認知症で指示が通りにくいときのOT対応|確認・調整・記録

臨床手技・プロトコル
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認知症で指示が通りにくいときは、説明を増やす前に原因を切り分けます

認知症の方に紙面課題や認知課題を提示しても指示が通りにくいとき、すぐに「課題が難しい」「説明が足りない」と判断する必要はありません。視力・聴力、覚醒、疲労、言語理解、周囲の刺激、課題そのものの適合性など、複数の要因が反応に影響します。

OTでは、まず何が課題参加を妨げている可能性があるかを確認し、そのうえで説明、見本、環境、課題条件を調整します。この記事では、指示が通りにくい場面での確認ポイント、調整方法、反応の見方、記録まで整理します。

紙面課題を使うかどうか、どの課題を選ぶか、得られた所見を生活行為へどうつなげるかは、認知症OTの紙面課題|選び方・観察・生活へのつなげ方で整理しています。

まず「指示が通らない理由」を一つに決めつけない

指示に反応できない原因は、認知機能だけとは限りません。課題の難易度を変える前に、本人の状態、感覚機能、伝え方、環境、課題条件を分けて確認します。

認知症OTドリルで指示が通りにくいときの確認・調整フロー
認知症の方に指示が通りにくいときは、原因を切り分けてから説明・手がかり・環境・課題条件を調整し、反応を確認します。
指示が通りにくいときに最初に確認したいこと
みられた反応 確認したいこと 次の調整候補
説明中から視線が外れる 覚醒、注意、周囲の音や人の動き、疲労 刺激を減らす、時間帯を変える、説明を短くする
聞き返しが多い 聴力、声量、周囲の音、言葉の理解 正面から伝える、短い表現にする、視覚情報を併用する
説明だけでは開始できない 言語理解、課題のイメージ、開始方法 見本や指差しを加え、反応の変化を見る
開始できるが途中で止まる 注意持続、疲労、ルール保持、課題量 課題量を減らす、休憩を入れる、情報量を整理する
何度説明しても混乱が強い 課題そのものの適合性、体調、感覚・言語面の影響 紙面課題を続けず、別の活動や生活場面で確認する

「できない」という結果だけから、注意障害、記憶障害、認知症の重症化などを断定しないことが重要です。まずは「この条件では、このような反応がみられた」と整理します。

説明を変えるときは、情報を増やすより伝わり方を調整する

指示が伝わりにくい場合、長く詳しく説明するほど理解しやすくなるとは限りません。必要な行動が分かるように、短く具体的な言葉、見本、指差しなどを本人の反応に合わせて選びます。

口頭指示は一度に求める内容を整理する

複数の操作を一文で伝えるより、「ここを見てください」「同じものを探してください」のように、今行ってほしい行動が分かる表現へ整理します。

ただし、すべての方に同じ短文を使用するという意味ではありません。説明を短くしたことで理解しやすくなったのか、逆に情報不足になったのかを本人の反応から確認します。

見本や指差しは「どの支援で成立したか」を見る

口頭説明だけでは開始できない場合、見本、指差し、紙面上の目印など視覚的な手がかりを加える方法があります。

重要なのは、手がかりを使ったこと自体ではなく、どの支援を加えたときに本人が開始・継続できたかを見ることです。見本後に開始できた場合でも、それだけで特定の認知機能障害を判断せず、生活場面でも同様の支援が役立つか確認します。

説明だけで変わらない場合は、環境と課題条件を確認します

伝え方を変えても参加しにくい場合は、机上環境、刺激量、課題量、時間条件などを見直します。認知症の作業療法では、本人の残存能力を活かせるよう活動や環境を調整することも重要な介入になります。

指示理解・課題参加を支える調整例
調整するもの 調整例 確認する反応
環境 テレビを消す、人通りの少ない席へ移る、机上物品を減らす 説明へ注意を向けやすくなるか
刺激量 紙面上の情報や選択肢を減らす 探索や選択時の混乱が変化するか
課題量 問題数や実施時間を減らす 後半の停止、疲労、誤反応が変化するか
ルール 複数条件を避け、一つのルールで確認する 説明後にルールを保持して継続できるか
時間条件 急がせず、反応を待つ時間を確保する 自発的な開始や回答がみられるか

「1要素だけ変更」は必要な場面に限定する

前回との反応差や、特定の調整が有効だったかを確認したい場合は、他の条件をできるだけそろえ、一つの条件を変更すると比較しやすくなります。

ただし、これは認知症OTに共通する公式な進行ルールではありません。強い疲労、不安、拒否、環境刺激など複数の問題が重なっている場合は、複数条件を同時に整えたり、紙面課題を中止したりする方が優先されます。

調整後は「正解したか」より反応がどう変わったかを見る

指示調整の目的は、紙面課題を何としても完遂させることではありません。条件を変えたことで、理解、開始、継続、誤反応、自己修正、疲労などがどう変化したかを確認します。

調整後の反応から次に考えること
調整後の反応 考え方 次に確認すること
短い説明で開始できた 説明量が参加を妨げていた可能性がある 生活場面でも短い声かけが有効か
見本を加えると開始できた 視覚的な支援が行動開始を助けた可能性がある 実際の作業でも見本や配置が役立つか
環境を整えると継続できた 周囲の刺激が反応へ影響していた可能性がある 病室・食堂・訓練場面でも同様か
課題量を減らすと後半の誤りが減った 疲労や注意持続の影響を考える 時間経過による変化を他の作業でも確認する
調整しても成立しない 紙面課題自体が目的に適していない可能性も考える 実際のADL・IADLや意味のある作業を直接観察する

ここで重要なのは「短い説明ならできる=理解力が低下している」といった単純な結論にしないことです。反応は、体調、感覚機能、言語機能、環境、課題への経験や興味などにも左右されます。

紙面課題を続けない方がよい場面もあります

調整を繰り返して紙面課題を成立させることが、常に作業療法の目的になるわけではありません。本人への負担が強い場合や、生活上の問題を直接観察した方が有用な場合は、別の活動へ切り替えます。

  • 眠気や疲労が強く、課題への参加が難しい
  • 痛みや不快感があり、課題へ集中できない
  • 不安や拒否が強くなっている
  • 視覚・聴覚などの問題が課題そのものを妨げている
  • 何度調整しても課題の目的を理解しにくい
  • 更衣・整容・食事・家事などを直接確認した方が目的に近い

普段と比べて急に反応が悪くなった、覚醒が明らかに低下した、全身状態に変化があるといった場合は、認知症による反応として処理せず、体調変化を確認して必要に応じて他職種へ共有します。

記録は「条件・反応・変更・結果」を残す

指示調整を記録するときは、正答率だけでなく、どの条件でどの反応がみられ、何を変えるとどう変化したかを残します。これにより、次回の担当者も有効だった支援と未確認の点を追いやすくなります。

指示が通りにくい場面で残したい記録
項目 記録する内容
実施条件 課題内容、時間帯、環境、説明方法など
最初の反応 視線、聞き返し、開始、停止、誤反応など
行った調整 説明短縮、見本、指差し、環境・課題量の変更など
調整後の反応 開始できたか、支援量が変化したか、継続できたか
次の確認 次回の条件、生活場面で確認すること、他職種へ共有すること

記録例

O:視覚探索課題を提示。口頭で2工程を説明した際は開始せず、周囲を見回す様子あり。机上物品を減らし、「同じ印を探してください」と説明したうえで最初の1問を見本提示すると開始可能。その後5問は口頭での再指示なく継続した。

A:課題そのものが実施不能というより、説明量と周囲刺激が課題開始へ影響した可能性がある。紙面課題のみでは生活上の指示理解を判断できない。

P:整容場面で一工程ずつの声かけと見本の有無による反応を確認する。

指示調整で避けたい4つの考え方

認知症OTの指示調整で避けたい考え方
避けたい考え方 見直すポイント
伝わらなければ説明を長くする 説明量ではなく、言葉・見本・環境のどこを変えるか考える
できなければ課題を簡単にする 感覚、覚醒、疲労、環境など他の要因を先に確認する
手がかりを使ったら評価にならない どの支援で成立したか自体を臨床情報として扱う
紙面課題を成立させるまで続ける 生活上の目的に近い活動へ切り替える判断も持つ

よくある質問

認知症の方への指示は短いほどよいですか?

必ずしも「短ければ短いほどよい」わけではありません。一度に扱う情報を整理し、本人が理解して行動へ移せる量に調整します。短くした後の反応まで確認してください。

見本を見せると評価にならなくなりますか?

紙面課題を標準化検査として実施しているのでなければ、見本によって成立したかどうかも重要な観察所見になります。ただし、標準化された評価尺度では定められた実施方法を優先してください。

毎回1つの条件だけ変えた方がよいですか?

前回との差を比較したい場合は、一つの条件だけ変えると影響を整理しやすくなります。一方、疲労や不安、環境刺激など複数の問題が明らかな場合にまで1要素変更へこだわる必要はありません。

拒否がある場合も紙面課題を続けますか?

拒否を「課題が難しいため」と決めつけず、体調、不安、疲労、環境、課題への興味などを確認します。本人への負担が強い場合や、別の活動の方が目的に合う場合は紙面課題を中止・変更します。

次の一手

指示が通りにくいときは、まず「何を説明し直すか」ではなく、この反応に影響していそうな条件は何かを整理してください。そのうえで一つまたは必要な複数の条件を調整し、反応がどう変化したかを確認します。

紙面課題を使う目的、課題の選び方、得られた所見をADL・IADLへつなげる方法は、認知症OTの紙面課題|選び方・観察・生活へのつなげ方で確認できます。


参考文献

  1. 一般社団法人日本作業療法士協会. 作業療法ガイドライン―認知症 増補版. 2025.
    公式資料
  2. Smallfield S, Metzger L, Green M, Henley L, Rhodus EK. Occupational Therapy Practice Guidelines for Adults Living With Alzheimer’s Disease and Related Neurocognitive Disorders. Am J Occup Ther. 2024;78(1):7801397010. doi:10.5014/ajot.2024.078101.
    PubMed
  3. Padilla R. Effectiveness of interventions designed to modify the activity demands of the occupations of self-care and leisure for people with Alzheimer’s disease and related dementias. Am J Occup Ther. 2011;65(5):523-531. doi:10.5014/ajot.2011.002618.
    PubMed

著者情報

rehabilikun

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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