腹横筋トレーニングは「ドローインだけ」で考えない
腹横筋トレーニングでは、ドローインだけを繰り返すのではなく、目的に応じて運動を選ぶことが重要です。まずは低負荷で下腹部の収縮と呼吸を確認し、次に四肢を動かしても体幹を保てるかをみます。さらに必要に応じて支持条件や荷重を変え、最終的には立位や歩行、移乗などの動作へつなげていきます。
理学療法で見るべきポイントは、「腹横筋が収縮したか」だけではありません。呼吸を止めずに体幹を制御できるか、四肢運動を加えても腰椎・骨盤が必要以上に動かないか、その制御を実際の動作へつなげられるかまで確認することが大切です。
| 目的 | 候補となる種目 | 主な確認点 |
|---|---|---|
| 下腹部の収縮を学習する | ドローイン | 呼吸を止めないか、骨盤や胸郭を大きく動かしていないか |
| 四肢運動中に体幹を保つ | heel slide、bent knee falloutなど | 腰椎の過伸展、骨盤回旋、息こらえ |
| 支持条件や荷重を変える | 四つ這い、bridge、bird dog、立位課題 | 体幹のぐらつき、支持側への偏り、共同収縮の保ち方 |
| 実際の動作へつなげる | リーチ、移乗、歩行、日常動作 | 課題中の体幹制御と動作の安定性 |
筋別トレーニングを一覧から確認したい方は、筋力トレーニングメニューハブもご覧ください。

腹横筋トレーニングの種目を目的別に選ぶ
腹横筋への運動は、難しい種目から始める必要はありません。収縮そのものを確認したいのか、四肢運動中の体幹制御を改善したいのか、荷重や動作へつなげたいのかによって選びます。
1.ドローイン|まず収縮と呼吸を確認する
ドローイン(abdominal drawing-in maneuver:ADIM)は、腹部を強く固めるのではなく、下腹部を穏やかに引き込みながら体幹深部筋の活動を練習する方法です。
基本的には背臥位で膝を立て、腰椎や骨盤を大きく動かさない状態から始めます。息を吐きながら下腹部を軽く引き込み、その後も自然に呼吸を続けられるかを確認します。
重要なのは「できるだけ強くへこませること」ではありません。腹直筋や外腹斜筋まで強く緊張したり、骨盤を大きく後傾させたり、息を止めたりする場合は、課題が目的から外れている可能性があります。
2.四肢運動を加える|腹部を保ったまま動けるかを見る
ドローインが行える場合は、その姿勢を保持すること自体をゴールにせず、四肢運動を追加します。たとえば、背臥位で片側の踵を滑らせるheel slide、膝を外側へ開くbent knee fallout、片脚を持ち上げる課題などがあります。
この段階で観察したいのは、腹部をへこませ続けられたかだけではありません。下肢を動かしたときに腰椎が反る、骨盤が回旋する、呼吸が止まるといった変化が生じるかを確認します。
代償が出る場合は、動かす範囲を狭くする、レバーアームを短くする、片側ずつ行うなど、課題を簡単にして再評価します。
3.支持条件・荷重を変える|四つ這い・bridge・bird dogへ進める
四つ這いやbridge系の課題では、支持面や重力条件が変わります。腹横筋だけを単独で鍛えるというより、腹筋群・多裂筋・股関節周囲筋などを含めた体幹制御へ広げる段階です。
四つ這いでは、片手や片脚を動かした際の体幹回旋や骨盤偏位を観察できます。bridgeでは骨盤を持ち上げるときの腰椎過伸展や肋骨の過度な挙上を確認します。bird dogでは、対角の上下肢を動かしたときに体幹をどこまで保てるかを見ます。
種目名だけで負荷を決めず、対象者がどの程度コントロールできているかで難易度を調整することが重要です。
4.動作へつなげる|立位や日常動作で使えるかをみる
腹横筋トレーニングの最終ゴールは、ベッド上でドローインが上手にできることではありません。立位でのリーチ、移乗、歩行、物品操作など、実際の動作の中で体幹を適切に制御できるかを確認します。
この段階では「腹横筋を意識できたか」だけに注目するのではなく、呼吸を保ちながら必要な体幹剛性を作り、課題を安全に遂行できるかを見ます。
ドローインがうまくできないときの代償チェック
ドローインが難しい場合、すぐに筋力不足と判断する必要はありません。指示の理解、呼吸、開始肢位、力の入れ方によって見え方は変わります。まずはどの代償が出ているかを整理します。
| みられる反応 | 考えること | 調整例 |
|---|---|---|
| 息を止める | 努力量が高すぎる、指示が難しすぎる | 収縮を弱め、自然呼吸を優先する |
| 骨盤を強く後傾する | 体幹運動で課題を代償している | 下腹部の穏やかな収縮へ戻す |
| 胸郭まで大きく動く | 呼吸課題の影響が大きい | 力を弱めて呼吸を再確認する |
| 四肢運動で腰が反る | 現在の負荷が高い可能性がある | ROMやレバーアームを小さくする |
| 体幹が回旋する | 抗回旋要求に対応できていない | 支持面を広げる、運動範囲を減らす |
| 表層筋が過剰に緊張する | 力みが強く、目的がずれている | 努力量を下げ、触診や言語指示を見直す |
触診や超音波画像診断装置を用いることもありますが、臨床では「触れたから正しく収縮できている」とは限りません。筋収縮の確認と、実際の運動課題中の体幹制御を分けて評価する視点が大切です。
ドローインとブレーシングはどう使い分けるか
ドローインとブレーシングは、どちらか一方が常に優れているわけではなく、目的が少し異なります。
ドローインは、低負荷で腹横筋など深部筋の活動を学習したいときに使いやすい方法です。一方、ブレーシングは腹壁全体の共同収縮を伴いやすく、外力や荷重へ対応する課題に移行するときに使いやすくなります。
ただし、「ドローインは腹横筋だけ」「ブレーシングでは腹横筋を使わない」と単純に分けることはできません。筋活動は課題や姿勢、測定方法によって変わるため、優劣で決めるより、何を改善したいのかで使い分ける方が実用的です。
臨床では、低負荷で収縮を学ぶ段階ではドローイン、荷重や機能課題では必要に応じてブレーシングを含めた共同収縮へ移す、という考え方が整理しやすいでしょう。
負荷は回数より「課題」を調整する
腹横筋トレーニングでは、「10回できたら次へ」と一律に進めるより、課題に応じて負荷を調整します。変更できる要素は、姿勢、支持面、四肢の運動範囲、レバーアーム、速度、外部負荷、予測できない外乱などです。
- 背臥位から座位・四つ這い・立位へ変える
- 両側支持から片側支持へ変える
- 四肢の運動範囲を広げる
- レバーアームを長くする
- 外部負荷を追加する
- リーチや物品操作など実際の課題を組み合わせる
一方で、負荷を上げた結果として呼吸が止まる、疼痛が増える、体幹の代償が大きくなる場合は、単純に「頑張らせる」のではなく、課題設定を見直します。
腰痛に腹横筋トレーニングを使うときの考え方
腹横筋は腰痛リハビリテーションでも扱われますが、「腹横筋が弱いから腰痛になる」「腹横筋を鍛えれば腰痛が治る」と一対一で説明するのは適切ではありません。
体幹深部筋の活動を意識した運動療法は、腰痛に対する運動療法の選択肢の一つです。ただし、慢性腰痛では一つの運動方法だけが一貫して優れているとは限らず、一般的な運動、有酸素運動、体幹筋力・持久力トレーニングなども含めて考える必要があります。
そのため腹横筋トレーニングは、腰痛患者に用いる運動療法の一つとして位置づけ、症状、運動制御、筋力・持久力、活動量、本人の目標などを含めて組み合わせる視点が重要です。
PTが見るのは「収縮できたか」から「動作で使えるか」まで
腹横筋トレーニングのゴールを、ドローインが上手にできることだけに設定する必要はありません。臨床では、次の順に考えると整理しやすくなります。
- 収縮:低負荷で下腹部の収縮と呼吸を確認する
- 保持:四肢を動かしても腰椎・骨盤を必要以上に動かさず保持できるか確認する
- 適応:支持面や外力が変化しても体幹を調整できるか確認する
- 動作:立位、リーチ、移乗、歩行など目的動作へつなげる
この流れでみると、患者さんがどこで崩れるのかが分かりやすくなり、単純な「できる・できない」ではなく、次にどの課題を選ぶかを判断しやすくなります。
体幹全体の評価方法を整理したい場合は、体幹機能評価の進め方もあわせてご覧ください。
腹横筋トレーニングのよくある質問
腹横筋を鍛えるならドローインだけで十分ですか?
ドローインは腹横筋などの深部筋の収縮を学習する方法として使いやすいですが、それだけで実際の動作中の体幹制御まで改善できるとは限りません。目的に応じて四肢運動、支持面変更、荷重課題へ進めることが重要です。
お腹は強くへこませた方が腹横筋に効きますか?
必ずしも強くへこませる必要はありません。強すぎる収縮では、表層筋の過剰活動、骨盤運動、息こらえなどが増えることがあります。低負荷で体幹を大きく動かさず、呼吸を続けられる範囲から確認します。
ドローインとブレーシングはどちらが優れていますか?
一律には決められません。筋活動は課題や測定方法によって変化します。深部筋の収縮学習と、外力に対する体幹全体の共同収縮では目的が異なるため、対象者と課題に応じて選択します。
腰痛がある人は腹横筋を鍛えるべきですか?
体幹深部筋の活動を意識した運動療法は選択肢の一つですが、すべての腰痛患者に腹横筋トレーニングだけを行うという意味ではありません。症状、運動機能、活動量、目標などを評価し、運動療法全体の中で位置づけることが大切です。
まとめ
腹横筋トレーニングでは、ドローインを最終目的にせず、収縮を確認する→四肢運動中に保持する→支持条件や負荷を変える→実際の動作へつなげるという流れで考えると整理しやすくなります。
フォームが崩れた場合は回数を増やす前に、呼吸、腰椎・骨盤運動、支持面、ROM、レバーアームを確認します。ドローインとブレーシングも優劣で分けるのではなく、目的に応じて使い分けることが重要です。
大臀筋・中臀筋・大腿四頭筋など、ほかの筋別トレーニングはこちらから確認できます。
参考文献
- George SZ, et al. Interventions for the Management of Acute and Chronic Low Back Pain: Revision 2021. J Orthop Sports Phys Ther. 2021;51(11):CPG1-CPG60.
- Tsartsapakis I, et al. Spinal Muscle Thickness and Activation during Abdominal Hollowing and Bracing in CrossFit Athletes. Sports. 2023;11(8):159.
- Park DJ, Lee SK. What is a Suitable Pressure for the Abdominal Drawing-in Maneuver in the Supine Position Using a Pressure Biofeedback Unit? J Phys Ther Sci. 2013;25(5):527-530.
- 郡場遥ほか.腹横筋トレーニングが筋収縮率に及ぼす効果―ドローインと体幹回旋運動の比較―.第54回日本理学療法学術大会抄録集.
- Comparison between bracing and hollowing trunk exercise with a focus on the change in T2 values obtained by magnetic resonance imaging. PLoS One. 2020.
