10 g モノフィラメント検査を PT が安定して回す結論
10 g モノフィラメント検査は、糖尿病足病変の予防で重要な「保護感覚低下」を短時間で把握するための基本手技です。現場でのつまずきは、部位の統一不足、声かけのばらつき、押し当て時間の不一致で起こりやすく、同じ患者でも判定が揺れます。
本記事では、理学療法士向けに「準備→実施→判定→記録」を最小構成で標準化し、再現性を高める運用に絞って解説します。全体の位置づけは 糖尿病フットスクリーニングの親記事 で確認できます。
目的と適応
この検査の目的は、足底の保護感覚が低下している患者を早期に抽出し、足潰瘍リスクに応じた介入(教育・履物調整・再評価間隔の短縮)へつなぐことです。痛みの訴えが乏しい患者でも、感覚低下があると「気づかない損傷」が起こりやすくなります。
糖尿病患者の初回評価、定期再評価、靴トラブルや皮膚異常が出たタイミングでの臨時評価に適しています。検査そのものを目的化せず、結果を行動計画に結びつける運用が重要です。
必要物品と事前準備
必要物品は 10 g モノフィラメント、記録用紙(または電子カルテ定型欄)、足底を観察できる環境です。患者には「触れたら“はい”と答える」ルールを事前説明し、視覚情報に引っ張られないよう目を閉じるか視線を外してもらいます。
室温、体位、足の位置、検者の立ち位置を毎回なるべくそろえると、再評価時の比較精度が上がります。皮膚損傷がある部位は無理に刺激せず、周辺所見と合わせて判断してください。
実施手順(部位・声かけ・判定)
実施は「部位を決める→1〜2 秒で垂直に当てる→離す→反応を記録」の反復です。順番と声かけを固定し、学習効果を減らすため同じリズムで機械的に進めます。過度に押し込みすぎる、接触時間が長い、連続で同じ部位を刺激する、は判定誤差の原因です。
部位は施設プロトコルに合わせて固定し、左右同条件で評価します。判定は「触知できた/できない」の二値を基本にし、曖昧反応は再試行のルールを事前に決めておくと運用が安定します。
| 手順 | 実施ポイント | NG例 | 記録の要点 |
|---|---|---|---|
| 1. 説明 | 「触れたら“はい”」を統一して説明 | 毎回ちがう声かけ | 説明方法を定型化 |
| 2. 体位調整 | 足底が見える安定姿勢を確保 | 姿勢が不安定なまま実施 | 体位・環境を記録 |
| 3. 刺激 | 垂直に1〜2秒接触して離す | 押し込みすぎ、長押し | 部位ごとの反応を記録 |
| 4. 反応確認 | 部位名を誘導せず反応のみ確認 | ヒントを与える質問 | 触知可/不可を二値化 |
| 5. 判定 | 所定ルールで総合判定 | 感覚的な総評のみ | 判定+次回時期を明記 |
現場の詰まりどころ
つまずきは「実施条件が毎回違う」「反応の取り方が人で違う」「結果を次アクションに落とせない」の 3 点に集約されます。まずは下の 3 本だけ固定すると、判定の揺れが減ります。
よくある失敗と回避
| 失敗 | 原因 | 回避策 |
|---|---|---|
| 押し当て強度が一定でない | 検者ごとの癖 | 接触時間と手順を明文化し練習 |
| 声かけが誘導的 | 部位名を言ってしまう | 反応確認は固定フレーズで統一 |
| 記録が自由記載のみ | 比較軸がない | 部位別の二値記録+総合判定を固定 |
| 再評価時期が曖昧 | 判定後の運用不在 | 判定と同時に次回時期を記載 |
記録テンプレ(最低限)
記録は「条件・部位反応・総合判定・次回時期」の4点を固定します。文章の上手さより、比較可能性を優先してください。初回と再評価で同じ様式を使うことが、実装上もっとも効果的です。
| 項目 | 記録例 |
|---|---|
| 実施条件 | 座位、室温安定、両足露出、説明あり |
| 部位反応 | 右:可/不可、左:可/不可(部位別) |
| 総合判定 | 保護感覚低下の疑いあり/なし |
| 対応 | 教育実施、履物確認、関連職種へ共有 |
| 次回 | 再評価予定日を記載 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
どの部位を測るかは施設で違ってもよいですか?
問題ありません。重要なのは「施設内で部位と手順を固定し、再評価でも同じ条件で比較すること」です。部位数を増やすより、継続して同じ運用で回せる設計を優先してください。
反応が曖昧なときはどう扱いますか?
再試行ルール(回数、間隔、記録表記)を事前に決めておくと判定のぶれが減ります。曖昧反応をそのまま主観で処理せず、再試行の結果を明示して残してください。
毎回フルで実施するべきですか?
初回は基準線作成のため実施し、再評価は変化の出やすい項目を優先します。皮膚異常や靴トラブルなど新規所見がある場合は、フル手順に戻して確認する運用が安全です。
結果をどう介入につなげればよいですか?
判定後に「教育」「履物調整」「再評価間隔」「共有先」の4点をセットで決めると、検査が単発で終わりません。記録欄もこの4点に合わせておくと運用しやすくなります。
訪問リハでも有効ですか?
有効です。訪問では生活環境と履物状況が結果に強く影響するため、検査結果に加えて環境調整・自己観察指導までを一連で実施すると再発予防に結びつきます。
次の一手
- 運用を整える:糖尿病フットスクリーニング総論(全体像)
- 共有の型を作る:糖尿病足のリスク分類とフォロー間隔(すぐ実装)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- International Working Group on the Diabetic Foot (IWGDF). Practical guidelines on the prevention and management of diabetes-related foot disease ( 2023 ). 公式サイト
- American Diabetes Association. Standards of Care in Diabetes—Foot Care. Diabetes Care
- 日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン(最新版). 学会サイト
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


