圧迫療法の禁忌・適応|ABI・心不全と中止基準

臨床手技・プロトコル
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圧迫療法は「禁忌→慎重適応→開始→中止」で判断する

浮腫に圧迫療法を行うときは、まず「浮腫があるから圧迫する」のではなく、圧迫してよい状態かを確認することが先です。特に下肢では、ABI(足関節上腕血圧比)、心不全、皮膚・皮下組織感染、末梢神経障害などによって、禁忌または慎重適応になります。

この記事では、圧迫療法を「禁忌」「慎重適応」「開始を検討できる状態」「実施中止」に分けて整理します。2025年の日本静脈学会ガイドラインを軸に、ABIやNYHA心機能分類の境界、急性DVTとIPCの違い、装着後に何が出たら外すか、中止後に再開できるかまで確認します。

浮腫そのものの原因評価から確認したい場合

圧迫療法を検討する前に、浮腫の緊急性・分布・圧痕・皮膚・周径などを整理したい場合は、親記事で全体像を確認できます。

浮腫評価の全体像を見る

圧迫療法の判断を4段階で整理
判断 代表的な状態 基本対応
禁忌 ABI<0.5、NYHA IV、高度末梢神経障害、急性かつ広範囲の皮膚・皮下組織感染など 圧迫を開始しない。原因・全身状態の評価を優先する
慎重適応 ABI 0.5〜<0.9、NYHA III、糖尿病性神経障害、脆弱な皮膚など 病態とリスクを確認し、圧迫圧や方法を個別に判断する
開始を検討 適応となる病態があり、禁忌がなく、皮膚・循環・全身状態が安定している 目的と評価項目を決め、適切な圧迫方法で開始する
実施中止 新たな冷感・蒼白、痛み、しびれ、皮膚障害、息切れ悪化など いったん外し、循環・神経・皮膚・全身状態を再評価する
圧迫療法を禁忌、慎重適応、開始可能、実施中止に分け、ABI、NYHA、皮膚感染、神経障害、中止サインから判断するフロー図
図:圧迫療法の実施判断|禁忌・慎重適応から実施中止まで

図の読み方:図中の「開始可能」は、本記事で実務上の判断を整理するための表現です。ガイドライン上の正式な区分として示されているのは「禁忌」と「慎重適応(相対的禁忌)」であり、実際の圧迫圧・装着時間・方法は病態、治療方針、使用する医療機器の添付文書などに合わせて個別に決めます。

圧迫療法の禁忌・慎重適応|ABIとNYHAを先に確認する

圧迫療法を始める前は、「絶対に避ける状態」と「条件を調整しながら慎重に検討する状態」を分けることが重要です。2025年の日本静脈学会ガイドラインでは、禁忌と慎重適応が具体的に整理されています。

圧迫療法の主な禁忌と慎重適応
確認項目 禁忌 慎重適応
心不全 NYHA IV NYHA III
下肢動脈疾患 ABI<0.5 ABI 0.5〜<0.9
神経障害 高度末梢神経障害 糖尿病性神経障害、その他の末梢神経障害
皮膚・感染 急性かつ広範囲の皮膚・皮下組織感染 慢性の皮膚・皮下組織感染、脆弱・菲薄化した皮膚など

このほか、ガイドラインでは、圧迫材料に対する確認されたアレルギー、広範囲な急性血栓性静脈炎、有痛性青股腫、不安定な高度高血圧症、圧迫療法への同意が得られない場合なども禁忌として整理されています。

慎重適応には、びまん性皮膚疾患・皮膚血管炎、下肢の高度変形、下肢バイパス術後の一部、ギプス固定を伴う下肢外傷なども含まれます。したがって、ABIだけを測って「圧迫できる」と判断するのではなく、皮膚・神経・全身状態まで合わせて確認します。

ABIで圧迫療法をどう判断するか

下肢圧迫療法では、ABI<0.5が禁忌、0.5〜<0.9が慎重適応という境界が重要です。特にABIが低い患者へ強い圧迫を加えると、すでに低下している動脈血流へ影響する可能性があるため、浮腫の程度だけで圧迫圧を決めてはいけません。

ABIによる圧迫療法の判断
ABI 位置づけ 実務での考え方
ABI<0.5 禁忌 高度下肢動脈疾患として圧迫を開始せず、動脈循環の評価を優先する
0.5〜<0.9 慎重適応 圧迫圧を下げるなどの調整が必要。病態と治療方針を確認して判断する
0.9以上 ABIの基準だけでは禁忌・慎重適応に該当しない 他の禁忌、皮膚状態、神経障害、心不全などを確認してから判断する

ガイドラインでは、ABIの境界について0.6を基準とする場合があることも注記されています。そのため「0.5を超えれば通常どおり圧迫してよい」という意味ではありません。ABI 0.5〜<0.9では慎重適応として、圧迫圧を下げることが示されています。

また、数値だけではなく、安静時痛、足趾の冷感、蒼白・チアノーゼなど動脈循環不全を疑う所見がないかも確認します。装着前からこれらがみられる場合は、圧迫を急がず原因評価を優先します。

心不全・感染・神経障害ではどう判断するか

ABI以外では、心不全の重症度、感染の急性度と範囲、感覚障害の程度が重要な境界になります。「心不全がある」「糖尿病がある」といった病名だけで一律に禁止するのではなく、状態の重症度を分けて考えます。

心不全:NYHA IVは禁忌、NYHA IIIは慎重適応

2025年ガイドラインでは、重症心不全であるNYHA IVは禁忌、高度心不全であるNYHA IIIは慎重適応に位置づけられています。

実施中に息切れが明らかに悪化する、浮腫が急激に増える、全身状態が悪化するといった変化が出た場合は、圧迫の継続より心不全増悪などの評価を優先します。

感染:急性かつ広範囲なら禁忌、慢性では慎重に判断する

急性かつ広範囲の皮膚・皮下組織感染は禁忌です。一方、慢性の皮膚・皮下組織感染は慎重適応として整理されています。

したがって、「発赤がある=すべて圧迫禁止」と単純化するのではなく、急性増悪か、範囲が広いか、熱感・疼痛・全身症状を伴うかなどを確認します。創部や皮膚病変がある場合は、圧迫より先に感染・創傷管理の方針をそろえます。

神経障害:高度障害は禁忌、糖尿病性神経障害などは慎重適応

高度末梢神経障害は禁忌です。糖尿病性神経障害やその他の末梢神経障害は慎重適応に位置づけられています。

感覚障害がある患者では、圧迫による痛み、しわ、食い込み、局所圧を本人が感じにくいことがあります。そのため、開始可否だけでなく、装着後の皮膚・色調・局所圧を観察できる体制まで含めて判断します。

急性DVTでは「圧迫療法」と「IPC」を分けて考える

急性深部静脈血栓症(DVT)は、「血栓があるから圧迫療法はすべて禁忌」と覚えないことが重要です。弾性ストッキングや弾性包帯による圧迫療法と、間欠的空気圧迫法(IPC)は分けて考えます。

日本静脈学会のガイドラインでは、急性DVTの症状改善を目的とした圧迫療法は推奨クラスIIa、エビデンスレベルCとされています。抗凝固療法下で、浮腫や疼痛などの急性期症状をみながら圧迫療法を行う考え方が示されています。

一方、禁忌表に記載されている「中枢型急性DVT」はIPCを行う場合の禁忌です。つまり、「急性DVT=弾性ストッキングも包帯もIPCもすべて禁止」と一括りにはできません。DVTが疑われる、または診断されている場合は、抗凝固療法の状況、血栓部位、症状、医師の治療方針を確認したうえで圧迫方法を選択します。

圧迫療法の適応になりやすい主な状態

禁忌・慎重適応を確認したうえで、圧迫療法の目的が明確な患者では実施を検討します。代表的なのは、慢性静脈不全による下肢浮腫やリンパ浮腫などです。

圧迫療法を検討する主な場面
状態 圧迫の主な目的 開始前に確認すること
慢性静脈不全・静脈うっ滞 静脈性浮腫や症状の軽減 ABI、皮膚病変、疼痛、禁忌の有無
リンパ浮腫 腫脹のコントロールと維持 皮膚状態、感染兆候、病期、圧迫方法
活動量低下に伴う浮腫 下肢のうっ滞を軽減する 心不全、腎機能、全身状態、浮腫の原因
術後・外傷後の腫脹 腫脹による疼痛や活動への影響を抑える 創部、循環、感覚、治療方針・指示

圧迫療法が適応になり得る病態であっても、禁忌があれば実施できません。また、圧迫圧や包帯・弾性着衣などの選択は病態によって異なるため、本記事では「何を使うか」より先に、実施してよいかという安全判断を優先しています。

実施中の中止基準|新たな循環・神経・皮膚・全身症状で外す

圧迫開始後は、装着前にはなかった異常が出た、または既存症状が明らかに悪化した場合に、いったん圧迫を外して再評価します。特に循環・神経・皮膚・全身状態の変化を見逃さないことが重要です。

圧迫療法を中止して再評価したいサイン
分類 中止・再評価したい変化 まず行うこと
循環 新たな冷感、蒼白、チアノーゼ、安静時痛、疼痛の急増 圧迫を外し、足趾の色調・温度・疼痛などを再確認する
神経 新たなしびれ、感覚低下、灼熱感、末梢の違和感 局所の食い込みや圧集中を確認し、症状が残る場合は再開しない
皮膚 水疱、びらん、強い発赤、皮膚損傷、局所の強い疼痛 皮膚保護を優先し、圧迫方法・サイズ・局所圧を見直す
全身 息切れ悪化、呼吸状態の変化、全身状態の悪化 圧迫を中止し、心不全増悪などを含めて医師・看護師へ共有する

「多少痛くても浮腫を減らすために続ける」という考え方は避けます。圧迫療法は継続できることが重要であり、新しい異常を我慢してまで続けるものではありません。

中止後の再開判断|原因を「装着方法」と「病態変化」に分ける

圧迫を外した後は、なぜ異常が出たのかによって再開できるかを分けると判断しやすくなります。単純なしわ・食い込みと、動脈循環不全や心不全増悪を同じ「圧迫が合わなかった」で処理しないことが重要です。

圧迫療法を中止した後の原因別対応
考えられる原因 確認すること 次の対応
しわ・段差・食い込み 局所に圧が集中していないか 装着方法を修正し、皮膚・症状を確認して再評価する
サイズ・圧迫方法が不適切 周径、形状、装具の適合 サイズや圧迫方法を再選定する
循環・神経症状 冷感、色調、安静時痛、しびれが残っていないか 自己判断で再開せず、原因評価と相談を優先する
呼吸・全身状態の悪化 息切れ、全身状態、心不全増悪を疑う所見 圧迫を再開せず、全身状態の評価・共有を優先する

圧迫を外しただけで症状が改善しても、それだけで「次は弱く巻けば大丈夫」とは限りません。循環障害や全身状態の悪化が疑われる場合は、原因を確認するまで再開しないことが安全です。

記録は「開始条件・方法・反応・次回判断」を残す

圧迫療法の記録では、単に「弾性包帯を実施」と書くのではなく、なぜ開始できたか、何を使ったか、実施後に異常がなかったか、次回どうするかが分かる形にします。

圧迫療法で残したい記録項目
項目 記録する内容
目的 浮腫、疼痛、皮膚、活動など、圧迫で何を改善したいか
開始前 循環、皮膚、感覚、全身状態、禁忌・慎重適応の確認結果
方法 圧迫手段、部位、使用条件
実施後 疼痛、しびれ、冷感、色調、皮膚、全身状態の変化
判断 継続、方法調整、中止、相談のいずれとしたか、その理由

中止した場合は、「痛みがあったため中止」だけで終わらせず、どの部位で何が起きたか、外した後に改善したか、循環・神経症状が残ったか、次回は再開するのか相談するのかまで残すと、再評価時の判断がつながります。

よくある質問(FAQ)

Q1. ABIが0.5を超えていれば通常どおり圧迫できますか?

A. いいえ。ABI 0.5〜<0.9は慎重適応で、ガイドラインでは圧迫圧を下げることが示されています。また、0.6を境界とする場合があることも注記されています。ABIだけでなく、冷感・安静時痛・色調や他の禁忌も確認します。

Q2. 心不全があれば圧迫療法はすべて禁忌ですか?

A. 一律ではありません。2025年ガイドラインではNYHA IVが禁忌、NYHA IIIが慎重適応です。心不全の重症度と現在の全身状態を確認して判断します。

Q3. 急性DVTでは弾性ストッキングも禁止ですか?

A. 急性DVTを理由に圧迫療法すべてを一律禁止とはしません。日本静脈学会ガイドラインでは急性期症状改善のための圧迫療法が示されています。一方、中枢型急性DVTはIPCを行う場合の禁忌として整理されているため、弾性ストッキング・包帯とIPCを区別する必要があります。

Q4. 圧迫後にしびれや冷感が出たらどうしますか?

A. いったん圧迫を外し、色調・温度・疼痛・感覚を再評価します。しわや食い込みによる局所圧なのか、循環・神経障害が疑われるのかを分け、循環障害を疑う場合は自己判断で再開せず相談します。

Q5. 浮腫が強ければ圧迫を強くした方がよいですか?

A. 浮腫の程度だけで圧迫圧を強くするべきではありません。病態、ABI、皮膚、神経障害、心不全、圧迫への忍容性などを確認し、目的に合った圧迫方法を選びます。

次に確認したいこと

圧迫療法を開始した後は、「見た目が少し細くなった」だけではなく、同じ条件で浮腫の変化を追えるようにしておくことが重要です。経時変化を客観的に確認する場合は、測定部位と条件を固定して周径を記録します。

浮腫・腫脹の周径測定方法を確認する


参考文献

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  2. 日本静脈学会. 静脈疾患における圧迫療法ガイドライン 2025 ダイジェスト版. 静脈学. 2025;36(Supplement2):i-13. doi:10.7134/phlebol.36-supplement2. DOI / J-STAGE
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著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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