大腿四頭筋トレーニングは「目的」から種目を選ぶ
大腿四頭筋トレーニングでは、ベッド上・座位・立位を順番に進めるのではなく、何を改善したいかに合わせて種目を選ぶことが重要です。膝伸展の収縮を確認するなら Quad setting、膝伸展を単独で負荷するなら LAQ、立ち上がりへつなげるなら STS、荷重下で反復するならスクワット系が候補になります。
この記事では、PT・OTなどの医療従事者向けに、4種目の使い分け、フォームが崩れたときの修正、負荷を進める・維持する・戻す判断まで整理します。回数や姿勢を固定するのではなく、目的・症状・フォーム・反応を見ながら条件を調整できることを目指します。
鍛えたい筋や改善したい動作から探したい方へ
まずは4種目を「何を鍛えたいか」で使い分ける
大腿四頭筋を鍛える方法は1つではありません。Quad setting・LAQ・STS・スクワット系では、求められる動作と調整できる負荷条件が異なります。姿勢の難しさだけで順番を決めず、今回の介入で何を確認・改善したいのかから選びます。

| 種目 | 主な目的 | 向いている場面 | 主に調整する条件 |
|---|---|---|---|
| Quad setting | 大腿四頭筋の収縮確認・等尺性収縮 | 膝を大きく動かさず収縮を確認したい | 膝の位置、保持時間、キュー |
| LAQ | 膝伸展を単独で反復・負荷 | 膝伸展運動を観察しながら負荷したい | 抵抗、可動域、回数、セット数 |
| STS | 立ち上がり動作での下肢伸展出力 | 移乗・立ち上がりへつなげたい | 座面高、上肢支持、回数、速度 |
| スクワット系 | 荷重下での下肢伸展運動 | 立位での反復や荷重課題へつなげたい | 深さ、支持、外的負荷、回数 |
ポイント:「ベッド上ができたら座位、座位ができたら立位」という一方向の段階づけではありません。LAQとSTSを併用するなど、目的に応じて単関節運動と多関節運動を組み合わせます。
Quad setting・LAQ・STS・スクワットのやり方
種目を決めたら、回数を増やす前に狙った課題を再現できているかを確認します。以下の手順は基本形であり、疾患、術式、疼痛、関節可動域、荷重制限などがある場合は個別の指示やプロトコルを優先します。
Quad setting:膝を大きく動かさず収縮を確認する
目的:大腿四頭筋の等尺性収縮を確認しやすい種目です。膝関節を大きく動かしにくい場面や、膝伸展運動へ進む前に収縮の入り方を確認したい場面で使えます。
- 背臥位または長座位など、力を入れやすい姿勢を整える
- 必要に応じて膝周囲をタオルなどで支持する
- 膝を伸ばす方向へ大腿前面を収縮させる
- 呼吸を止めずに保持し、十分に休んでから繰り返す
見るポイント:大腿四頭筋の収縮、膝伸展方向への力、疼痛、呼吸停止、股関節や体幹の過剰な力みを確認します。収縮が分かりにくい場合は、膝の位置、触覚刺激、言葉かけを変更します。
LAQ:膝伸展を単独で負荷しやすい
目的:座位で膝を伸ばす LAQ(long arc quad)は、膝伸展運動を観察しながら抵抗や可動域を調整しやすい種目です。
- 安定した座位を取り、必要に応じて体幹を支持する
- 反動に頼らず膝を伸ばす
- 設定した可動域まで伸ばしたら、コントロールして戻す
- フォームと症状を確認しながら反復する
見るポイント:膝伸展可動域、反動、体幹の動き、疼痛、左右差を確認します。フォームが崩れる場合は、抵抗だけでなく可動域、回数、休息、座位条件を見直します。
STS:立ち上がり動作へつなげる
目的:STS(sit-to-stand)は大腿四頭筋だけを単独で鍛える種目ではありませんが、立ち上がりに必要な下肢伸展出力を反復する課題として使えます。
- 座面高、足部位置、上肢支持の条件を決める
- 前方への重心移動から立ち上がる
- 立位までの左右の荷重や膝の安定性を確認する
- 着座までコントロールして繰り返す
見るポイント:左右の荷重差、上肢支持、座面高、体幹戦略、膝折れ、疼痛を確認します。立ち上がれない場合に「筋力不足」と決めつけず、座面高や足部位置、疼痛、バランスなども確認します。
スクワット系:荷重下で下肢伸展を反復する
目的:スクワット系は股関節・膝関節・足関節を使う多関節運動で、荷重下での下肢伸展課題として利用できます。
- 必要に応じて手すりや支持物を使用する
- 安定した足部位置を決める
- 症状と能力に合わせた深さまで下降する
- 足部で床を押しながら開始姿勢へ戻る
見るポイント:設定した深さを反復できるか、荷重の左右差、膝折れ、疼痛、体幹や上肢への依存を確認します。「膝をつま先より前へ出さない」など1つのフォームだけを全員へ固定せず、目的と症状に合わせて条件を調整します。
SLRは大腿四頭筋トレーニングの第一選択とは限らない
SLR(straight leg raise)でも膝伸展位を保つために大腿四頭筋は活動しますが、実際に起こる大きな関節運動は股関節屈曲です。そのため、大腿四頭筋へ段階的に負荷を与えることが主目的なら、Quad setting、LAQ、STS、スクワット系の方が負荷条件を整理しやすい場面があります。
一方、SLRには膝伸展位を保ったまま下肢を挙上できるか確認するなど別の目的があります。「大腿四頭筋トレーニングだからSLRを行う」のではなく、何を評価・練習したいのかを先に決めます。
フォームが崩れたら「原因を決めつけず、条件を変える」
フォームの崩れは、単純な筋力不足だけでなく、負荷量、疼痛、疲労、可動域、支持条件、課題の複雑さなどでも起こります。膝の位置や体幹だけを修正し続けるのではなく、どの条件で崩れるかを確認します。
| 観察されること | 確認したいこと | 調整例 |
|---|---|---|
| LAQで反動が増える | 抵抗、疲労、設定回数、可動域 | 抵抗や回数を下げる、休息を取る、可動域を調整する |
| STSで左右差が増える | 疼痛、座面高、足部位置、支持能力 | 座面高や足部位置を変更し、必要なら上肢支持を追加する |
| スクワットで深くなると崩れる | 深さ、外的負荷、支持条件、疼痛 | 深さを浅くする、支持を追加する、負荷を変更する |
| Quad settingで収縮が分かりにくい | 膝の位置、疼痛、理解、触覚フィードバック | ポジショニングやキューを変更し、収縮を再確認する |
| 回数後半でフォームが崩れる | 疲労、負荷、休息、目標回数 | セットを分ける、休息を延長する、負荷・回数を見直す |
「膝が内側へ入るから股関節筋力が弱い」「体幹が傾くから体幹筋力が弱い」と1所見だけで原因を決めず、条件を変更したときに動作がどう変わるかまで確認すると、次の介入を選びやすくなります。
負荷は固定回数ではなく、目的・フォーム・反応から調整する
大腿四頭筋トレーニングの回数やセット数を、すべての対象者で「8〜12回×2セット」に固定する必要はありません。2026年のACSM Position Standでは、健康な成人に対するレジスタンストレーニングについて、筋力・筋肥大・パワーなどの目的によって負荷やトレーニング量を調整する考え方が示されています。[1]
ただし、この知見の主な対象は健康な成人です。高齢者、入院患者、術後患者、神経疾患患者などへ数値をそのまま当てはめるのではなく、能力、症状、リスク、介入目的に合わせて開始条件を決めます。高齢者に対するレジスタンストレーニングでも、個別化と漸進的な負荷設定が重要です。[2]
| 判断 | 確認する状態 | 調整例 |
|---|---|---|
| 進める | 設定した課題を安定して実施でき、現在の条件では目的に対する負荷が不足してきた | 抵抗、回数、セット数、可動域、支持条件、運動課題などを調整する |
| 維持する | 目的に合った負荷があり、フォームと症状も許容できる | 同条件で継続し、反応を再評価する |
| 戻す・変更する | 代償が増える、症状が増悪する、疲労で課題の質が維持できない | 負荷・量・可動域を減らす、支持を追加する、別種目へ変更する |
負荷の進め方は「重錘を増やす前に必ず保持時間を延ばす」といった固定順序ではありません。抵抗、回数、セット数、可動域、速度、支持条件、種目そのものなどから、今回の目的に最も合う変数を選びます。
負荷設定の基本を詳しく確認したい場合は、筋力トレーニングの原理・負荷設定もあわせて確認してください。
低負荷から始めることにも意味がある
高い負荷を使えないからといって、トレーニングが無意味になるわけではありません。地域在住高齢者を対象としたシステマティックレビュー・メタ解析では、1RMの60%未満で行う低強度レジスタンストレーニングによって、膝伸展筋力が改善したことが報告されています。[3]
臨床では、まず安全に反復できる条件を設定し、目的と反応を確認しながら漸進させます。特に入院直後、廃用が強い場合、疼痛や疲労がある場合には、健康成人向けの高負荷処方をそのまま開始条件にしないことが重要です。
疼痛・術後・荷重制限がある場合は個別条件を優先する
大腿四頭筋トレーニングは幅広く用いられますが、すべての患者へ同じ種目・負荷を適用できるわけではありません。術後の可動域制限や荷重制限、急性期の炎症、骨折、腱損傷などでは、疾患・術式ごとの指示を優先します。
運動中または運動後に疼痛や腫脹が明らかに増える、膝折れなど安全性に関わる変化が出る、普段と異なる症状が出現する場合は、そのまま負荷を上げず、条件を戻して再評価します。症状だけを我慢して予定回数を完遂することを目的にしません。
記録は「種目・条件・反応・次回調整」を残す
大腿四頭筋トレーニングの記録では、回数だけでなくどの条件で、どのような反応があり、次回どうするかを残すと再評価しやすくなります。
| 項目 | 記録する内容 | 記録例 |
|---|---|---|
| 種目 | 実施した運動 | 座位 LAQ |
| 条件 | 抵抗、可動域、支持、回数、セット数 | 重錘なし、10回×2セット |
| フォーム | 反動、左右差、支持方法など | 2セット目後半に体幹後傾あり |
| 反応 | 疼痛、疲労、自覚的運動強度など | 膝痛増悪なし、終了時RPE 5 |
| 次回調整 | 維持・進行・条件変更 | 同負荷で回数を維持し、反動を再確認 |
RPEや疼痛スケールは負荷調整の材料になりますが、数値だけで進行を決めません。フォーム、実施後の反応、目的動作の変化と合わせて判断します。
よくある質問
大腿四頭筋トレーニングはどの種目から始めればよいですか?
一律の開始種目はありません。収縮確認なら Quad setting、膝伸展を単独で負荷するなら LAQ、立ち上がりを改善したいなら STS、荷重下の下肢伸展課題ならスクワット系が候補です。安全性、疼痛、疾患・術後制限も含めて選びます。
大腿四頭筋トレーニングは何回行えばよいですか?
すべての対象者に共通する回数はありません。目的、負荷、トレーニング経験、症状、疲労、疾患などによって変わります。予定回数を達成することより、目的に合った負荷でフォームを保って実施し、その反応から次回条件を調整することを優先します。
SLRだけでも大腿四頭筋を鍛えられますか?
SLRでも膝伸展位を保つため大腿四頭筋は働きますが、主な関節運動は股関節屈曲です。大腿四頭筋への負荷を段階的に調整することが目的なら、Quad setting、LAQ、STS、スクワット系なども含めて種目を選びます。
膝が痛い場合もスクワットを続けてよいですか?
疼痛の原因や疾患によって判断が異なります。深さ、負荷、支持条件などを変更して反応を確認し、疼痛や腫脹が明らかに増える場合はその条件を継続せず再評価します。術後や荷重制限がある場合は個別の指示を優先します。
次に確認したい記事
- 運動療法全体の考え方を整理する:運動療法ハブ
- 筋力を評価して再評価につなげる:筋力測定の方法と記録
参考文献
- Currier BS, D’Souza AC, Fiatarone Singh MA, et al. American College of Sports Medicine Position Stand. Resistance Training Prescription for Muscle Function, Hypertrophy, and Physical Performance in Healthy Adults: An Overview of Reviews. Med Sci Sports Exerc. 2026;58(4):851-872. doi:10.1249/MSS.0000000000003897
- Fragala MS, Cadore EL, Dorgo S, et al. Resistance Training for Older Adults: Position Statement From the National Strength and Conditioning Association. J Strength Cond Res. 2019;33(8):2019-2052. doi:10.1519/JSC.0000000000003230
- Kamiya M, Ihira H, Taniguchi Y, et al. Low-intensity resistance training to improve knee extension strength in community-dwelling older adults: Systematic review and meta-analysis of randomized controlled studies. Exp Gerontol. 2023;172:112041. doi:10.1016/j.exger.2022.112041
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療従事者の実務に役立つ情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

