肺切除術前・術後の呼吸リハは「術前準備」と「術後早期離床」で分けて考える
肺切除術前・術後の呼吸リハは、術前のリスク把握と患者教育、術後の排痰・疼痛配慮・早期離床をつなげて行う介入です。この記事では、新人PTや周術期リハに関わる療法士向けに、術前評価、術前指導、術後初回介入、離床判断、記録の残し方を実務目線で整理します。単なる手順ではなく、「今どこを優先して見るか」が判断できる形を目指します。

呼吸リハ全体の評価項目を先に整理したい場合は、関連:呼吸評価の全体像も参考になります。
| 視点 | 術前 | 術後初回 | 実務のねらい |
|---|---|---|---|
| 呼吸 | 呼吸数、SpO2、咳嗽、喀痰、肺機能 | 酸素条件、努力呼吸、痰の貯留、疼痛時の浅呼吸 | 換気低下や分泌物貯留を早く拾う |
| 運動 | 活動量、歩行能力、息切れ | 座位・立位での反応、ふらつき、耐久性 | 離床をどこまで進めるか判断する |
| 安全 | 既往歴、循環器疾患、喫煙歴 | 循環動態、意識、ドレーン・ライン管理 | 中止・延期の判断材料をそろえる |
| 教育 | 深呼吸、咳嗽、排痰、術後の見通し | 痛みへの対処、自己排痰、再評価の視点 | 患者と介入目標を共有する |
術前評価では「術後に詰まりそうな点」を先に拾う
術前評価で重要なのは、検査値を確認するだけでなく、術後の排痰・呼吸練習・離床でどこが障壁になりそうかを予測することです。呼吸状態、咳嗽・喀痰、SpO2、呼吸数、労作時息切れ、ADL、身体活動量を確認します。
加えて、喫煙歴、COPDなどの併存呼吸器疾患、循環器疾患、低栄養、術前からの活動性低下も確認します。臨床では、肺機能の数値だけでなく「痰を出せるか」「痛みが出ても呼吸を止めないか」「立位まで進める体力があるか」まで見ておくと、術後初回の介入が組み立てやすくなります。
| 評価項目 | 見る理由 | 術後にどうつながるか |
|---|---|---|
| 咳嗽・喀痰 | 自己排痰のしやすさを把握する | 排痰介助が必要かを予測しやすい |
| 肺機能 | 呼吸予備力の目安になる | 術後の呼吸仕事量増加を想定しやすい |
| 運動耐容能 | 活動量低下や回復の遅れを見積もる | 歩行開始や離床段階の目標設定に役立つ |
| ADL・活動量 | 術前の生活機能を把握する | 退院までの回復イメージを持ちやすい |
| 既往歴・併存症 | 呼吸器・循環器リスクを拾う | 離床時の中止・延期判断を具体化しやすい |
術前指導は「深呼吸・排痰・離床の見通し」を絞って伝える
術前指導では、術後に必要になる深呼吸、咳嗽、排痰、早期離床の流れを事前に共有します。患者にとって、手術後に何を求められるのかが分かっているだけでも、術後初回の介入が進めやすくなります。
指導内容を増やしすぎると定着しにくいため、最低限は「深く吸う」「止めずに吐く」「痛みがあっても少しずつ体を起こす」「痰をため込まない」の4点に絞ると実用的です。incentive spirometryを使う場合も、機器操作そのものより、呼吸練習と離床の流れの中で位置づける方が理解されやすいです。
術後初回介入では呼吸・循環・疼痛・ライン類を同時に見る
術後初回介入では、酸素投与条件、SpO2、呼吸数、努力呼吸、痛み、意識状態、血圧・脈拍、ドレーンやラインの位置を確認します。肺切除後は、呼吸機能低下に加えて疼痛が咳嗽や離床を妨げやすいため、「動けるか」を呼吸と全身反応の両方から判断します。
介入は呼吸練習だけで終わらせず、可能であれば座位・立位まで小さく試します。ただし、呼吸仕事量が高い、循環動態が不安定、痛みが強すぎる、ドレーン管理に無理がある場合は、その日の目標を下げてコンディショニングを優先します。ベッドサイド評価の基本は、関連:ベッドサイドの呼吸評価の基本も参考になります。
PPC予防では「深く吸う・痰を出す・体を起こす」を分けて見る
術後肺合併症(PPC)予防では、深呼吸、排痰、早期離床をまとめて考えるのではなく、それぞれの障壁を分けて評価します。疼痛が強いと深呼吸も咳嗽も弱くなり、浅呼吸や分泌物貯留につながりやすくなります。
そのため、毎回の介入では、鎮痛が十分か、自己排痰で足りるか、介助が必要か、離床と組み合わせた方がよいかを見直します。歩行距離だけを追うより、「痛みのために浅呼吸が続いていないか」「痰を出せるだけの咳嗽があるか」を見る方が、実務では判断しやすくなります。
| 詰まりどころ | まず確認したいこと | 次の一手 |
|---|---|---|
| 深呼吸が浅い | 疼痛、恐怖感、疲労 | 鎮痛確認、呼吸練習の回数調整、座位で再実施 |
| 痰が出にくい | 咳嗽力、疲労、痰の性状 | 自己排痰の工夫、介助、体位変換を組み合わせる |
| 離床で息切れが強い | 努力呼吸、酸素条件、循環反応 | 座位時間延長、立位練習、短時間反復へ切り替える |
離床は単一の数値ではなく全身反応で段階づける
肺切除後の離床は、SpO2などの単一指標だけで決めず、呼吸、循環、意識、疼痛、ドレーン管理をまとめて判断します。今日は座位まで、立位まで、短距離歩行までと段階づけること自体が、安全な介入になります。
酸素化が大きく崩れない、努力呼吸が強すぎない、血圧や脈拍の変動が大きすぎない、痛みで動作が破綻しない、ライン管理に無理がない場合は、軽負荷から進めやすいです。反対に、安静時から呼吸仕事量が高い、意識が不安定、循環が不安定、疼痛や不安で咳嗽・体動が困難な場合は、先に条件を整えます。
| 判定 | 見方の例 | 次の一手 |
|---|---|---|
| 進めやすい | 酸素化が保たれ、努力呼吸が強くなく、循環変動が小さい | 座位 → 立位 → 短距離歩行へ段階づける |
| 軽負荷で様子を見る | 痛みや息切れはあるが、休息で整い、指示理解も保たれる | 座位時間延長、立位練習、呼吸練習を優先する |
| 見送りを検討 | 安静時から呼吸仕事量が高い、循環が不安定、痛みが強すぎる | 鎮痛調整、呼吸練習、排痰、再評価を優先する |
現場では「歩けたか」より「何が詰まりか」を残す
現場でよく詰まるのは、痛みが強くて深呼吸が入らない、痰はあるのに咳が弱い、立つとSpO2が下がって判断に迷う、の3つです。こうした場面では、「歩かせるか、止めるか」だけで考えると介入が止まりやすくなります。
実際の現場では、歩行距離だけでなく、鎮痛、呼吸練習、排痰、座位時間、立位反応のどこに課題があるかを短く残すと、次回介入につながります。術後管理では、結果だけでなく「進めなかった理由」を記録することも重要です。
| よくある失敗 | なぜ詰まるか | 修正の方向 |
|---|---|---|
| 歩行距離だけを目標にする | 疼痛や浅呼吸の問題を見落としやすい | 呼吸の質と排痰を同時に評価する |
| 痰が出ないのに自己排痰だけで続ける | 疲労や咳嗽力低下を考慮しにくい | 介助や体位変換を早めに組み合わせる |
| 見送り理由を曖昧にする | 次回の介入条件が共有されにくい | 呼吸・循環・疼痛・意識で短く残す |
記録例:離床を進めた理由・見送った理由を短く残す
記録では、実施内容だけでなく、なぜその段階まで進めたのか、なぜ見送ったのかを残すと申し送りがしやすくなります。長文にする必要はなく、呼吸、循環、疼痛、意識、ドレーン管理のどこを見たかが分かれば十分です。
| 場面 | 記録例 |
|---|---|
| 座位まで実施 | 疼痛NRS高値で深呼吸浅い。SpO2低下は軽度、座位保持で呼吸数増加あり。本日は端座位と呼吸練習中心、鎮痛後に再評価予定。 |
| 立位まで実施 | 酸素化保たれ、血圧変動小。咳嗽時疼痛あり自己排痰不十分。立位練習後、排痰指導と創部支持を再確認。 |
| 歩行を見送り | 安静時より努力呼吸あり、体動で息切れ増強。循環変動と疼痛を考慮し歩行は見送り、座位時間延長と呼吸練習を実施。 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
肺切除術後はいつから歩行を始めますか?
全身状態が安定していれば、早期から座位・立位・歩行へ進める方向が基本です。ただし、呼吸状態、循環動態、疼痛、ドレーン管理を見ながら段階づけます。まずは「歩く」よりも、「その日に可能な最小離床」を安全に積み上げる考え方が実用的です。
incentive spirometryは全員に必要ですか?
全員に単独で routine 使用する前提ではありません。深呼吸、咳嗽、早期離床、鎮痛と組み合わせて使う位置づけで考えます。機器の有無よりも、深く吸えるか、痰を出せるか、体を起こせるかを確認することが重要です。
術前評価では何を最優先で見ますか?
肺機能だけでなく、運動耐容能、身体活動量、併存症、喫煙歴、咳嗽・排痰の状態まで含めて見ます。術後に「排痰」「疼痛」「離床」のどこでつまずきそうかを術前から想定しておくと介入が組みやすくなります。
離床を見送った日は何を記録しますか?
見送った事実だけでなく、呼吸、循環、疼痛、意識、ドレーン管理のどこが障壁だったかを短く残します。次回の条件設定まで書いておくと、申し送りで方針がぶれにくくなります。
次の一手
肺切除術前・術後の呼吸リハを整理したあとは、呼吸評価の土台とベッドサイドでの判断をつなげておくと実務で迷いにくくなります。
参考文献
- 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸理学療法学会,日本呼吸器学会.呼吸リハビリテーションに関するステートメント.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌.2018;27(2):95-114.PDF
- 日本呼吸器外科学会ガイドライン検討委員会.肺癌手術症例に対する術前呼吸機能評価のガイドライン.2021.PDF
- Brunelli A, Kim AW, Berger KI, Addrizzo-Harris DJ. Physiologic evaluation of the patient with lung cancer being considered for resectional surgery: Diagnosis and management of lung cancer, 3rd ed: American College of Chest Physicians evidence-based clinical practice guidelines. Chest. 2013;143(5 Suppl):e166S-e190S. Full text / PubMed
- Restrepo RD, Wettstein R, Wittnebel L, Tracy M. Incentive Spirometry: 2011. Respir Care. 2011;56(10):1600-1604. doi:10.4187/respcare.01471.DOI
- 郡 隆之.呼吸器外科における呼吸リハビリテーション.日本手術看護学会誌.2018;52(6):283-287.J-STAGE
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を2022年4月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

