Borg と mMRC は「生活の困り度」と「運動中のつらさ」で使い分ける
結論:mMRC は日常生活で息切れがどれだけ行動を制限しているかをみる尺度、Borg は運動中の息切れ・努力感をその場で数値化する尺度です。つまり、mMRC は「生活での困り度」、Borg は「運動中のつらさ」をみます。
この記事では、PT / OT / ST が迷いやすい Borg と mMRC の違いを、比較表、目的別フロー、記録例、よくある失敗で整理します。読み終えると、初診・節目・運動療法・6 分間歩行で「どちらを使うか」「どう記録するか」が決めやすくなります。
Borg と mMRC の違いは「測る場面」と「使う目的」で決まる
Borg と mMRC は、どちらも息切れに関係しますが、同じ点数軸で比べる尺度ではありません。mMRC は生活場面の制限を層別化する尺度、Borg は運動中の主観的強度を調整する尺度として分けると、臨床で迷いにくくなります。
特に重要なのは、mMRC を「今日の苦しさ」として使わないこと、Borg を「生活全体の重症度」として使わないことです。点数そのものよりも、どの判断に使う数字なのかを先に決めて記録します。
| 比較軸 | mMRC | Borg(修正 Borg / RPE) | 使い分けの目安 |
|---|---|---|---|
| 主に測るもの | 日常生活での息切れによる制限 | 運動中の息切れ・努力感・きつさ | 生活の困り度は mMRC、運動中のつらさは Borg |
| 使うタイミング | 初診、退院前、外来フォロー、カンファ前 | 運動中、終了時、回復時、6 分間歩行中 | 節目は mMRC、セッション中は Borg |
| 臨床判断 | 重症度の層別化、生活指導、チーム共有 | 負荷量の調整、中止・減量判断、再開判断 | 層別化→負荷調整の順で組み合わせる |
| 変化の追い方 | 週〜月単位の変化をみる | 分〜日単位の変化をみる | 短期変化は Borg、長期の生活変化は mMRC |
| よくある誤用 | 当日の息切れで点数を上下させる | 教育なしで数字だけ聞く | 条件と取得タイミングを固定する |
| 記録の型 | mMRC 2:坂道・早歩きで息切れあり | CR10(息切れ / 脚疲労)=4 / 3、終了時 | 数字+場面+一言所見で残す |
使い分けは「初診・節目は mMRC、運動中は Borg」で決める
迷ったときは、まず「生活全体を層別化したいのか」「その日の運動負荷を調整したいのか」で分けます。初診・退院前・外来フォローでは mMRC、歩行練習・自転車エルゴ・6 分間歩行では Borg を中心に使うと整理しやすいです。
- 初診・カンファ・退院前に生活上の制限を共有したい → mMRC
- 運動療法の強度を上げる / 下げる / 止める判断をしたい → Borg
- mMRC は軽いのに運動で苦しい → Borg を重視し、息切れと脚疲労を分けて確認
- mMRC が重く、生活場面でも息切れが強い → mMRC で層別化し、Borg で安全域の負荷に調整
呼吸困難スケール全体の選び方は、呼吸困難スケール総論で整理しています。
記録は「数字だけ」で終わらせず、場面と条件を残す
Borg と mMRC は、点数だけを書くと後から解釈しにくくなります。再評価で使える記録にするには、数字、場面、条件、何がつらかったかを短く残すことが重要です。
特に Borg は、息切れと脚疲労を混ぜると介入方針が曖昧になります。同じ「きつい」でも、息切れが主因なら呼吸・ペース配分・休憩設計、脚疲労が主因なら筋持久力・歩行補助具・負荷設定を見直します。
| 場面 | 使う尺度 | 記録例 | 次に見るポイント |
|---|---|---|---|
| 初診時の生活聴取 | mMRC | mMRC 2:坂道・早歩きで息切れあり。同年代より歩行速度低下を自覚。 | 生活範囲、屋外歩行、階段、買い物 |
| 歩行練習中 | Borg CR10 | CR10(息切れ / 脚疲労)=4 / 3、歩行 4 分で減速、SpO2 93%。 | 休憩間隔、歩行速度、酸素化、下肢疲労 |
| 6 分間歩行後 | Borg CR10 または RPE 6–20 | 終了時 CR10 息切れ 5、回復 2 分後 2。距離 320 m、ターン後に減速。 | 終了時と回復時の差、距離、ペース低下点 |
| 退院前評価 | mMRC + Borg | mMRC 3→2。歩行練習終了時 CR10 4 以内で自己調整可能。 | 生活での変化と運動中の安全域 |
Borg と mMRC 比較記録シート PDF
臨床で使う場合は、Borg と mMRC を別々に記録するだけでなく、「生活上の困り度」と「運動中のつらさ」が一致しているかを並べて確認すると、評価後の説明や負荷調整につなげやすくなります。
以下の A4 記録シートでは、mMRC、Borg、条件、ズレの解釈、次回の確認点を 1 枚で整理できます。印刷して初診・再評価・6 分間歩行後の記録補助として使えます。
PDFをページ内でプレビューする
mMRC と Borg がズレたときは「尺度の役割差」として読む
mMRC と Borg の結果が一致しないことは珍しくありません。mMRC が軽くても運動中の Borg が高い場合は、生活では避けている負荷が検査や練習で表面化している可能性があります。反対に、mMRC が重くても当日の Borg が低い場合は、ペース調整や環境設定がうまく働いている可能性があります。
| 組み合わせ | 読み方 | 次の確認 |
|---|---|---|
| mMRC 軽度・Borg 高値 | 生活では回避できているが、運動課題で限界因子が出ている | 歩行速度、坂・階段、脚疲労、SpO2、休憩の取り方 |
| mMRC 重度・Borg 低値 | 当日はペースや環境調整により安全域で動けている | 生活場面との違い、補助具、距離、介助量 |
| mMRC 重度・Borg 高値 | 生活制限も運動中負荷も強く、負荷設定を慎重にする | 中止基準、休憩設計、医師指示、酸素療法の条件 |
現場の詰まりどころ:よくある失敗は「尺度の混同」と「記録不足」
現場でつまずきやすいのは、Borg と mMRC の点数そのものではなく、使う目的が混ざることです。mMRC を当日の状態変化として扱う、Borg を生活全体の重症度として扱う、息切れと脚疲労をまとめて「きつい」と書くと、再評価や申し送りで判断がぶれます。
先に詰まりを確認する方へ:よくある失敗一覧を見る /
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関連:呼吸困難スケール総論を確認する
| 詰まりどころ | NG | OK | 記録の一言 |
|---|---|---|---|
| mMRC を当日の状態として扱う | 今日は苦しそうだから mMRC が上がった、と記録する | mMRC は節目の層別化、当日の変化は Borg で追う | 節目は mMRC、当日は Borg で調整 |
| Borg の教育なしで数値だけ聞く | 患者の基準が毎回違い、過小・過大申告が出る | 導入時に体感の目安を説明し、取得タイミングを固定する | CR10 の説明後に聴取 |
| 息切れと脚疲労を混ぜる | 「きつい」で終了し、介入が曖昧になる | 息切れ / 脚疲労を分けて聴取する | CR10(息切れ / 脚疲労)=4 / 2 |
| 条件が毎回違う | 靴、補助具、コース、見守り条件がバラバラ | 条件を固定し、変更した場合は明記する | 杖変更、ターン回数増加あり |
| 数値だけで効果判定する | Borg が下がった、mMRC が変わった、だけで終わる | 生活場面や運動課題に翻訳して説明する | 階段で立ち止まる回数が減少 |
ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、書き方や手順だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。
よくある質問
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Q1. mMRC と Borg、両方取る意味はありますか?
A. あります。mMRC は生活上の息切れ制限を層別化し、Borg は運動中の負荷を調整するために使います。初診や節目に mMRC、セッション中や終了時に Borg を取ると、生活の困り度と運動中のつらさを分けて共有できます。
Q2. Borg は CR10 と RPE 6–20 のどちらを選べばいいですか?
A. 患者説明のしやすさを優先するなら CR10、心拍数や運動強度の目安と合わせて管理したい場面では RPE 6–20 が使いやすいです。重要なのは、同じセッション内で尺度を混ぜず、取得タイミングと記録方法を固定することです。
Q3. mMRC が軽いのに、運動中の Borg が高いのはおかしいですか?
A. おかしくありません。mMRC は日常生活での制限、Borg は運動中のつらさをみるため、結果がズレることがあります。Borg を息切れ / 脚疲労で分けて記録すると、呼吸が主因か、下肢疲労が主因かを整理しやすくなります。
Q4. Borg の数値が毎回バラつくときはどうしますか?
A. まず、教育、条件固定、取得タイミングの 3 点を確認します。補助具、歩行コース、見守り量、酸素条件、聴取するタイミングが変わると Borg は揺れます。数字だけでなく「どの局面で苦しかったか」を 1 行で残すと再評価が安定します。
次の一手
- 全体像を戻って確認する:呼吸困難スケール総論で mMRC・Borg・VAS・NRS の位置づけを見る
- 運動場面で実装する:6 分間歩行の記録テンプレと Borg の使い方を確認する
参考文献
- Borg GA. Psychophysical bases of perceived exertion. Med Sci Sports Exerc. 1982;14(5):377-381. doi:10.1249/00005768-198205000-00012 / PubMed
- Bestall JC, Paul EA, Garrod R, Garnham R, Jones PW, Wedzicha JA. Usefulness of the Medical Research Council (MRC) dyspnoea scale as a measure of disability in patients with chronic obstructive pulmonary disease. Thorax. 1999;54(7):581-586. doi:10.1136/thx.54.7.581 / PubMed / PMC
- ATS Committee on Proficiency Standards for Clinical Pulmonary Function Laboratories. ATS statement: guidelines for the six-minute walk test. Am J Respir Crit Care Med. 2002;166(1):111-117. doi:10.1164/ajrccm.166.1.at1102 / PubMed
- Parshall MB, Schwartzstein RM, Adams L, Banzett RB, Manning HL, Bourbeau J, Calverley PM, Gift AG, Harver A, Lareau SC, Mahler DA, Meek PM, O’Donnell DE. An official American Thoracic Society statement: update on the mechanisms, assessment, and management of dyspnea. Am J Respir Crit Care Med. 2012;185(4):435-452. doi:10.1164/rccm.201111-2042ST / PubMed / PMC
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


