デルマトームと末梢神経領域は「地図の種類」で使い分けます
デルマトームと末梢神経領域は、どちらも感覚所見を整理するための地図ですが、見ている階層が違います。デルマトームは神経根・髄節レベルの地図、末梢神経領域は正中神経・尺骨神経・橈骨神経など、末梢神経の走行で読む地図です。
この記事では、PT / OT が感覚検査で迷いやすい「どちらの地図で読むか」を、境界・走行・末梢優位の 3 つで整理します。読み終えると、しびれや感覚低下の分布を見たときに、デルマトームで読むのか、末梢神経領域で読むのか、記録にどう残すかまで決めやすくなります。
まず「境界・走行・末梢優位」で地図を選びます
使い分けの結論は、分布の見え方を先に言語化することです。帯状に境界があるならデルマトーム、特定の指・手掌・手背に沿うなら末梢神経領域、左右対称に末梢ほど強いなら多発末梢神経障害のパターンを優先して考えます。
最初から神経名を当てにいくと、痛みの放散や訴えの強い部位に引っ張られます。先に「帯状か」「走行に沿うか」「末梢ほど強いか」を決め、代表ポイントで当たりを確認してから境界を詰めると、再評価とチーム共有が安定します。
図で確認:神経根マップと末梢神経マップの違い
同じ「しびれ」でも、帯状に読むか、神経走行で読むかによって、次に確認するポイントが変わります。
※表はスマホでは横スクロールで見られます。
| 所見の見え方 | まず使う地図 | 次に確認すること | 避けたい判断 |
|---|---|---|---|
| 体幹や四肢に帯状の境界がある | デルマトーム | 上下の髄節で境界を 1 段ずつ詰める | 痛みの放散だけで神経根を決める |
| 特定の指・手掌・手背の一部が目立つ | 末梢神経領域 | 代表ポイントを 2 〜 3 点で確認する | 単一点の感覚低下だけで神経名を断定する |
| 左右対称で末梢ほど強い | 多発末梢神経障害のパターン | 手袋・靴下型か、近位が保たれるかを見る | 単神経障害として無理に説明する |
| 片側の顔と身体、または身体半分が一括で変 | 中枢性の分布を想定 | 運動・視野・高次脳機能も同時に整理する | 末梢神経の地図だけで説明する |
図解:地図選びは 3 分岐で整理します
早見表の内容を、臨床での判断順に整理した図版です。迷ったときは「境界」「走行」「末梢優位」を先に見て、最後に中枢性の所見がないかを確認します。
現場の詰まりどころは「地図を増やしすぎること」です
感覚所見で迷うと、デルマトーム、末梢神経領域、痛みの放散、筋力、反射を一度に見ようとして、かえって記録が散らばります。まずは 1 枚の地図を仮決めし、合わない部分を「不一致」として残す方が、再評価しやすくなります。
ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、手順だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。
デルマトームは「代表ポイント」で神経根の当たりをつけます
デルマトームは、神経根・髄節レベルの障害を考えるときに使います。丸暗記だけで判断するのではなく、代表ポイントで当たりを取り、上下の境界を 1 段ずつ詰めると臨床で使いやすくなります。
特に C6 〜 C8、L4 〜 S1 は末梢神経領域と重なって見える場面があります。単独の感覚所見だけで決めず、筋力・反射・誘発症状と合わせて「一致度」で共有するのが安全です。
| レベル | 代表ポイント(例) | 現場での使い方 |
|---|---|---|
| C5 | 肩外側〜上腕外側 | C4 / C6 との境界を帯状に確認する |
| C6 | 橈側前腕〜母指 | 正中神経領域と混線しやすいため、前腕の帯も見る |
| C7 | 中指周辺 | 上肢の代表点として当たりを取りやすい |
| C8 | 小指〜尺側前腕 | 尺骨神経領域と比較し、指だけで判断しない |
| L4 | 膝内側〜下腿内側 | 膝周囲と下腿内側を分けて確認する |
| L5 | 下腿外側〜足背 | 腓骨神経領域との重なりに注意する |
| S1 | 足外側〜踵外側 | アキレス腱反射や底屈筋力も合わせて確認する |
末梢神経領域は「走行」と「代表 3 点」で確認します
末梢神経領域は、神経根より遠位の障害を考えるときに使います。正中神経・尺骨神経・橈骨神経などの走行に沿って、手掌、手背、指の橈尺側を分けて確認すると、所見の整理がしやすくなります。
ただし、末梢神経領域にも重なりや個人差があります。1 点で決めるより、代表ポイントを 2 〜 3 点確認し、「一致度が高い」「一部のみ一致」「一致しにくい」と残す方が、再評価で修正しやすくなります。
| 末梢神経 | 代表ポイント(例) | 合わせて見る所見 | よくある誤り |
|---|---|---|---|
| 正中神経 | 母指〜環指橈側の手掌側 | 母指球周辺の違和感、手根管症状、つまみ動作 | 手背の違和感だけで正中神経と判断する |
| 尺骨神経 | 小指〜環指尺側の手掌 / 手背 | 巧緻動作、骨間筋、肘部での症状変化 | C8 の帯状所見を見落とす |
| 橈骨神経(浅枝) | 母指背側〜示指背側の橈側 | 手背橈側の違和感、伸筋群の症状 | 正中神経の手掌側所見と混在させる |
5 分フローで「地図選び → 境界 → 記録」まで固定します
臨床では、最初から正解の神経名を当てるより、同じ手順で再現できることが重要です。以下の 5 分フローに沿うと、地図選び、代表ポイント、境界確認、記録の順番が崩れにくくなります。
- 刺激を 1 つ決める:触覚、痛覚、振動覚など、左右差が出る刺激を選びます。
- 分布を言語化する:帯状、走行に沿う、末梢優位、半身性のどれに近いかを確認します。
- 地図を 1 枚仮決めする:デルマトームか末梢神経領域のどちらを先に使うか決めます。
- 代表ポイントで当たりを取る:2 〜 3 点で一致度を確認し、境界を近位 / 遠位、上 / 下で詰めます。
- 記録を 1 行で残す:感覚種別、左右差、境界、一致度をまとめます。
A4 記録シートで地図選びをそのまま記録できます
デルマトームと末梢神経領域の使い分けは、頭の中だけで判断すると再評価時にブレやすくなります。A4 記録シートでは、刺激条件、分布の見え方、仮決めした地図、境界、一致度を 1 枚で整理できます。
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記録例は「分布・境界・一致度」を 1 行にまとめます
記録では「しびれあり」だけでは、次回の比較が難しくなります。分布の地図、境界、使用刺激、一致度を 1 行に入れると、チーム内で同じ所見を追いやすくなります。
| 場面 | 記録例 | 補足しておきたい点 |
|---|---|---|
| デルマトーム優位 | 右 C6 領域を疑う触覚低下あり。橈側前腕〜母指で左比低下、C5 / C7 代表点は明らかな左右差なし。 | 神経根を断定せず、疑いと境界を残す |
| 末梢神経領域優位 | 右尺骨神経領域に一致するしびれ訴えあり。小指〜環指尺側の手掌 / 手背で触覚低下、C8 帯状所見は不明瞭。 | 末梢神経とデルマトームの比較結果を添える |
| 混線する所見 | 右手指のしびれは C8 / 尺骨神経領域の一部に重なる。一致度は中等度。次回、刺激条件をそろえて再評価予定。 | 迷う場合は一致度と再評価予定を書く |
症例ミニケースで地図選びを確認します
実際の感覚所見では、デルマトームと末梢神経領域がきれいに分かれないこともあります。ここでは、現場で迷いやすい 2 例を、最初に使う地図と次アクションに分けて整理します。
| ケース | 分布の特徴 | まず使う地図 | 次アクション |
|---|---|---|---|
| Case 1:頸部痛+母指〜前腕橈側のしびれ | 首の動きで増悪し、前腕橈側まで帯状に近い | デルマトーム(C6 を当たり) | C5 / C6 / C7 の代表点、筋力、反射を合わせて確認する |
| Case 2:小指〜環指尺側のしびれ | 指に沿う訴えが強く、手掌 / 手背とも尺側優位 | 末梢神経領域(尺骨神経を当たり) | 肘部での症状変化、巧緻動作、C8 の帯状所見を比較する |
よくある失敗は「単発所見で断定すること」です
デルマトームも末梢神経領域も、完全に線で区切れる地図ではありません。刺激量、患者の訴え方、重なり領域によって所見は変わるため、単発所見で断定せず、条件をそろえて比較できる形にすることが重要です。
| 失敗 | 起きる理由 | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 刺激量が毎回違う | 押圧・速度・道具の差で反応が変わる | 同じ道具、同じテンポ、同じ説明で行う | 綿棒、ピン、音叉など使用刺激を書く |
| 重なり領域を 0 / 1 で断定する | デルマトームも末梢神経領域も個人差がある | 代表ポイント 2 〜 3 点の一致度で判断する | 一致度(高 / 中 / 低)を添える |
| 境界を取らずに終える | 「どこから変わるか」が残らない | 近位 / 遠位、上 / 下で段階的に確認する | 手関節、膝内側、足背など目印を書く |
| 末梢神経だけで中枢性分布を説明する | 半身性や顔面を含む所見を見落とす | 運動、視野、高次脳機能も同時に確認する | 末梢地図と合わない所見を「不一致」として残す |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
デルマトームは全部暗記しないと使えませんか?
全部を丸暗記するより、代表ポイントで当たりを取り、境界を 1 段ずつ詰める方が実務的です。C6、C7、C8、L4、L5、S1 など、臨床で迷いやすい代表点から使えるようにしておくと、記録と共有が安定します。
デルマトームと末梢神経領域が混ざって見えるときはどうしますか?
まず刺激を 1 つに固定し、代表ポイントを 2 〜 3 点で確認します。そのうえで、デルマトームに一致する部分、末梢神経領域に一致する部分、どちらにも合いにくい部分を分けて記録します。迷う場合は「一致度:中」などで残すと再評価しやすくなります。
触覚・痛覚・振動覚のどれから始めるとよいですか?
表在感覚の分布を見たいときは触覚や痛覚、深部感覚を確認したいときは振動覚や位置覚が使いやすいです。地図選びで迷う場面では、まず同じ刺激で左右差と境界を確認し、必要に応じて別の感覚種別を追加します。
中枢性の感覚障害と迷うときはどうしますか?
顔面を含む片側性、身体半分にまとまる分布、運動麻痺や視野障害、高次脳機能障害を伴う場合は、中枢性の所見も同時に整理します。末梢神経領域で説明しきれない所見は、無理に末梢の地図へ当てはめず、別枠で共有します。
次の一手
- 感覚検査全体の流れをそろえる:感覚検査の完全ガイド
- 深部感覚の検査を整理する:深部感覚の検査方法
参考文献
- Lee MW, McPhee RW, Stringer MD. An evidence-based approach to human dermatomes. Clin Anat. 2008;21(5):363-373. doi: 10.1002/ca.20636(PubMed: PMID 18470936)
- Downs MB, Laporte C. Conflicting dermatome maps: educational and clinical implications. J Orthop Sports Phys Ther. 2011;41(6):427-434. doi: 10.2519/jospt.2011.3506(PubMed: PMID 21628826)
- Ladak A, Tubbs RS, Spinner RJ, et al. Mapping sensory nerve communications between peripheral nerve territories derived from spinal nerves. Clin Anat. 2014;27(5):681-690. doi: 10.1002/ca.22285(PubMed: PMID 23824984)
- Daniels AH, Alsoof D, McDonald CL, Diebo BG, Kuris EO. Clinical Examination of the Cervical Spine. N Engl J Med. 2023;389(17):e34. doi: 10.1056/NEJMvcm2204780(PubMed: PMID 37888918)
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


