新人PTの移乗・歩行介助の基本|安全確認・介助位置・中止判断

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新人PTの移乗・歩行介助は「開始条件・立ち位置・止め時」で判断する

新人PTが移乗・歩行介助で最初に確認したいのは、どこを支えるかだけでなく、今の患者さんを、今の環境と介助体制で安全に動かせるかです。立ち上がりができても、立位直後の膝折れや方向転換で介助量が変わることがあります。

この記事では、新人理学療法士に向けて、介助前の安全確認、ベッドから車いすへの移乗、歩行介助の立ち位置、介助量の判断、方法変更・中止する場面を順番に整理します。「開始できる条件→介助を加える局面→方法変更・中止の境界→病棟共有」を一続きで確認し、手技だけに頼らない介助判断を身につけましょう。

最初の判断|その移乗・歩行介助を始めてよいか

移乗・歩行介助は、患者さんが動作できるかどうかだけでなく、予定した方法で安全に実施できるかを判断してから開始します。本人の支持能力、症状、指示理解、必要な介助量を確認し、安全性が不確かな場合は単独で開始しないことが重要です。

新人PTが最初に確認する介助開始・方法変更・中止の判断
判断 確認できた状態 次の行動
予定した方法で開始を検討 必要な支持能力があり、症状と環境が安定し、予定する介助体制で対応できる 動作を段階的に確認しながら実施する
条件を調整して再確認 足位置、車いす配置、補助具、声かけなどに修正できる問題がある 環境や方法を整え、安全性を確認してから進める
方法・介助体制を変更 立位は可能だが方向転換が不安定、単独介助では安全確保が難しいなど 補助者、福祉用具、別の移乗・移動方法を検討する
中止・相談 新たな胸痛、強い呼吸苦、意識状態の変化、制御困難なふらつきなどがある 安全を確保して介入を中止し、必要な医療的対応を依頼する

この表は新人PTが判断を整理するための実務上の分類であり、一律の医学的な中止基準ではありません。実施可否は医師の指示、荷重・活動制限、患者さんの状態、施設の安全管理手順を優先して判断します。

特に重要なのは、立ち上がりができることと、移乗全体が安全に成立することを分ける視点です。立位保持が可能でも、足を踏み替えられなければ、立位回旋移乗の継続が適切とは限りません。

介助前に確認する5項目|体調・支持能力・理解・環境・介助体制

介助前は、体調・支持能力・理解・環境・介助体制の5項目を確認します。昨日できた動作を、今日も同じ介助量で実施できるとは限りません。症状、疲労、環境、活動制限などが変われば、必要な支援も変わります。

移乗・歩行介助前に確認したい5項目
確認項目 具体的に見ること 介助へのつなげ方
1.体調・指示 めまい、疼痛、息切れ、意識状態、バイタル、荷重・活動制限 実施可否と活動量を判断する
2.支持能力 座位保持、足底接地、下肢荷重、立位保持、膝折れ 立位を利用した移乗・歩行が成立するか考える
3.理解・協力 指示理解、注意、動作開始・停止の合図への反応 声かけや介助体制を調整する
4.環境・用具 ベッド高、車いす位置、ブレーキ、フットサポート、履物、床、歩行補助具、ライン類 転倒・接触・ライン抜去につながる条件を減らす
5.介助体制 介助者の技能と対応能力、補助者、移乗用具・リフトの必要性 単独で行えるか、支援や方法変更が必要か判断する

安全に立位を保持できない場合や、介助者が患者さんの体重を人力で抱え上げなければ移れない場合は、立位移乗に固執しません。スライディングボードやリフトなどを含め、患者さんと介助者の双方に適した方法を検討します。

厚生労働省の腰痛予防対策では、全介助が必要な対象者の抱上げについて、リフトなどを積極的に使用し、原則として人力による抱上げを行わせない方針が示されています。[1]

図解|移乗・歩行介助の安全判断フロー

介助前に確認する内容と、移乗・歩行の各局面での判断を次の図に整理しました。新人PTは、動作を進めることだけでなく、途中で条件が崩れたときに方法変更・中止を選べることを意識してください。

新人PTの移乗・歩行介助の安全判断フロー。介助前の体調・支持能力・理解・環境・介助体制の確認、移乗介助の準備から着座、歩行介助の開始から停止、不安定な場合の方法変更・中止、病棟共有までを示した図
図:新人PTの移乗・歩行介助における安全判断フロー。各局面で安全性を確認し、必要に応じて介助方法の変更や中止を判断します。

図の読み方:「移乗介助」と「歩行介助」は、必ず両方を連続して実施するという意味ではありません。患者さんの状態と目的に応じて必要な動作を選びます。また、「方法変更・中止」は移乗や歩行の終了後だけに判断するものではなく、開始前を含む各局面で検討します。

この図は介助判断を整理するための補助資料であり、特定の介助方法の適応や中止基準を一律に定めるものではありません。

移乗介助の基本|立ち上がり・方向転換・着座の4局面

ベッドから車いすへの移乗では、準備、立ち上がり、方向転換、着座を分けて観察します。立位回旋移乗を想定する場合も、立てるかだけでなく、足を踏み替え、安全に座れるかまで確認することが重要です。

1.準備|ベッド・車いす・足元を整える

患者さんが安定して端座位を保持できることを確認し、必要に応じてベッド高、車いす位置、足部位置を調整します。車いすのブレーキを確認し、フットサポートなどが足の動きを妨げないようにします。

移乗先は、不必要な移動距離や方向転換が生じないように配置します。ただし、車いすの配置角度や移乗方向は固定せず、患者さんの下肢支持能力、上肢機能、麻痺、注意機能、環境に応じて判断します。

MedlinePlusの患者移乗に関する説明でも、車いすの位置、ブレーキ、足部支持などを準備してから移乗を進めることが示されています。[2]

2.立ち上がり|前方重心移動と離殿を支える

足底接地と手の支持位置を確認し、患者さん自身が動作を開始できる条件を整えます。前方への重心移動、離殿、下肢支持への移行を観察し、どの局面で身体的介助が必要になるかを判断します。

声かけは「足を整えます」「前へ体を移します」「立ちましょう」のように、動作に合わせて短く伝えます。理解や注意の状態によっては、声かけの数やタイミングも調整します。

介助者が患者さんの上肢や腋窩を強く引き上げて立たせる方法は避けます。支持位置や移乗ベルトの使用は、患者さんの状態と禁忌、施設の安全手順に合わせて選択します。

3.方向転換|立位保持と足の踏み替えを確認する

立位直後に安定していても、方向転換では重心移動と足の踏み替えが必要になります。膝折れ、足のもつれ、体幹の急な回旋、後方への崩れがないかを確認します。

介助者は予測される不安定方向を考慮して位置を取り、必要に応じて体幹や骨盤周囲を支持します。患者さんの足が動かないまま身体だけを強く回転させないことが重要です。

立位は可能でも足の踏み替えが成立しない場合は、そのまま移乗を完了させようとせず、環境調整や移乗方法の変更を検討します。

4.着座|座面位置と下降の制御を確認する

車いすの座面と身体の位置関係、足位置、手の支持場所を確認してから着座へ進みます。座面へ十分に近づかないまま座ろうとする、急に膝が曲がる、後方へ崩れるといった場面に注意します。

着座後は座位姿勢と足の位置を確認します。移乗できたかどうかだけでなく、どこで介助を追加したかを記録すると、次回の介助量や方法を再評価しやすくなります。

立位を利用する移乗の具体的な適応や手順は、立位回旋移乗のやり方と介助方法で詳しく解説しています。

歩行介助の基本|歩き始め・直進・方向転換・停止

歩行介助では、歩行距離だけでなく、歩き始め、直進、方向転換、停止・着座の局面を確認します。直進歩行ができても、方向転換や停止時に介助が必要になることがあります。

歩行介助の4局面で確認するポイント
局面 観察すること 介助・判断のポイント
歩き始め 立位保持、重心移動、第一歩、膝折れ 立位の安定を確認してから歩行へ進む
直進 歩幅、左右差、体幹動揺、補助具操作、疲労 どちらへ崩れやすく、どの局面で支援が必要かを見る
方向転換 減速、足の踏み替え、急旋回、足のもつれ 必要に応じて一度停止し、安全な方向転換を確認する
停止・着座 減速、足位置、座面位置、手の支持、下降の制御 安全に停止・着座できる位置まで誘導する

方向転換と直進歩行の特性を比較した研究では、方向転換時の歩行変動と転倒発生との関連が検討されています。高齢者を対象とした研究結果であり、すべての患者さんへ直接一般化はできませんが、歩行を直進だけで評価しない理由の一つになります。[3]

歩行介助の立ち位置はどこがよいか

歩行介助の立ち位置は、必ず右側、左側、麻痺側などと固定するものではありません。予測される膝折れやふらつきの方向、歩行補助具の種類、通路幅、介助者の動きやすさを考慮して選択します。

例えば、片側へ体幹が崩れやすい場合は、その方向への不安定さに対応できる位置を検討します。膝折れが予測される場合は、必要な下肢支持や歩行補助具の変更を含めて、現在の介助体制で安全に実施できるかを確認します。

介助者は患者さんの動きを妨げない位置を取り、必要な支持を行える距離を保ちます。ただし、立ち位置だけで転倒を防げるわけではありません。患者さんの全体重を介助者が受け止めることを前提にした歩行練習は避け、必要に応じて介助者や用具を追加します。

歩行ベルトは持ち上げるための道具ではない

歩行ベルトを使用する場合は、体幹の安定を補助する目的とし、患者さんを持ち上げるために使用しません。適応は荷重能力、予測可能な動作、皮膚や腹部の状態、手術歴、医療機器の位置などを確認して判断します。

米国労働安全衛生庁(OSHA)も、歩行ベルトは歩行時の安定化を支援するもので、患者さんの持ち上げには設計されていないと説明しています。[4]

狭い場所・方向転換は直進歩行と別に確認する

ベッド周囲、トイレ入口、ドア付近では、歩行補助具の操作と方向転換が同時に必要になることがあります。通路幅、障害物、注意配分、点滴ラインなどを確認し、介助者が安全に動けるスペースを確保します。

安全に通過できる環境が整わない場合は、無理に歩かせず、移動経路や移動方法の変更を検討します。

介助量の決め方|見守りと身体的介助の境界

介助量は「立てた」「10m歩けた」という結果だけでは決められません。どの局面で、どの程度の身体的支援が必要になったかを確認して判断します。

新人PTが介助量を判断するときの考え方
支援の状態 実際の観察 判断のポイント
見守り・声かけ 身体を支えずに動作できるが、監視や合図が必要 監視なしでも安全かは別に判断する
接触による介助 身体に触れて動作を誘導・補助する 接触だけなのか、姿勢保持の支持が必要なのかを区別する
身体的な介助 立ち上がり、姿勢保持、方向転換などで介助者の力が必要 支援が必要な局面と介助量を具体的に残す
方法・体制の変更が必要 現在の用具や人員では安全を確保できない 補助者、福祉用具、移乗方法、実施可否を再検討する

この分類は介助判断を整理するための説明であり、FIMなどの公式採点基準ではありません。施設の介助区分や評価尺度を使用する場合は、それぞれの定義に従って記録してください。

また、必要以上の介助は患者さんの動作能力を確認しにくくする一方、介助量を減らしすぎると転倒につながるおそれがあります。最初から介助量を少なくすることを目標にせず、必要な支持を確保したうえで、自力で可能な局面を確認します。

介助を止める・方法を変えるのはどんなときか

予定していた介助方法で安全を確保できない場合は、移乗や歩行の完遂に固執しません。重要なのは、環境調整で対応できる問題か、方法や人員を変える必要があるか、医学的な理由で中止すべきかを分けることです。

移乗・歩行介助中の問題と次の判断
起きたこと 最初の対応 次に判断すること
足位置や車いす配置が不適切 動作を開始せず、姿勢と環境を調整する 条件を整えれば安全に実施できるか
方向転換が不安定 安全な支持・姿勢を確保して動作を中断する 移乗方法や介助体制の変更が必要か
予測できない膝折れ・強いふらつき 安全を確保して予定した動作を中断する 立位を使う方法を継続せず、別の方法を選ぶべきか
めまい、疲労増大、動作の不安定化 休止して症状と支持能力を再評価する その日の介入を終了・変更するか
新たな胸痛、強い呼吸苦、意識状態の変化など 介入を中止し、安全を確保して直ちに支援を要請する 施設の緊急対応手順に沿って医学的評価・処置へつなげる

実施中に安全な支持が難しくなった場合は、介助者だけで無理に患者さんを持ち上げようとしないことが重要です。転倒・転落が発生した場合は、施設の手順に従って患者さんの状態を確認し、必要な支援を要請します。

なお、膝折れがあるから必ずスクワットピボットへ変更する、単独介助が難しいから必ず2人介助にする、といった固定的な選択は避けます。残存する荷重能力、座位保持、指示理解、環境などを確認し、患者さんと介助者の双方に適した方法を選びます。

移乗方法の選び直しを詳しく確認したい場合は、移乗介助の中止基準と方法変更を参照してください。

病棟共有は「実施条件・危険場面・必要な支援」で伝える

病棟への申し送りでは、「歩けました」「移乗できました」だけで終わらせず、どの条件でできて、どこで介助が必要だったかを伝えます。リハビリ中と病棟では環境や介助者が異なるため、同じ動作が安全に再現できるかは別に確認する必要があります。

移乗介助の記録例

記録例:ベッドから車いすへの移乗(架空の症例)

ベッドから車いすへの立位回旋移乗を実施。立ち上がりは見守り下で可能。立位直後の保持は安定していたが、車いす方向への方向転換時に左側への体幹動揺が生じ、骨盤周囲への身体的介助を追加した。着座時は座面位置の確認と声かけを要した。

病棟での単独移乗は現時点で推奨せず、車いす配置と必要な介助方法を担当スタッフ間で確認する。次回は方向転換時の足の踏み替えと、条件変更後の安定性を再評価する。

この例では、立ち上がりができたという観察事実と、移乗全体を安全に自立実施できるかという判断を分けています。記録例は架空のものであり、特定の支持位置や介助方法がすべての患者さんに適するという意味ではありません。

病棟へ伝える4項目

移乗・歩行介助の申し送りでそろえたい情報
共有項目 具体的に伝える内容
実施条件 実施場所、車いす配置、補助具、必要な介助者
介助量 どの局面で、どの程度の身体的支援が必要だったか
危険場面 膝折れ、方向転換時のふらつき、着座時の不安定さなど
次の行動 病棟で実施できる条件、避ける条件、再評価・相談事項

記録では、単に介助量を書くのではなく、観察した事実、介助が必要だった局面、次回に確認する内容を残すと、再評価へつなげやすくなります。

なお、リハビリ場面で歩行できたという事実だけで、病棟でのトイレ移動や日常的な歩行が自立しているとは判断しません。未評価の場面は未評価として共有し、必要に応じて病棟環境での再評価を行います。

SOAPや申し送りの型を詳しく整理したい場合は、新人PTの記録・報連相の基本も参考にしてください。

新人PTが避けたい介助の失敗

移乗・歩行介助で避けたいのは、立たせることや歩かせること自体を目標にして、開始条件や中止判断を見落とすことです。介助者が頑張れば何とか移せるという状況は、方法の見直しが必要なサインになり得ます。

移乗・歩行介助でよくある失敗と修正方法
よくある失敗 見直すポイント
立たせることだけを目標にする 立位後の方向転換と着座まで成立するか確認する
毎回同じ位置から介助する 不安定方向、動作局面、環境に応じて位置を調整する
無理に1人で支えようとする 介助体制・福祉用具・移乗方法を見直す
直進歩行だけで安全と判断する 歩き始め、方向転換、停止、着座も確認する
「軽介助で可能」だけを申し送る 介助が必要な局面、環境条件、支援方法を共有する

先輩の介助を見学するときも、手の位置だけを真似するのではなく、なぜその介助方法を選んだか、どこで声をかけたか、どの時点で方法変更や中止を判断するかを確認すると、自分の臨床判断につなげやすくなります。

次の一手|介助方法と安全管理をつなげる

新人PTの移乗・歩行介助では、手技を覚えることに加えて、開始できる条件、介助が必要な局面、方法変更・中止の境界を判断できることが重要です。

続けて確認したい内容に応じて、以下の記事へ進んでください。


参考文献

  1. 厚生労働省. 保健衛生業における腰痛の予防[Internet]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_31197.html
  2. National Library of Medicine. Moving a patient from bed to a wheelchair [Internet]. MedlinePlus. Available from: MedlinePlus
  3. Gulley E, Ayers E, Verghese J. A comparison of turn and straight walking phases as predictors of incident falls. Gait Posture. 2020;79:239-243. doi:10.1016/j.gaitpost.2020.05.002
  4. Occupational Safety and Health Administration. Hospitals eTool: Clinical Services – Physical Therapy [Internet]. Washington, DC: U.S. Department of Labor. Available from: OSHA

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に、臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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