離床の中止基準と再開基準|PT・OT・STで判断をそろえる実務フロー
離床の安全管理で迷いが生まれる理由は、「中止条件は知っているが、再開条件と報告手順が人で違う」ことです。結果として、同じ患者でも担当者ごとに判断がぶれ、記録と連携にズレが出ます。
本記事は、PT・OT・ST 共通で使えるように、判断 → 中止 → 報告(SBAR)→ 再開を 1 本化した実務フローを提示します。評価の全体像を先に確認したい方は、評価ハブから関連項目を確認してください。
結論|「絶対中止」と「条件付き中止」を分けると現場が回る
離床中止基準は、まず絶対中止(その場で停止・即報告)と条件付き中止(休息・再評価後に再開可)に二分すると運用しやすくなります。閾値だけを暗記するより、症状と変化量をセットでみる方が再現性が高まります。
さらに、再開基準を同時に定義しておくと、必要以上に離床を止め続けるリスクを減らせます。安全性と活動量の両立が、急性期〜回復期の機能改善に直結します。
中止基準の早見表(PT・OT・ST共通)
以下は院内運用に合わせて最終調整しやすい「たたき台」です。最終判断は主治医指示・院内基準を優先してください。
| 区分 | 観察項目 | 中止の目安 | その場の対応 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 絶対中止 | 意識・神経症状 | 急な意識低下、片麻痺増悪、激しい頭痛/胸痛、新規神経症状 | ただちに中止、臥位/安全姿勢、医師へ即報告 | 発生時刻、症状、誘因、直前バイタル |
| 絶対中止 | 循環動態 | 失神前症状、持続する著明な血圧低下/上昇、不整脈増悪 | 中止し安静、再測定、医師・看護師と共有 | 体位変換ごとの BP/HR 変化量 |
| 絶対中止 | 呼吸 | 強い呼吸困難、SpO2 の持続低下、会話困難 | 中止、酸素/体位調整、報告 | SpO2 最低値、回復までの時間 |
| 条件付き中止 | 起立時症状 | めまい、冷汗、悪心、ふらつきが出現 | 座位/臥位で休息、数分後に再評価 | 症状の持続時間、再開可否 |
| 条件付き中止 | 自覚的運動強度 | Borg の急上昇や会話困難レベルへの到達 | 負荷を下げる、休息、段階を戻す | 負荷量、Borg、再試行結果 |
再開基準|「戻す条件」を先に決める
中止後の再開は、症状消失とバイタル安定を確認し、負荷を 1 段階下げて再試行するのが基本です。再開時に同じ事象が再現される場合は、その日は中止して医療チームで方針を再設定します。
| 確認項目 | 再開の目安 | 再開時のルール |
|---|---|---|
| 症状 | めまい・呼吸苦・胸部症状が消失/軽減 | 最初は前回より 1 段階低い負荷から開始 |
| バイタル | 安静時に回復し、体位変換で大きな悪化がない | 体位ごとに BP/HR/SpO2 を再確認 |
| チーム合意 | 看護師・主治医と当日方針を共有済み | 再中止時の連絡先と手順を明確化 |
SBAR 報告テンプレ(そのまま使える)
報告の遅れより、報告内容の不一致が安全管理を崩します。SBAR を固定すると連携が速くなります。
| 項目 | 記載テンプレ |
|---|---|
| S(状況) | 「離床開始 3 分でめまいと冷汗が出現し中止しました」 |
| B(背景) | 「本日午前は座位まで実施。午後に立位練習へ進行」 |
| A(評価) | 「立位で BP が低下し症状出現。臥位で改善しました」 |
| R(提案) | 「本日は座位負荷へ戻し、明日再評価で再開可否を判断したいです」 |
よくある失敗(OK/NG)
| NG | なぜ問題か | OK(改善策) |
|---|---|---|
| 中止したら当日ずっとベッド上 | 活動量が過度に低下し廃用を招く | 再開基準を満たせば低負荷で再試行 |
| 「様子見」で報告しない | 急変兆候の共有が遅れる | SBAR で当日中に共有 |
| バイタル単点のみ記録 | 体位変化との因果が読めない | 安静→座位→立位の変化量を記録 |
| 職種ごとに中止基準が違う | 患者説明と運用が不一致になる | 病棟共通の早見表を 1 枚化 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
中止基準は数値だけで決めればいいですか?
いいえ。数値に加えて、症状(めまい、呼吸困難、胸部症状、神経症状)と体位変化での推移を合わせて判断します。
一度中止したら、その日は離床しない方が安全ですか?
必ずしもそうではありません。症状が改善し再開基準を満たせば、負荷を下げて再試行できる場合があります。主治医・看護師との合意を優先してください。
PT・OT・STで基準を分けるべきですか?
基本は共通基準が有効です。実施内容(歩行、ADL、嚥下場面)で観察重点を調整しつつ、停止判断の軸はそろえる方が安全管理しやすくなります。
次の一手
まずは病棟で「中止基準 早見表」と「SBAR テンプレ」を共通化し、1 週間だけ試験運用して記録のぶれを確認してください。運用が固まると、離床量と安全性を同時に上げやすくなります。
環境要因(教育体制・記録文化・人員配置)も整理する場合は、無料チェックシートで現状を点検しておくと、運用定着が進みやすくなります。
参考情報
- AHA/ASA. 2026 Guideline for the Early Management of Patients With Acute Ischemic Stroke.
- SCCM. ICU Liberation Bundle (A-F): Early mobility and safety concepts.
- SCCM. PADIS Clinical Practice Guidelines (adult ICU).
- NICE NG41. Spinal injury: assessment and initial management (mobilisation stop triggers).
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験があります。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

