住宅改修と福祉用具の違いは「工事の有無」と給付区分から確認する
結論:住宅改修と福祉用具は、「まず福祉用具、次に住宅改修」という一律の順番で決めるものではありません。まず、住宅へ工事を行うのか、工事を伴わない福祉用具を使うのかを確認し、住宅改修・福祉用具貸与・特定福祉用具販売のどこに該当するかを整理します。
特に迷いやすいのが手すりとスロープです。工事を伴わない対象手すり・スロープは福祉用具として扱われ、工事を伴い住宅改修の対象要件を満たす場合は「手すりの取付け」「段差の解消」として住宅改修の対象になります。この記事ではPT・OT向けに、制度上の違いから実際の選び方まで整理します。
住宅改修・福祉用具貸与・販売は何が違う?
住宅改修と福祉用具の使い分けでは、最初に「住宅へ工事する」「用具を借りる」「対象用具を購入する」の3つを分けると整理しやすくなります。
| 区分 | 基本的な考え方 | 代表例 | 最初に確認すること |
|---|---|---|---|
| 住宅改修 | 住宅へ工事を行い、生活環境そのものを変更する | 手すりの取付け、段差解消、床材変更、扉の取替えなど | 工事内容が住宅改修の対象種類に該当するか |
| 福祉用具貸与 | 対象となる福祉用具を借りて使用する | 工事を伴わない手すり・スロープ、歩行器、歩行補助つえなど | 対象種目・構造・設置方法が貸与に該当するか |
| 特定福祉用具販売 | 対象となる福祉用具を購入して使用する | 腰掛便座、入浴補助用具、簡易浴槽、選択制対象用具など | 販売対象種目か、貸与との選択制対象か |

介護保険による住宅改修の対象種類、支給限度基準額、事前申請や必要書類については、介護保険の住宅改修|対象6種類・申請手順で詳しく整理しています。本記事では制度全体ではなく、福祉用具との違いと選び分けに絞ります。
住宅改修と福祉用具に「どちらが先」という一律の優先関係はない
住宅改修の手すりと福祉用具貸与の手すりは、どちらかを必ず先に利用しなければならないという関係ではありません。したがって、「最初は必ず福祉用具」「長期間使うなら必ず住宅改修」と一律には決めません。
制度上どの区分に該当するかを確認したうえで、本人の身体状況、必要な支持位置、住環境、状態変化の見込み、本人・家族の希望、実際の適合などを組み合わせて選択します。
PT・OTが区別したいポイント:福祉用具を使って位置や高さを試すことは、適合を確認する実務上の方法として有用です。ただし、「福祉用具で試してから住宅改修へ進む」こと自体が介護保険上の必須手順という意味ではありません。
手すりは住宅改修?福祉用具?|工事の有無で線引きする
手すりは住宅改修と福祉用具貸与の両方に登場するため、特に迷いやすい項目です。基本となる線引きは、取付けに工事を伴うかどうかです。
| 設置方法 | 基本的な区分 | 例 | 確認ポイント |
|---|---|---|---|
| 工事を伴わない | 福祉用具貸与 | 床に置いて使用する手すり、便器等の周囲へ据え置く手すり | 安定性、設置スペース、動線、必要な把持位置 |
| 工事を伴う | 住宅改修の対象になり得る | 壁・柱などへ取り付ける手すり | 取付位置、高さ、方向、下地、対象動作 |
厚生労働省の通知では、福祉用具貸与の手すりについて、ネジ等で居宅へ取り付ける簡易なものを含め、取付けに工事を伴うものは貸与対象から除かれています。工事を伴い、住宅改修の「手すりの取付け」に該当する場合は、住宅改修として給付対象になります。
ただし、工事を伴えば自動的に住宅改修の給付対象になるわけではありません。住宅改修として定められた要件を満たす必要があるため、具体的な給付可否は担当のケアマネジャーや市区町村等へ確認します。
スロープも住宅改修と福祉用具の両方にある
スロープも、名称だけで住宅改修か福祉用具かを判断できません。ポイントは、用具として設置するのか、工事によって段差・傾斜を解消するのかです。
| 方法 | 基本的な区分 | 制度上の考え方 | PT・OTが確認すること |
|---|---|---|---|
| 工事を伴わず使用する | 福祉用具 | 対象となるスロープを福祉用具貸与・販売で検討する | 段差高、長さ、勾配、幅、車椅子・歩行器との適合 |
| 工事で段差・傾斜を解消する | 住宅改修の対象になり得る | 住宅改修の「段差の解消」に該当するか確認する | 施工範囲、勾配、通路幅、介助スペース、転落・脱輪リスク |
厚生労働省通知では、取付工事を伴うスロープは福祉用具貸与から除かれ、工事を伴って住宅改修の「段差の解消」に該当する場合は、住宅改修として給付対象になると整理されています。
一方、福祉用具としての固定用スロープもあります。「固定用」という名称だけを見て住宅改修と判断せず、福祉用具としての製品区分と、実際に住宅へ工事を行うのかを分けて確認することが重要です。
固定用スロープなどは貸与・販売の選択制対象になっている
令和6年4月1日から、一部の福祉用具について福祉用具貸与と特定福祉用具販売の選択制が導入されています。
| 対象 | 対象範囲 |
|---|---|
| 固定用スロープ | 貸与・販売の選択制対象 |
| 歩行器 | 歩行車を除く |
| 単点杖 | 松葉づえを除く |
| 多点杖 | 貸与・販売の選択制対象 |
選択制では、「長く使うなら販売、短期間なら貸与」と使用期間だけで機械的に決めるものではありません。ケアマネジャーや福祉用具専門相談員から貸与・販売それぞれのメリット・デメリットなどの情報提供を受け、医師や専門職の意見、本人の身体状況などを踏まえて提案し、利用者が選択します。
PT・OTが関わる場合は、現在の身体機能だけでなく、今後の状態変化、用具変更の可能性、実際の使用場面、安全性などを具体的に共有すると、選択の判断材料になります。
PT・OTは「身体状況・住環境・状態変化・適合」で選ぶ
制度区分を確認した後にPT・OTが見るべきなのは、その方法が実際の生活動作に適合するかです。住宅改修と福祉用具のどちらが優れているかではなく、本人と住環境の組み合わせから判断します。
| 確認軸 | 見ること | 判断への使い方 |
|---|---|---|
| 身体状況 | 立位、移乗、歩行、上肢支持、認知機能、介助量 | どの動作へ、どの程度の支持が必要かを整理する |
| 住環境 | 床面、壁・下地、段差、通路幅、家具、扉、設置スペース | 用具を安全に設置できるか、工事が可能かを確認する |
| 状態変化 | 回復・悪化、介助量、移動方法の変化 | 今後も同じ位置・方法が適合するかを考える |
| 適合 | 把持位置、高さ、方向、使用時の動線 | 実際の生活動作で安全に使えるかを確認する |
| 本人・家族 | 本人の希望、介助方法、住宅への工事可否、管理方法 | 導入後も無理なく継続できる方法を選ぶ |
福祉用具で「試す」のは適合確認の方法の1つ
福祉用具や配置変更によって安全に試行できる場面では、把持位置や高さ、動作方向などを変えながら、本人に合う条件を確認できます。退院後に身体機能や介助量が変わる可能性が高い場合などでは、調整できること自体が判断材料になります。
ただし、これは住宅改修より福祉用具を優先すべきという意味ではありません。安全に試行できない、住宅構造上固定設備が必要、必要な把持位置が明確などの場合は、住宅改修を含めて関係職種と検討します。
迷ったら「生活課題 → 制度区分 → 適合 → 選択 → 再評価」で整理する
住宅改修と福祉用具で迷ったときは、最初から「手すりを付ける」「スロープを借りる」と方法を決めず、本人が困っている生活動作から逆算します。
| 手順 | 確認すること | 具体例 |
|---|---|---|
| ① 生活課題 | どの生活動作の、どこで困っているか | トイレ立ち上がり時に支持物がなく右へふらつく |
| ② 制度区分 | 住宅改修・貸与・販売のどれに該当するか | 据置型手すりか、壁への手すり取付けか |
| ③ 適合確認 | 本人の身体状況と住環境に合うか | 把持位置、高さ、足部位置、扉との干渉を確認する |
| ④ 選択 | 本人・家族・関係職種と方法を決める | 選択した方法と理由を共有する |
| ⑤ 再評価 | 導入・施工後に生活動作を確認する | 安全性、介助量、実際の使用状況を確認する |
家屋調査で、実際にどの動作を見るか、どこを採寸するか、写真や理由書へどう残すかまで確認したい場合は、家屋調査チェックリスト|PTが見る項目・採寸・理由書で詳しく整理しています。
記録は「生活課題・選択した方法・理由」をつなげて残す
住宅改修や福祉用具の提案では、「手すり必要」「スロープ導入」だけでは、後からなぜその方法を選択したのか分かりません。対象となる生活動作、身体・環境条件、選択した方法と理由を一続きで記録します。
| 場面 | 記録する順番 | 記録例 |
|---|---|---|
| 福祉用具を選ぶ | 生活課題 → 環境 → 用具 → 結果 | 「トイレ立ち上がり時に右方動揺あり。据置型手すりの把持位置調整後は見守りで実施可能」 |
| 住宅改修を選ぶ | 生活課題 → 必要な支持 → 工事案 → 理由 | 「浴室出入口で固定支持物がなく後方動揺あり。必要把持位置を確認し、壁面への手すり取付けを検討」 |
| 判断を保留する | 未確定事項 → 暫定対応 → 再評価 | 「退院後の介助量変化が見込まれ、固定位置は未決定。適合を再確認後、住宅改修の要否を検討する」 |
住宅改修と福祉用具のよくある質問
手すりは住宅改修と福祉用具貸与のどちらですか?
基本的には取付工事の有無を確認します。床へ置いて使用するなど工事を伴わない対象手すりは福祉用具貸与、壁・柱などへ工事によって取り付け、住宅改修の対象要件を満たす手すりは住宅改修になります。具体的な給付可否は市区町村等へ確認してください。
住宅改修より先に福祉用具を試す必要がありますか?
制度上、福祉用具を必ず先に利用しなければならないという一律の優先関係はありません。福祉用具で安全に位置や高さを試せる場合は適合確認に役立ちますが、住環境や必要な支持方法によっては住宅改修を直接検討する場合もあります。
スロープは住宅改修と福祉用具のどちらですか?
工事を伴わず使用する対象スロープは福祉用具、工事によって段差や傾斜を解消し住宅改修の対象要件を満たす場合は「段差の解消」として住宅改修になります。名称だけでなく、製品区分と設置方法を確認します。
固定用スロープは住宅改修ですか?
「固定用スロープ」という名称だけでは住宅改修とは判断できません。令和6年4月から、固定用スロープは福祉用具貸与と特定福祉用具販売の選択制対象になっています。一方、工事によってスロープを設置し、住宅改修の対象要件を満たす場合は「段差の解消」として住宅改修になります。
貸与と販売の選択制では、長く使うなら販売を選べばよいですか?
使用期間は判断材料の1つですが、それだけでは決まりません。貸与・販売それぞれのメリット・デメリット、身体状況、今後の変化、専門職の意見などを踏まえて提案し、利用者が選択します。
次の一手
- 住宅改修制度を詳しく確認する:介護保険の住宅改修|対象6種類・申請手順
- 現地での動作確認・採寸へ進む:家屋調査チェックリスト|PTが見る項目・採寸・理由書
参考文献・参考資料
- 厚生労働省. 福祉・介護 福祉用具・住宅改修. 公式ページ
- 厚生労働省. 介護保険の給付対象となる福祉用具及び住宅改修の取扱いについて. 老企第34号. 2000年1月31日. 公式通知
- 厚生労働省. 福祉用具貸与と特定福祉用具販売の選択制について. 公式資料
- 厚生労働省. 介護保険制度における住宅改修の概要. 公式資料
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

