- ICUの疼痛評価は「自己申告→行動観察」の順に選びます
- ICU疼痛評価の3段階|NRS・CPOT・BPSをどう選ぶか
- 自己申告できる患者ではNRSを優先します
- 自己申告できないが行動を観察できる場合はCPOT・BPSを使います
- 行動を十分観察できないときは「低スコア=痛みなし」としません
- バイタルサインだけで疼痛を判定しません
- 評価は固定した「5分後」ではなく、介入に合わせて再評価します
- スコアは「介入を考える材料」であり、リハ中止基準ではありません
- 再評価では「何で変化したか」を確認します
- ICU疼痛評価で記録したい最小セット
- ICU疼痛評価で迷いやすい4つのポイント
- CPOT・BPSを詳しく確認する
- よくある質問
- 参考文献
- 著者情報
ICUの疼痛評価は「自己申告→行動観察」の順に選びます
ICU患者の疼痛評価では、まず本人が痛みを信頼して自己申告できるかを確認します。自己申告できる場合はNRSなどの自己申告尺度を優先し、自己申告できないものの疼痛関連行動を観察できる場合はCPOTやBPSを使用します。一方、深い鎮静などで行動そのものを十分観察できない場合は、行動尺度の低値だけで「痛みなし」と判断しません。
本記事では、成人ICU患者についてNRS・CPOT・BPSをどのように選び、評価後に何を確認・記録・再評価するかを整理します。各尺度の詳しい採点方法は個別記事へ分けます。

ICU疼痛評価の3段階|NRS・CPOT・BPSをどう選ぶか
尺度名から選ぶのではなく、自己申告の可否と疼痛関連行動を観察できるかの順で判断すると整理しやすくなります。SCCM PADISでは、信頼してコミュニケーションできる患者では自己申告が疼痛評価の基準とされ、自己申告できないものの行動を観察できる成人重症患者ではCPOTやBPSが支持されています。[1]
| 患者の状態 | 主な評価方法 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 自己申告できる | NRSなど | 本人の自己申告を優先する |
| 自己申告できないが、行動を観察できる | CPOT / BPS | 表情・身体反応などの疼痛関連行動を評価する |
| 自己申告できず、行動も十分観察できない | 尺度だけでは判断困難 | 低スコアを「疼痛なし」と解釈せず、処置・病態・経過などから追加評価する |
この3段階で重要なのは、「話せない=すぐCPOT・BPS」ではないことです。行動尺度を使うには、評価対象となる疼痛関連行動を観察できることが前提になります。
自己申告できる患者ではNRSを優先します
本人が痛みを信頼して伝えられる場合は、行動尺度より患者自身の自己申告を優先します。SCCM PADISでは、自己申告可能な成人重症患者に対する0〜10のNumeric Rating Scale(NRS)は、有効かつ実施可能な疼痛尺度とされています。[1]
挿管されていることだけで「自己申告不能」と判断する必要はありません。発声できなくても、数字の指示、指差し、筆談などによって一貫した意思表示が成立する場合があります。
| 確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 理解 | 痛みの強さを尋ねていることを理解できるか |
| 意思表示 | 発声、指差し、筆談などで回答できるか |
| 一貫性 | 同じ条件で大きく矛盾しない回答が得られるか |
覚醒しているという理由だけでNRSを成立させようとせず、回答の信頼性が保てない場合は行動評価へ進みます。
自己申告できないが行動を観察できる場合はCPOT・BPSを使います
自己申告が難しくても、疼痛に関連した行動を観察できる場合はCPOTまたはBPSが選択肢になります。SCCM PADISでは、自己申告不能で行動観察が可能な成人重症患者において、CPOT、BPS、非挿管患者用BPS(BPS-NI)が妥当性・信頼性の面で支持されています。[1]
| 尺度 | 特徴 | この記事での扱い |
|---|---|---|
| CPOT | 複数の疼痛関連行動を観察して評価する | 自己申告不能時の行動尺度の選択肢 |
| BPS | 行動反応を用いて疼痛を評価する | 自己申告不能時の行動尺度の選択肢 |
CPOTとBPSのどちらが適しているかは、単純な優劣ではなく、対象患者、挿管・非挿管、評価項目、施設での運用などを踏まえて考えます。詳しい違いはCPOTとBPSの違いで整理しています。
行動を十分観察できないときは「低スコア=痛みなし」としません
自己申告できない患者すべてに、行動尺度が同じように使えるわけではありません。CPOTやBPSは、疼痛に関連した行動を観察できることが前提です。深い鎮静などで反応が極めて乏しい場合や、行動そのものを十分確認できない条件では、尺度の解釈に限界があります。
この場合、行動尺度の点数が低くても、それだけで疼痛が存在しないとは判断しません。疼痛を伴いやすい処置や病態がないか、直前に何が行われたか、鎮痛介入後に状態がどう変化したかなどを確認します。
本人から自己申告を得られない場合には、家族などが普段の疼痛行動を把握していれば、評価過程への情報提供を検討できます。SCCM PADISでも、適切な場合には家族を疼痛評価に関与させることが示されています。[1]
判断の境界
CPOTやBPSが低いことと、「患者に疼痛がない」ことは同義ではありません。自己申告も行動観察も十分できない状態では、尺度だけで結論を出さないことが重要です。
バイタルサインだけで疼痛を判定しません
心拍数、血圧、呼吸数、SpO2などが変化すると疼痛を疑うことがありますが、バイタルサインそのものはICU患者の疼痛を判定する有効な指標ではありません。SCCM PADISでは、生理学的指標は疼痛を確定するためではなく、適切な方法による追加評価を始めるきっかけとして用いるとされています。[1]
| 見つけた変化 | 避けたい判断 | 次に確認すること |
|---|---|---|
| 頻脈・血圧上昇 | 「疼痛がある」と即断する | 自己申告の可否を確認し、NRSまたは行動尺度で評価する |
| 呼吸数増加・SpO2変化 | 疼痛スコアの代わりにする | 呼吸状態と疼痛をそれぞれ評価する |
| バイタル変化がない | 「疼痛なし」と判断する | 自己申告または行動尺度を優先する |
評価は固定した「5分後」ではなく、介入に合わせて再評価します
疼痛評価で重要なのは、特定の時刻を一律に固定することではなく、介入前後を比較できる条件で評価し、介入後に効果を確認することです。
安静時と体位変換・吸引・離床などの処置時では反応が異なるため、何をしているときの評価なのかを残します。CPOTの原著でも、安静時と疼痛を伴う処置時で行動反応が変化することが検証されています。[4]
SCCMのICU Liberation実装資料では、疼痛・鎮静を定期的に評価し、介入後も効果を再評価する運用が示されています。[3] 重要なのは、すべての介入を一律の「5分後」で測ることではありません。鎮痛薬、体位調整、休息など、実施した介入の効果が確認できる適切な時点で再評価します。
スコアは「介入を考える材料」であり、リハ中止基準ではありません
日本集中治療医学会のJ-PADでは、自己申告可能な患者ではNRSやVAS、自己申告不能な患者ではBPSやCPOTを推奨し、疼痛への介入を検討する基準としてNRS>3、VAS>3、BPS>5、CPOT>2を示しています。[6]
| 尺度 | 介入を検討する基準 | 注意点 |
|---|---|---|
| NRS | 3を超える | 疼痛への介入を検討する基準であり、リハビリテーションの一律の中止基準ではない |
| BPS | 5を超える | |
| CPOT | 2を超える |
実際の対応では、スコアだけで離床や運動療法の中止を決めるのではなく、何が疼痛を誘発したのか、負荷調整が可能か、鎮痛介入が必要か、呼吸・循環など他の安全条件に問題がないかを分けて確認します。
再評価では「何で変化したか」を確認します
疼痛評価は1回の点数で終わらせず、介入前後で何が変化したかまで確認します。同じスコアでも、安静時から持続している場合と、体位変換時だけ上昇する場合では次の対応が異なります。
再評価では次の順に整理すると、チームへ伝えやすくなります。
- どの条件で評価したか
- 自己申告か行動尺度か
- 何をすると疼痛が増えたか
- 何を介入したか
- 介入後にどう変化したか
- さらに評価・相談が必要か
「CPOT 3点」のような点数だけではなく、体位変換時に上昇したのか、吸引時なのか、安静時から高いのかまで残すことで、次の評価者が同じ条件で比較できます。
ICU疼痛評価で記録したい最小セット
記録では、尺度名と点数だけでなく、評価条件・誘発要因・介入・再評価を残します。これにより、担当者が変わっても経時的な比較がしやすくなります。
| 項目 | 記録する内容 | 記載例 |
|---|---|---|
| 評価方法 | NRS / CPOT / BPSなど | CPOT使用 |
| 評価条件 | 安静時、体位変換時、吸引時など | 右側臥位への体位変換時 |
| 結果 | 得られたスコア | CPOT 3点 |
| 介入 | 負荷調整、体位調整、鎮痛など | 動作速度を調整し休息 |
| 再評価 | 介入後の結果と条件 | 安静後CPOT 1点 |
ICU疼痛評価で迷いやすい4つのポイント
意識があるだけでNRSを選ばない
覚醒していても、質問の理解や一貫した回答が難しい場合があります。NRSを選ぶ前に、自己申告が信頼して使える状態かを確認します。
自己申告不能なら必ずCPOT・BPSとは限らない
行動尺度は疼痛関連行動を観察できる患者に使用します。反応を十分観察できない状態では、尺度の数値だけで疼痛の有無を決めません。
頻脈や血圧上昇を疼痛スコアの代わりにしない
バイタル変化は疼痛以外でも生じます。変化を見つけたら、それをきっかけに自己申告または妥当な行動尺度による追加評価へ進みます。
疼痛と鎮静・せん妄の評価を混同しない
疼痛、鎮静深度、せん妄は互いに影響しますが、同じものではありません。疼痛評価はNRS・CPOT・BPS、鎮静深度やせん妄はそれぞれ適切な評価法で分けて確認します。鎮静・せん妄の評価順序はICUの鎮静・せん妄評価で整理しています。
CPOT・BPSを詳しく確認する
本記事では、ICU患者の状態からどの疼痛評価法を選ぶかまでを整理しました。実際の採点・解釈・記録は各尺度の記事で確認できます。
- CPOTの評価と記録:CPOTを選んだ後の評価方法を確認する
- BPSの評価と記録:BPSを選んだ後の評価方法を確認する
よくある質問
Q1. 自己申告できる患者でもCPOTやBPSを使ったほうがよいですか?
信頼できる自己申告が可能なら、まず本人の自己申告を優先します。ICU患者であっても、自己申告できる場合はNRSなどの自己申告尺度が基本です。
Q2. CPOTやBPSが低ければ、痛みはないと考えてよいですか?
一律には判断できません。特に自己申告できず、疼痛関連行動も十分観察できない状態では、低スコアだけで疼痛を否定しません。処置や病態、直前の介入なども含めて追加評価します。
Q3. 心拍数や血圧が上がったら疼痛と判断できますか?
バイタルサインだけでは疼痛と判断できません。心拍数、血圧、呼吸数、SpO2などの変化は追加評価のきっかけとし、自己申告または適切な行動尺度で確認します。
参考文献
- Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al. Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation/Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2018;46(9):e825-e873. DOI: 10.1097/CCM.0000000000003299.
- Lewis K, Balas MC, Stollings JL, et al. A Focused Update to the Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Anxiety, Agitation/Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2025;53(3):e711-e727. DOI: 10.1097/CCM.0000000000006574.
- Society of Critical Care Medicine. ICU Liberation Bundle (A-F). SCCM ICU Liberation.
- Gélinas C, Fillion L, Puntillo KA, Viens C, Fortier M. Validation of the Critical-Care Pain Observation Tool in adult patients. Am J Crit Care. 2006;15(4):420-427. DOI: 10.4037/ajcc2006.15.4.420.
- Payen JF, Bru O, Bosson JL, et al. Assessing pain in critically ill sedated patients by using a behavioral pain scale. Crit Care Med. 2001;29(12):2258-2263. DOI: 10.1097/00003246-200112000-00004.
- 日本集中治療医学会J-PADガイドライン作成委員会. 日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン. 日本集中治療医学会雑誌. 2014;21(5):539-579. DOI: 10.3918/jsicm.21.539.
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

