橈骨神経麻痺の装具(スプリント)は「目的」で選ぶ:結論
橈骨神経麻痺(下垂手)の装具は「目的」で選ぶと失敗が減ります。基本は、コックアップ(静的)=手関節を機能肢位で守る、動的スプリント=指伸展を補助して作業を回す、の役割分担です。
本記事では、PT / OT が現場で迷わないように目的→適応→装着時間→フィッティング→皮膚トラブル→リハの組み立ての順で整理します(確定診断や処方は医師判断)。
まず「目的」を 3 つに分ける:機能・拘縮予防・反復量
装具選択がブレる主因は、「とりあえず背屈位」で終わることです。実際は、同じ下垂手でも痛み・浮腫・感覚障害・指の硬さで優先度が変わります。最初に目的を 3 つに分けると、選択が安定します。
| 目的 | 何を守る/増やす? | 第一選択になりやすい装具 | 目安の運用 |
|---|---|---|---|
| 機能(つかむ・離す) | 手関節の安定+指の伸展補助 | 動的スプリント(指伸展補助付き) | 日中の作業・ADL 中心 |
| 拘縮予防(過伸張を防ぐ) | 手関節 / MP の屈曲位固定化を回避 | コックアップ(静的) | 夜間・安静時に活用しやすい |
| 反復量(練習量を増やす) | 「できる形」を作って回数を確保 | ケースで静的+動的を使い分け | 短時間でも “毎日” を優先 |
装具の種類:コックアップ(静的)と動的スプリント
代表的な 2 つに絞って運用します。コックアップは「手関節を背屈位で支持」し把持を安定化、動的スプリントは「指伸展補助」を足して離す動作まで回しやすくします。静的・動的のいずれも機能改善に寄与し得る一方、場面に応じた使い分けが重要です。
| 項目 | コックアップ(静的) | 動的スプリント(指伸展補助) | 現場の使い分け |
|---|---|---|---|
| 主目的 | 手関節の機能肢位を保持 | 指(MP)伸展を補助して作業性を上げる | 「守る」は静的、「回す」は動的 |
| 向いている場面 | 夜間、安静時、疼痛 / 浮腫が強い時期 | 日中の更衣・食事・PC など反復したい場面 | 日中 / 夜間で役割分担 |
| メリット | 簡便、装着が早い、皮膚管理しやすい | 「つかむ→離す」が成立しやすい | “できる形” を作って回数を増やす |
| 注意点 | 指の伸展不足が残ることがある | ズレ・皮膚トラブル・疲労に注意 | 短時間から開始し段階調整 |
装着時間の考え方:日中は「作業」、夜間は「形を守る」
装具は「長時間ほど良い」ではありません。目的に合わせて時間帯と活動を先に決めると、受け入れが上がり、皮膚トラブルも減らせます。
| 時間帯 | おすすめ | 狙い | 観察ポイント |
|---|---|---|---|
| 日中(活動時) | 動的スプリント(必要時は静的併用) | ADL / 作業で反復量を確保 | ズレ、痛み、疲労、しびれ増悪 |
| 夜間(安静時) | コックアップ(静的) | 屈曲位固定化・過伸張の予防 | 圧迫痕、浮腫、冷感 |
| 入浴・皮膚ケア | 外して皮膚チェック | 皮膚トラブル予防 | 発赤が 20–30 分で消えるか |
フィッティング 5 点:ズレ・圧迫・関節角度・指先・感覚
合わない装具は効果を落とすだけでなく、痛みや皮膚トラブルで継続不能になります。次の 5 点を毎回同じ順番で確認すると、調整が速くなります。
| チェック | 見ること | よくある NG | 調整の方向性 |
|---|---|---|---|
| ① ズレ | 動作で手背側に浮く/回旋する | ズレたまま継続 | 固定ベルト位置、当ての長さ、滑り止めを再検討 |
| ② 圧迫 | 骨突出部の発赤・痛み | 一点に圧が集中 | パッド追加、エッジ処理、装着時間短縮 |
| ③ 角度 | 手関節背屈位の過不足 | 背屈が強すぎて痛い | 「楽に保持できる角度」に戻す |
| ④ 指先 | 把持できる/離せる | 引っ張られて疲れる | 張力を下げ、短時間から段階的に増やす |
| ⑤ 感覚 | しびれ増悪・冷感 | 我慢して継続 | 圧迫疑いは中止して共有 |
装具をリハの中で活かす:3 ステップ
① 形を作る(装具)→② 反復する(短時間)→③ 生活で試す(課題化)に絞ると、負担を抑えながら成果につながりやすくなります。装具は固定のためだけでなく、反復量を増やすために使います。
| 優先 | やること | 狙い | 失敗しやすい点 |
|---|---|---|---|
| ① | 装具で “できる形” を作る | 把持の安定と離す動作の成立 | 形が崩れたまま練習して代償固定化 |
| ② | 短時間反復( 3–5 分 × 複数回 ) | 疲労を抑えて回数を確保 | 長時間を一気に実施して中断 |
| ③ | 生活課題で試す(更衣・食事・入力) | 訓練室から生活への汎化 | 訓練で終わり生活に結びつかない |
現場の詰まりどころ:よくある失敗と対策
先に失敗パターンをつぶすと継続率が上がります。まずは フィッティング 5 点 と 装着時間の設計 を同日に決め、記録をそろえて再評価します。関連する初期評価の流れは 橈骨神経麻痺の鑑別記事 で確認できます。
| 失敗 | 起こること | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 目的が曖昧 | 静的 / 動的を行ったり来たり | 「機能」「拘縮予防」「反復量」のどれかを先に固定 | 目的を 1 行で記録 |
| 装着時間が長すぎる | 痛み・疲労・皮膚トラブルで中断 | 短時間から開始し段階的に増やす | 装着時間と症状変化 |
| ズレたまま使用 | 効果低下/擦れて発赤 | ズレ方向を確認してフィット調整 | ズレる動作(更衣など) |
| 皮膚チェック不足 | 発赤悪化で装着不能 | 入浴時に確認し、消退しなければ調整 | 発赤部位と消退時間 |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. まずコックアップだけで良いですか?
疼痛や浮腫が強い時期、夜間の拘縮予防、導入初期では有効です。ただし「つかむ→離す」を生活で回したい場合は、指伸展補助が必要になることがあるため、目的が機能へ移った時点で動的スプリントを検討します。
Q2. 動的スプリントは疲れると言われます
張力を下げる/短時間( 3–5 分 )を複数回/活動場面を限定の 3 点で調整します。ズレや圧迫があると疲労感が増えるため、同時にフィッティングを見直します。
Q3. 発赤はどこまで許容して良いですか?
目安として、外した後の発赤が 20–30 分で消退しない場合は圧迫過多の可能性があります。装着時間短縮、パッド追加、エッジ処理を検討し、しびれ増悪や冷感がある場合は安全側で中止して共有します。
Q4. 保存療法中のフォローは何を追えばよいですか?
ROM、疼痛、しびれ、浮腫、ADL での実使用(把持・離し)の変化を、同条件で時系列に追います。装具は「保護」と「反復量確保」の道具として位置づけ、症状変化に合わせて静的 / 動的の比重を調整します。
まとめ:装具で「形」を作り、反復量を増やす
橈骨神経麻痺(下垂手)の装具は、目的(機能・拘縮予防・反復量)で選ぶとブレません。コックアップ(静的)は守る運用、動的スプリントは回す運用に強みがあります。
「目的固定→装具で形を作る→短時間反復→生活で試す→再評価」のリズムを回すと、継続率と実用性が上がります。
次の一手
A:評価の全体像(ハブ)を確認する
B:鑑別と初期評価の実装手順を見る
参考文献
- Hannah SD, et al. Splinting and radial nerve palsy: a single-subject experiment. J Hand Ther. 2001;14(3):200-207. PubMed
- Cantero-Téllez R, et al. Analyzing the functional effects of dynamic and static splints after radial nerve injury. Hand Surg Rehabil. 2020;39(6):502-509. PubMed
- Gragossian A, et al. Radial Nerve Injury. StatPearls. 2023. PubMed
- DeCastro A, et al. Wrist Drop. StatPearls. 2023. NCBI Bookshelf
- AO Foundation. Radial Nerve Palsy Following Humeral Fractures. 2023. Web
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


