

おわりに

住宅改修の失敗は、工事ではなく「評価のズレ」から始まります。失敗場面を 1 つに固定し、把持・支持・注意の “途切れ” を特定して、用具・配置で試す→必要なら固定化→再評価、の順で進めるとやり直しが減ります。まずはトイレと浴室の失敗条件(疲労・夜間・急ぎ・片手)を先に潰して、在宅生活を安定させましょう。

退院支援をやり切るには、連携が回る職場にいることも重要です。面談準備チェックや職場評価シートで整理したいときは、マイナビコメディカル記事(固定ページ)の「ダウンロード」節も活用してみてください。

参考文献

  • Cumming RG, et al. Home visits by an occupational therapist for assessment and modification of environmental hazards: a randomized trial. Lancet. 1999;353(9147):101-105. DOI: 10.1016/S0140-6736(98)06192-0 / PubMed: 10023906
  • Keall MD, et al. Home modifications to reduce injuries from falls in the home: a randomized controlled trial. Inj Prev. 2015;21(6):375-381. DOI: 10.1136/injuryprev-2014-041377 / PubMed: 26085586
  • Gillespie LD, et al. Interventions for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database Syst Rev. 2012;(9):CD007146. DOI: 10.1002/14651858.CD007146.pub3 / PubMed: 22972103
  • World Health Organization. WHO global report on falls prevention in older age. 2007. Official page

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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