医療保険と介護保険で ADL はどう違う?

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医療保険と介護保険で ADL はどう違う?|境界で迷わない運用の整理

ADL(日常生活動作)は、医療保険でも介護保険でも扱われます。違いは「ADL そのもの」ではなく、ADL を扱う目的・責任・場が変わることです。ここが曖昧だと、記録の焦点や連携の粒度がズレて、同じ ADL を見ているのに話が噛み合わなくなります。

本記事では、①医療保険と介護保険で ADL の“何が変わるか”②境界で迷う典型③記録の書き分け(コピペで使える観点)④急性期〜訪問の実例の順で、運用を固定します。親記事(総論)とセットで読むと、迷いが減ります。

回遊の三段(同ジャンル)

まずは総論で“区分の考え方”を固定してから読む

この小記事は「医療保険 vs 介護保険」の深掘りです。先に総論で判断軸(目的・責任・場)を揃えると、運用がブレません。

親記事:ADL は医療?介護?(総論)

関連:評価ハブ(全体像)FIM のまとめ(各論)

結論:違うのは「目的・責任・場」

医療保険と介護保険の違いは、「どちらが上/下」ではなく、ADL を扱う前提が違うことです。医療保険は、急性増悪や回復期などで治療の成果(改善)を狙う比重が高く、介護保険は、自宅や施設で生活の成立(継続)を狙う比重が高くなります。

迷ったときは、制度名ではなく、①目的(改善か成立か)②責任(誰が結果に責任を持つか)③場(どこで再現するか)を 1 行ずつ言語化すると、記録と連携が安定します。

医療保険と介護保険の ADL:違いの早見表

以下の表は「現場で迷うところ」だけを残した早見です。運用に落とすときは、“改善(治療)”と“成立(生活支援)”の比重がどちらに寄っているかを見ます。

表:医療保険 vs 介護保険で ADL が変わるポイント(運用版)
観点 医療保険(治療の文脈) 介護保険(生活支援の文脈) 記録の焦点(コツ)
目的 機能回復、合併症予防、予後改善など「改善」 安全、介助量の最適化、生活の継続など「成立」 “改善を狙う要素”と“成立を担保する要素”を分けて書く
責任 医療職の治療責任(評価→計画→介入→再評価) 生活支援のケア責任(環境・介助・継続支援の設計) “誰が結果に責任を持つか”を最初に明示する
病棟・リハ室など(病院内の条件) 自宅・施設など(生活の条件) “再現場所”と“必要物品”をセットで書く
評価の使い方 経時変化・治療効果の説明(数値の説得力が高い) 介助条件・環境因子・継続可能性(条件の説得力が高い) 数値+条件(誰が/どこで/何を使う)で共有する
介入の形 訓練・指導・治療的介入(動作の獲得) 環境調整・介助指導・役割分担(生活の成立) “できる”と“続けられる”を分けて書く

現場の詰まりどころ:境界で起きる“ズレ”はここ

ここは読ませるゾーンなので、ボタンは置きません。よくあるのは「医療っぽい書き方のまま、生活の場に持ち込む」「介護っぽい書き方のまま、治療の成果説明に使う」ズレです。ズレると、チームの意思決定(何を優先するか)が遅くなります。

よくある失敗:医療と介護で“同じ言葉”を使ってしまう

失敗の本質は、制度ではなく言語の混線です。医療では「訓練条件」で語り、介護では「生活条件」で語るべき場面があります。

  • 失敗 1:「見守り」を一語で済ませ、条件(環境・手順・補助具)を書かない
  • 失敗 2:“できる”だけを書き、普段の“している”の前提(疲労・時間帯・介助者)を書かない
  • 失敗 3:「改善の根拠(治療)」と「成立の根拠(生活)」を同じ書式で混ぜる

回避の手順:記録を 3 行で固定する(目的→責任→場)

境界で迷ったときは、次の 3 行テンプレで整理します。チームで共有するときは、この順番が最もブレにくいです。

  1. 目的:改善(治療)か、成立(生活支援)かを 1 行で言語化する
  2. 責任:誰が結果に責任を持つか(医療職/ケア側)を 1 行で明示する
  3. 場:再現場所(病棟/自宅)と条件(物品・介助者)を 1 行で書く

この 3 行が揃うと、同じ ADL を見ても「いま何を優先するか」が揃い、判断が速くなります。

実例:急性期・回復期・訪問で“同じ ADL”がどう変わる?

同じ ADL でも、場と目的が変わると「記録の焦点」が変わります。ここでは“書き分け”がイメージできるように、典型例を示します。

急性期:安全管理と合併症予防が前面

状況:発症直後。離床で血圧変動が大きく、食事動作は一部介助。

焦点:目的=リスク管理+改善の準備/責任=医療職/場=病棟。ADL は「生活」でもありますが、ここでは治療の一部としての ADLが前面に出ます。

回復期:自立度(改善)と退院後の再現性を両立

状況:トイレ動作練習中。訓練室では可能だが、病棟では疲労で介助量が増える。

焦点:目的=改善(自立度)+成立(病棟での再現)/責任=医療職/場=病棟・訓練室。“できる”と“している”を分けて書くと、退院準備が進みます。

訪問:生活の場で成立させる(環境と役割分担)

状況:入浴動作が不安定。家族介助の手順が統一されていない。

焦点:目的=生活の成立/責任=生活支援(ケア責任)/場=自宅。ADL は環境調整・介助指導・継続可能性が中心になります。

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

医療保険と介護保険で、ADL の記録は何を変えるべき?

結論は「目的・責任・場」を先に固定し、数値よりも条件を揃えることです。医療では“治療の成果説明”として経時変化が重要になりやすく、介護では“生活の成立”として再現条件(場所・物品・介助者・手順)が重要になります。まず 3 行(目的→責任→場)で統一すると、チーム連携が安定します。

回復期の病棟 ADL は、医療?介護?

病棟は医療の場ですが、退院直前は“生活の場に近い条件”が増えます。迷ったときは「改善(治療)」を狙う要素と「成立(生活支援)」を担保する要素を分けて記録し、どちらの比重が大きいかを明示するとブレません。

訪問リハで“治療的”に ADL をみるのはズレですか?

ズレとは限りません。訪問でも改善を狙う局面はあります。ただし主戦場は生活の場なので、介入は「続けられる形」に落とし込む必要があります。改善を狙う場合でも、生活条件(介助者・物品・時間帯)まで含めて再現性を担保すると、支援が途切れにくくなります。

FIM や BI は医療と介護で同じように使えますか?

同じ尺度でも、使い方の目的が変わります。医療では治療効果の説明、介護では介助条件の共有が重要になります。数値だけでなく条件(誰が/どこで/何を使う)を添えると、場を跨いでも共有が安定します。

次の一手:運用を整える → 共有の型 → 環境要因も点検

医療保険と介護保険の境界は、制度暗記ではなく運用の型で安定します。次の 3 ステップで進めると、説明・記録・連携が揃いやすくなります。

教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。

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参考文献

  • World Health Organization. International Classification of Functioning, Disability and Health (ICF). 2001.

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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