圧痕性浮腫と Stemmer 徴候は「同じ条件で記録する」とブレにくい
圧痕性浮腫( pitting edema )と Stemmer 徴候は、浮腫の性質をつかむうえで重要な身体所見です。ただし、押す部位・秒数・深さ・戻り時間がそろっていないと、同じ患者でも記録がぶれます。本記事では、圧痕の取り方、1+〜4+ の書き方、Stemmer 徴候の使いどころを、申し送りでそのまま使える形に整理します。
結論は、部位・条件・結果・補助所見をセットで残すことです。圧痕は「原因の確定」ではなく状態所見として扱い、Stemmer 徴候はリンパ系らしさを拾う補助所見として併記します。原因鑑別の全体像や周径測定は親記事・兄弟記事へ回し、このページでは「どう見て、どう書くか」に絞ります。
| 区分 | 扱う内容 | 役割 |
|---|---|---|
| 答えること | 圧痕の取り方、グレードの書き方、Stemmer 徴候の併記、申し送り例 | 所見を同条件で再評価できる記録に変える |
| 答えないこと | 浮腫原因の詳細鑑別、周径測定の細かい手順、リンパ浮腫の病期分類全体 | 親記事・兄弟記事で確認する |
まず 5 分で見る順番を固定する
圧痕と Stemmer 徴候は、単独で原因を決めるための検査ではありません。現場では、危険所見を先に除外し、分布を見て、同じ条件で圧痕を取り、必要に応じて Stemmer 徴候と数値評価へ進める流れが実用的です。
最初から細かい鑑別に入るより、順番を固定したほうが申し送りが安定します。特に「昨日より悪いか」を判断したい場面では、同じ部位・同じ秒数・同じ体位に戻せる記録が重要です。
| 順番 | 見ること | 記録に残すこと | 次に進む判断 |
|---|---|---|---|
| 1 | 赤旗の有無 | 急な左右差、強い疼痛、熱感、呼吸苦、皮膚色変化 | 強い異常があれば評価を止めて連携 |
| 2 | 分布 | 片側/両側、足背、下腿、体幹側への広がり | 全身性か局所性かの手がかりにする |
| 3 | 圧痕 | 部位、秒数、深さ、戻り時間 | 同条件で再評価できるようにする |
| 4 | Stemmer 徴候 | 第 2 趾背側皮膚をつまめるか、左右差 | リンパ系らしさの補助所見にする |
| 5 | 量的評価 | 周径、体重、皮膚所見、介入後変化 | 経時変化を追う指標へ接続する |
圧痕性浮腫とは「押したあとに凹みが残る浮腫」
圧痕性浮腫は、指で圧迫したあとに皮膚の凹みが残る浮腫です。臨床では「 pitting あり」「ゴデット陽性」などと表現され、凹みの深さや戻るまでの時間で程度を共有します。
ただし、圧痕があることは「原因の確定」ではありません。心不全、腎疾患、低栄養、静脈うっ滞、薬剤、リンパ還流障害など複数の背景があり得るため、圧痕はあくまで状態所見として扱います。
圧痕の取り方は「部位・秒数・方向」をそろえる
圧痕評価で最も大切なのは、毎回同じ条件で押すことです。文献や施設マニュアルにより 5〜10 秒などの方法が使われることもありますが、実務ではチーム内で秒数を固定し、前回と同じ条件に戻せるよう記録することを優先します。
本記事では、臨床でそろえやすい例として「同じ部位を 3〜5 秒圧迫し、深さと戻り時間を記録する」形で示します。既存の院内手順がある場合は、院内手順に合わせて秒数を統一してください。
- 部位を固定する(例:足背、内果後方、脛骨前面、下腿内側)。
- 体位をそろえる(臥位、座位、下肢挙上後などを記録する)。
- 親指で 3〜5 秒、骨支持方向へ圧迫する。
- 離した後に凹みの深さ( mm )と戻り時間を確認する。
- 左右差を見る場合は、同じ部位・同じ秒数で左右比較する。
1+〜4+ は「深さ+戻り時間」とセットで書く
圧痕の 1+〜4+ 表記は便利ですが、グレードだけでは情報が不足します。評価者や資料によって深さ・戻り時間の目安に幅があるため、カルテや申し送りでは「2+」だけで終わらせないことが重要です。
実務では、グレードを補助ラベルとして使い、主情報は「どこを、何秒押して、何 mm 凹み、何秒で戻ったか」に置きます。これにより、日差・担当者差・介入前後の比較がしやすくなります。
| グレード(目安) | 凹みの深さ | 戻り時間 | 記録例 |
|---|---|---|---|
| 1+ | 〜 2 mm 程度 | すぐ戻る | 右内果後方:3 秒圧迫、1+(約 2 mm 、即時回復) |
| 2+ | 2〜4 mm 程度 | 10〜15 秒程度 | 右足背:3 秒圧迫、2+(約 3 mm 、15 秒以内) |
| 3+ | 4〜6 mm 程度 | 1 分程度 | 右脛骨前面:3 秒圧迫、3+(約 5 mm 、約 1 分で回復) |
| 4+ | 6〜8 mm 以上 | 数分残る | 右下腿内側:3 秒圧迫、4+(深い圧痕、数分残存) |
Stemmer 徴候はリンパ系らしさを拾う補助所見として使う
Stemmer 徴候は、足趾の背側皮膚をつまめるかで確認します。多くは第 2 趾で評価し、皮膚をつまみ上げにくい、またはつまめない場合を陽性とします。陽性であればリンパ浮腫を疑う材料になります。
一方で、Stemmer 徴候が陰性でもリンパ浮腫を否定しきれません。早期例、分布が限局する例、体格や皮膚状態の影響を受ける例があるため、圧痕、分布、皮膚肥厚、周径変化、経過と組み合わせて判断します。
| 判定 | 見方 | 解釈 | 記録例 |
|---|---|---|---|
| 陰性 | 足趾背側皮膚をつまめる | リンパ浮腫を完全には否定しない | 右第 2 趾 Stemmer 陰性(つまみ上げ可) |
| 陽性 | 皮膚をつまめない、または著しくつまみにくい | リンパ浮腫を示唆する補助所見 | 右第 2 趾 Stemmer 陽性(つまみ上げ困難) |
| 左右差あり | 患側だけつまみにくい | 分布・周径・皮膚所見と合わせて追う | 右第 2 趾でつまみ上げ困難、左は可能 |
解釈は「圧痕=状態」「Stemmer=補助所見」で分ける
圧痕が強いから原因が重い、Stemmer が陰性だからリンパ浮腫ではない、と単純化しないことが大切です。圧痕はその部位の液体貯留状態を示す所見であり、Stemmer 徴候はリンパ系らしさを補う身体所見です。
解釈では、片側か両側か、急性か慢性か、疼痛・熱感・発赤・呼吸苦があるか、圧迫や挙上で変化するかを合わせます。所見の意味づけより先に、危険所見を見落とさない流れを作ることが重要です。
| 確認項目 | 見るポイント | 記録の例 |
|---|---|---|
| 分布 | 片側/両側、足背、下腿、体幹側への広がり | 右優位、足背から下腿遠位まで腫脹 |
| 経過 | 急に出たか、慢性的に続くか、日内変動があるか | 夕方に増悪、翌朝軽減傾向 |
| 随伴所見 | 疼痛、熱感、発赤、皮膚色、呼吸苦、体重変化 | 熱感(−)、疼痛 NRS 2、呼吸苦なし |
| 介入反応 | 挙上、運動、圧迫、休息で変化するか | 下肢挙上 30 分後、足背圧痕 2+ → 1+ |
申し送りでズレない記録テンプレ
短くても比較できる記録は、「部位」「条件」「結果」「補助所見」の 4 点で構成します。長文で説明するより、同じ順番で書くほうが、次の担当者が再評価しやすくなります。
特に圧痕は「2+」だけで記録すると、どこを何秒押した結果なのかが分かりません。Stemmer 徴候も「陽性/陰性」だけでなく、左右差やつまみ上げの可否を添えると実用性が上がります。
| 項目 | 書き方 | 記録例 |
|---|---|---|
| 部位 | 左右と具体部位を書く | 右足背、右内果後方、右脛骨前面 |
| 条件 | 秒数、体位、圧迫着の有無を書く | 臥位、圧迫着なし、3 秒圧迫 |
| 結果 | グレード、深さ、戻り時間を書く | 2+(約 3 mm 、15 秒以内に回復) |
| 補助所見 | 分布、皮膚、疼痛、Stemmer を添える | 足背まで腫脹、熱感(−)、Stemmer 陰性 |
記録例:右足背〜内果後方に腫脹あり。臥位・圧迫着なし。右内果後方を 3 秒圧迫し、圧痕 2+(約 3 mm 、15 秒以内に回復)。熱感(−)、疼痛 NRS 2、右第 2 趾 Stemmer 陰性。次回も同部位・同条件で再評価する。
圧痕・Stemmer 記録シート PDF
圧痕の部位・条件・深さ・戻り時間、Stemmer 徴候、左右差、再評価メモを 1 枚にまとめられる記録シートです。記事を読みながら使うだけでなく、チーム内で「同じ条件で見る」ための共有用としても使えます。
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現場の詰まりどころは「条件がそろわない」こと
圧痕評価がぶれる最大の理由は、所見の難しさよりも条件の不統一です。押す部位、押す秒数、体位、圧迫着の有無が変わると、前回との差なのか、測り方の差なのかが分かりにくくなります。
まずは、患者ごとに「どこを何秒押すか」を決め、記録例をチームで共有します。再評価の目的は、きれいなグレードを付けることではなく、前回と比較できる所見を残すことです。
評価・記録の型を職場で共有しにくいときは
手順を整えても毎回同じところで詰まる場合は、個人の知識だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けていることもあります。
よくある失敗と対策(OK / NG)
圧痕と Stemmer 徴候は、評価自体は短時間でできます。一方で、記録の型がないと「前回より良いのか悪いのか」が伝わりません。よくある失敗を先に押さえると、日々の申し送りが安定します。
| NG | 起きること | OK(修正) |
|---|---|---|
| 「2+」だけ書く | 押した部位や秒数が分からず、再評価できない | 部位・秒数・深さ・戻り時間を併記する |
| 毎回違う場所を押す | 変化なのか測定差なのか分からない | 患者ごとに押す部位を固定する |
| 体位や圧迫着の条件を残さない | 日差・介入差の解釈が難しくなる | 臥位/座位、圧迫着あり/なしを記録する |
| Stemmer 陰性でリンパ浮腫を否定する | 早期例や限局例を見落とす可能性がある | 分布・皮膚所見・周径変化と組み合わせる |
| 圧痕を原因名のように扱う | 鑑別や連携の判断が粗くなる | 圧痕は状態所見として記録し、原因は別に評価する |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 圧痕は何秒くらい押せばよいですか?
A. 施設や資料により幅がありますが、最も重要なのは毎回同じ条件で行うことです。本記事では 3〜5 秒で統一する例を示しています。院内マニュアルで 10 秒法などが決まっている場合は、それに合わせて記録も統一します。
Q2. 圧痕の 1+〜4+ は必ず書くべきですか?
A. 書いてもよいですが、グレード単独では不十分です。少なくとも部位、秒数、深さ、戻り時間を併記すると、次回評価で比較しやすくなります。
Q3. Stemmer 徴候が陰性ならリンパ浮腫は否定できますか?
A. 否定しきれません。陰性でも、分布、皮膚肥厚、周径変化、既往、経過からリンパ浮腫が疑われる場合は、他の評価と合わせて判断します。
Q4. 圧痕が強く、痛みや熱感もある場合はどうしますか?
A. 圧痕の程度だけで判断せず、急な左右差、発赤、熱感、強い疼痛、呼吸苦などを確認します。危険所見がある場合は、評価を続けるよりも早めに医師・看護師へ共有します。
Q5. 日によって圧痕の結果が変わるときは何を確認しますか?
A. まず条件差を確認します。時間帯、体位、下肢挙上後かどうか、圧迫着の有無、押した部位・秒数がそろっているかを見直します。条件をそろえても変化が続く場合に、原因評価や介入調整へ進みます。
次の一手
- 全体像に戻る:浮腫の評価方法|圧痕性浮腫 1+〜4+ と鑑別・記録の要点
- 数値化へ進む:浮腫・腫脹の周径測定|再現性を上げる標準手順と記録シート
参考文献
- Goss JA, Greene AK. Sensitivity and Specificity of the Stemmer Sign for Lymphedema: A Clinical Lymphoscintigraphic Study. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2019;7(6):e2295. doi:10.1097/GOX.0000000000002295. PubMed
- Executive Committee of the International Society of Lymphology. The Diagnosis and Treatment of Peripheral Lymphedema: 2023 Consensus Document of The International Society of Lymphology. Lymphology. 2023;56(4):133-151. PubMed
- Calzon ME, Blebea J, Pittman C. Quantitative measurement of pitting edema with a novel edema ruler. J Vasc Surg Cases Innov Tech. 2024;10(1):101373. doi:10.1016/j.jvscit.2023.101373. PubMed
- Goyal A, Cusick AS, Bhutta BS. Peripheral Edema. StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing. PubMed
- 日本臨床検査医学会. 浮腫 Edema. 症候編・一般/浮腫. 公式PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


