低血糖時のリハビリ対応|中止・補正・再評価・再開判断

臨床手技・プロトコル
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低血糖が起きたらリハビリは中止|補正後も数値だけで再開しない

リハビリ中に低血糖を認めた場合は、まず運動・訓練を中止して安全を確保します。そのうえで、院内手順に沿って血糖と症状を確認し、経口摂取できる場合はブドウ糖などで補正、約15分後に再評価します。重要なのは、血糖値が70mg/dL以上へ戻ったことだけでリハビリ再開を決めないことです。

この記事では、PT・OT・ST向けに、低血糖発生後の対応を「中止→確認・連携→補正→約15分後再評価→再開または中止判断・記録」の5ステップで整理します。さらに、「ブドウ糖10gと糖質15gのどちらか」「CGMだけで判断できるか」「70mg/dL以上なら再開できるか」という迷いやすい境界まで確認します。

先に結論:低血糖の補正量や測定方法は施設のプロトコルを優先し、リハビリ再開は血糖・症状・再発リスク・院内基準を合わせて判断します。

低血糖発生後の5ステップ|中止から再開判断まで

低血糖が起きた後は、担当者によって対応順序が変わらないようにします。基本の流れは、中止→確認・連携→補正→約15分後再評価→再開または中止判断・記録です。

  1. 運動・訓練を中止して安全な姿勢を確保する
  2. 血糖と症状を確認し、院内手順に沿って連携する
  3. 経口摂取できる場合は院内手順に沿って補正する
  4. 約15分後に血糖と症状を再評価する
  5. 再開または中止を判断し、経過と判断根拠を記録・共有する
低血糖発生後の5ステップとリハビリ再開判断を整理した図
図:低血糖発生後は「中止→確認・連携→補正→再評価→再開または中止判断・記録」の順で対応します。補正量や再開条件は、数値だけでなく院内プロトコルと患者の状態を合わせて判断します。

図版を見るときの注意:低血糖の正式なLevel分類は「自力で摂取できるか」では決まりません。Level 1・2は血糖値、Level 3は血糖値にかかわらず回復に他者の援助を必要とする重症イベントで分類します。正式な基準は後述の表を確認してください。

1.低血糖を疑ったら、まず運動・訓練を中止する

冷汗、振戦、動悸、強い空腹感、ふらつき、集中力低下、反応の鈍化など、低血糖を疑う変化を認めた場合は、そのまま歩行や立位訓練を継続しません。まず安全な姿勢を確保します。

低血糖では判断力や運動機能が低下し、転倒などの事故につながる可能性があります。血糖を測定できるまで動作を続けるのではなく、疑った時点で一度止めることが重要です。

2.血糖と症状を確認し、必要なスタッフへ連携する

安全を確保したら、可能な範囲で血糖値と症状を確認します。PT・OT・STが自ら血糖を測定するのか、看護師へ依頼するのかなどは施設によって異なるため、自施設の運用に従います。

ADAでは、血糖値が70mg/dL未満になることを臨床的に重要な低血糖として扱っています。症状が乏しくても低血糖を認める場合があるため、症状の有無だけで対応の要否を決めません。1

一方で、血糖測定がすぐにできない状況でも、低血糖が強く疑われる場合に安全確保や必要な連携を遅らせないことが重要です。

3.経口可能なら院内手順に沿って補正する

本人の意識が保たれ、安全に飲み込める場合は、速やかに吸収されるブドウ糖などを使用して補正します。ただし、「低血糖では必ず糖質15g」と一律に固定する必要はありません。

糖尿病情報センターでは、低血糖時の対応としてブドウ糖10g、またはブドウ糖を含む飲料150〜200mLなどが示されています。一方、ADA Standards of Care in Diabetes—2026では、多くの人について速効性炭水化物15gを摂取して15分後に再確認する方法が示されています。13

したがって、PT・OT・STがその場で独自に10gか15gかを決めるのではなく、自施設の低血糖対応プロトコルを優先します。

また、α-グルコシダーゼ阻害薬を使用している場合は、砂糖ではなくブドウ糖を使用する必要があります。3

4.補正したら約15分後に再評価する

補正後は、症状が軽くなったからといってすぐにリハビリへ戻しません。約15分後に血糖と症状を再評価します。

ADA 2026では、低血糖に対して炭水化物を摂取したあと15分で血糖を再確認し、低血糖が続く場合は追加対応を行うことが示されています。糖尿病情報センターでも、補正後15分で症状が改善しない場合は再度対応する流れが示されています。13

再測定しても低値が続く、再び低下する、症状が残る・悪化する場合は、リハビリ再開を検討する段階ではありません。院内手順に従って低血糖への対応と医療者への報告を優先します。

5.再開または中止を判断し、経過を記録する

低血糖が改善したあとに最も迷いやすいのが、「いつリハビリを再開するか」です。

70mg/dL以上へ戻ったことは重要な確認点ですが、それだけをリハビリ再開基準にはしません。血糖の推移、症状、覚醒状態、立位・移動の安全性、再低下の可能性、食事・薬剤・インスリンの状況、院内基準を合わせて判断します。

再開しない場合も、「低血糖のため中止」とだけ記載するのではなく、何を確認して中止継続と判断したのかを残します。

低血糖対応で迷いやすい3つの判断境界

低血糖発生後の手順自体は単純ですが、実際の現場では「10gか15gか」「CGMだけでよいか」「70mg/dL以上なら再開できるか」の3点で判断が分かれやすくなります。

ブドウ糖10gと糖質15gはどちらが正しい?

どちらか一方だけが正しいという整理ではありません。参照する資料や患者背景、施設で定めた手順によって異なります。

※スマホでは表を左右にスクロールできます。

低血糖補正量に関する国内資料とADA 2026の整理
情報源 主な内容 リハビリ現場での考え方
糖尿病情報センター ブドウ糖10gなどを摂取し、15分後も改善しなければ再度対応 国内の患者指導・院内手順を確認する際の参考にする
ADA 2026 多くの人では速効性炭水化物15gを摂取し、15分後に再確認 15-15ルールを採用している施設では根拠の一つになる

そのため、本記事では補正量を1つに固定せず、施設の低血糖対応手順に従うことを基本とします。

CGMだけで低血糖を判断してよい?

CGMは血糖推移や低血糖の発見に役立ちますが、少なくとも入院患者では、低血糖の評価をCGM値だけで完結させる考え方ではありません。

ADA 2026では、入院中に個人用CGMを継続使用する場合、低血糖評価やインスリン投与判断について、施設のプロトコルに基づくPOC血糖測定による確認を推奨しています。2

特に、CGM値と患者の状態が一致しない場合や、低値が治療・リハビリ継続判断に影響する場合は、院内手順に沿って確認します。

反対に、明らかな低血糖症状を認めている状況で、CGMや血糖測定の結果を待つことを理由に安全確保を遅らせることも避けます。

70mg/dL以上ならリハビリを再開してよい?

70mg/dL以上になったことだけでは、リハビリ再開可とは判断できません。

70mg/dLは低血糖を判断・治療するうえで重要な境界ですが、「リハビリを安全に再開できる値」として一律に設定された基準ではありません。

低血糖から回復した直後は、血糖が再び低下する可能性や、ふらつき・集中力低下などの症状が残っている可能性があります。したがって、再開判断では血糖値だけでなく、次に示す4つの条件を確認します。

リハビリ再開は4つの条件を合わせて判断する

低血糖補正後の再開判断では、血糖・症状・再発リスク・院内基準の4点を確認します。

  1. 血糖:低血糖が解除され、再測定後も安定している
  2. 症状:冷汗、振戦、ふらつき、反応低下などが改善している
  3. 再発リスク:食事、インスリン・薬剤、運動量など、再低下につながる要因を確認している
  4. 院内基準:医師指示や施設の低血糖対応プロトコル上、再開可能と判断できる

特に歩行、階段、立位訓練など転倒リスクを伴う介入では、血糖値が改善していても、覚醒状態や動作の安全性が戻っていなければ再開しません。

再開する場合も、補正前と同じ負荷をそのまま再開するのではなく、その時点の全身状態と再発リスクを踏まえて介入内容を調整します。

Level 1・2・3の正式分類|経口摂取できるかどうかとは別に考える

低血糖のLevel分類は、対応方法や経口摂取能力そのものを分類したものではありません。ADAでは、Level 1・2は血糖値、Level 3は回復に他者の援助を必要とする重症イベントとして定義しています。1

※スマホでは表を左右にスクロールできます。

ADA 2026による低血糖Level 1〜3の分類
分類 基準 リハビリ現場での対応
Level 1 70mg/dL未満かつ54mg/dL以上 リハビリを中止し、院内手順に沿って補正・再評価する
Level 2 54mg/dL未満 速やかな低血糖対応を優先し、原因や治療内容も含めて共有する
Level 3 血糖値にかかわらず、回復のために他者の援助を必要とする重症イベント リハビリ再開を検討せず、院内緊急手順と医学的評価を優先する

「自分で糖を摂取できる=Level 1」「摂取できない=Level 2」という分類ではありません。経口摂取できるかどうかは、低血糖のLevelとは別に、実際の補正方法を決めるために確認します。

意識障害・嚥下困難があれば無理に経口摂取させない

本人の意識がはっきりしない、安全に飲み込めない、指示に従えないなど、経口摂取が安全に行えない場合は、ブドウ糖や飲料を無理に口から摂取させません。

糖尿病情報センターでも、重症低血糖でブドウ糖を飲み込むことが難しい場合に無理に飲ませると、誤嚥や窒息につながることが示されています。3

この場合はリハビリを中止し、院内緊急手順に沿って速やかに医師・看護師へ連携します。施設や状況に応じて、グルカゴンや静脈内ブドウ糖などの医学的対応が優先されます。

低血糖発生後に最低限記録する項目

記録は、「低血糖あり」「ブドウ糖摂取」で終わらせず、次の担当者が何が起き、どう対応し、なぜ再開・中止と判断したのかを追える内容にします。

※スマホでは表を左右にスクロールできます。

低血糖発生後に残したい記録項目
項目 記録する内容
発生時刻・場面 開始前、歩行中、運動中、終了後など
症状・所見 冷汗、振戦、ふらつき、反応低下、意識状態など
血糖 初回値、測定方法、約15分後の再測定値、必要に応じてその後の推移
補正内容 院内手順に沿って実施した内容と量
再評価 血糖値と症状がどのように変化したか
再開可否 再開・中止継続と、その判断理由
誘因 食事、薬剤・インスリン、運動量など確認できた要因
共有先 医師、看護師、担当療法士など

記録例

架空例:14:10、歩行訓練中に冷汗と反応低下を認め訓練中止。座位で安全確保し看護師へ報告。血糖66mg/dL。院内手順に沿って補正。14:25再測定92mg/dL、冷汗・反応低下は改善。再低下リスクを考慮して本日の歩行訓練は再開せず、食事・薬剤状況を病棟と共有した。

記録では血糖値だけでなく、再開しなかった理由、または再開できると判断した根拠まで残すと、次回の再評価や多職種共有につながります。

低血糖対応で避けたい4つの失敗

低血糖対応を標準化するには、正しい手順だけでなく、起こりやすい失敗も共有しておくことが重要です。

※スマホでは表を左右にスクロールできます。

低血糖対応で起きやすい失敗と修正方法
失敗 問題点 修正方法
症状がないので対応しない 無症候性の低血糖を見逃す可能性がある 血糖値と症状を分けて確認する
糖質15gを全例へ固定する 国内資料や施設プロトコルとのずれが生じる 院内で補正方法を統一する
70mg/dL以上で直ちに再開する 症状残存や再低下、転倒リスクを見落とす 血糖・症状・再発リスク・院内基準を確認する
血糖値だけを記録する 再発予防や次回の再開判断につなげにくい 症状、補正、再評価、判断理由、誘因まで残す

次の一手|発生後対応と開始前判断を分けて整理する

この記事では、リハビリ中に低血糖が起きた後の対応を扱いました。糖尿病患者への運動療法全体や、開始前の血糖・症状・ケトンなどから「今日運動してよいか」を判断する内容は、別記事で確認できます。


参考文献

  1. American Diabetes Association Professional Practice Committee for Diabetes. 6. Glycemic goals, hypoglycemia, and hyperglycemic crises: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1):S132-S149. doi:10.2337/dc26-S006
  2. American Diabetes Association Professional Practice Committee for Diabetes. 16. Diabetes care in the hospital: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1):S339-S355. doi:10.2337/dc26-S016
  3. 国立健康危機管理研究機構 糖尿病情報センター.低血糖.公開ページ
  4. 日本糖尿病学会.糖尿病診療ガイドライン2024 第4章 運動療法.公式PDF

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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