腱板損傷のテスト|棘上筋・棘下筋・肩甲下筋の評価方法

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腱板損傷のテストは「筋腱別+反応別」に整理する

腱板損傷を疑うときは、棘上筋を含む上方腱板、棘下筋・小円筋を中心とする後方腱板、肩甲下筋に分けてテストを選ぶと整理しやすくなります。代表的には Full Can/Empty Can、外旋抵抗テスト、External Rotation Lag Sign、Lift-off、Belly-press、Bear-hug などがあります。

ただし、1つのテストが陽性だからといって腱板断裂を確定できるわけではありません。重要なのは、問診・AROM・PROM・筋力から疑う部位を絞り、必要なテストを組み合わせながら、痛み・筋力低下・lag/保持不能・実施不可を分けて解釈することです。本記事では、テストの選び方から記録・再評価まで整理します。

先に結論:腱板テストは「陽性の数」で判断するのではなく、どの筋腱を疑って選んだテストで、どの種類の反応が出たかを統合して読みます。単一テストだけで断裂の有無を判断しません。

肩関節の問診・ROM・筋力から、腱板以外を含めた整形外科テストの選び方を確認したい場合は、肩関節の整形外科テスト一覧をご覧ください。

腱板テスト一覧|上方腱板・後方腱板・肩甲下筋で選ぶ

腱板テストは、テスト名を並べて覚えるより、「どの方向の機能低下を疑っているか」で選ぶと使いやすくなります。以下の3ブロックは各筋を完全に分離して評価する分類ではなく、本記事で臨床上の選択を整理するための枠組みです。

腱板損傷を疑うときの代表的なテスト
主に確認する部位 代表テスト 主に見る反応 解釈のポイント
上方腱板 Full Can、Empty Can 疼痛、筋力低下、保持の可否 疼痛による筋出力低下と明らかな筋力低下を分ける
後方腱板 外旋抵抗テスト、External Rotation Lag Sign 外旋時痛、筋力低下、lag 抵抗下の筋力低下と外旋位の保持不能を分ける
肩甲下筋 Lift-off、Belly-press、Bear-hug、Internal Rotation Lag Sign 内旋筋力低下、保持不能、代償 Lift-offの開始肢位が取れない場合は別テストへ切り替える
大きな機能低下を疑う場面 Drop Arm 挙上位の保持、下降の制御 単独で断裂を確定・除外する目的では使用しない
腱板テストの選び方と反応の読み分けを、上方腱板・後方腱板・肩甲下筋に分けて示した図版
図:疑う筋腱からテストを選び、痛み・筋力低下・lag・実施不可を分けて解釈する

2025年のAAOSガイドラインでは、腱板断裂の診断・層別化に身体診察は有用ですが、単一の身体診察テストより複数テストを組み合わせる方が診断精度を高めるとされています。そのため、本記事でも固定された「最小セット」を診断基準のようには扱わず、事前所見に応じて必要なテストを選択します。

代表的な腱板テストのやり方と見るポイント

特殊テストでは、規定の肢位を再現することだけでなく、その条件で何が起きたかを観察します。「陽性・陰性」だけではなく、疼痛、筋力低下、lag/保持不能、代償、実施不可を分けて記録してください。

Full Can・Empty Can|上方腱板を確認する

Full CanとEmpty Canは、肩甲面付近で上肢を挙上し、検者が下方向への抵抗を加えて反応を確認します。Full Canでは親指を上向き、Empty Canでは上肢を内旋させ、親指を下向きにした条件を用います。

確認するのは、抵抗に対する筋力だけではありません。疼痛の部位、左右差、保持の可否、肩甲帯挙上や体幹側屈などの代償も残します。

Full Can・Empty Canで分けて記録する反応
反応 記録すること 次に確認すること
疼痛のみ 疼痛部位、角度、症状再現 AROM・PROM、他の症状再現所見
疼痛+筋力低下 左右差、疼痛による抑制の可能性 他方向の筋力、低疼痛条件での出力
明らかな筋力低下 保持の可否、急に力が抜けるか 後方腱板を含む他テスト、AROMとPROMの差

「痛くて力が出ない」ことと、「疼痛だけでは説明しにくい明らかな筋力低下」を同じ陽性所見として扱わないことがポイントです。

外旋抵抗テスト|後方腱板の筋力を確認する

上腕を体側付近に置き、肘を屈曲した状態で患者に外旋方向へ力を出してもらい、検者が抵抗します。棘下筋を中心とした外旋筋群の反応を確認する方法です。

記録では、外旋筋力の左右差だけでなく、外旋時痛、途中で力が抜けるか、肩甲帯や体幹で代償していないかを確認します。抵抗を加える位置や強さが変わると再評価時の比較が難しくなるため、体位と抵抗条件を固定します。

External Rotation Lag Sign|外旋位を保持できるかを見る

External Rotation Lag Signでは、検者が肩を外旋位へ誘導したあと、患者にその位置を保持してもらいます。検者が支持を緩めたときに、外旋位を保持できず内旋方向へ戻るlagがあるかを確認します。

ここで見るのは単なる「外旋が弱い」ではなく、与えられた外旋位を自力で保持できるかです。lagがみられた場合は、後方腱板の機能低下を疑う所見の1つとして、外旋抵抗テストや他の身体所見と組み合わせます。

一方、lagがみられないことだけで腱板断裂を除外することはできません。腱板テストは、陽性所見から疑いを高めやすいものがある一方、単独陰性だけでは除外しきれない点に注意します。

Lift-off・Belly-press・Bear-hug|肩甲下筋を確認する

肩甲下筋では、1つのテストだけに固定せず、可動域や疼痛に応じて方法を選びます。

肩甲下筋テストの特徴と使い分け
テスト 基本的な方法 見るポイント
Lift-off 手背を腰背部へ置き、背中から離す 動作可否、筋力低下、保持不能
Belly-press 手掌で腹部を押す 内旋力、肘が後方へ移動するなどの代償
Bear-hug 患側手掌を反対側の肩付近へ置いて保持する 検者が手を離す方向へ力を加えた際の保持力
IR Lag Sign 内旋位を作り、その肢位を保持してもらう 内旋位からのlag・保持不能

Lift-offは、肩関節の内旋・伸展可動域や疼痛の影響で、開始肢位そのものを作れないことがあります。この場合は「陽性」「陰性」とせず、実施不可として記録し、Belly-pressやBear-hugなど別条件のテストへ切り替えます。

肩甲下筋テストについても、単独テストだけで損傷の有無を決めません。Bear-hug、Belly-press、Internal Rotation Lag Sign、Lift-offを検討したメタ解析では、いずれも比較的高い特異度を示す一方、単独で損傷を除外できるほど十分な感度ではありませんでした。

Drop Arm|挙上位の保持と下降の制御を見る

Drop Armでは、上肢を挙上した位置からゆっくり下降できるか、挙上位を保持できるかを観察します。急に上肢が落ちる、下降を制御できない、挙上位を保持できないなどの反応を確認します。

ただし、疼痛、恐怖、著しい可動域制限、神経学的要因などでも動作は変化します。Drop Armだけで腱板断裂を確定したり、陰性だけで除外したりするのではなく、他の腱板所見と合わせて解釈します。

痛み・筋力低下・lag・実施不可を分けて解釈する

腱板テストで最も避けたいのは、異なる反応をすべて「陽性」にまとめることです。疼痛、筋力低下、lag/保持不能、実施不可では、意味も次に確認する項目も異なります。

腱板テストで出た反応の読み分け
反応 読み方 次に確認すること
疼痛のみ 症状再現として記録する 疼痛部位・角度、AROM・PROM、他の症状再現所見
疼痛+筋力低下 疼痛抑制が混在する可能性を考える 低疼痛条件での出力、左右差、他方向の筋力
明らかな筋力低下 腱板機能低下を疑う所見として扱う 同じ筋腱をみる別テスト、AROMとPROMの差、受傷機転
lag・保持不能 単なる疼痛とは分けて扱う 同方向の筋力、別テスト、医師相談・画像評価の必要性
実施不可 陰性に分類しない 可動域・疼痛を確認し、別条件のテストへ変更する

たとえば、Full Canで疼痛と筋力低下があった場合も、それだけで棘上筋腱断裂とは判断しません。疼痛の程度、AROMとPROM、外旋筋力、lagの有無、受傷機転などを合わせ、構造的損傷を疑う程度を調整します。

どのテストを選ぶか|所見から次の確認を決める

腱板評価では、最初からすべての特殊テストを行う必要はありません。問診、AROM・PROM、基本的な筋力評価で仮説を立て、疑う方向に応じてテストを追加します。一方、腱板断裂を疑う場面では、1つのテストだけに依存せず複数所見を組み合わせます。

初期所見から選ぶ腱板テスト
初期所見 まず確認する候補 必要時の追加
挙上・外転方向の疼痛や筋力低下 Full Can / Empty Can 外旋系テスト、Drop Arm
外旋筋力低下 外旋抵抗テスト External Rotation Lag Sign
内旋筋力低下 Lift-off または Belly-press Bear-hug、IR Lag Sign
外傷後の明らかな挙上・保持困難 疼痛を増悪させない範囲でROM・筋力・神経学的所見を確認 誘発テストの反復より医師相談・画像評価を検討

「テストを少なくすること」自体が目的ではありません。必要性の低い誘発テストを繰り返して疼痛を増やすことは避けつつ、診断精度を高めるために必要な異なる所見は組み合わせる、という考え方で進めます。

記録は「テスト名+反応+条件+次の確認」で残す

腱板評価では、「Empty Can陽性」「ER lag陰性」だけでは再評価につながりにくくなります。どの条件で、痛み・筋力低下・lag/保持不能・実施不可のどれが生じたかまで残します。

腱板テストの記録例
項目 記録する内容 記録例
疼痛 部位・角度・症状再現条件 右上腕外側痛、挙上90〜120°で増悪
上方腱板 テスト+疼痛・筋力・保持 Full Can:同部位痛あり、明らかな保持不能なし
後方腱板 外旋筋力+lag 外旋抵抗:右低下、ER Lag Sign:明らかなlagなし
肩甲下筋 実施可否・代償 Lift-off:内旋可動域制限により実施不可、Belly-pressで確認
次の確認 別テスト・相談・画像評価など 外旋筋力低下の再確認、受傷機転とAROM/PROM差を共有
再評価 体位・角度・抵抗条件 座位、同肢位・同抵抗条件で外旋筋力とFull Can時痛を再評価

腱板テスト 記録・再評価シート|PDF・Excel

腱板テストの結果を「疑う筋腱 → 選んだテスト → 出た反応 → 次の確認 → 再評価条件」の順で整理できる、A4縦1枚の記録・再評価シートを作成しました。

Full Can、Empty Can、Drop Arm、外旋抵抗テスト、ER Lag Sign、Lift-off、Belly-press、Bear-hug、IR Lag Signについて、実施の有無と痛み・筋力低下・lag/保持不能・実施不可を分けて記録できます。

PDFは印刷・手書きで使用したい場合、Excelは院内の運用に合わせて入力・編集したい場合に使用してください。

注意:本シートは腱板断裂を診断するための判定票ではありません。単一テストの結果だけで断裂の有無を判断せず、問診、ROM、筋力、受傷機転、複数の身体所見を組み合わせて解釈してください。

腱板テストで避けたい4つの判断

腱板テストの情報価値を下げやすいのは、テストそのものより結果の読み方です。とくに以下の4つは区別しておきます。

腱板テストで避けたい判断と修正方法
避けたい判断 問題点 修正方法
痛い=腱板断裂 疼痛再現と構造的断裂は同義ではない 筋力、lag、ROM、受傷機転を統合する
筋力低下=断裂 疼痛抑制などが混在する 疼痛の有無と保持能力を分ける
Lift-offができない=陽性 可動域制限で開始肢位を作れない場合がある 実施不可と記録し、Belly-press等へ切り替える
1つ陰性=断裂なし 単独テストには感度・特異度の限界がある 異なる身体所見を組み合わせる

再評価では体位・開始角度・抵抗条件をそろえる

腱板テストを経過観察に使う場合は、テスト名だけでなく実施条件を固定します。同じ名称のテストでも、体位、開始角度、抵抗の方向・強さが変われば結果を単純比較できません。

腱板テストの再評価で固定する項目
固定する項目 理由 記録例
体位 肩甲帯・体幹の代償条件が変わる 座位で統一
開始角度 疼痛・筋出力の条件が変わる 肩甲面挙上90°
抵抗条件 検者による負荷差を小さくする 抵抗方向・位置を記録
追うテスト 同じ所見を経時的に比較する Full Can、外旋抵抗を継続
疼痛 筋力変化と疼痛変化を分ける NRS 3/10、右上腕外側

再評価では「陽性から陰性になったか」だけでなく、疼痛が減ったのか、筋力が改善したのか、lagが変化したのかを分けて追うと、介入後の変化を共有しやすくなります。

特殊テストを繰り返すより相談を優先する場面

すべての肩痛で特殊テストを最後まで行う必要はありません。とくに急性外傷後に明らかな挙上困難や保持不能がある場合、骨折・脱臼、神経障害など別の問題が疑われる場合は、疼痛を増悪させる誘発テストを繰り返すより、医師への相談や必要な画像評価を優先します。

また、AROMが著しく制限されている一方でPROMとの差が大きい、外傷後から急に筋力が低下した、複数の腱板テストで明らかな筋力低下・lagが一致する、といった場合も、特殊テストの陽性数を増やすことより次の評価につなげる視点が重要です。

よくある質問

Empty CanとFull Canはどちらを優先しますか?

どちらか1つを万能なテストとして固定する必要はありません。疼痛や可動域、評価目的に合わせて選びます。重要なのは、どの条件で疼痛・筋力低下・保持困難が出たかを記録し、単独陽性から棘上筋腱断裂と決めないことです。

ER Lag Signが陰性なら腱板断裂を除外できますか?

陰性だけで腱板断裂を除外することはできません。lagがみられた場合は疑いを高める所見の1つになりますが、外旋筋力、Can系テスト、AROM・PROM、受傷機転などと合わせて判断します。

Lift-offの肢位を作れない場合は陽性ですか?

開始肢位そのものを作れない場合は、陽性・陰性ではなく「実施不可」と記録します。内旋・伸展可動域や疼痛を確認し、Belly-pressやBear-hugなど別条件の肩甲下筋テストへ切り替えます。

腱板テストはいくつ実施すればよいですか?

固定された個数はありません。問診・ROM・筋力から疑う筋腱を絞り、必要なテストを選びます。一方で腱板断裂を判断する際は、1つのテストだけに依存せず、異なる身体所見を組み合わせて解釈します。

次の一手|腱板所見を肩評価全体の中で位置づける

腱板テストだけで肩痛の原因を決めず、問診、疼痛部位、受傷機転、AROM・PROM、筋力と合わせて評価します。肩関節全体から整形外科テストを選び直したい場合は、肩関節の整形外科テスト一覧で整理できます。

一方、挙上時の症状再現が中心で、Neer、Hawkins-Kennedy、Painful Arcなどとの違いを確認したい場合は、肩インピンジメントテストの使い分けをご覧ください。


参考文献

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著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療従事者の実務に役立つ情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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