肩インピンジメントのテスト|Neer と Hawkins の違いと“最小セット”運用
肩インピンジメント(肩峰下痛を含む RCRSP など)を疑う場面では、Neer と Hawkins を増やす前に、痛みの主座(外側 / 前面 / 上方)と痛みが出る角度帯(疼痛アーク)を先に固定すると、評価がブレにくくなります。テスト単独で確定診断はできないため、問診 → AROM / PROM → 最小セット 2〜4 個で仮説を作り、介入と再評価につなげるのが実務的です。
本記事は、① 5 分フロー→② Neer / Hawkins / Painful Arc の違い→③ 偽陽性を減らす条件固定→④ 記録の型( 1 行テンプレ)→⑤ A4 記録シート PDFまでを 1 ページで標準化します。肩評価の全体像は 肩関節の整形外科テスト一覧(親)で整理できます。
同ジャンルで回遊して、判断を速くする:親ページで全体像をつかみ、部位別ハブと共有指標をそろえると、初回評価の迷いが減ります。
5 分で回す|インピンジメント疑いの最短フロー
インピンジメントは混在が多く、“どれも痛い” になりやすいのが前提です。まずは疼痛アーク(角度帯)と痛みの主座で仮説を置き、Neer / Hawkins を必要最小限に使います。初回はこのフローだけで方向性が立ちます。
再評価で比較できるように、陽性判定は「痛い」ではなく、部位+角度+反応を 1 行で残します。記録がそろうと、介入後に「何が変わったか」を共有しやすくなります。
| 順序 | 見ること | 観察・記録の型(例) | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| 1 | 問診 | 外側痛 / 夜間痛 / 動作(更衣・頭上作業)/ 外傷歴 | 外傷・強い夜間痛は医師連携も検討 |
| 2 | 疼痛アーク | 自動外転で “ 70–120° ” に痛み、終末で軽減など | 角度帯を固定して再評価 |
| 3 | AROM / 代償 | 肩甲帯のすくみ・前方化、体幹側屈の有無 | 代償が強いほど偽陽性が増える |
| 4 | 最小セット( 2〜4 個) | Painful Arc + Neer / Hawkins +(必要なら ER 抵抗 / Can) | “肩峰下優位” の仮説を固める |
| 5 | 介入 → 再評価 | 痛み角度( 1 つ)+代表テスト( 1〜2 個) | 同条件で “変化” を 1 行で共有 |
Neer と Hawkins の違い|何を見て、どう書き分けるか
Neer と Hawkins はどちらも肩峰下で症状を誘発しやすいテストです。臨床では「どちらが正しいか」より、① 代償を抑える条件固定と② どの角度・どの部位で症状が出たかの記録が重要です。条件が揃っていないと、再評価で比較できません。
まずは Painful Arc で角度帯を押さえ、Neer / Hawkins は仮説を強める補助として使うと、やり過ぎを防げます。
| 項目 | Neer | Hawkins | Painful Arc |
|---|---|---|---|
| 主に見ること | 挙上で肩峰下症状が再現されるか | 挙上位・内旋で症状が再現されるか | 痛みが出る角度帯 |
| 使いどころ | 挙上時の外側痛が目立つとき | 後下方・肩峰下での症状再現を見たいとき | 初回と再評価の共通指標にしたいとき |
| 偽陽性が増える例 | 肩甲帯挙上・体幹側屈が強い | 内旋を押し切って疼痛を増やす | 角度を記録せず「痛かった」だけで終える |
| 記録の型(例) | 挙上 120° 付近で外側痛再現 | 内旋で外側痛↑、途中で停止 | 外転 80–110° で痛み、終末で軽減 |
最小セット( 2〜4 個)|迷わない組み合わせ
インピンジメント疑いでは、テストを増やすほど痛みが増え、“全部陽性” になりやすくなります。まずはPainful Arc + Neer / Hawkinsを基本にし、筋力の解釈が必要なときだけ 1 個追加します。初回はこれで十分に回せます。
“陽性” は必ず部位+角度+反応を添えて、再評価で比較できる形にします。テスト名を並べるより、どの条件で症状が出たかを残す方が実務では役立ちます。
| 場面 | まずやる(最小) | 追加するなら | 目的 |
|---|---|---|---|
| 典型(外側痛+疼痛アーク) | Painful Arc + Hawkins | Neer | 角度帯と反応で仮説を強める |
| 挙上時痛が強い | Painful Arc + Neer | Hawkins | 挙上角度と症状再現を確認する |
| 筋力低下の解釈が必要 | Painful Arc +(Neer か Hawkins) | ER 抵抗 / Empty Can / Full Can | 痛み抑制か真の低下かを分ける |
| 前面痛が強い(混在疑い) | Painful Arc +(Neer か Hawkins) | Speed などを補助的に検討 | 長頭腱・腱板・他病態の混在をほどく |
記録の型|“ 1 行テンプレ” で共有する
評価が回らない原因は、所見が文章で散らばることです。インピンジメント疑いは、痛みの主座・角度帯・テスト反応・再評価を 1 行にすると共有が揃います。
特に Painful Arc は角度帯が価値なので、角度の数字を必ず残してください。例:「外側痛、外転 80–110° で増悪、Hawkins で再現・Neer 軽度」
| 要素 | 書き方 | 例 |
|---|---|---|
| 痛みの主座 | 外側 / 前面 / 上方 | 上腕外側痛 |
| 角度帯 | “何度から何度まで” | 外転 80–110° で増悪 |
| 最小セット反応 | どのテストで、何が起きたか | Hawkins で外側痛↑、Neer は軽度 |
| 再評価 | 同条件で変化を書く | 介入後、外転 90° 付近の痛みが NRS 6 → 3 |
ダウンロード|肩インピンジメント記録シート PDF
評価を “その場だけ” にしないために、痛み角度・代償・最小セットを同じ型で残せる A4 記録シートを用意しました。初回評価と再評価を同条件で比較したいときに使いやすい構成です。
印刷して使う場合は、Painful Arc の角度帯、Neer / Hawkins の反応、代償、停止基準、介入後の変化を 1 枚で残せます。
肩インピンジメント記録シート( A4 PDF )
現場の詰まりどころ|全部陽性を避ける三段整理
インピンジメント疑いで最も詰まりやすいのは、テストを増やしすぎて「全部痛い」「全部陽性」に見えることです。まずはページ内で失敗パターンと条件固定を確認し、必要に応じて親記事へ戻る流れにします。
- よくある失敗(偽陽性を増やすパターン)へ
- 回避の手順・チェック(条件固定)へ
- 同ジャンルの内部リンク:肩関節の整形外科テスト一覧(親)
ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、書き方や手順だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。評価・記録・報告の「型」をまとめて整理したい方は、PT キャリアガイドも参考になります。
評価・記録の型を整理したい方へ
よくある失敗|偽陽性を増やすポイント
インピンジメント疑いでは “偽陽性” が運用を崩します。下の NG を潰すだけで、テストの情報価値が上がり、再評価で変化を追いやすくなります。
特に、代償(肩甲帯挙上・体幹側屈)が強い状態で押し切ると、どのテストも痛くなりやすくなります。
| ありがち(NG) | なぜ起きる | 回避(OK) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| テストを増やして確信しようとする | 痛みが増えて “全部陽性” になる | 最小セット 2〜4 個に絞る | 実施数を残す(“本日は 3 個まで”) |
| 肩甲帯の代償を無視する | 代償が強いほど偽陽性が増える | AROM の代償を先に書く | 肩甲帯挙上・前方化、体幹側屈 |
| Hawkins を押し切って内旋する | 疼痛を増やして情報が崩れる | 反応が出た時点で止め、角度を記録 | “どこで止めたか” を書く |
| “痛い=陽性” で終える | 再評価で比較できない | 部位+角度+反応を 1 行で残す | 疼痛アーク(角度帯)を数字で残す |
回避の手順・チェック|条件固定で再評価を揃える
再評価でブレる主因は、体位・角度・肩甲骨固定の条件が毎回違うことです。次の固定項目だけ揃えれば、比較可能な評価になります。
固定できたら、再評価は痛み角度( 1 つ)+代表テスト( 1〜2 個)で十分です。痛みの急増、防御反応、不安の増強、代償の増大がある場合は押し切らず、そこで止めて情報を記録します。
| 固定すること | 具体 | 理由 |
|---|---|---|
| 体位 | 座位 / 立位を決める | 代償(肩甲帯・体幹)が変わる |
| 角度 | 疼痛アークの角度帯を固定 | 変化が最も分かりやすい |
| 肩甲骨固定 | 固定する / しないを明記 | テストの解釈が変わる |
| テスト数 | 最小セット( 2〜4 個)を固定 | 痛み増悪による偽陽性を避ける |
| 停止基準 | 痛み急増、防御反応、不安、代償増大で停止 | 安全性と再現性を守る |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Neer と Hawkins、どっちを優先すればいい?
優先順位はテスト名ではなく、まず疼痛アーク(角度帯)と痛みの主座を押さえることです。そのうえで Neer / Hawkins を 1〜2 個使い、同条件で「どの角度・どの部位で何が起きたか」を記録します。迷ったら Painful Arc + Hawkins から始め、必要時に Neer を追加すると回しやすいです。
“全部痛い” になったらどうする?
テスト追加を止め、AROM の代償(肩甲帯挙上・体幹側屈)と疼痛アーク角度を取り直します。次に最小セットを 2〜3 個へ絞り、反応が出た時点で停止して角度と部位を記録します。痛みが強い日は“比較できる情報”の確保を優先します。
Can テスト(Empty / Full Can)はいつ使う?
筋力の解釈が必要なときのみ追加します。目的は断裂確定ではなく、痛み抑制か真の低下かを分けることです。肢位・角度・疼痛条件をそろえて記録すると再評価が安定します。
再評価はどのくらいの頻度で行えばいい?
疼痛が変動しやすい初期は、介入直後または同週内に短い再評価を入れると有用です。毎回フルセットではなく、痛み角度 1 つ+代表テスト 1〜2 個に固定すると、変化の追跡が実用的になります。
テスト中に痛みが強くなったら中止基準は?
痛みの急増、代償の増大、患者の防御反応・不安の増強が見られた時点で押し切らず中止し、角度・部位・誘発動作を記録します。中止時の情報を残すほうが、次回の安全な再評価設計につながります。
次の一手|肩評価の全体像と共有指標へつなぐ
インピンジメント疑いは、肩評価全体の中で位置づけると判断が安定します。この記事で最小セットを決めたら、親記事で他病態との比較を確認し、必要に応じて QuickDASH で上肢機能の変化を共有します。
- 全体像を確認する:肩関節の整形外科テスト一覧(親)
- 共有指標をそろえる:QuickDASH の評価(計算・欠損ルール・解釈)
参考文献
- Hegedus EJ, Goode A, Campbell S, et al. Physical examination tests of the shoulder: a systematic review with meta-analysis of individual tests. Br J Sports Med. 2008;42(2):80-92. doi:10.1136/bjsm.2007.038406
- Alqunaee M, Galvin R, Fahey T. Diagnostic accuracy of clinical tests for subacromial impingement syndrome: a systematic review and meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2012;93(2):229-236. doi:10.1016/j.apmr.2011.08.035
- Lewis JS. Rotator cuff related shoulder pain: Assessment, management and uncertainties. Man Ther. 2016;23:57-68. doi:10.1016/j.math.2016.03.009
- Desmeules F, et al. Rotator cuff tendinopathy diagnosis, nonsurgical medical care, and rehabilitation. J Orthop Sports Phys Ther. 2025;55(4):1-31. doi:10.2519/jospt.2025.13182
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


