リハビリ前のバイタルチェックは「観察・測定・開始判断」の順で行います
リハビリ前のバイタルチェックでは、血圧・脈拍・SpO2を測定するだけでなく、呼吸状態、意識、自覚症状、普段との差を確認し、安全に介入できるか判断します。数値が正常範囲でも、新たな胸痛や冷汗、急な反応低下があれば開始を見送る必要があります。本記事では、新人PT・OT・STに向けて、開始前の確認項目、5ステップの実務フロー、開始・再評価・開始保留の判断、記録例を整理します。疾患別の数値基準を一律に当てはめず、医師の指示と患者の状態を踏まえて判断する方法を解説します。
| 判断 | 状態の目安 | 対応 |
|---|---|---|
| ① 開始を検討 | 普段と大きな変化がなく、新たな症状や実施制限がない | 医師の指示・安静度・個別の実施基準を確認して開始する |
| ② 再評価・調整を検討 | 軽度の変化や疲労があり、追加確認が必要 | 休息・再測定・情報確認・相談を行い、安全性が確認できた場合に限って負荷調整を検討する |
| ③ 開始保留・報告 | 新たな胸痛、強い呼吸困難、急な意識変化などがある | 開始せず、緊急度に応じて院内の急変対応・報告手順に従う |
重要:この3段階は、リハ開始前の判断を整理するための実務上の独自フローです。公式の診断基準や一律の運動開始基準ではありません。②に該当しても、安全性を確認できなければ開始を保留します。③のように急変が疑われる場合は、再測定を繰り返すことで対応を遅らせず、安全確保と緊急対応を優先してください。
まず患者を観察する|数値より先に確認したいこと
リハ開始前は、測定機器を装着する前に患者の状態を観察します。顔色、呼吸、発汗、発話、意識、自覚症状を確認し、普段と異なる変化がないかを判断します。
血圧やSpO2が普段と大きく変わらなくても、冷汗、呼吸困難、反応低下、新たな胸部症状などがあれば、数値だけを根拠に開始してはいけません。
| 観察項目 | 確認すること | 注意したい変化 |
|---|---|---|
| 顔色・発汗 | 蒼白、チアノーゼ、冷汗 | 急な顔色不良、冷汗 |
| 呼吸 | 呼吸数、深さ、努力呼吸 | 安静時の強い息切れ、会話困難 |
| 意識・反応 | 覚醒、返答、指示理解 | 急な反応低下、意識状態の変化 |
| 胸部症状 | 胸痛、圧迫感、動悸 | 新たな胸痛、持続する胸部不快感 |
| 自覚症状 | めまい、倦怠感、疼痛、悪心 | 新しい症状、普段より強い症状 |
| 全身状態 | 発熱、食事・水分摂取、睡眠、活動性 | 急な活動性低下、感染を疑う変化 |
特に高齢患者や意思疎通が難しい患者では、本人が症状を十分に説明できない場合があります。「普段より返答が遅い」「いつもより眠そう」「呼吸が速い」といった変化も重要な情報です。
急変が疑われる場合は測定より安全確保と緊急対応を優先する
新たな強い胸痛、著しい呼吸困難、急な意識障害、失神、突然の麻痺や構音障害などがある場合は、リハを開始しません。
患者の安全を確保し、院内の緊急対応手順に従って速やかに応援を要請します。必要な初期評価・処置は施設の手順と職種の役割に従って行います。
急変が疑われる場合は、測定値の確認や再測定を繰り返すことで、応援要請や必要な対応を遅らせないことが重要です。
リハビリ前バイタルチェックの5ステップ
リハ前の安全確認は、①観察、②症状確認、③測定、④普段との比較、⑤開始判断の順に進めます。以下の図版では、確認手順と開始判断を一枚にまとめています。

| 順番 | 確認すること | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 1.観察 | 顔色、呼吸、意識、発汗、発話 | 普段と異なる状態がないか |
| 2.症状確認 | 胸部症状、息切れ、めまい、倦怠感、疼痛 | 新たな症状や悪化がないか |
| 3.測定 | 血圧、脈拍、SpO2、呼吸数、必要に応じて体温 | 数値と患者の状態が一致しているか |
| 4.比較 | 前回値、病棟記録、医師指示、酸素投与条件 | 患者にとっての変化がないか |
| 5.開始判断 | 開始、再評価・調整、開始保留・報告 | 安全性と介入目的が両立するか |
医師の指示・安静度・個別の中止基準を確認する
測定値が安定していても、医師から安静度や運動負荷に関する制限が指示されている場合は、その条件を優先します。
手術・処置後、急性疾患の増悪時、酸素投与条件の変更後などは、最新の指示と病棟での経過を確認してください。
確認したい情報は、主に次の4つです。
- 医師の指示:安静度、活動範囲、運動負荷の制限
- 疾患・病期:急性期か慢性期か、最近の状態変化
- 施設基準:開始基準、中止基準、報告手順
- 当日の情報:発熱、検査・処置、薬剤変更、酸素条件、病棟での様子
これらを確認したうえで、予定した介入の開始可否を判断します。施設基準や医師指示が確認できない場合は、推測で開始せず、必要な情報を確認してください。
血圧・脈拍・SpO2・呼吸数の確認ポイント
バイタルサインは、単発の正常値・異常値だけでなく、基礎疾患、普段の値、症状、測定条件を組み合わせて解釈します。
| 項目 | 確認内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 血圧 | 収縮期・拡張期血圧、普段との差、症状 | 姿勢、直前の活動、薬剤の影響を考慮する |
| 脈拍 | 心拍数、リズム、動悸、普段との差 | 不整脈や心拍数に影響する薬剤を確認する |
| SpO2 | 安静時の値、普段との差、酸素投与条件 | 呼吸状態や測定誤差を合わせて確認する |
| 呼吸数 | 1分間の呼吸数、深さ、努力呼吸 | SpO2が保たれていても呼吸異常を見落とさない |
| 体温 | 発熱、悪寒、感染を疑う症状 | 全身状態や病棟での経過と合わせる |
| 自覚症状 | 胸痛、息切れ、めまい、倦怠感、疼痛 | 測定値にかかわらず注意が必要な症状を確認する |
血圧|単発の値だけで開始を決めない
血圧は測定姿勢、直前の活動、疼痛、緊張、薬剤などの影響を受けます。予想外の値が出た場合は、患者の状態を確認し、緊急性がなければ測定条件を整えて再測定します。
普段より大きく変動している場合や症状を伴う場合は、医師の指示・施設基準を確認し、必要に応じて報告します。
また、臥位では問題がなくても、端座位や立位への姿勢変化によって血圧が変動することがあります。離床を伴う場合は、姿勢変化後の症状にも注意が必要です。
脈拍|心拍数・リズム・症状を合わせる
頻脈・徐脈の程度だけでなく、普段との違い、不整、動悸、胸部症状、めまいなどを確認します。
心房細動、ペースメーカー使用、β遮断薬内服などがある患者では、心拍数だけで運動負荷を判断できない場合があります。
新たな動悸に胸痛、失神・失神前症状、強い息切れなどを伴う場合は開始を保留し、緊急度に応じた対応を行います。
SpO2|呼吸状態と酸素投与条件を確認する
SpO2を確認するときは、呼吸数、努力呼吸、会話のしやすさ、酸素投与量・デバイス、普段の値を合わせて確認します。
末梢循環不良、体動、センサーの装着状態などによって測定値が不安定になることがあります。数値と患者の状態が一致しない場合は測定条件を確認します。
ただし、強い呼吸困難や意識変化がある場合は、測定機器の確認によって緊急対応を遅らせないようにします。
COPDなどで普段からSpO2が低めの患者でも、急な低下や呼吸状態の悪化は別に評価する必要があります。酸素療法中は医師の指示による目標範囲と投与条件を確認し、独断で酸素流量を変更しません。
呼吸数|SpO2だけでは分からない変化を拾う
呼吸数は見落としやすい項目です。SpO2が保たれていても、呼吸数増加、浅い呼吸、努力呼吸がみられることがあります。
呼吸状態に変化がある場合は、可能な限り安静時の呼吸数を1分間確認し、呼吸の深さやリズムも観察します。
呼吸数の変化は、感染、心不全、呼吸器疾患の増悪などを考える手掛かりになります。ただし、呼吸数だけで原因を診断することはできません。
リハ開始・再評価・開始保留の判断をどう分けるか
リハ前の安全判断では、「数値が正常か」だけでなく、「新たな症状があるか」「普段と変化しているか」「追加確認によって安全性を判断できるか」を整理します。
ここでは、冒頭の3段階判断を実際の対応に落とし込んで説明します。
① 開始を検討できる状態
普段と大きな変化がなく、新たな症状や医師からの制限事項がない場合は、予定した介入の開始を検討できます。
開始前には、次の条件を確認します。
- 新たな胸部症状、強い呼吸困難、意識変化などがない
- 測定値と観察所見に大きな不一致がない
- 普段の状態から大きく悪化していない
- 医師の指示・安静度・個別の開始基準に適合している
- 実施中に状態を観察し、中止・報告できる体制がある
これらは確認項目の例であり、すべてを満たせば必ず安全という意味ではありません。患者の病態に応じた個別判断が必要です。
開始後も、症状、呼吸状態、顔色、疲労などを観察し、必要に応じて介入を中断して再評価します。
② 再評価・負荷調整を検討する状態
普段より疲労が強い、測定値に軽度の変化がある、活動前から軽い息切れがあるなどの場合は、すぐに通常負荷を開始せず、追加確認を行います。
- 休息後に症状や測定値が変化するか確認する
- 前回値や病棟記録と比較する
- 薬剤、食事、睡眠、発熱などの影響を確認する
- 必要に応じて看護師・医師へ相談する
- 安全性が確認できた場合に限り、介入内容や負荷量を検討する
軽負荷への変更は、安全性が確認できた場合の選択肢です。原因不明の変化や進行する症状がある場合は、軽負荷であっても開始を保留します。
例えば、普段より疲労感が強い患者では、休息後の症状、前回値、当日の病棟での経過を確認します。そのうえで安全性が確認でき、医師指示や施設基準に適合する場合に限り、歩行距離の短縮や休息時間の追加などを検討します。
③ 開始を保留し、報告・緊急対応する状態
新たな胸痛、強い呼吸困難、急な意識変化、失神、突然の神経症状などがある場合は、リハを開始しません。
患者の安全を確保し、緊急度に応じて院内の急変対応手順に従います。
| 症状・状態 | 対応の方向性 |
|---|---|
| 新たな強い胸痛・胸部圧迫感 | 開始せず、速やかに緊急度を評価し、必要な応援要請・報告を行う |
| 著しい呼吸困難・会話困難 | 開始せず、安全確保と緊急対応を優先する |
| 急な意識変化・失神 | 急変として対応し、院内手順に従って応援を要請する |
| 突然の麻痺・構音障害など | 脳卒中などを疑い、発症時刻を確認して緊急対応する |
| 原因不明の強い倦怠感・状態悪化 | 開始を保留し、全身状態を確認して報告・相談する |
上記は代表的な注意サインであり、すべての中止条件を網羅するものではありません。疾患別の運動負荷基準、医師の指示、施設の安全管理手順を優先してください。
姿勢変化で症状が出る場合は活動を進めず再評価する
臥位でバイタルが安定していても、端座位や立位への姿勢変化によって、めまい、冷汗、ふらつき、呼吸困難などが出現することがあります。
症状が出現した場合は活動を進めず、転倒を防止して安全な姿勢へ戻します。意識、顔色、呼吸、血圧などを再評価し、必要に応じて報告します。
症状が改善しても、原因が不明なまま同じ活動を再開しないことが重要です。
端座位・立位・歩行へ段階的に進める方法や、活動中の中止判断については、離床プロトコルの開始基準・中止基準で詳しく整理しています。
新人PT・OT・STが注意したい5つの失敗
リハ前バイタルチェックで避けたいのは、測定したという事実だけで安全確認を終えてしまうことです。
| よくある失敗 | 改善方法 |
|---|---|
| 血圧だけを測る | 呼吸、意識、自覚症状も確認する |
| SpO2だけで呼吸を判断する | 呼吸数、努力呼吸、会話のしやすさを観察する |
| 普段との差を確認しない | 前回値、病棟記録、看護師からの情報と比較する |
| 軽負荷なら安全と考える | 負荷調整の前に開始できる状態か確認する |
| 数値だけを記録する | 症状、判断理由、対応、報告内容も残す |
判断に迷う場合は、一人で開始可否を決めず、患者の状態と確認事項を整理して病棟看護師・医師へ相談します。緊急性が高い場合は、通常の相談手順ではなく院内の急変対応を優先します。
リハ前バイタルチェックの記録例・申し送り例
記録では、数値だけでなく「何を確認し、どう判断したか」を残します。普段との差、自覚症状、介入内容の調整、報告の有無を簡潔に記載すると、次の担当者にも判断の経緯が伝わります。
以下は説明用の架空例です。記載した数値は開始・中止の公式基準ではありません。また、開始・終了時刻や実施内容が電子カルテの専用欄に記録される運用では、本文への重複記載は不要です。
| 場面 | 記録例 | ポイント |
|---|---|---|
| 通常実施 | 開始前BP 132/76mmHg、HR 82/分、SpO2 96%(室内気)。普段の値と大きな変化なく、胸部症状・息切れなし。顔色・覚醒状態に変化なし。医師指示・施設基準を確認し、予定した介入を実施。 | 測定条件、症状、判断を残す |
| 再評価後に負荷調整 | 開始前に軽度の疲労感あり。BP 128/74mmHg、HR 88/分、SpO2 96%(室内気)。病棟記録と照合し、新たな症状なし。休息後も状態安定。看護師と当日の状態を共有し、医師指示・施設基準内で歩行距離を短縮、途中休息を設定。 | 追加確認、共有、調整理由を残す |
| 開始保留・報告 | 開始前より顔色不良、冷汗、強い倦怠感あり。BP 104/62mmHg、HR 108/分。普段と異なる状態を認めたためリハ開始を保留。病棟看護師へ速やかに報告し、状態確認と対応を依頼。 | 開始保留の理由と報告内容を残す |
| 姿勢変化で中止 | 臥位BP 126/70mmHg。端座位後にめまいと顔色不良を認めたため活動を中止。転倒を防止して臥位へ戻し、症状と血圧を再評価。病棟看護師へ報告し、以後の離床は再評価後に判断する方針とした。 | 症状、対応、報告、次回判断を残す |
申し送りは「普段との差・症状・対応」を簡潔に伝える
看護師・医師への申し送りでは、測定値を伝えるだけでなく、普段と何が違うのか、どの症状があるのか、すでに何を行ったのかを明確にします。
申し送り例(架空例)
「リハ開始前から普段より顔色が悪く、冷汗と強い倦怠感があります。血圧104/62mmHg、脈拍108/分です。リハは開始せず、現在は安静を保っています。状態の確認をお願いします。」
緊急性が高い症状では、詳細な記録作成よりも患者の安全確保と迅速な応援要請・報告を優先します。
よくある質問
血圧が高い場合は必ずリハビリを中止しますか?
血圧の値だけで一律に判断することはできません。疾患、病期、普段の血圧、症状、医師の指示、施設基準を確認します。新たな胸痛、強い頭痛、神経症状、呼吸困難などを伴う場合は開始せず、緊急度に応じた対応を行います。
SpO2が普段から低い患者はどう判断しますか?
普段の値、酸素投与条件、呼吸数、努力呼吸、自覚症状を合わせて確認します。慢性的に低い値であっても、急な低下や呼吸状態の悪化を見逃さないことが重要です。医師の指示による目標範囲がある場合は、その条件を優先します。
呼吸数は毎回測定する必要がありますか?
施設の運用や患者の状態によって確認方法は異なります。ただし、呼吸数は全身状態の変化を捉える重要な指標です。息切れ、発熱、感染兆候、心不全、呼吸器疾患などがある場合や、普段と異なる様子がある場合は、呼吸数を測定して評価することが重要です。
バイタルが正常でもリハを見送ることはありますか?
あります。新たな胸部症状、冷汗、意識変化、強い倦怠感、呼吸困難などがある場合は、測定値が正常範囲でも開始を保留します。バイタルチェックは数値の正常・異常だけでなく、患者の状態から安全性を判断するための確認です。
次の一手
リハ前のバイタルチェックでは、観察・測定・普段との比較から、開始できるか、追加確認が必要か、開始を保留するかを判断します。
安全管理の全体像を整理したい場合は評価ハブを、実際に離床を進める手順を確認したい場合は離床プロトコルを参照してください。
参考文献
- 日本リハビリテーション医学会リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン策定委員会, 編. リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン. 第2版. 東京: 診断と治療社; 2018. 日本リハビリテーション医学会
- Royal College of Physicians. National Early Warning Score (NEWS) 2: Standardising the assessment of acute-illness severity in the NHS. Updated report of a working party. London: Royal College of Physicians; 2017. 公式資料
- Fletcher GF, Ades PA, Kligfield P, et al. Exercise standards for testing and training: a scientific statement from the American Heart Association. Circulation. 2013;128(8):873-934. doi:10.1161/CIR.0b013e31829b5b44. DOI
参考文献の位置づけ:文献1はリハビリテーション医療の安全管理、文献2は急性疾患の状態悪化を捉えるための早期警戒評価、文献3は運動負荷試験・運動療法の安全管理に関する資料です。本記事の3段階判断は、これらの文献に掲載された公式基準を転載したものではなく、開始前の確認事項を実務向けに整理した独自フローです。NEWS2も、リハビリ開始可否を単独で決定する基準ではありません。
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの経験を経て、現在は療養病院に勤務しています。
脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に、評価・安全管理・臨床手順を実務で活用しやすい形に整理して発信しています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

