橈骨神経麻痺の装具|コックアップと動的スプリントの選び方

臨床手技・プロトコル
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橈骨神経麻痺の装具は「失われた機能」と「課題」で選ぶ

橈骨神経麻痺(下垂手)の装具は、コックアップか動的スプリントかを先に決めるのではなく、手関節背屈・指MP関節伸展・母指伸展のどこが失われ、生活場面の何に困っているかで選びます。手関節を支持するだけで把持や操作が改善するならコックアップなどの静的スプリントが候補になり、指や母指の伸展低下によって「つかんだ後に離せない」場合は、動的な伸展補助を検討します。

この記事では、PT・OTが装具選択で迷いやすい境界を、運動所見→生活課題→必要な補助→装着前後の再評価という順番で整理します。特定の装具や装着時間を一律の標準として扱わず、実際の機能変化と皮膚・感覚症状を確認しながら調整することが重要です。

まず結論:コックアップと動的スプリントは何が違う?

コックアップなどの静的スプリントは主に手関節を支持し、動的スプリントは必要に応じて指や母指の伸展まで補助する点が大きな違いです。したがって、「手関節を支えれば目的動作が改善するのか」「指を開く動きまで補助しないと課題が残るのか」が選択の分かれ目になります。

橈骨神経麻痺での装具選択の考え方
主な所見・課題 考えやすい装具 確認したいこと
手関節背屈が低下し、手関節を支えると把持しやすい コックアップなどの静的スプリント 把持・操作が実際に改善するか
指MP関節や母指の伸展低下が強く、物を離しにくい 指・母指の伸展を補助する動的スプリント 把持後のリリースや手指操作が改善するか
手関節と指の両方の伸展が低下している 必要な部位を補助できる装具を検討 手関節支持だけで十分か、指伸展補助まで必要か
装具を着けても目的動作が変わらない 装具の種類・設定・適応を再検討 何を補助すれば課題が変わるのか評価し直す
橈骨神経麻痺の装具選択フロー。失われた機能と生活課題から静的スプリントと動的スプリントを選び、装着前後で再評価する流れ
図1. 橈骨神経麻痺の装具は、失われた機能と生活課題から選び、装着前後の変化を確認して再評価します。

重要なのは、筋力低下の有無だけで装具を決めないことです。同じ橈骨神経麻痺でも、「物を持つと手関節が崩れる」「把持できるが指を開けず離せない」「母指を開けず物へ手を合わせにくい」では、必要な補助が異なります。

静的スプリントと動的スプリントをどう使い分けるか

静的・動的の違いは、「固定するか動かすか」だけではなく、どこまで失われた運動を補助する必要があるかで考えます。橈骨神経麻痺では障害部位によって手関節背屈、指MP関節伸展、母指伸展の残存状態が異なるため、手関節だけを支持しても生活課題が残る場合があります。

コックアップと動的スプリントの特徴
項目 コックアップなどの静的スプリント 動的スプリント
主な役割 手関節を支持して肢位を整える 指・母指などの伸展を補助しながら動作を可能にする
期待する変化 手関節位置が安定し、把持や手の使用が行いやすくなる 手指を開く、把持後に離すなどの操作が行いやすくなる
利点 構造が比較的単純で、装着・管理しやすい 失われた伸展運動を補助しながら課題を行える
限界 指・母指伸展の麻痺そのものは補助できない場合がある 構造や張力によってズレ、圧迫、疲労、操作性低下が生じる場合がある
選択時の確認 手関節支持だけで目的動作が改善するか 伸展補助を加えることで目的動作がさらに改善するか

Cantero-Téllezらは橈骨神経麻痺34例を対象に、装具なし・静的スプリント・動的スプリントで9-Hole Peg Testを比較しました。平均所要時間は装具なし36.4秒、静的33.5秒、動的25.7秒で、動的スプリント装着時に良好な結果を示しました。ただし、この研究だけからすべての患者に特定の動的スプリントを推奨できるわけではなく、特定のスプリントデザインを支持する強いエビデンスが十分ではないことも述べられています。[2]

また、1症例を対象に3種類のスプリントを比較した研究では、静的なvolar wrist cock-upより、dynamic tenodesis suspensionおよびdynamic finger extensionを備えた装具で機能的な改善が示されました。ただし1症例の結果であり、一般化には注意が必要です。[3]

したがって、研究結果を「動的スプリントの方が常に優れている」と読むのではなく、必要な伸展補助を加えたとき、本人の目的課題が実際に改善するかを確認することが重要です。

装具選択は「運動所見→課題→装着前後」で判断する

装具を選ぶときは、失われた運動を確認したあと、その運動が生活課題へどう影響しているかを結びつけます。装具名から考え始めるより、「何が動かない→何に困る→何を補助する」の順で整理すると選択理由を説明しやすくなります。

1.手関節・指・母指の伸展を分けて確認する

まず、手関節背屈、指MP関節伸展、母指伸展を分けて確認します。橈骨神経障害では障害高位によって残存する運動が異なるため、「下垂手がある」という一所見だけでは必要な装具を決められません。

装具選択前に確認したい運動所見
確認項目 見るポイント 装具選択との関係
手関節背屈 自動で背屈できるか、保持できるか、手関節を支えると把持が変わるか 手関節支持の必要性を考える
指MP関節伸展 把持したあとに指を開けるか 指伸展補助の必要性を考える
母指伸展 物品操作時に母指を開き、対象物へ位置づけられるか 母指まで補助する必要があるか考える
他動可動域 必要な肢位まで無理なく動かせるか 装具で補助する前提となる可動性を確認する

より詳しい障害部位の推定は、橈骨神経麻痺の障害部位・障害レベル推定で整理しています。本記事では、局在診断そのものではなく、その所見を装具選択へどうつなげるかに絞ります。

2.「手が使いにくい」を具体的な課題へ変える

次に、「手が使いにくい」という表現を、どの課題のどこで止まるのかまで具体化します。

  • 物を持とうとしても手関節が崩れて把持しにくい
  • 物は持てるが、指を開けず離せない
  • 母指を開けず、対象物へ手を合わせにくい
  • 装具を着けると動作できるが、装具の構造が別の動きを妨げる

ここまで整理すると、必要なのが手関節支持なのか、指・母指の伸展補助なのか、あるいは現在の装具そのものを見直す必要があるのかが分かりやすくなります。

3.装着前後で同じ課題を比べる

装具を選んだら、装着したこと自体をゴールにせず、同じ課題を装着前後で比較します。

例えば「コップを持って移動する」「タオルをつかんで離す」「衣服を操作する」など、本人が実際に必要とする課題を用います。成功の可否だけでなく、介助量、所要時間、代償、疲労、疼痛なども確認すると、装具による変化を捉えやすくなります。

装着しても目的課題が改善しない場合は、装着時間を増やす前に、装具の種類、補助する部位、張力、フィッティング、装具を使う目的そのものへ戻って再検討します。

装着時間は固定せず、目的と反応で調整する

橈骨神経麻痺の装具に、すべての患者へ共通する「○分」「日中は動的、夜間は静的」という固定スケジュールを当てはめることは避けます。必要な装着時間や使用場面は、神経障害の原因・時期、装具の目的、皮膚状態、感覚障害、疼痛、浮腫、生活課題、治療方針によって変わります。

静的スプリントを安静時や夜間の肢位保持に用いる場合や、動的スプリントを生活課題で使用する場合はありますが、時間帯だけで装具を決めるのではなく、何を補助するために使うのかを明確にします。

装着条件を調整するときの確認項目
確認項目 見ること 見直しにつながる所見
目的 肢位保持か、特定の生活課題を行うためか 目的と装着場面が一致していない
皮膚 発赤、擦れ、水疱、圧迫部位 装具を外しても残る発赤や皮膚損傷
感覚・循環 しびれ、冷感、色調変化など 装着後に新しく出現・増悪する
疼痛・疲労 装着前後の症状変化 使用するほど症状が増える
機能 目的課題が実際に行いやすくなるか 装着しても改善しない、別の動作を妨げる

治療方針や装着条件の変更が必要な場合は、医師や装具作製・調整に関わる専門職と情報を共有し、皮膚・症状・機能の変化を確認しながら調整します。

フィッティングは「圧迫」だけでなく機能まで確認する

装具のフィッティングは、皮膚に当たっていないかを見るだけでは不十分です。装具がずれず、必要な運動を補助し、残っている運動を過度に妨げず、目的課題を行いやすくしているかまで確認します。

以下は公式の判定基準ではなく、装具使用時に確認したい実務上のポイントです。

橈骨神経麻痺の装具フィッティング確認例
確認 見るポイント 見直しの方向
手関節位置 目的動作を行いやすい位置で無理なく支持できるか 疼痛や過度な緊張が出る場合は設定を再検討する
指・母指 必要な伸展補助が得られ、把持も妨げていないか 補助量や張力、補助する部位を見直す
ズレ 実際の動作中に装具が移動・回旋しないか ベルト位置や装着方法を見直す
皮膚 骨突出部、ベルト、装具縁に圧が集中していないか 当たり、形状、パッド、装着条件を見直す
課題遂行 装着前より目的動作が行いやすいか 改善がなければ装具の適応・設計へ戻る

特に感覚低下を伴う場合は、本人が圧迫や擦れに気づきにくいことがあります。本人の訴えだけに頼らず、装具を外した際の皮膚状態も確認します。

記録は「装具名」より選択理由と装着前後の変化を残す

再評価に使いやすい記録は、「コックアップ装着」と装具名だけを書くのではなく、なぜその装具を選び、装着によって何が変化したのかが分かる記録です。

装具使用時に記録したい項目
項目 記録する内容
目的 どの生活課題を改善・補助したいか
運動所見 手関節背屈、指MP伸展、母指伸展、必要な他動可動域
装具 種類と、どの部位を支持・補助しているか
装着条件 使用した生活場面、時間帯、必要に応じて装着時間
機能変化 装着前後の成功可否、介助量、時間、代償など
安全確認 皮膚、疼痛、しびれ、冷感、浮腫、疲労など
次回 継続、調整、装具変更、再評価する条件

記録例:「食事動作での把持・リリース改善を目的に使用。手関節背屈および指MP伸展低下あり。指伸展補助を含む装具装着後、スプーン把持後のリリースが容易となった。手背・ベルト部に皮膚障害なし。次回も同じ食事課題で再評価する。」

このように、所見→選択理由→課題の変化をつなげておくと、神経回復に伴って「まだ同じ補助が必要か」を判断しやすくなります。

神経回復に合わせて装具の役割を見直す

橈骨神経麻痺の装具は、一度選んだものを固定して使い続けるのではなく、運動回復に合わせて再評価します。回復過程では使用可能な筋や生活動作が変化するため、以前は必要だった補助が過剰になることがあります。

再評価では、以下を同じ条件で追うと変化を確認しやすくなります。

  • 手関節背屈の自動運動と保持能力が変化したか
  • 指MP関節伸展・母指伸展が変化したか
  • 必要な他動可動域が維持されているか
  • 装具なしでも目的課題を行えるようになったか
  • 現在の装具が残存機能を妨げていないか
  • 皮膚・疼痛・感覚症状に変化がないか

橈骨神経麻痺に対するスプリントは、神経回復を待つ期間に関節可動性を保ちながら手の機能的使用を補う目的で用いられてきました。[1] Szekeresも、手関節・手指伸展障害によって機能的課題のための手の位置づけが困難になることを示し、神経回復中の機能を補うスプリントについて報告しています。[4]

したがって、装具は「装着を続けること」ではなく、その時点で不足している機能を補う手段として位置づけ、回復とともに必要性を見直します。

装具を中止・再調整・相談する所見

装具装着後に新しい症状や明らかな増悪がみられる場合は、そのまま装着を続けず、装具を外して原因を確認します。

  • 装具を外しても残る強い発赤や皮膚損傷
  • 新たなしびれ、感覚低下、冷感、色調変化
  • 疼痛や浮腫の明らかな増悪
  • 装具の圧迫部位と一致する症状
  • 装着によって目的動作がかえって悪化する
  • 筋力低下や神経症状が経過中に明らかに悪化する

また、急に出現した下垂手では、末梢神経障害だけでなく中枢神経病変との鑑別が必要になる場合があります。発症様式や随伴症状が典型的な末梢神経障害と合わない場合は、装具対応だけで完結させず、脳梗塞と橈骨神経麻痺の鑑別も含めて評価・共有を優先します。

よくある質問

Q1. 橈骨神経麻痺なら、まずコックアップスプリントでよいですか?

手関節支持によって目的動作が改善する場合は有力な選択肢です。ただし、指MP関節や母指の伸展低下によって把持後のリリースが困難な場合は、手関節支持だけでは課題が残ることがあります。装具装着前後で実際の課題を比較して判断します。

Q2. 動的スプリントの方が静的スプリントより優れていますか?

34例を対象とした研究では、9-Hole Peg Testは動的スプリント使用時に静的スプリントより良好でした。ただし、特定の動的スプリントがすべての患者・すべての課題に優れると断定できるものではありません。必要な補助部位と本人の目的課題を確認して選択します。

Q3. 日中は動的、夜間はコックアップと決めてよいですか?

一律には決めません。夜間の肢位保持に静的スプリントを使用する場合や、日中の課題遂行に動的スプリントを使う場合はありますが、装着目的、病態、皮膚・感覚状態、生活状況、治療方針によって調整します。

Q4. 装具をいつ見直しますか?

手関節・指・母指の自動運動が変化したとき、目的課題の遂行能力が変化したとき、装具が残存機能を妨げ始めたとき、皮膚や疼痛・感覚症状が出たときは見直しのタイミングです。同じ所見と課題を用いて変化を追います。

まとめ:装具名ではなく、失われた機能から選ぶ

橈骨神経麻痺の装具は、手関節背屈・指MP関節伸展・母指伸展のどこが失われ、その結果どの生活課題が困難になっているかを確認して選びます。

手関節支持だけで課題が改善するならコックアップなどの静的スプリントが候補になり、指・母指の伸展補助がなければ把持後のリリースが成立しにくい場合は、動的スプリントを検討します。重要なのは装具を着けることではなく、装着前後で同じ課題を比較し、皮膚・症状・機能を見ながら必要な補助を更新することです。

次の一手

A:橈骨神経麻痺の評価・鑑別の全体像を確認する
B:運動・感覚所見から障害レベルを絞り込む


参考文献

  1. Colditz JC. Splinting for radial nerve palsy. J Hand Ther. 1987;1(1):18-23. doi:10.1016/S0894-1130(87)80007-8.
    Web
  2. Cantero-Téllez R, Villafañe JH, Garcia-Orza SG, Valdes K. Analyzing the functional effects of dynamic and static splints after radial nerve injury. Hand Surg Rehabil. 2020;39(6):564-567. doi:10.1016/j.hansur.2020.05.009.
    PubMed
  3. Hannah SD, Hudak PL. Splinting and radial nerve palsy: a single-subject experiment. J Hand Ther. 2001;14(3):195-201. doi:10.1016/S0894-1130(01)80053-3.
    PubMed
  4. Szekeres M. Tenodesis extension splinting for radial nerve palsy. Tech Hand Up Extrem Surg. 2006;10(3):162-165. doi:10.1097/01.bth.0000231968.51170.6b.
    PubMed
  5. Gragossian A, Varacallo MA. Radial Nerve Injury. In: StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing.
    NCBI Bookshelf

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療従事者の実務に役立つ情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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