EAT-10 と 聖隷式は「拾い上げ」と「経時変化」で役割が分かれます
EAT-10 と 聖隷式嚥下質問紙は、どちらも「嚥下の主観症状」を整理する質問紙です。ただし結論として、聖隷式=初回の拾い上げ(疑いの早期検出)、EAT-10=症状負荷の定量化(経時変化の共有)の色が強く、現場での最適解は「どちらが優秀か」ではなくチームで 1 つに統一して回せるかにあります。
本記事では、比較で終わらせず、判定ルールの固定と陽性後の次の一手まで落とし込みます。嚥下評価の全体像(スクリーニング→客観評価→介入設計)を先に整理したい方は、親記事から入ると迷いが減ります。
先に「全体フロー」を 3 分で確認してから読む
比較は、全体の順番が頭に入っているほど理解が速くなります。
比較の結論:迷ったら「聖隷式で拾う→EAT-10 で追う」が回りやすい
病棟や施設では、まず「疑いあり」を早く拾って次の評価につなぐことが優先になります。そのため初回は聖隷式が噛み合いやすく、フォローは EAT-10 で変化を点数で残すと共有が安定します。
一方で、どちらを使っても「判定が人でブレる」「陽性でも次の行動が決まらない」状態だと、質問紙の価値が落ちます。次章の比較表と、その後の運用フローをセットで採用してください。
EAT-10 と 聖隷式嚥下質問紙の違い(比較表)
横並びにすると、使い分けの判断が速くなります。
| 比較軸 | EAT-10 | 聖隷式嚥下質問紙 |
|---|---|---|
| 強い役割 | 症状負荷の定量化(経時変化の共有) | 初回の拾い上げ(疑いの早期検出) |
| 現場の使いどころ | 介入前後・食形態変更後の再評価 | 入院時・肺炎後・変化時のトリアージ |
| 運用のコツ | 点数は「優先度づけ」。観察・簡易テストと統合 | 判定ルール(A あり/スコア化)と陽性後フローを固定 |
| 詰まりどころ | 点数だけで判断してしまう(見落とし/過介入) | 判定方式が混在してブレる |
点数の見方とカットオフ:判定ルールは「施設で 1 つに固定」します
EAT-10 は合計点( 0–40 点 )で扱い、臨床では 3 点以上を「異常の目安」として用いることが多いです(ただし点数だけで確定診断はしません)。 [oai_citation:1‡リハビリくん](https://rehabilikunblog.com/eat-10-vs-seirei-swallow-questionnaire/)
聖隷式は運用が割れやすいので、「A が 1 つでもあれば疑いあり」にするのか、スコア化して合計点で扱うのかを先に決めます。ここが曖昧だと、同じ患者でも日によって判定が変わります。判定固定の決め方と、陽性後の動かし方は 聖隷式の運用ガイド にまとめています。 [oai_citation:2‡リハビリくん](https://rehabilikunblog.com/seirei-swallowing-questionnaire/)
| 質問紙 | 判定の出し方 | 目安 | 向く場面 |
|---|---|---|---|
| EAT-10 | 合計点( 0–40 点 ) | 3 点以上で異常の目安 | 経時変化の共有(介入前後の比較) |
| 聖隷式 | A あり方式(従来)/スコア化方式(提案あり) | 施設で 1 つに固定 | 初回の拾い上げ(疑いの早期検出) |
現場での運用フロー(スクリーニング → 次の一手)
質問紙は “単発で終わり” にすると価値が落ちます。陽性(疑いあり)を拾ったら、次の評価につなげる前提で運用します。
おすすめは、①質問紙 → ②食形態・姿勢・薬剤 / 口腔状況などの要因整理 → ③ベッドサイド評価(例:嚥下観察、簡易テスト)→ ④必要に応じて専門評価( VE / VF など)の順です。質問紙の点数は「嚥下機能の推定」ではなく、優先度づけとして扱うと安全に回ります。
| 状況 | まず確認 | 次の評価・対応の例 |
|---|---|---|
| 疑いなし | 最近の変化(体重・食事時間・むせ) | 経過観察+再スクリーニングの時期を決める |
| 疑いあり(軽度) | 食形態・一口量・姿勢・口腔乾燥 | 食事場面の観察/口腔ケア・姿勢調整/再評価 |
| 疑いあり(中等度以上) | 誤嚥リスクサイン(湿性嗄声、発熱、反復性肺炎など) | ST 介入依頼/詳細評価( VE / VF )の検討/栄養ルート検討 |
現場の詰まりどころ/よくある失敗
質問紙は “入れれば回る” と思われがちですが、実際は運用設計で差が出ます。詰まりやすい点を先に潰しておくと、スクリーニングが継続しやすくなります。
特に多いのは、判定ルールがスタッフごとに違う/陽性でも次の評価につながらない/経時変化を追わない の 3 つです。
| よくある失敗 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 判定ルールがバラバラ | 同じ患者でも “疑いあり / なし” が日によって変わる | EAT-10 は「 3 点以上」、聖隷式は「A あり」か「スコア化」など、施設で 1 つに固定する |
| 陽性でも次の行動が決まっていない | 記録だけ残って介入が遅れる | 「陽性なら食事場面観察 → ST 相談」など、次の一手をテンプレ化する |
| 点数を “診断” のように扱う | 点数だけで判断して見落とし / 過介入が起きる | 質問紙は優先度づけ。症状の背景(食形態、姿勢、口腔、薬剤、認知)を必ず併記する |
| 経時変化を追わない | 改善 / 悪化が見えず、介入効果が共有できない | EAT-10 を介入前後で再実施して “変化” を残す |
回避の手順:判定固定と「陽性後フロー」を 5 分で決めます
ここだけ決めておくと、質問紙が “取りっぱなし” になりにくいです。①判定方式、②実施タイミング、③陽性後の次の一手 を 1 枚にまとめて共有します。
| 決めること | 具体例 | 記録の一言例 |
|---|---|---|
| 判定方式 | EAT-10: 3 点以上/聖隷式:A あり方式 など | 「判定は EAT-10= 3 点以上、聖隷式=A ありで統一」 |
| 実施タイミング | 入院時、肺炎後、食形態変更時、週 1 など | 「食形態変更時に追加実施」 |
| 陽性後の次の一手 | 食事場面観察→簡易テスト→必要なら VE / VF | 「陽性時:食事場面観察→ST 相談を同日依頼」 |
よくある質問(FAQ)
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Q1. まず最初に使うなら、EAT-10 と 聖隷式のどちら?
目的で決めます。「疑いを拾う」なら聖隷式、「症状負荷を点数で追う」なら EAT-10 が合います。初回スクリーニングで拾って、フォローは EAT-10 に統一する運用も相性が良いです。
Q2. 軽い “むせ” だけでも陽性になりますか?
なります。質問紙は “軽い症状” も拾う設計です。大事なのは、陽性=即リスク確定ではなく「食事場面で何が起きているか」を次に確認することです(食形態、一口量、姿勢、口腔乾燥など)。
Q3. 認知機能が低い方だと、どちらが向きますか?
自己記入が難しい場合は、どちらも「聞き取り対象(本人/家族/介護者)」と手順を固定し、観察所見を優先して扱うのが安全です。聖隷式の運用分岐(判定固定・陽性後フロー)を作る場合は、聖隷式の運用ガイドの分岐案がそのまま使えます。
Q4. どちらも実施していいですか?
併用自体は可能ですが、現場では「公式記録としてどちらを採用するか」「陽性後に誰が何をするか」を先に固定しないと、二重実施が負担になるだけで動きが増えません。まずは 1 つに統一し、必要時のみ補助で追加する運用が回りやすいです。
次の一手(運用を整えて、判断を速くする)
- 運用を整える:嚥下評価の実務フロー(拾い上げ→重み付け→再評価)
- 共有の型を作る:摂食機能療法の記録テンプレ(直接・間接の書き分け)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に「続ける/変える」の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Belafsky PC, Mouadeb DA, Rees CJ, et al. Validity and reliability of the Eating Assessment Tool (EAT-10). Ann Otol Rhinol Laryngol. 2008;117(12):919-924. doi: 10.1177/000348940811701210. PubMed: 19140539.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


