DTI / DU の見分け方:深さ( D )の判断で迷わない
結論:DESIGN-R® 2020 の「深さ( D )」で迷いやすいのは、深部損傷が疑われる状態( DDTI )と、壊死で創底が見えず深さを決められない状態( DU )の切り分けです。本記事では、見た目だけで決め打ちせず、創底が見えるか/急性の深部損傷らしさがあるかの 2 軸で判断できるように整理します。
まず DESIGN-R® 2020 全体( 7 項目の意味、採点の流れ、記録の型 )を押さえたい場合は、親記事の【design-r2020:褥瘡】評価項目 7 つと採点のポイントから読むと最短です。本記事は、その中でも「 D の迷い」を単独で解消する各論として設計しています。
なぜ DTI / DU で迷うのか(現場の詰まりどころ)
ベッドサイドでは、発赤・紫色調・水疱・びらんなどの表層所見が先に見え、深部の損傷を直接 “見る” ことが難しい場面が多いです。一方で、壊死が付着して創底が隠れていると、深さは見た目で決められません。
その結果、「紫っぽいから DTI」「黒いから DU」と短絡しやすくなります。ここで重要なのは、①創底が見えて深さを判定できるか、②深部損傷を疑う “急性のサイン” が揃っているかを、観察と経過で丁寧に拾うことです。
DESIGN-R® 2020 で変わった “ D(深さ)” の要点
改定のキモは、深部損傷を疑う病態を拾うために DDTI が追加された点と、DU が「壊死で創底が見えず深さ判定ができない状態」として整理された点です。つまり、DU は “深い” を意味する記号ではなく、深さのラベルを貼れない状況を示します。
また、 D の基本は従来どおり「最も深い部位」で判断します。創底が見えるなら、見える組織(皮下・筋腱・関節腔など)に合わせて D3〜D5 を決め、改善して浅く見えてきても “最深部に相当する深さ” を基準に記録して経時変化を追います。
迷ったら 30 秒:DTI / DU の最短判断フロー
まずは “決め打ち” を避け、以下の順に当てはめてください。ポイントは、創底が見えるかどうかを最初に確認することです。
| 最初に見る | YES のとき | NO のとき | 記録の考え方 |
|---|---|---|---|
| 創底(最深部)が “見える” | D3〜D5 を判定(最深部で) | 次の行へ | 深さは「見える組織」で決める |
| 壊死で創底が “見えない” | DU を検討 | 次の行へ | DU は深さそのものではなく「深さ判定不能」 |
| 深部損傷を疑う “急性サイン” が強い | DDTI を検討 | 経過観察で再評価 | 疼痛・硬さ・温冷感、暗赤〜紫色調、水疱など |
このフローで “当日の暫定ラベル” を決めたら、次に重要なのは 24〜48 時間の経過です。DTI 系は目に見える変化より前に組織損傷が進むことがあり、所見が “遅れて出る” ことがあります。
DDTI(深部損傷を疑う)を疑う所見と見方
DDTI は、表層の破綻が軽く見えても、深部で強い圧迫・ずれが起き、皮下〜筋層の損傷が疑われる状態を拾うための考え方です。見た目だけでなく、触って分かる質感と、本人の訴え(痛み)が手がかりになります。
観察は「視診 → 触診 → 経過」でセットにします。特に、周囲皮膚と比べた硬さ( firm )/ぶよぶよ( boggy )/温度差( warmer / cooler )や、暗赤〜紫色調、血疱様の水疱は “深部損傷らしさ” を高めます。
DDTI を疑うチェック(ベッドサイド)
- 暗赤〜紫色調が局在している(圧迫しても戻りにくい)
- 痛みが強い/違和感が強い(訴えが取れる場合)
- 触ると硬い、またはぶよぶよしている
- 周囲と比べて温かい/冷たい(温度差)
- 血疱様の水疱、表皮剥離が出てきた
- 発生状況として “強い圧迫+ずれ” が疑わしい(倒れていた、長時間同一姿勢、シーティング不良など)
DDTI を “固定” しない:再評価の約束をセットで書く
DDTI は「疑う」ためのラベルなので、書いた瞬間に終わりではありません。いつ再評価するか(例:翌日、 48 時間後)と、何を見るか(色調、硬さ、痛み、表皮の変化、滲出液)を一緒に決めると、チーム内の判断が揃います。
DU(壊死で深さ判定不能)の判断:どこまでを DU と書くか
DU は、壊死組織( slough / eschar )で創底が覆われ、最深部が見えないため深さを決められない状態です。ここで大切なのは、DU を「重症の記号」として使わず、“深さ情報が欠けている” 事実として扱うことです。
つまり、壊死が取れて創底が見えるようになったら、DU を外して D3〜D5 に移行します。逆に、壊死が一部でも「最深部が見える」なら、原則は D3〜D5 を判定し、壊死の量は別項目( N など)で表現します。
DU と判断しやすい状態
- 厚い壊死で中央が覆われ、創底が見えない
- 壊死の下にどの組織があるか視診で追えない
- 深さ評価が “推測” になってしまう
DU のよくある誤り(失敗パターン)
- 黒い部分があるだけで DU にする(創底が見えているのに)
- DU を “深い” と同義に扱い、 D3〜D5 の再判定を忘れる
- 壊死が取れた後も DU のまま経過が止まる
記録で迷わない:申し送りが通る書き方(例)
書式は施設ルールに合わせつつ、迷いが出る D は「根拠」「再評価予定」をセットにすると強いです。特に DDTI と DU は、“なぜそう判断したか”がチームで共有されると、翌日の評価がスムーズになります。
一文テンプレ(例)
・D:DDTI(暗赤〜紫色調+硬さ+疼痛あり。発生状況として圧迫とずれが疑わしいため) → 24〜48 時間で色調・硬さ・表皮変化を再評価する ・D:DU(壊死で創底が確認できず、最深部の深さ判定が不能) → 壊死の変化を追い、創底が確認でき次第 D3〜D5 に再判定する
よくある間違い( Do / Don’t )
DTI / DU の混乱は、見た目に引っ張られて “ラベル先行” になると起きやすいです。以下の Do / Don’t を共有しておくと、チームのズレが減ります。
| 場面 | Don’t(やりがち) | Do(おすすめ) | 理由 |
|---|---|---|---|
| 紫っぽい | 即 DDTI と決める | 触診(硬さ・温度)と経過観察をセットに | 深部損傷は所見が遅れて出ることがある |
| 黒い壊死がある | 全部 DU にする | 最深部が見えるかで DU / D3〜D5 を分ける | DU は「深さ判定不能」を示す |
| 壊死が取れた | DU のまま据え置く | 創底が見えたら D を再判定 | 深さ情報が更新されたタイミング |
よくある質問(FAQ)
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Q1.DDTI と判断したら、いつ再評価すべきですか?
基本は “翌日〜 48 時間” を目安に、色調、硬さ、疼痛、温度差、表皮剥離や水疱の有無、滲出液の変化を追います。DDTI は「疑い」なので、経過で所見がはっきりしてくる前提で、再評価の時点を最初から約束しておくと運用が安定します。
Q2.壊死が少しあるだけでも DU にしていいですか?
目安は「最深部が見えるかどうか」です。壊死が一部でも、創底の最深部が見えて深さを判定できるなら、原則は D3〜D5 を判断し、壊死の量は別の観察・評価で表現します。最深部が壊死で隠れて “推測” しかできないときに DU を使うと、後の再判定がスムーズです。
Q3.DDTI と DU が混在するように見えるときは?
まず「深さが判定できるか」を優先し、創底が見えないなら DU を軸に考えます。その上で、周囲皮膚に深部損傷らしいサイン(硬さ、温度差、疼痛、暗赤〜紫色調)が強い場合は、所見として具体的に記録し、再評価で D を更新します。混在を “ 1 語で片づける” より、観察所見を丁寧に残す方がチームの合意が取りやすいです。
Q4.画像検査は必須ですか?
必須ではありませんが、深部損傷が疑われ、臨床経過と整合しない場合や、合併症リスクが高い場合は補助的に検討されます。現場ではまず、発生状況(圧迫・ずれ・時間)、視診、触診、経過の 4 点セットで “疑いの強さ” を揃えることが実務的です。
まとめ:D は「見える深さ」か「疑い」かを切り分ける
DTI / DU で迷ったら、最初に「創底が見えて深さを判定できるか」を確認し、次に「深部損傷を疑う急性サインが強いか」を見ます。DU は “深い” のラベルではなく、深さが決められない状態です。
評価は 1 回で完結させず、観察 → ラベル(暫定)→ 再評価で精度が上がります。特に DDTI は経過で所見がはっきりしてくる前提で、再評価の約束をセットにして運用すると迷いが減ります。
参考文献
- 日本褥瘡学会.改定 DESIGN-R® 2020(資料).https://jspu.org/medical/books/docs/design-r2020_doc.pdf
- 日本褥瘡学会.改定 DESIGN-R® 2020 練習問題(資料).https://www.jspu.org/medical/design-r/docs/design-r2020_traning.pdf
- National Pressure Injury Advisory Panel (NPIAP). Pressure Injury Stages(PDF).https://cdn.ymaws.com/npiap.com/resource/resmgr/online_store/npiap_pressure_injury_stages.pdf
- Edsberg LE, et al. Revised National Pressure Ulcer Advisory Panel Pressure Injury Staging System. J Wound Ostomy Continence Nurs. 2016;43(6):585-597. doi:10.1097/WON.0000000000000281. PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
おわりに
DTI / DU の判断は「ラベルを当てる」よりも、創底が見えるか/深部損傷を疑う根拠があるかを丁寧に拾い、再評価で更新する運用が要になります。明日からは「観察 → 暫定判定 → 24〜48 時間で再評価」のリズムで、チームの迷いを減らしていきましょう。
あわせて、日々の記録や申し送りを整えると臨床の再現性が上がります。面談準備チェックと職場評価シートの活用も含めて、キャリアの整理をするなら「マイナビコメディカル」記事のダウンロード導線も活用してみてください。

