- 移乗介助の中止基準|続行・方法変更・中止をどう判断するか
- 移乗は「続行・条件変更・方法変更・中止」の4つに分けて考えます
- まず全身状態の変化があれば移乗を止めて再評価します
- 全身状態が安定しているなら「今の移乗方法が合っているか」を見直します
- 方法変更は「1段階下げる」のではなく必要能力から選び直します
- 膝折れが出たら「スクワットピボットへ変更」とは限りません
- 2人介助は「1人介助より安全な方法」という意味ではありません
- 移乗を続けるか迷ったときの実務フロー
- 記録は「できた・できない」ではなく変更理由まで残します
- 移乗方法は状態や環境が変わったときに再評価します
- 移乗の中止・方法変更で避けたい4つの判断
- よくある質問
- 次に確認する記事
- 参考文献
- 著者情報
移乗介助の中止基準|続行・方法変更・中止をどう判断するか
移乗介助で迷いやすいのは、「できる・できない」ではなく、今の方法を続けてよいのか、条件を変えるのか、別の移乗方法へ変更するのか、移乗自体を中止するのかという境界です。膝折れがあれば必ずスクワットピボット、1人介助が難しければ2人介助、という固定的な順番で決めるものではありません。
本記事では、荷重能力、姿勢・方向転換の制御、指示への協力、疼痛・疲労などの症状、環境と介助者側の安全性から、移乗方法を選び直す流れを整理します。PT・OT・看護師・介護職が、病棟や在宅で移乗方法を共有するときにも使える考え方です。
まず移乗動作そのものを整理したい方へ
移乗は「続行・条件変更・方法変更・中止」の4つに分けて考えます
移乗中に問題がみられたからといって、すべてを「中止」と考える必要はありません。まず、患者の全身状態に問題があるのか、現在の移乗方法や環境が合っていないのかを切り分けます。
※スマホでは表が横にスクロールできます。
| 判断 | 考え方 | 例 |
|---|---|---|
| 続行 | 現在の方法と環境で安全に実施できる | 必要な荷重・姿勢制御が保たれ、介助量も想定範囲内 |
| 条件変更 | 方法そのものより環境設定に修正余地がある | 車椅子位置、距離、ベッド高、足部位置などを調整する |
| 方法変更 | 現在の方法に必要な能力と患者の状態が合わない | 立位系から座位移乗、移乗機器など別方式を検討する |
| 中止 | 移乗を続ける前に全身状態や安全性の再評価が必要 | 失神前症状、急な呼吸困難、意識状態の変化など |

重要なのは、「今の移乗方法を中止すること」と「その日の移乗自体を中止すること」は同じではないという点です。方法が合わないのであれば別方式へ変更できますが、急な体調変化があれば、移乗手技を工夫する前に全身状態へ戻って評価します。
まず全身状態の変化があれば移乗を止めて再評価します
移乗中に急な体調変化が起きた場合は、「どの移乗方法ならできるか」を考える段階ではありません。安全な姿勢へ戻し、症状、意識、呼吸、循環などを確認します。
- 失神または失神前症状を疑う変化
- 新たに出現した胸部症状
- 急な強い呼吸困難
- 開始前と比べた意識状態の明らかな変化
- 著しい顔色不良や冷汗など、継続が不適切と判断される変化
- 急激な疼痛増悪など、移乗を続けることが難しい症状
ここでは一律の血圧、心拍数、SpO₂だけで判断せず、疾患、安静度、医師指示、施設基準、開始前の状態からの変化を合わせて判断します。重症患者では、対象や場面に応じてJ-ReCIP 2023などの離床・リハビリテーションに関する指針も確認します。[3]
バイタルサインを含めた離床そのもののSTOP・RESTART判断は、離床の中止基準と再開判断で詳しく整理しています。
全身状態が安定しているなら「今の移乗方法が合っているか」を見直します
全身状態に明らかな問題がないのに移乗が不安定な場合は、徒手介助を強くする前に、現在の方法に必要な能力と患者の状態が一致しているかを確認します。
実務では、次の5項目に分けると整理しやすくなります。
| 確認項目 | 確認すること | 問題がある場合 |
|---|---|---|
| 荷重能力 | 下肢へ必要な荷重をかけ、移乗中に支持を維持できるか | 立位を前提とした移乗方法自体を再検討する |
| 姿勢・方向転換の制御 | 座位、離殿、立位、方向転換など必要な局面を制御できるか | 要求する動作を減らす、座位系・機器使用を含めて方法を見直す |
| 指示・協力 | 開始、停止、待機など安全に必要な合図へ反応できるか | 手順の単純化で対応できるか、別方式が必要かを再評価する |
| 症状 | 疼痛、疲労、恐怖などによって荷重や動作が崩れていないか | 原因への対応後に再評価し、必要なら方法を変更する |
| 環境・介助条件 | ベッド・車椅子配置、スペース、福祉用具、介助者の負担で安全性が損なわれていないか | 環境調整、福祉用具、介助体制を含めて再設計する |
移乗方法の個別評価では、「何が自力でできるか」「どの程度自分の体重を支持できるか」「移乗へどの程度協力できるか」に加えて、疼痛、疲労、転倒傾向、必要な機器、介助人数などを確認する考え方があります。[2]
方法変更は「1段階下げる」のではなく必要能力から選び直します
移乗方法に、立位回旋 → スクワットピボット → 2人介助 → リフトという共通の安全順位があるわけではありません。
現在の方法が難しければ、その患者が安全に利用できる能力を確認し、立位系、座位系、移乗機器などから選び直します。
| 確認された状態 | 考え方 | 検討する方向 |
|---|---|---|
| 荷重・立位・方向転換を必要範囲で制御できる | 立位を利用した移乗が候補になる | 立位回旋などを環境・介助量と合わせて検討 |
| 十分な立位保持は難しいが、部分荷重や離殿を利用できる | 完全な立位やステップを要求しない方法を検討する | スクワットピボットなどを患者特性に応じて検討 |
| 立位を使いにくいが座位保持が可能 | 座位を利用した水平方向の移乗を検討する | スライディングボード等を含めて検討 |
| 自力荷重が乏しく、徒手で抱え上げる必要がある | 徒手介助を強くするより機器利用を優先して検討する | リフト等の移乗機器 |
| 能力が日によって変動する | 前回できた方法を固定せず、その時点の状態で再評価する | 複数の方法・機器を使い分ける |
厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」では、対象者の残存機能と介助への協力度を踏まえて介護・看護方法を選択し、福祉用具を積極的に使用することが示されています。全介助が必要な対象者ではリフト等を積極的に使用し、座位保持が可能ならスライディングボード等、立位保持が可能ならスタンディングマシーン等も含めて対象者に適した方法を検討します。[1]
つまり、「現在の方法が難しいから介助量だけを増やす」のではなく、その人の残存機能を活かしながら、人力で抱え上げなくて済む方法を含めて選び直すことが重要です。
膝折れが出たら「スクワットピボットへ変更」とは限りません
膝折れは、現在の立位移乗をそのまま続けてよいか見直す重要な所見ですが、膝折れ=スクワットピボットと自動的に決めることはできません。
まず、どの局面で、なぜ支持が崩れたのかを確認します。
- 離殿直後から下肢支持が得られないのか
- 立位保持はできるが方向転換中に崩れるのか
- 足部位置や車椅子配置など環境条件が影響しているのか
- 疼痛や疲労によって一時的に支持が低下しているのか
- 指示理解や注意の変動によってタイミングが合わないのか
必要な能力を確認したうえで、環境条件を修正すれば同じ方法を継続できるのか、要求する立位・方向転換を減らすのか、座位移乗や機器へ変更するのかを決めます。
2人介助は「1人介助より安全な方法」という意味ではありません
2人介助は移乗方法そのものではなく、その移乗を実施するための介助体制です。1人では難しいから2人に増やせば安全、とは限りません。
たとえば、患者を持ち上げなければ成立しない移乗を、人数だけ増やして繰り返すことが適切とは限りません。厚生労働省は、全介助が必要な対象者の抱え上げではリフト等を積極的に使用し、原則として人力による抱え上げを行わせない方針を示しています。[1]
一方、必要な介助人数は患者の能力、移乗課題、環境、使用機器などによって変わります。HSEの個別リスク評価でも、必要な移乗介助とスタッフ人数を具体的に評価・記録する考え方が示されています。[2]
2人介助を検討するときのポイント
「1人では支えられないから2人」だけで終わらせず、そもそも現在の移乗方法が患者能力に合っているか、福祉用具や移乗機器で人力負担を減らせないかまで見直します。
移乗を続けるか迷ったときの実務フロー
現場では、次の順番にすると「体調悪化」と「方法の不適合」を混同しにくくなります。
- 急な全身状態の変化がないか確認する
症状、意識、呼吸、循環などに問題があれば、安全な姿勢へ戻して移乗を中止し、必要な評価・対応へ進みます。 - 環境条件で修正できる問題か確認する
ベッド高、車椅子位置、距離、足部位置、スペース、障害物などを確認します。 - 現在の方法に必要な能力があるか確認する
荷重、姿勢制御、方向転換、指示・協力、症状を確認します。 - 合わなければ別の移乗方法を選び直す
立位系だけでなく、座位移乗、スライディングボード、スタンディング機器、リフト等も候補にします。 - 介助者側の安全性も確認する
強い抱え上げ、前屈・ひねり、予測不能な荷重が生じるなら、人数を増やすだけでなく方法・機器・環境から再設計します。 - 変更内容を記録して次回へ共有する
「介助量」だけでなく、何ができず、何を変更したかまで残します。
記録は「できた・できない」ではなく変更理由まで残します
移乗方法を変更した場合は、単に「2人介助」「全介助」と記録するより、どの局面で何が起き、何を根拠に方法を変えたかを残すと、次のスタッフが方法を再現しやすくなり、再評価にもつながります。
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 実施場面 | ベッド→車椅子、トイレ移乗など |
| 変更前の方法 | 立位回旋、スクワットピボットなど |
| 問題が生じた局面 | 離殿、立位保持、方向転換、着座など |
| 観察した所見 | 荷重困難、膝折れ、後方への崩れ、疼痛、指示への反応など |
| 変更した内容 | 環境調整、移乗方法、福祉用具、介助体制など |
| 変更後の反応 | 安全性、介助量、症状、患者の参加状況 |
| 次回の確認事項 | 再評価する能力、症状、環境条件 |
記録例:移乗方法を変更した場合
「ベッド→車椅子移乗。立位回旋を試みたが、離殿後に下肢支持を維持できず介助量が増加したため座位へ戻した。全身状態に明らかな変化なし。座位保持は可能。立位を前提とした方法を再検討し、別方式での移乗を評価する。」
記録例:全身状態の変化で中止した場合
「ベッド→車椅子移乗。立位後にめまいと顔色不良を認めたため座位へ戻し、移乗を中止した。症状・バイタルサインを再評価し、病棟スタッフへ共有。再開は全身状態確認後に判断する。」
記録では、施設の記録様式、医師指示、安静度、看護計画等を優先してください。
移乗方法は状態や環境が変わったときに再評価します
一度決めた移乗方法を固定するのではなく、患者の能力や環境が変わったときに見直します。移乗・移動に関するリスク評価も、本人の能力やニーズが変化した場合には再評価することが重要です。[2]
- 荷重能力や立位能力が変化した
- 疼痛、疲労、呼吸状態などが変化した
- 認知、注意、指示理解が変化した
- 転倒やニアミスがあった
- ベッド、車椅子、居室など環境が変わった
- 新しい福祉用具を導入した
- 以前より必要な介助量が増えている
再評価では、「前回できたから今回も同じ」ではなく、現在の患者能力と現在の環境で、安全に再現できるかを確認します。
移乗の中止・方法変更で避けたい4つの判断
| 避けたい判断 | 見直すポイント |
|---|---|
| 膝折れがあるから必ずスクワットピボット | どの局面で支持が失われたかを確認し、必要能力から方法を選び直す |
| 1人介助が難しいから2人介助 | 人数だけでなく、徒手移乗そのものが適切か、機器を使えないか確認する |
| 昨日できたから今日も同じ方法 | 荷重、症状、注意、疲労など当日の変化を確認する |
| 一度失敗したからその日の移乗はすべて中止 | 全身状態の問題なのか、方法・環境の問題なのかを切り分ける |
よくある質問
Q1. 膝折れが出たらスクワットピボットへ変更すればよいですか?
必ずしもそうではありません。膝折れが離殿直後なのか、立位保持中なのか、方向転換中なのかを確認し、荷重能力、姿勢制御、環境条件を再評価します。必要能力がスクワットピボットにも不足している場合は、座位移乗や移乗機器など別の方法を検討します。
Q2. 1人介助で不安なら2人介助にすれば安全ですか?
人数を増やすだけで安全になるとは限りません。強い抱え上げが必要な場合や、患者の荷重・協力が得られない場合は、移乗方法そのものが適しているかを再評価し、福祉用具や移乗機器を含めて検討します。必要人数は患者、課題、環境、使用機器に応じて決めます。
Q3. 移乗中にめまいが出たら、その日の移乗はすべて中止ですか?
まず現在の移乗を止め、安全な姿勢へ戻して全身状態を再評価します。その後の移乗可否は、症状の原因、回復状況、疾患、バイタルサイン、医師指示、施設基準などを踏まえて判断します。移乗手技だけを変更して続行する問題として扱わないことが重要です。
次に確認する記事
移乗動作そのものを評価する
スクワットピボットを選択した後の実施方法を確認する
参考文献
- 厚生労働省. 職場における腰痛予防対策の推進について. 基発0618第1号. 2013. 厚生労働省
- Health and Safety Executive. Moving and handling in health and social care: Managing the risks of moving and handling. Updated December 18, 2024. HSE
- Unoki T, Hayashida K, Kawai Y, et al. Japanese Clinical Practice Guidelines for Rehabilitation in Critically Ill Patients 2023 (J-ReCIP 2023). J Intensive Care. 2023;11:47. doi: 10.1186/s40560-023-00697-w / PubMed
- Mayeda-Letourneau J. Safe Patient Handling and Movement: A Literature Review. Rehabil Nurs. 2014;39(3):123-129. doi: 10.1002/rnj.133 / PubMed
- Garg A, Owen B, Beller D, Banaag J. A biomechanical and ergonomic evaluation of patient transferring tasks: bed to wheelchair and wheelchair to bed. Ergonomics. 1991;34(3):289-312. doi: 10.1080/00140139108967314 / PubMed
- Allen R, Jackson S, Marsden H, McLellan DL, Gore S. Transferring people safely with manual handling equipment. Clin Rehabil. 2002;16(3):329-337. doi: 10.1191/0269215502cr499oa / PubMed
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

