心不全療養指導士の症例報告書|まず確認する3点
心不全療養指導士の症例報告書は、単に5例をそろえるだけではありません。公式上、5例はすべて異なる患者とし、2テーマ以上を含め、選んだ症例テーマに沿って療養指導の経過を記載する必要があります。
書き始める前に確認したいのは、「どの症例テーマに当てはまるか」「各欄に必要な情報がそろっているか」「問題点から療養指導・患者の変化まで一続きで説明できるか」の3点です。この記事では、公式の症例テーマ、記載項目、査読判定基準をつなげて、5例の選び方から提出前確認まで整理します。
最初に押さえるポイント
- 5例はすべて異なる患者で作成する
- 5例の中に2テーマ以上を含める
- テーマ、問題点、療養指導、患者の変化を対応させる
結論|5例は「別患者・2テーマ以上・テーマとの一致」が土台
症例報告書で最初に確認するのは文章表現ではなく、症例そのものが公式要件を満たしているかです。5例すべてを同じテーマにした場合は審査対象外となるため、症例を決める段階でテーマ構成まで確認します。
| 確認項目 | 確認する内容 | 作成時の注意 |
|---|---|---|
| 症例数 | 症例報告書を5例作成する | 5例すべてを査読対象として考える |
| 患者 | 5例すべて異なる患者とする | 同一患者を別テーマで2例にしない |
| テーマ | 5例の中に2テーマ以上を含める | 5例すべて同一テーマは避ける |
| 内容 | 選択したテーマの記載基準に沿う | 患者像とテーマがずれていないか確認する |
| 匿名化 | 個人・施設を特定できる情報を除く | 必要な年齢・検査データ等まで一律に消さない |
| 確認印 | 5例すべてで確認・承認を受ける | 確認者・指導者へ1症例ずつ内容確認を依頼する |
| 提出内容 | オンライン登録と郵送書類を一致させる | 変更後は印刷物も最新内容か確認する |
同じ施設内で他の申請者が同じ患者を使用すること自体は認められていますが、それぞれの申請者が自分の視点で評価し、実際に行った療養指導を記載する必要があります。

公式8テーマ|どの症例を選ぶか
現在の日本循環器学会「症例報告書」ページから参照されているテーマ別記載基準では、症例テーマは8つに整理されています。まず患者の心不全進展ステージや経過、介入した場面を確認し、最も説明しやすいテーマを選びます。
| テーマ | 中心となる状況 | 記載で示したいこと |
|---|---|---|
| ① ステージA・B | 心不全発症前のリスク管理 | 原因疾患・リスク因子を踏まえ、心不全発症予防のために何を指導したか |
| ② ステージC・初発 | 初めて心不全を発症した患者 | 病態理解や疾病管理方法など、初期教育として何を支援したか |
| ③ ステージC・再発 | 心不全増悪・入院を繰り返す患者 | 過去の経過や増悪因子を踏まえ、どの療養行動を見直したか |
| ④ ステージD・難治性 | 治療抵抗性を含む進行した心不全 | 病状理解、QOL、苦痛、増悪時対応、ACPなどをどう支援したか |
| ⑤ ステージD・人生の最終段階 | 人生の最終段階にある患者 | 全人的苦痛、症状緩和、意思決定やACPを踏まえた支援 |
| ⑥ 高齢心不全 | 加齢・フレイルなどへの配慮が必要な患者 | 身体・精神・社会面の特徴を踏まえ、どのような工夫をしたか |
| ⑦ 心臓手術を受けた周術期 | デバイス治療、カテーテル治療、開心術などの周術期 | 術後経過を踏まえ、過活動・感染などの予防や疾病管理をどう支援したか |
| ⑧ 多職種・地域連携 | 多職種または地域との連携強化が必要な患者 | 誰と、なぜ、どのように連携し、患者・家族を支援したか |
服薬、栄養、水分、運動、セルフモニタリングなどは重要な療養指導内容ですが、それ自体が上記8テーマと同じ分類ではありません。たとえば、再入院を繰り返すステージC患者で服薬管理や活動量を見直した場合は、「服薬」をテーマにするのではなく、患者の経過に合う③ステージC・再発などを選び、その中で服薬や身体活動の問題を説明します。
症例5例の選び方|書きやすさより査読基準から逆算する
公式要件を満たしたうえで、実務上は「最後まで経過を説明できる症例」を優先すると書きやすくなります。以下は追加の公式要件ではなく、公式の記載項目と査読基準から逆算した症例選択の考え方です。
| 確認 | 選びやすい症例 | 注意したい症例 |
|---|---|---|
| テーマ | 公式8テーマのどれに当たるか説明できる | テーマを後付けしないと説明できない |
| 経過 | 原因疾患、ステージ、症状、治療経過を追える | 必要な経過がほとんど確認できない |
| 問題と介入 | 療養上の問題と、それに対する介入が対応している | 評価は多いが、なぜ介入したか説明しにくい |
| 結果 | 患者・家族の反応や療養行動の変化を確認できる | 介入内容だけで、その後の変化が不明 |
最初から5例ちょうどに限定する必要はありません。複数の候補から、テーマとの一致、必要情報のそろいやすさ、自分が行った療養指導、結果まで確認できる症例を選ぶと、後から大きく書き直すリスクを減らせます。
症例報告書には何を書く?各欄の役割を整理する
症例報告書では、医学的データを多く並べることよりも、患者背景と心不全の経過から問題点を抽出し、その問題に対して何を行い、患者がどう変化したかを追えることが重要です。
| 記載領域 | 何を書くか | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 患者背景 | 家族、社会資源、認知・心理面、生活環境など | 療養行動や意思決定に影響する背景が分かるか |
| 心不全の病態 | 原因疾患、併存疾患、現病歴、心不全進展ステージ、検査・身体所見 | なぜそのステージ・テーマなのか説明できるか |
| 心不全治療 | 薬物療法、デバイス、手術・カテーテル治療、呼吸補助療法など | 現在の治療状況が読み取れるか |
| セルフケア | 病識、セルフモニタリング、受診行動、服薬、栄養・水分、身体活動、喫煙など | 療養上の問題が具体的に見えるか |
| 問題点 | 心不全の増悪・発症に関わる医学的因子や生活因子 | 前段の情報から問題点を説明できるか |
| 療養指導の実際 | 自分が行った指導、多職種連携、家族支援、地域との連携 | 問題点に対して意図的に介入しているか |
| 療養指導の結果 | 患者・家族の反応、療養行動や状態の変化 | 「説明した」で終わらず変化まで示せているか |
| 評価・今後の課題 | 残った問題と今後必要な支援 | 介入後の再評価につながっているか |
現病歴は「ステージを判断できる経過」にする
現病歴では、診断名だけでなく、原因疾患や併存疾患の経過、心不全症状、治療、増悪の頻度、疾病管理の経過などを整理します。ステージA・Bを選ぶ場合は心不全症状が出現していないこと、ステージC・Dでは心不全発症後の経過が読み取れることが重要です。
つまり、現病歴を読んだ査読者が「なぜこの心不全進展ステージなのか」「なぜこのテーマを選んだのか」を追える状態にします。
セルフケアは「できる・できない」だけで終わらせない
「服薬管理できない」「塩分過剰」「活動量が少ない」といった抽象的な表現だけでは、問題点の背景が伝わりにくくなります。誰が薬を管理しているか、なぜ飲み忘れるのか、どのような食生活なのか、症状が出たときにどのような受診行動を取るのかなど、療養指導につながる具体的な状況を整理します。
療養指導は「問題点→介入→結果」をつなげる
査読で重要なのは、知識を説明した量ではなく、患者の問題に合わせて優先度の高い療養指導を実践していることです。多職種が関わった場合も、他職種の介入を列挙するだけでなく、自分がどのように連携・協働したかを示します。
最後に、患者や家族の理解、療養行動、受診行動、身体活動などがどう変わったかを記載し、残った課題まで整理します。
査読では何を見られる?8つの判定ポイント
公式ページでは、症例報告書の査読判定基準が8項目示されています。完成後は文章を最初から読み返すだけでなく、この8項目ごとに情報がそろっているか確認すると抜けを見つけやすくなります。
| 判定項目 | 提出前に確認する問い |
|---|---|
| 心不全の原因疾患 | 原因疾患を適切に整理できているか |
| 心不全進展ステージ | 現病歴とステージ判定が一致しているか |
| 現病歴 | ステージや基礎疾患に応じた症状・治療経過が分かるか |
| 薬物治療 | 必要な薬物治療を適切に記載しているか |
| セルフケア | 療養行動と生活上の問題点が具体的に分かるか |
| 療養指導の実態 | 患者の問題に合う優先度の高い療養指導を、自分でも実践していることが分かるか |
| 療養指導の結果 | 患者・家族にどのような変化が生じたか書かれているか |
| テーマとの一致 | 選んだ症例テーマの記載基準を満たしているか |
特に注意したいのは、情報がそれぞれ存在していても、前後がつながっていないケースです。「現病歴→セルフケア上の問題→療養指導→結果」が一本の流れとして読めるかを確認します。
理学療法士が書くとき|身体機能評価だけで終わらせない
理学療法士では、歩行能力、運動耐容能、筋力、ADLなどの情報を詳しく把握できることが強みです。ただし、症例報告書の目的は理学療法評価そのものを示すことではありません。
日本循環器学会が公開している理学療法士の良い記載例でも、身体機能データだけでなく、心不全の増悪経過、セルフケア、服薬・栄養上の問題、多職種との連携、運動療法、患者・家族の変化まで一続きで記載されています。
PTが確認したい書き方
「6分間歩行距離が低下していた」で終わらず、その身体機能低下が生活や疾病管理へどう影響しているのか、どのような運動・活動指導を行い、患者がどのように変化したのかまでつなげます。身体機能評価は、療養上の問題と介入を説明するための根拠として使います。
公式の良い例・悪い例は「文章」ではなくつながりを比較する
日本循環器学会は、薬剤師、栄養士、看護師、理学療法士などの症例報告書について良い記載例と悪い記載例を公開しています。
記載例を見るときは文章表現をそのまままねるのではなく、次の違いを確認すると実務へ落とし込みやすくなります。
- 患者背景から療養上の問題を具体的に抽出できているか
- 現病歴と心不全進展ステージが対応しているか
- 療養指導が問題点に対応しているか
- 自分の実践と多職種連携が分かるか
- 患者・家族の変化まで記載しているか
- 今後の課題が介入後の状態を踏まえているか
症例報告書を作成する際は、必ず日本循環器学会の最新の記載基準と公式記載例を確認してください。
確認印・オンライン登録・郵送で注意すること
2026年度は、オンライン申請で受験申請書と症例報告書5例を登録した後、印刷した書類に必要な確認印を受けて郵送する流れです。症例報告書は5例すべてに確認印が必要です。
| 手続き | 2026年度 | 確認すること |
|---|---|---|
| オンライン申請 | 6月1日〜7月31日 | 受験申請書と症例報告書5例を入力する |
| 印刷・確認印 | オンライン申請後 | 症例報告書5例すべてに確認印を受ける |
| 書類郵送 | 8月1日〜8月10日(消印有効) | 必要書類をまとめて郵送する |
※上記は2026年度の日程です。次年度以降は必ず日本循環器学会の最新案内を確認してください。
オンライン登録内容を修正するときの注意
2026年度の「受験申込」ページでは、7月31日までは再ログインして内容を変更できると案内されています。一方、「症例報告書」ページには登録完了後の変更に関して異なる表現もあります。申請時は最新の受験申込ページと実際のオンライン画面を確認し、内容を変更した場合は、最終的なオンライン登録内容と郵送する印刷物が必ず一致していることを確認してください。
査読前・提出前チェック|5例を1症例ずつ確認する
5例が完成したら、5例全体のテーマ構成を確認した後、1症例ずつ査読基準に沿って見直します。誤字の確認だけでなく、症例テーマと患者像、問題点と介入、介入と結果のつながりを確認することが重要です。
| 確認項目 | OKの目安 |
|---|---|
| 患者 | 5例すべて異なる患者である |
| テーマ | 5例の中に2テーマ以上を含んでいる |
| テーマとの一致 | 患者のステージ・状況と選択テーマが一致している |
| 現病歴 | 原因疾患、症状、治療経過、ステージを追える |
| セルフケア | 療養行動上の問題が具体的に分かる |
| 療養指導 | 問題点に対応した自分の実践と連携内容が分かる |
| 結果 | 患者・家族の反応や変化が記載されている |
| 匿名化 | 個人・施設を特定する情報が残っていない |
| 確認印 | 5例すべて確認・承認済みである |
| 内容一致 | オンライン登録と郵送する印刷物が同じ内容である |
よくある質問
Q1. 同じ患者を別テーマで2例として提出できますか?
できません。症例報告書5例はすべて異なる患者で作成する必要があり、同一患者を2テーマに分けて2例とすることは認められていません。
Q2. 5例すべて同じ症例テーマでもよいですか?
できません。5例の中に必ず2テーマ以上を含めます。5例すべてが同一テーマの場合は審査対象外とされています。
Q3. 理学療法士は運動療法や身体機能だけを書けばよいですか?
身体機能評価や運動療法は重要ですが、それだけでは症例報告書全体の査読基準を満たしにくくなります。心不全の経過、セルフケア上の問題、自分が行った療養指導、多職種との連携、患者・家族の変化まで一続きで整理します。
Q4. オンライン登録後に内容を修正した場合、印刷物はどうしますか?
最終的なオンライン登録内容と郵送する症例報告書は同じ内容である必要があります。申請期間中に修正した場合は、申請時点の最新案内を確認し、必要に応じて修正版を再印刷してから確認印・提出内容を確認してください。
次の一手
- 受験資格・日程から確認する:心不全療養指導士2026|受験資格と申請の流れ
- 必要書類を提出前に確認する:心不全療養指導士2026|申請チェックリスト
参考文献
- 一般社団法人日本循環器学会. 心不全療養指導士 症例報告書 [Internet]. 東京: 日本循環器学会; [cited 2026 Oct 7]. Available from: https://www.j-circ.or.jp/chfej/exam-eligibility/report/
- 一般社団法人日本循環器学会. 症例テーマ別の記載基準 [Internet]. [cited 2026 Oct 7]. Available from: https://www.j-circ.or.jp/chfej/cms/wp-content/uploads/2022/05/Mention-standard-202206.pdf
- 一般社団法人日本循環器学会. 心不全療養指導士 受験申込 [Internet]. 東京: 日本循環器学会; [cited 2026 Oct 7]. Available from: https://www.j-circ.or.jp/chfej/application/
- 一般社団法人日本循環器学会. 心不全療養指導士 症例報告書 良い記載例:ステージC・理学療法士 [Internet]. [cited 2026 Oct 7]. Available from: https://www.j-circ.or.jp/chfej/cms/wp-content/uploads/2022/05/5-Good-example.pdf
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

