退院前訪問指導の流れと持ち物|PT向け家屋調査のポイント

臨床手技・プロトコル
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退院前訪問指導は「家を見る」より「生活動作を家で確かめる」

退院前訪問指導でPTが確認したいのは、住宅の寸法だけではありません。重要なのは、病院ではできている生活動作が、自宅の環境でも成立するかを確認し、退院までに何を調整するか決めることです。

基本の流れは、①目的を決める → ②生活動線を見る → ③重点動作を確認する → ④必要箇所だけ採寸・撮影する → ⑤対応策と担当を決める、の5ステップです。

この記事では、退院前訪問指導に行くPT向けに、事前準備、持ち物、家屋調査で見る場所、動作確認、採寸、見落としやすい条件、本人・家族との合意、帰院後の記録まで順番に整理します。

最初に押さえる5ステップ

  1. 目的:今回の訪問で最優先に確認する生活場面を決める
  2. 動線:玄関から居室・トイレ・浴室まで生活の流れで見る
  3. 動作:退院後に実際に行う方法で重点動作を確認する
  4. 採寸:対応策を決めるために必要な場所だけ測る・記録する
  5. 合意:誰が・いつ・何を準備するかまで決める

退院前訪問指導の流れ|5ステップで進める

退院前訪問指導は、家に着いてすぐ採寸を始めるのではなく、目的→動線→動作→採寸→合意の順で進めると整理しやすくなります。家屋そのものではなく、「その環境で生活動作が成立するか」を軸に見ることがポイントです。

退院前訪問指導の5ステップ。目的を決める、生活動線を見る、重点動作を確認する、必要箇所だけ採寸・撮影する、対応策と担当を決める流れを示した図。
図:退院前訪問指導の5ステップ。家屋調査は「動作×環境」で確認し、見るだけで終わらせず対応策までつなげます。

訪問時間は対象者、住宅構造、同席者、確認する生活場面などで変わります。60〜90分程度を想定した進め方は一つの運用例であり、標準時間ではありません。限られた時間では、家全体を均等に確認するより、退院直後に頻度が高い場面や事故時の影響が大きい場面へ優先順位を付けます。

事前準備|訪問前に「何を確認するか」を決める

事前準備の目的は、当日の確認項目を増やすことではなく、今回の訪問で答えを出したい問題を絞ることです。目的が曖昧なまま訪問すると、写真や寸法は増えても、退院後の対応策まで決まりにくくなります。

1.最優先の生活場面を決める

排泄、入浴、玄関出入り、寝室、階段などから、退院直後に特に確認したい場面を決めます。

例えば、「自宅で歩けるか」ではなく、「夜間に寝室からトイレまで移動し、排泄を終えて戻れるか」まで具体化すると、当日見るべき場所と動作が明確になります。

2.病院での能力と退院後の方法を整理する

  • 移動手段:独歩、杖、歩行器、車椅子など
  • 移乗方法:自立、見守り、一部介助など
  • 排泄・入浴・更衣の介助量
  • 認知機能、注意、危険認識
  • 疲労、疼痛、呼吸困難など動作を変化させる症状
  • 普段使用している装具・福祉用具

3.家族・介助者の条件を確認する

本人だけで動作が成立しても、退院後に家族介助を予定している場合は、介助者の身体能力や立ち位置も確認対象になります。

「誰が介助するのか」「どの時間帯に介助できるのか」「一人になる時間があるのか」まで整理しておくと、必要な環境調整を考えやすくなります。

4.同席者と写真の扱いを確認する

本人・家族のほか、必要に応じてケアマネジャー、福祉用具事業者などとの連携を検討します。撮影する場合は、本人・家族への説明と施設の個人情報管理ルールに従って、撮影・保存・共有方法を確認しておきます。

退院前訪問指導の持ち物|PTが準備したいもの

持ち物は「何でも持って行く」のではなく、測る・記録する・安全を確保する・共有するという目的から準備します。施設の運用や対象者によって必要物品は変わるため、以下は基本セットとして考えてください。

退院前訪問指導で準備したい持ち物
目的 持ち物の例 使う場面
測る メジャー 開口幅、段差、便座高、ベッド高、浴槽縁高など
測る レーザー距離計 廊下や室内など比較的長い距離を確認するとき
記録する クリップボード、筆記具、予備ペン 寸法、動作、本人・家族の希望をその場で残す
図にする 白紙・方眼紙など 簡単な間取りや家具・手すり候補位置を残す
撮影する 施設で使用を認められた撮影機器 動線、段差、扉、把持点などを共有するとき
安全を守る 滑りにくい履物、小型ライトなど 暗い場所や段差、水回り周辺を確認するとき
確認する 対象者情報・当日の確認事項 目的から外れず訪問を進めるため

福祉用具を実際に試す予定がある場合は、必要物品や搬入方法について事前に関係職種・事業者と確認しておきます。

家屋調査で見る場所|「場所」ではなく生活動作とセットで確認する

家屋調査では、玄関やトイレの寸法を単独で見るのではなく、そこで本人が何をするのかとセットで確認します。同じ段差や扉幅でも、移動手段や介助方法によって問題になる条件は変わります。

家屋調査で確認したい主な場所と生活動作
場所 環境で見るポイント 一緒に確認したい動作
玄関・屋外 段差、上がり框、手すり、扉、通路幅、路面、勾配 出入り、段差昇降、靴の着脱、方向転換、補助具操作
居室・寝室 ベッド高、家具配置、通路、照明、床面 起き上がり、立ち上がり、移乗、夜間移動
廊下 有効幅、曲がり角、家具、把持できる場所、照明 歩行、車椅子操作、方向転換、介助者の付き方
トイレ 入口幅、扉、便座高、壁・手すり候補、介助スペース 進入、方向転換、下衣操作、着座、立ち上がり
浴室・脱衣所 入口段差、扉、浴槽縁高、洗い場、手すり、椅子配置 更衣、出入り、またぎ、立ち座り、洗体
階段 段数、段差、踏面、手すり、踊り場、照明 昇降、方向転換、荷物を持つ場面、見守り・介助

すべての場所を同じ密度で確認する必要はありません。退院後に使用しない浴室を細かく測るより、毎晩使用するトイレ動線を詳しく確認する方が重要なケースもあります。

「動作×環境」で見る|どこで崩れたかを特定する

退院前訪問指導で重要なのは、「できた・できなかった」だけで終わらせないことです。どこで動作が崩れたのか、その崩れは本人の能力だけでなく環境条件で説明できないかを確認します。

基本の考え方
どこで崩れたか → なぜ崩れたか → 条件を変えるとどうなるか → 何を調整するか

トイレなら一連の動作で見る

例えばトイレでは、「便座から立てるか」だけでは不十分です。

  • トイレ入口を通過できるか
  • 補助具を扱いながら扉を開閉できるか
  • 便器前で方向転換できるか
  • 支持物を確保しながら下衣操作できるか
  • 安全に着座・立ち上がりできるか
  • 介助が必要な場合、介助者が入るスペースがあるか

このように動作を分けると、「筋力不足」だけでなく、扉の向き、支持物の途切れ、補助具の置き場所、狭さなど、環境側の修正候補が見えてきます。

病院でできても自宅で崩れる条件を探す

病院では、廊下が広い、床が平坦、手すりが連続している、照明が確保されているなど、自宅とは条件が異なります。

そのため、病棟で自立している動作でも、自宅では狭い方向転換、段差、扉操作、物を持つ動作、支持物の途切れによって難しくなる場合があります。

採寸・撮影|「何の判断に使う数字か」を決めてから測る

採寸は家中の寸法を集める作業ではありません。福祉用具、家具配置、動作方法、住宅改修などの判断に必要な数字を残します。

退院前訪問指導で採寸することが多い項目
採寸項目 確認する理由 見るポイント
有効開口幅 歩行器や車椅子で通過できるか判断する 扉そのものではなく実際に通れる幅を見る
段差高 昇降方法や環境調整を検討する 玄関、敷居、浴室入口など
便座高 立ち上がりや着座条件を考える 足部位置や支持物と合わせて確認する
ベッド高 立ち上がり・移乗条件を調整する 実際に使用する寝具条件で確認する
浴槽縁高 浴槽またぎ方法や福祉用具を検討する 洗い場側・浴槽内側の条件も合わせて見る
廊下・旋回部 補助具や介助者を含めて通過できるか確認する 家具を置いた実際の有効スペースを見る

手すりについては、PTが必要な支持方向や候補位置を整理することはできますが、壁内部の下地や施工可否までPTだけで断定しないことが重要です。固定方法や施工可否は、住宅改修を担当する事業者等と確認します。

写真を残す場合も、撮影枚数を増やすより、「どの場所の、何を判断するための写真か」が分かることを優先します。可能であれば全景と重点箇所を対応させ、本人・家族への説明と施設ルールに沿って管理します。

見落としやすい条件|夜間・片手・急ぎ・水回り・介助者スペース

日中の落ち着いた条件だけで動作を見ると、退院後に起こる問題を拾いきれないことがあります。一方で、転倒につながる危険な状況を実際に再現する必要はありません。聞き取りと安全な範囲での動作確認を組み合わせて評価します。

退院前訪問指導で見落としやすい生活条件
条件 確認したいこと 確認方法の例
夜間 暗さ、眠気、照明スイッチ、トイレまでの動線 照明配置を確認し、本人・家族から夜間状況を聞く
片手 杖や手すり使用中に扉・衣服を扱えるか 補助具と扉操作、下衣操作の組み合わせを見る
急ぎ 尿意切迫などで動作が速くなったときの問題 意図的に急がせず、経験を聞き取り動線を確認する
水回り 濡れた環境での滑りやすさや支持物 危険な濡れ条件を作らず、床材・手すり・動作方法を確認する
介助者スペース 介助者が安全な姿勢を取れるか 本人だけでなく介助者の立ち位置と移動範囲を見る

終了前に合意する|用具・配置・改修と担当者を整理する

退院前訪問指導は、家を確認して帰るだけでは完結しません。最後に、「何を変えるのか」「誰が対応するのか」「いつまでに確認するのか」まで整理します。

環境調整では、すぐに固定的な住宅改修へ進むのではなく、対象者の状態や退院時期に応じて、家具配置の変更、福祉用具の試用、動作方法の変更など、比較的調整しやすい方法から検討することがあります。

帰る前に確認したい5点

  • 退院までに変更するものは何か
  • 福祉用具を試す必要があるか
  • 住宅改修の検討が必要か
  • 誰が各対応を進めるか
  • いつ、どの方法で再確認するか

本人・家族の希望も重要です。安全性だけで決めるのではなく、生活習慣、住宅内で大切にしていること、介助者の負担、費用や準備期間なども含めて現実的な方法を検討します。

帰院後の記録|目的・事実・提案・担当・再確認を残す

退院前訪問指導の記録は、長文を書くことより、次に読む人が「何が問題で、何をすることになったのか」を理解できることが重要です。

帰院後に残したい退院前訪問指導の記録項目
項目 残す内容 記録例
目的 今回の訪問で確認した生活場面 排泄動作と夜間トイレ動線の確認
事実 実際に観察した動作と環境条件 トイレ前の方向転換時に支持物が途切れる
実測値 判断に使用する寸法 トイレ有効開口幅650mm、便座高410mm
対応策 用具・配置・動作方法・改修等の方針 手すり候補位置を共有し、福祉用具も含めて検討
合意・担当 本人・家族との合意、担当者 福祉用具事業者が候補を提示し、退院前に再確認
再確認 次に評価する内容・時期 用具導入後にトイレ移動と立ち座りを再確認

制度上の算定要件や記録上の注意点まで確認したい場合は、記事末の「退院前訪問指導料の算定要件と必要書類」へ進んでください。

退院前訪問指導の位置づけ|効果を断定せず、生活環境とのズレを確認する

退院前の家屋評価・訪問については、転倒や再入院などへの効果を検討した研究があります。2015年のシステマティックレビューでは、一部のアウトカムで有益な結果が報告された一方、エビデンスの質には限界がありました。[3]

その後の2021年の統合レビューでは、ADL、QOL、移動、転倒、再入院などへの効果について不確実性が残るとされています。一方で、安全に関する教育、患者への情報提供、福祉用具や環境調整の受け入れ、機能評価、手順の標準化、患者・環境要因の考慮などが重要な要素として整理されています。[2]

したがって、退院前訪問指導を「実施すれば転倒や再入院を防げる」と単純に捉えるのではなく、病院内で評価した能力と実際の生活環境とのズレを確認し、退院までに具体的な調整へつなげる機会として活用することが重要です。

よくある失敗|採寸や写真を増やすほど良いわけではない

退院前訪問指導がまとまりにくいときは、情報量不足ではなく、確認する順番がずれていることがあります。

  • 目的を決めずに家全体を見る:情報は増えるが、優先すべき問題が分からなくなる
  • 採寸から始める:数値は残るが、その数値を何の判断に使うのか曖昧になる
  • 本人だけを見る:実際には介助者の立ち位置や介助力がボトルネックになることがある
  • 日中の安定した条件だけを見る:夜間、片手、急ぎ、水回りなど生活上の問題を拾いにくい
  • 住宅改修をその場で固定する:福祉用具や配置変更など、より調整しやすい選択肢を比較できなくなる
  • 見るだけで終了する:担当者と期限が決まらず、退院までに対応が完了しない

迷ったときは、「今回の訪問で確認したかった生活場面は何か」へ戻り、必要な情報だけを追加していくと整理しやすくなります。

よくある質問

退院前訪問指導で最初にどこを見ればよいですか?

場所を先に決めるのではなく、退院後に最も困りそうな生活場面を決めます。排泄が最優先なら、寝室からトイレまでの動線、入口、方向転換、下衣操作、立ち座りまで一連で確認します。

時間が足りないときは何を優先しますか?

使用頻度が高い場面、または失敗した場合の影響が大きい場面を優先します。玄関、トイレ、寝室、浴室などから対象者ごとに絞り、重点動作を確認してから必要箇所のみ採寸します。

写真はたくさん撮った方がよいですか?

枚数よりも目的が重要です。「どの場所の何を判断する写真か」が分かるようにします。本人・家族へ説明し、施設の個人情報管理ルールに従って撮影・保存・共有してください。

最低限、何を採寸すればよいですか?

全員共通の必須項目があるわけではありません。対応策の判断に必要な有効開口幅、段差高、便座高、ベッド高、浴槽縁高、通路幅などを対象者の生活課題に合わせて測ります。

PTが手すりの設置場所まで決めてもよいですか?

動作から必要な支持方向や候補位置を整理することは重要ですが、壁内部の下地や施工方法までPTだけで判断するのは避けます。本人・家族の希望を確認し、必要に応じて福祉用具事業者や施工事業者などと共有して施工可否を確認します。

60〜90分で実施するのが標準ですか?

いいえ。本記事の60〜90分は訪問を組み立てる際の一例で、標準時間を示すものではありません。対象者の状態、住宅、確認する生活場面、同席者などに合わせて調整します。

次に確認する記事

制度・記録を確認する

対象、算定回数、必要な記録など制度面を確認するときはこちらです。

退院前訪問指導料の算定要件と必要書類を見る

家屋情報を図で共有する

扉、動線、寸法などを間取り図へ整理するときはこちらです。

退院前訪問指導の間取り図の書き方を見る


参考文献

  1. 厚生労働省. 診療報酬の算定方法 B007 退院前訪問指導料. 厚生労働省
  2. Kirchner-Heklau U, Krause K, Saal S. Effects, barriers and facilitators in predischarge home assessments to improve the transition of care from the inpatient care to home in adult patients: an integrative review. BMC Health Serv Res. 2021;21:540. doi: 10.1186/s12913-021-06386-4
  3. Lockwood KJ, Taylor NF, Harding KE. Pre-discharge home assessment visits in assisting patients’ return to community living: a systematic review and meta-analysis. J Rehabil Med. 2015;47(4):289-299. doi: 10.2340/16501977-1942 / PubMed: 25782842
  4. Lannin NA, Clemson L, McCluskey A, Lin CW, Cameron ID, Barras S. Feasibility and results of a randomised pilot-study of pre-discharge occupational therapy home visits. BMC Health Serv Res. 2007;7:42. doi: 10.1186/1472-6963-7-42 / PubMed: 17355644
  5. Godfrey M, Cornwell P, Eames S, Hodson T, Thomas T, Gillen A. Pre-discharge home visits: a qualitative exploration of the experience of occupational therapists and multidisciplinary stakeholders. Aust Occup Ther J. 2019;66(3):249-258. doi: 10.1111/1440-1630.12561 / PubMed: 30740713

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を2022年4月に開設。医療機関・介護福祉施設・訪問リハの現場経験をもとに、理学療法評価や臨床での判断・記録につながる情報を発信しています。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験があります。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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