橈骨神経麻痺の「障害レベル」を先に当てる:結論
橈骨神経麻痺は「どのレベルで障害されたか」で、出る所見(筋・感覚)とリハの優先度が変わります。まずは トライセプス(肘伸展)・手関節背屈・ MP 伸展・感覚の組み合わせで、レベル推定→記録→経時追跡までを一気に整えるのが近道です。
本記事は、高位(腋窩付近)/中位(上腕骨螺旋溝)/肘周囲/ PIN(後骨間神経)/表在枝を、臨床で再現しやすい所見で推定する手順に絞って解説します。
3 ステップでレベルを推定する(迷わない順番)
結論:①肘伸展→②手関節背屈の方向→③指 MP 伸展+感覚の順で確認すると、局在の見立てが安定します。
「下垂手」「下垂指」のラベルだけで止まると、装具選択と運動処方がずれやすくなります。次の 3 ステップを固定して、推定精度を上げます。
| ステップ | 見るもの | 所見のポイント | 次に疑う |
|---|---|---|---|
| ① | 肘伸展(トライセプス) | 低下/不能なら近位病変の可能性が上がる | 高位(腋窩付近) |
| ② | 手関節背屈(力と方向) | 背屈はできるが橈屈に偏る/または背屈が弱い | PIN 〜肘周囲 |
| ③ | MP 伸展(指・母指)+感覚 | 下垂指が目立ち感覚が保たれるなら PIN を疑う | PIN(運動枝) |
障害レベル別:出やすい所見の早見表
実務では、筋(肘伸展・手関節背屈・指伸展)と感覚(手背橈側)を並べると、初期推定がぶれにくくなります。
原因(圧迫・牽引・骨折・術後)で所見は変動するため、ここでは第一推定として使い、同条件の再評価で確かめます。
| 障害レベル(目安) | 肘伸展 | 手関節背屈 | 指( MP )伸展 | 感覚(手背橈側) |
|---|---|---|---|---|
| 高位(腋窩付近) | 低下しやすい | 低下 | 低下 | 低下しやすい |
| 中位(上腕骨螺旋溝) | 保たれやすい | 低下〜不能(下垂手) | 低下〜不能 | 低下しやすい |
| 肘周囲(分岐部付近) | 保たれる | 背屈は残ることがある(偏りに注意) | 低下しやすい | 分岐で変動 |
| PIN(後骨間神経:運動枝) | 保たれる | 背屈は残りやすい(橈屈偏位のことあり) | 不能が目立つ(下垂指) | 保たれる |
| 表在橈骨神経(感覚枝) | 保たれる | 保たれる | 保たれる | 感覚のみ低下 |
評価の実際:リハ開始前に押さえる 5 点
結論:筋力だけでなく「しびれ範囲」「背屈の方向」「誘発痛」をセット記録すると、局在推定と予後追跡が実務で使える形になります。
病棟・外来で再現しやすい最小セットを固定し、毎回同じ条件で追うことがポイントです。
| 項目 | やり方(要点) | 記録(固定文) | 示唆 |
|---|---|---|---|
| MMT:肘伸展 | 代償(肩伸展/体幹)を抑える | 左右差+疼痛の有無 | 低下なら近位を疑う |
| MMT:手関節背屈 | 背屈の方向(橈屈偏位)も確認 | 背屈角度+偏位の有無 | PIN/肘周囲の推定に有用 |
| MMT:指 MP 伸展 | 手関節を軽く背屈位に保持して評価 | どの指が落ちるか | 下垂指優位なら PIN を疑う |
| 感覚(手背橈側) | 左右比較(軽擦・痛覚)で確認 | 範囲を短文で固定 | PIN は感覚温存が多い |
| 誘発/圧痛 | 肘周囲〜前腕近位の痛み、回内回外で増悪を確認 | 増悪動作を具体的に記録 | 絞扼性(ラジアルトンネル等)を示唆 |
中止・紹介の目安(リスクを先に潰す)
末梢神経らしく見えても、「急性発症+中枢徴候」や「進行性低下」は別枠対応です。先に中止・紹介条件を固定します。
| 状況 | リスク | 現場対応 | 記録(共有ポイント) |
|---|---|---|---|
| 顔面・構音・視野など中枢症状を伴う | 中枢病変の合併 | 医師へ即共有(評価は安全範囲) | 発症時刻、随伴症状 |
| 数日で麻痺が進行する | 圧迫増悪、炎症、他疾患 | 負荷を上げず、原因検索を優先 | MMT の推移 |
| 強い安静時痛・夜間痛 | 腫瘍/感染などの除外 | 疼痛コントロールと精査相談 | 痛みの質、夜間の有無 |
| 骨折・術後で急に下垂が出現 | 損傷/絞扼の可能性 | 固定/装具と連携(整形へ共有) | 出現タイミング |
リハの組み立て:優先順位は 3 つだけ
①過伸張を防ぐ(装具)→②関節可動域を守る( ROM )→③使える出力で機能を回す(運動学習)の順に置くと、失敗が減ります。
伸筋群が使えない期間に、手関節・ MP 関節が屈曲位で固まりやすいため、まずは「守る」介入を先行させます。
| 優先 | 目的 | 具体策 | 失敗しやすい点 |
|---|---|---|---|
| ① | 過伸張の予防 | 手関節背屈を保持できる装具(状況で MP サポートも検討) | 装具なし反復で屈筋優位が固定化 |
| ② | ROM の維持 | 手関節背屈・指伸展の他動/自動介助(痛みのない範囲) | 痛み回避が続き拘縮が進む |
| ③ | 機能の再学習 | 残存筋で「つまむ/持つ/離す」を成立させる | 出力前に正確さへ固執し停滞 |
現場の詰まりどころ:よくある失敗 5 つ
先に失敗パターンを潰すと、評価の再現性が上がります。回避の具体策は 3 ステップ推定 と リハの優先順位 を起点に固定してください。
関連:記録運用を含めた全体像は 橈骨神経麻痺と中枢鑑別の総論 でまとめています。
| 失敗 | なぜ起こる? | 対策 | 記録(固定文) |
|---|---|---|---|
| 下垂手/下垂指のラベルで止まる | レベル推定が未実施 | 肘伸展→背屈方向→ MP 伸展+感覚を固定 | 3 点セットを毎回同順で |
| 背屈「可/不可」だけを見る | 方向(橈屈偏位)を見落とす | 背屈角度+偏位を同時記録 | 背屈 20°、橈屈偏位あり |
| 装具導入が遅れる | 筋力回復待ちになりやすい | 早期に短時間でも導入 | 装具の有無と装着時間 |
| 痛みが強いのに反復で押す | 絞扼/炎症の可能性 | 負荷を下げ誘発条件を共有 | 誘発動作(回内回外など) |
| 経時記録が曖昧 | 比較不能になる | MMT と機能課題を固定文で | 週 1 回を同条件で再評価 |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 下垂手と下垂指、最短で見分けるには?
手関節背屈が残るのに指 MP 伸展ができないなら、まず PIN を疑います。手関節背屈自体が弱い/不能なら、より近位病変(螺旋溝など)を含めて評価します。
Q2. 感覚障害がないなら橈骨神経麻痺ではない?
いいえ。PIN のような運動枝優位の障害では感覚が保たれることがあります。感覚だけで否定せず、筋所見とセットで判断します。
Q3. 装具はいつから入れるのがよい?
早期導入が基本です。過伸張と屈曲位固定化を防ぐことで、回復後の再学習を進めやすくなります。
Q4. 骨折・術後の橈骨神経麻痺は回復しますか?
閉鎖性上腕骨骨幹部骨折に伴う橈骨神経麻痺は、報告上、自然回復例が多いとされています。臨床では同条件の経時追跡が重要です。
次の一手
局在の評価手順を固めたら、次は「鑑別の全体像」と「初動の型」を接続すると運用が安定します。
参考文献
- Gragossian A, et al. Radial Nerve Injury. StatPearls Publishing. (NCBI Bookshelf) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK537304/
- Bumbasirevic M, Palibrk T, Lesic A, Atkinson HDE. Radial nerve palsy. EFORT Open Rev. 2016;1(8):286-294. doi: 10.1302/2058-5241.1.000028 / PubMed: 28461960
- Hendrickx LAM, et al. Radial nerve palsy associated with closed humeral shaft fractures: a systematic review of 1758 patients. Arch Orthop Trauma Surg. 2021;141:561-568. doi: 10.1007/s00402-020-03446-y
- Agarwal A, et al. A panorama of radial nerve pathologies- an imaging diagnosis: a step ahead. Insights Imaging. 2018;9:1021-1034. doi: 10.1007/s13244-018-0662-x
- Van Bergen SH, et al. Recovery and functional outcome after radial nerve palsy in adults with a humeral shaft fracture: a multicenter prospective case series. Acta Orthop. 2023. (PMC) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10229417/
- Posterior interosseous neuropathy. Neurology. doi: 10.1212/WNL.0000000000003287
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


