EAT-10と聖隷式嚥下質問紙の違い|4つの比較軸で使い分け

栄養・嚥下
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結論:EAT-10と聖隷式は「初回/再評価」だけで分けません

EAT-10と聖隷式嚥下質問紙は、どちらも摂食嚥下障害のスクリーニングに使われる質問紙ですが、選ぶ基準は「初回なら聖隷式、再評価ならEAT-10」と固定するものではありません。本人が感じる嚥下の問題を点数で捉えたいならEAT-10、肺炎歴や栄養状態を含む幅広い症状・背景を確認したいなら聖隷式という違いがあります。

この記事では、EAT-10と聖隷式の違いを「何を知りたいか」「本人から回答を得られるか」「評価期間」「判定方法」の4軸で比較します。各質問紙の細かな実施方法ではなく、どちらを選ぶか迷ったときの判断に絞って整理します。

嚥下評価全体の順番を確認したい方へ

質問紙は嚥下評価の一部です。スクリーニングから食事観察、臨床評価、VE・VFまでの全体像は親記事で整理しています。


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EAT-10と聖隷式の違いは「何を知りたいか」から考えます

最初に見るべきなのは実施時期ではなく、質問紙から何を知りたいかです。EAT-10は本人が感じる嚥下の問題を10項目で数値化する質問紙、聖隷式は15項目から肺炎歴、栄養状態、口腔・咽頭・食道機能などを幅広く確認する質問紙です。

EAT-10と聖隷式嚥下質問紙を、目的・回答可能性・評価期間から選ぶ考え方を示した比較図。EAT-10は自覚症状の定量化、聖隷式は幅広い症状の確認に用い、本人回答が難しい場合は質問紙単独に頼らず他の嚥下評価へ進むことを示している
EAT-10と聖隷式は、初回/再評価だけでなく、目的・回答可能性・評価期間・判定方法から選びます。
EAT-10と聖隷式嚥下質問紙の主な違い
比較軸 EAT-10 聖隷式嚥下質問紙
主な目的 本人が感じる嚥下の問題を定量化する 嚥下に関連する症状・背景を幅広く確認する
項目・回答 10項目を0〜4点で回答 15項目をA・B・Cで回答
評価期間 各項目に沿って本人の自覚症状を評価する 「ここ2〜3年」の状態を振り返って回答する
代表的な判定 合計3点以上が目安 原法ではAが1項目以上で嚥下障害を疑う
選びやすい場面 自覚症状を点数として残したいとき 症状や背景を広く確認したいとき

この違いを押さえると、「どちらの質問紙が優れているか」ではなく、今回の評価目的に合うのはどちらかで選べるようになります。

どちらを選ぶ?3つの場面で考えると整理しやすいです

実際の使い分けでは、①自覚症状を数値化したい、②幅広い症状・背景を確認したい、③本人から信頼できる回答を得にくい、の3場面に分けると判断しやすくなります。

自覚症状を点数で捉えたいならEAT-10

EAT-10は10項目について、問題なしの0点から重度の4点までで回答し、合計0〜40点で評価します。原著では3点以上が異常の目安とされ、日本語版でも摂食嚥下障害のスクリーニングに有用であることが検証されています。

特徴は、本人が感じている嚥下の問題を共通の点数で残せることです。原著では初期の嚥下症状の把握に加えて、治療反応を追跡するアウトカムとしての利用も示されています。そのため、同じ方法で評価を繰り返し、自覚症状の変化を確認したい場面にも使いやすい質問紙です。

ただし、合計点だけで誤嚥の有無や嚥下障害の原因を確定する尺度ではありません。3点以上だから直ちに特定の食形態や対応を決めるのではなく、質問紙の結果を次の臨床評価につなげます。

症状・背景を幅広く確認したいなら聖隷式

聖隷式嚥下質問紙は15項目で構成され、肺炎の既往、栄養状態、口腔・咽頭・食道機能、声門防御機構など、摂食嚥下障害に関連する情報を幅広く確認します。回答はA:重い症状、B:軽い症状、C:症状なしの3段階です。

原法では、15項目のうちAが1項目以上あれば摂食嚥下障害の存在を疑うという判定方法が用いられています。開発研究では、この方法で感度92.0%、特異度90.1%が報告されています。

もう1つ重要なのが評価期間です。聖隷式では「ここ2〜3年」の状態について回答することが示されています。そのため、数日〜数週間の状態変化だけを追う目的では、質問紙が想定する時間軸と一致しにくい点に注意します。

本人から信頼できる回答を得にくいなら質問紙だけで決めない

EAT-10は自己記入式の症状特異的質問紙として開発されています。日本語版の検証では、対象となった要介護高齢者393人のうちEAT-10を実施できたのは237人(60%)で、実施できない人では摂食嚥下障害や誤嚥を有する割合が高いことも報告されています。

認知機能、意識状態、失語などの影響で回答の信頼性を確保しにくい場合は、どちらかの質問紙を無理に選んで点数化することを目的にしません。食事場面の観察やベッドサイドでの嚥下評価など、本人の回答だけに依存しない情報を組み合わせて判断します。

判定方法はEAT-10・聖隷式で分けて覚えます

2つの質問紙は回答形式だけでなく、判定方法も異なります。特に聖隷式では、原法と後に研究されたスコア化法を混同しないことが重要です。

EAT-10と聖隷式嚥下質問紙の判定方法
質問紙 回答方法 判定の目安 注意点
EAT-10 各項目0〜4点
合計0〜40点
合計3点以上 スクリーニング結果だけで診断や食形態を決めない
聖隷式:原法 A・B・C Aが1項目以上 Bがあることと、原法で陽性になることを混同しない
聖隷式:スコア化法 A=4点、B=1点、C=0点 8点をカットオフとする方法が研究で提案 原法とは別に検討された評価方法として扱う

EAT-10は3点以上を「次を確認する目安」と考える

EAT-10では合計3点以上が異常の目安です。ただし、質問紙で捉えているのは本人が感じる嚥下の問題であり、嚥下の各相の機能や誤嚥を直接観察しているわけではありません。

したがって、3点以上だった場合は「嚥下障害が確定した」と解釈するのではなく、症状の内容を確認し、必要な臨床評価へ進むためのスクリーニング結果として扱います。

聖隷式は原法とスコア化法を混在させない

聖隷式の原法では、Aの回答が1項目でもあれば摂食嚥下障害の存在を疑います。一方、2020年には回答をA=4点、B=1点、C=0点としてスコア化し、8点をカットオフとする方法が検討されました。

このスコア化法では感度90.0%、特異度89.8%が報告され、原法と同程度の精度が示されています。ただし、これは原法とは別に研究された評価方法です。「施設ごとに自由な点数を設定する」という意味ではなく、どの判定方法を使っているのかを区別して記録することが大切です。

「初回は聖隷式、再評価はEAT-10」と固定しない理由

EAT-10は治療前の嚥下症状を捉える用途にも使用できるため、初回だからEAT-10を選べないわけではありません。反対に、聖隷式も摂食嚥下障害のスクリーニング質問紙として開発されており、初回評価だけに限定された尺度ではありません。

一方で、両者には評価する内容と時間軸に違いがあります。EAT-10は本人が感じる症状を点数化でき、同じ方法で繰り返すことで変化を確認しやすい特徴があります。聖隷式は「ここ2〜3年」を振り返りながら、肺炎歴や栄養状態を含む幅広い症状を確認します。

したがって、使い分けは「何回目の評価か」だけではなく、今回知りたい情報と質問紙の特徴が合っているかで判断する方が整理しやすくなります。

目的から選ぶEAT-10と聖隷式
今回知りたいこと 選択の考え方
本人が感じる嚥下の問題を点数で残したい EAT-10が選択肢になる
肺炎歴や栄養状態を含めて症状を幅広く確認したい 聖隷式が選択肢になる
同じ質問紙で自覚症状の変化を確認したい EAT-10の特徴を活かしやすい
直近数日〜数週間だけの変化を確認したい 聖隷式の「ここ2〜3年」という時間軸を踏まえ、質問紙以外の評価も組み合わせる
本人から信頼できる回答を得にくい 質問紙だけに頼らず、食事観察や他の嚥下評価を優先する

どちらを使っても、質問紙だけで嚥下機能を確定しません

EAT-10も聖隷式も、質問への回答から摂食嚥下障害の可能性を確認するためのスクリーニングツールです。質問紙だけでは、実際の嚥下運動、誤嚥の有無、食形態の適否、障害部位などを確定できません。

基準を満たした場合や、基準未満でも食事中のむせ、湿性嗄声、摂取量低下など気になる所見がある場合は、質問紙の結果だけで終了せず、食事場面の観察や臨床的な嚥下評価へ進みます。必要性に応じて、より詳細な評価を検討します。

つまり質問紙の役割は、「陽性か陰性か」で評価を終えることではなく、次に確認すべき人を見つけることです。

使い分けで避けたい3つの誤解

EAT-10と聖隷式を比較するときは、尺度の特徴を単純な優劣や固定的な順番へ置き換えないことが重要です。

  • 「初回は必ず聖隷式」と決める:初回でも、自覚症状を定量化する目的ならEAT-10を選択できます。
  • 「EAT-10が3点以上なら嚥下障害確定」と考える:3点以上はスクリーニング上の目安であり、質問紙単独で診断するものではありません。
  • 「聖隷式のBもすべて陽性」と扱う:原法ではAが1項目以上あることを判定基準とします。軽い症状の存在と原法の陽性判定は分けて考えます。

尺度名から選ぶのではなく、目的・回答可能性・評価期間・判定方法を確認してから選ぶことが、2つの質問紙を適切に使い分けるポイントです。

よくある質問(FAQ)

Q1. EAT-10と聖隷式は、最初にどちらを使えばよいですか?

初回かどうかだけでは決めません。本人が感じる嚥下の問題を点数で捉えたい場合はEAT-10、肺炎歴や栄養状態を含めた症状・背景を幅広く確認したい場合は聖隷式が選択肢になります。

Q2. EAT-10が3点以上なら嚥下障害と診断できますか?

診断はできません。3点以上はスクリーニング上の目安です。結果を食事場面の観察や臨床的な嚥下評価と組み合わせ、必要な次の評価を判断します。

Q3. 聖隷式でBが1つでもあれば陽性ですか?

原法では、Aが1項目以上ある場合に摂食嚥下障害の存在を疑います。Bは軽い症状を示しますが、Bがあることと原法で陽性になることは同じではありません。スコア化法を用いる場合は、原法と区別して扱います。

Q4. EAT-10と聖隷式を両方実施してもよいですか?

目的が異なるため、必要性があれば両方から情報を得ることは考えられます。ただし、全例に2つ実施すること自体を目的にせず、今回知りたい情報に必要な質問紙を選びます。

Q5. 認知機能低下などで本人が回答できない場合はどうしますか?

質問紙の点数を無理に成立させることを優先しません。回答の信頼性が十分でない場合は、食事場面の観察や他の嚥下評価を組み合わせ、本人の回答だけに依存しない方法で確認します。

次の一手

EAT-10と聖隷式のどちらを使うか決まったら、次はそれぞれの実施方法と判定を確認します。


参考文献

  1. Belafsky PC, Mouadeb DA, Rees CJ, Pryor JC, Postma GN, Allen J, et al. Validity and reliability of the Eating Assessment Tool (EAT-10). Ann Otol Rhinol Laryngol. 2008;117(12):919-924. doi: 10.1177/000348940811701210. PubMed: 19140539.
  2. 若林秀隆, 栢下淳. 摂食嚥下障害スクリーニング質問紙票EAT-10の日本語版作成と信頼性・妥当性の検証. 静脈経腸栄養. 2014;29(3):871-876. doi: 10.11244/jjspen.29.871.
  3. 大熊るり, 藤島一郎, 小島千枝子, 北條京子, 武原格, 本橋豊. 摂食・嚥下障害スクリーニングのための質問紙の開発. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌. 2002;6(1):3-8. doi: 10.32136/jsdr.6.1_3.
  4. 中野雅徳, 藤島一郎, 大熊るり, 吉岡昌美, 中江弘美, 西川啓介, 他. スコア化による聖隷式嚥下質問紙評価法の検討. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌. 2020;24(3):240-246. doi: 10.32136/jsdr.24.3_240.
  5. 日本老年歯科医学会. 口腔機能低下症に関する基本的な考え方. 嚥下機能低下の評価:EAT-10・聖隷式嚥下質問紙. 日本老年歯科医学会資料.

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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