結論:初回は 聖隷式、経時変化は EAT-10 が基本です
EAT-10 と 聖隷式嚥下質問紙で迷ったら、まず決めるのは「初回に疑いを拾うのか」「介入前後の変化を点数で追うのか」です。現場で回しやすいのは、初回は 聖隷式、フォローは EAT-10 という役割分担です。
この記事で答えるのは、どちらを先に使うか、陽性後にどう動くか、判定ルールをどう固定するかです。各質問項目の細かな採点や単独運用は兄弟記事に分け、ここでは比較と使い分けに絞って整理します。
比較の結論:迷ったら「聖隷式で拾う → EAT-10 で追う」で回します
病棟・施設・外来でまず優先したいのは、「疑いあり」を早く拾って次の評価へ止めずにつなぐことです。そのため初回スクリーニングは 聖隷式 が噛み合いやすく、介入前後や食形態変更後の再評価は EAT-10 で変化を点数化すると共有が安定します。
大切なのは、どちらが優秀かを決めることではありません。誰が見ても同じ判定になるように、質問紙の役割と陽性後フローをそろえることです。
図で先に見ると、使い分けの全体像が入りやすくなります。
違いは 4 軸で見ると迷いません
比較で見るべきなのは、質問数よりも「何に強いか」「いつ使うか」「陽性をどう扱うか」です。横並びにすると、使い分けの判断が速くなります。
| 比較軸 | EAT-10 | 聖隷式嚥下質問紙 | 判断メモ |
|---|---|---|---|
| 強い役割 | 症状負荷の定量化 | 初回の拾い上げ | 初回か、再評価かで選ぶ |
| 向くタイミング | 介入前後、食形態変更後、経過観察 | 入院時、肺炎後、変化時の入口 | 迷ったら「入口=聖隷式、追跡=EAT-10」 |
| 回答形式 | 10 項目・ 0〜4 点・合計 0〜40 点 | 15 項目・ A / B / C | 点数で残したいなら EAT-10 が有利 |
| 運用のコツ | 点数は優先度づけとして使う | 陽性ルールを 1 つに固定する | どちらも単独で確定診断には使わない |
| 詰まりどころ | 点数だけで判断してしまう | 判定方式が人でブレる | 質問紙の後ろに「次の一手」を必ず置く |
判定の前に固定するのは「陽性ルール」です
EAT-10 は合計点で扱いやすく、臨床では 3 点以上を異常の目安として運用することが多いです。一方で、点数だけで嚥下機能を確定するのではなく、観察やベッドサイド評価と合わせて解釈する前提が必要です。
聖隷式 は、従来の「 A が 1 つでもあれば疑いあり 」で回すのか、スコア化して段階的に扱うのかを先に決めます。比較記事では細かな運用分岐を抱え込みすぎず、「施設で何を陽性とするかを固定する」が結論です。
| 質問紙 | 代表的な扱い方 | 向く場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| EAT-10 | 合計点で扱う( 3 点以上を目安 ) | 経時変化の共有、介入前後の比較 | 点数だけで診断のように扱わない |
| 聖隷式 | A あり方式で固定する | 初回の拾い上げ、院内導入 | 誰が聞いても同じ判定になるように文書化する |
| 聖隷式 | スコア化方式で固定する | 重みづけや段階化まで見たい場合 | 従来方式と混在させない |
現場では「拾う → 条件をそろえる → 次へつなぐ」で回します
質問紙は、実施して終わりだと価値が落ちます。陽性を拾ったら、食形態・姿勢・一口量・口腔・薬剤・呼吸などの条件をそろえたうえで、食事場面の観察やベッドサイド評価へ進める前提で使います。
比較記事の実用ポイントは、「どちらを選ぶか」よりも「選んだあとに止まらないこと」です。迷ったら、下の 4 ステップで固定してください。
| ステップ | 何をするか | 主に使う質問紙 | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| 1 | 初回の疑いを拾う | 聖隷式 | 陽性なら条件整理へ進む |
| 2 | 食形態・姿勢・口腔・呼吸などを確認する | — | 食事場面観察や簡易評価へ進む |
| 3 | 介入前後の変化を点数で残す | EAT-10 | 改善 / 悪化を共有する |
| 4 | 必要時に詳細評価へつなぐ | — | ST 相談、 VE / VF の検討 |
詰まりどころは「判定の混在」「陽性後が止まる」「再評価しない」です
質問紙がうまく回らない原因は、尺度そのものより運用の混乱にあることが多いです。特に多いのは、スタッフごとに陽性ルールが違う、陽性でも次の評価が決まっていない、介入後の再評価をしない、の 3 つです。
この 3 点を先に潰しておくと、比較記事を読んだあとに現場でそのまま導入しやすくなります。
| よくある失敗 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 判定ルールが人で違う | 同じ患者でも陽性 / 陰性がブレる | EAT-10 は 3 点以上、聖隷式は A あり方式かスコア化方式かを施設で 1 つに固定する |
| 陽性後の行動が決まっていない | 記録だけ残って介入が遅れる | 「陽性なら食事場面観察 → ST 相談」までテンプレ化する |
| 点数を診断のように扱う | 見落としや過介入が起きる | 質問紙は優先度づけと位置づけ、背景条件を必ず併記する |
| 再評価しない | 改善 / 悪化が共有できない | EAT-10 を介入前後や食形態変更後に再実施する |
回避の手順: 5 分で決めるのは 3 つだけです
質問紙が取りっぱなしにならないように、①判定方式、②実施タイミング、③陽性後の次の一手だけを先に決めます。ここがそろうと、誰が実施しても動きが止まりにくくなります。
| 決めること | 具体例 | 記録の一言例 |
|---|---|---|
| 判定方式 | EAT-10 = 3 点以上、聖隷式 = A あり方式 など | 「質問紙の陽性ルールは上記で統一」 |
| 実施タイミング | 入院時、肺炎後、食形態変更時、介入前後 | 「食形態変更時に再実施」 |
| 陽性後の次の一手 | 食事場面観察 → 簡易評価 → 必要なら VE / VF | 「陽性時は同日中に観察と相談へつなぐ」 |
配布物:使い分けと運用固定を 1 枚で整理したいときに使います
記事の内容をそのまま現場に落とし込みたい方向けに、EAT-10 と 聖隷式の比較、最小フロー、自施設ルールの記入欄を 1 枚にまとめた PDF を用意しました。院内で「どちらをどう回すか」を決める場面で使いやすい構成です。
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ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、書き方や手順だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。評価・記録・報告の「型」をまとめて整理したい方は、 PT キャリアガイド も参考になります。
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. まず最初に使うなら、 EAT-10 と 聖隷式 のどちらですか?
初回に疑いを拾うなら 聖隷式、介入前後の変化を点数で追うなら EAT-10 が基本です。迷ったら「聖隷式で拾う → EAT-10 で追う」で運用すると回りやすいです。
Q2. 聖隷式 は A あり方式で十分ですか?
院内導入や初回スクリーニングを優先するなら、まずは A あり方式で十分です。段階的な重みづけまで見たい場合はスコア化方式もありますが、従来方式と混在させず、文書で固定することが前提です。
Q3. 軽いむせだけでも陽性として扱いますか?
軽い症状でも、質問紙では「見逃さず次を確認する」ための入口になります。大事なのは、陽性を即リスク確定とみなすことではなく、食形態、一口量、姿勢、口腔、呼吸などの条件を確認して次の評価へつなぐことです。
Q4. 認知機能が低い方では、どちらが向きますか?
自己記入が難しい場合は、どちらを使うかよりも、本人・家族・介護者のどの情報を採るかを固定することが大切です。観察所見を優先し、聴取対象と手順をあらかじめそろえておくとブレが減ります。
Q5. 2 つとも実施してよいですか?
併用自体は可能です。ただし、公式記録として何を主に採用するか、陽性後に誰が何をするかを決めずに増やすと、負担だけ増えて動きは良くなりません。まずは 1 つの型を作り、必要時だけ補助で追加するのが安全です。
次の一手
- 全体像をそろえる:嚥下評価の実務フロー
- 記録の型をそろえる:摂食機能療法の記録テンプレ
参考文献
- Belafsky PC, Mouadeb DA, Rees CJ, Pryor JC, Postma GN, Allen J, et al. Validity and reliability of the Eating Assessment Tool (EAT-10). Ann Otol Rhinol Laryngol. 2008;117(12):919-924. doi: 10.1177/000348940811701210. PubMed: 19140539.
- 若林秀隆, 栢下淳. 摂食嚥下障害スクリーニング質問紙票 EAT-10 の日本語版作成と信頼性・妥当性の検証. 日本静脈経腸栄養学会雑誌. 2014;29(3):871-876. doi: 10.11244/jjspen.29.871.
- 中野雅徳, 藤島一郎, 大熊るり, 吉岡昌美, 土井登紀子, 福井誠, 他. スコア化による聖隷式嚥下質問紙評価法の検討. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌. 2020;24(3):240-246. doi: 10.32136/jsdr.24.3_240.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


