後脛骨筋トレーニングは「内反運動・カーフレイズだけ」で考えない
後脛骨筋トレーニングというと、チューブを使った内反運動やカーフレイズが代表的です。しかし、後脛骨筋は足部の回外・内転や足関節底屈に関与し、荷重下では足部のアライメントや内側縦アーチの制御にも関わります。
理学療法では、まず低負荷で後脛骨筋へ抵抗を加えたいのか、底屈を伴う荷重課題へ進めたいのか、片脚支持や歩行で足部をコントロールしたいのかを整理すると、種目を選びやすくなります。
| 目的 | 候補となる種目 | 主な確認点 |
|---|---|---|
| 低負荷で後脛骨筋へ抵抗を加える | resisted foot adduction、回外運動 | 前脛骨筋優位、膝・股関節の代償 |
| 底屈を含む荷重課題へ進める | 両脚heel raise | 後足部、アーチ、左右差 |
| 片脚荷重での制御を高める | single-leg heel raise | 踵の軌道、足部外反、支持バランス |
| 足部全体の制御を高める | heel raise+足部アライメント課題 | 母趾球・前足部荷重、アーチの過剰な崩れ |
| 実際の動作へつなげる | 片脚立位、step、歩行・方向転換 | 下腿・足部・股関節との協調 |
筋別トレーニングを一覧から確認したい方は、筋力トレーニングメニューハブもご覧ください。

後脛骨筋トレーニングの種目を目的別に選ぶ
後脛骨筋が活動する運動は複数ありますが、「後脛骨筋が活動すること」と「後脛骨筋だけを選択的に鍛えていること」は同じではありません。下腿三頭筋、前脛骨筋、長趾屈筋、長母趾屈筋、腓骨筋群、足内在筋なども課題に応じて活動します。
そのため、筋を完全に分離することを目標にするのではなく、低負荷での収縮確認から荷重下の足部制御まで、目的に応じて運動を選びます。
1.抵抗下foot adduction|低負荷で後脛骨筋へ負荷を加える
後脛骨筋への比較的選択的な負荷を考える場合、足部を内側へ動かすfoot adductionに抵抗を加える方法があります。
健常者を対象としたMRI研究では、抵抗下foot adductionで後脛骨筋の活動指標が大きく、heel raiseより他の下腿筋活動を抑えながら後脛骨筋へ負荷を加えやすい結果が報告されています。
ただし、この結果から「後脛骨筋トレーニングはfoot adductionだけ行えばよい」とは考えません。実際の歩行や立位では、後脛骨筋は他の足部・下腿筋と協調して働きます。
運動中は、膝を内側へ動かす、股関節を回旋する、足関節背屈を強く伴うなど、足部以外の動きで抵抗に対抗していないかを確認します。
2.抵抗下回外運動|内反だけでなく足部全体の動きをみる
チューブなどを用いて足部回外方向へ抵抗を加える方法も、後脛骨筋を含む筋群へ負荷を加える選択肢です。
ここで注意したいのは、「足首を内側へ倒す」だけの運動にしないことです。後脛骨筋の作用は足関節・距骨下関節・足部各関節にまたがるため、単純な前足部内反だけでは実際の機能を十分に表せません。
抵抗が強すぎると、前脛骨筋による背屈・内反が目立ったり、足趾を強く屈曲して抵抗に対抗したりする場合があります。
後脛骨筋だけを完全に分離するのではなく、目的とする足部運動が生じているかを確認しながら抵抗量を調整します。
3.両脚heel raise|底屈を伴う荷重課題へ進める
heel raiseでは後脛骨筋も活動しますが、腓腹筋・ヒラメ筋・腓骨筋群など複数の筋が共同して働きます。そのため、heel raiseを「後脛骨筋だけの筋力トレーニング」と考える必要はありません。
一方、立位で体重を支持しながら底屈し、足部アライメントを制御する課題としては重要です。
両脚heel raiseでは、踵がどこまで高く上がるかだけでなく、左右差、後足部の動き、前足部への荷重、内側縦アーチの変化を確認します。
疼痛や筋力低下があり片脚ではフォームを保てない場合、両脚から開始することで荷重量を調整できます。
4.single-leg heel raise|片脚荷重下で足部を制御する
片脚heel raiseでは、足関節底屈筋力だけでなく、片脚支持バランスや足部・下腿の制御も要求されます。
後脛骨筋腱機能を評価する臨床場面でもsingle heel raiseは用いられますが、「何回できたか」だけで判断する必要はありません。
観察したいのは、踵が十分に上がらない、後足部が外反方向へ崩れる、前足部外側へ荷重が逃げる、膝や股関節を大きく使って上方移動を補うといった変化です。
片脚でフォームが大きく崩れる場合は、壁や手すりで支持する、両脚で上げて片脚で下ろすなど、荷重量やバランス要求を調整します。
5.heel raiseの足部位置|「つま先を内向き」が絶対条件ではない
heel raiseでは、足部の向きを変えることで下腿筋活動が変化する可能性があります。
健常男性を対象としたfine-wire EMG研究では、足部を30°内転させたheel raiseで後脛骨筋活動が高くなりました。一方で、この結果は実験条件下での筋活動を比較したものであり、すべての患者で「つま先を内向きにする方が治療効果が高い」と示した研究ではありません。
過度につま先を内向きにすると、膝・股関節回旋や前足部荷重パターンまで変化することがあります。
そのため、足部位置は後脛骨筋だけを狙う固定フォームとして使うのではなく、対象者の足部アライメント、症状、目的動作を踏まえて調整します。
6.片脚立位・step・歩行|足部制御を実動作へつなげる
後脛骨筋トレーニングのゴールは、チューブ運動やheel raiseを上手に行えることではありません。
実際の立位・歩行では、後脛骨筋を含む複数の筋が、荷重に伴う足部変形をコントロールしながら働きます。そのため、必要に応じて片脚立位、step、方向転換、歩行などへ課題を広げます。
低負荷運動では問題がなくても、step-downで内側縦アーチが大きく低下する、歩行で後足部外反が増える、片脚支持で膝・股関節まで大きく偏位するといった場合には、局所筋力と実動作の間にギャップがあります。
足部だけに注目せず、下腿・膝・股関節・体幹まで含めて再評価します。
後脛骨筋トレーニングで確認したい代償
後脛骨筋トレーニングでは、「内側に効いている」「アーチが上がった」という感覚だけで判断せず、足部・下腿・膝・股関節の動きを確認します。
| みられる反応 | 考えること | 調整例 |
|---|---|---|
| 背屈を伴って強く内反する | 前脛骨筋の関与が大きい可能性 | 抵抗・運動方向を再確認する |
| 足趾を強く曲げる | 足趾屈筋群で抵抗に対抗している | 抵抗を下げ、足趾を過度に握らない |
| 膝・股関節ごと回旋する | 足部運動を下肢全体で補っている | 下腿を支持し、抵抗量を下げる |
| heel raiseで後足部が外反方向へ崩れる | 現在の荷重量で足部制御が難しい | 両脚支持や上肢支持へ戻す |
| 前足部外側へ荷重が逃げる | 足部を過度に回外させている可能性 | 母趾球を含む前足部荷重を再確認する |
| heel raiseで膝を大きく曲げ伸ばしする | 上下移動を下肢他関節で補っている | 荷重量を下げ、運動範囲を調整する |
| 疼痛が運動後も増悪する | 現在の負荷量が組織の許容量を超えている可能性 | 負荷・量・運動条件を再評価する |
heel raiseは後脛骨筋だけを鍛える運動ではない
heel raiseは後脛骨筋トレーニングとして紹介されることがありますが、主動作である足関節底屈には腓腹筋・ヒラメ筋をはじめ複数の筋が関与します。
健常者を対象としたMRI研究でも、heel raiseでは後脛骨筋だけでなく腓腹筋、ヒラメ筋、長腓骨筋などに活動がみられています。
したがって、後脛骨筋を比較的低負荷・選択的に確認したい場面と、荷重下で下腿・足部筋群を協調して使いたい場面を分けて考えることが重要です。
| 観点 | 抵抗下foot adduction・回外 | heel raise |
|---|---|---|
| 主な目的 | 後脛骨筋への局所的な抵抗 | 荷重下の底屈・足部制御 |
| 他筋の関与 | 比較的調整しやすい | 下腿・足部筋群が広く関与する |
| 荷重 | 低〜中負荷に設定しやすい | 体重支持を伴う |
| 観察点 | 運動方向、代償 | 後足部、アーチ、荷重分布、バランス |
short foot exerciseは後脛骨筋専用ではない
扁平足や内側縦アーチへの運動として、short foot exerciseが用いられることがあります。
short foot exerciseは、足趾を強く屈曲せず、前足部と踵を近づけるように足内在筋を使いながらアーチを制御する課題です。後脛骨筋も足部制御へ関与しますが、short foot exerciseを「後脛骨筋だけを鍛える運動」と考える必要はありません。
後脛骨筋への抵抗運動とshort foot exerciseでは、狙っている運動課題が異なります。
アーチ制御を実動作へつなげる場合には、足内在筋と後脛骨筋を含む外在筋、腓骨筋群、下腿三頭筋などの協調を考えます。
扁平足を見たら「後脛骨筋が弱い」と即断しない
後脛骨筋は内側縦アーチの支持に関与しますが、扁平足があるからといって後脛骨筋筋力低下だけが原因とは限りません。
足部形態、関節可動性、靱帯・腱などの軟部組織、足内在筋、腓骨筋群、下腿アライメント、荷重条件など複数の要因が足部姿勢へ影響します。
柔軟性扁平足を対象とした研究では、後脛骨筋強化とshort foot exerciseなどを含む運動プログラムによって足部姿勢やバランスの改善が報告されていますが、これは「後脛骨筋だけを鍛えれば扁平足が治る」という意味ではありません。
アーチ高だけでなく、疼痛、片脚支持、歩行、heel raiseなど機能面も含めて評価します。
PTTDとPCFDを同じ意味で扱わない
後脛骨筋腱障害を扱う際には、用語にも注意が必要です。
従来はposterior tibial tendon dysfunction(PTTD)やadult acquired flatfoot deformity(AAFD)という名称が広く使われてきました。現在の足・足関節外科領域では、後足部外反、前足部外転、中足部変形などを含む複雑な3次元変形を表す名称としてProgressive Collapsing Foot Deformity(PCFD)が提唱されています。
PCFDは「後脛骨筋腱が弱くなった病気」という一要因だけで説明できる変形ではありません。
明らかな足部変形、進行するアーチ低下、強い内果後方部痛・腫脹、single heel raise困難などがみられる場合は、単純な筋力トレーニングとして扱わず病態評価が必要です。
後脛骨筋腱障害では負荷量を段階的に調整する
初期の後脛骨筋腱障害では、装具や運動療法を組み合わせた保存的治療が用いられます。
抵抗運動を含む研究では疼痛・機能の改善が報告されていますが、現在のエビデンスは十分に豊富ではなく、「この回数・この負荷が標準」と一律に決められる状況ではありません。
特に腱症状がある場合は、運動中の疼痛だけでなく、運動後から翌日にかけた症状変化、歩行耐容性、腫脹などを確認して負荷を調整します。
痛みが強い状態で、片脚heel raiseを回数だけ増やすことが必ずしも適切とは限りません。低負荷の抵抗運動や両脚支持などへ戻しながら負荷耐容性を確認します。
後脛骨筋トレーニングの負荷をどう調整するか
後脛骨筋トレーニングの負荷は、チューブの強さや回数だけでは決まりません。荷重量、支持条件、運動範囲、速度、バランス要求などでも変更できます。
- チューブ・外部抵抗を変更する
- 非荷重位から荷重位へ変更する
- 両脚heel raiseから片脚へ変更する
- 上肢支持を減らす
- 踵上げのROMを変更する
- 求心性・遠心性の負荷を調整する
- 動作速度を変える
- 片脚立位やstepなどバランス要求を追加する
- 歩行・階段・スポーツ動作へ近づける
負荷を上げた結果、足部外反、前足部外側への荷重偏位、膝・股関節代償、疼痛増悪などが生じる場合は、回数を増やす前に課題設定を見直します。
筋力向上を目的とするのか、腱への段階的な負荷を目的とするのか、歩行中の足部制御を改善したいのかによって適切な設定は異なります。特定の回数・セット数をすべての対象者に当てはめる必要はありません。
PTは「内反できるか」から歩行・荷重動作までみる
後脛骨筋トレーニングのゴールは、強いチューブを使って内側へ足を動かせることではありません。
臨床では、次のように整理すると目的と種目を対応させやすくなります。
- 局所負荷:低負荷で目的方向へ力を発揮できるか確認する
- 底屈:heel raiseで足部を保ちながら底屈できるか確認する
- 片脚支持:片脚荷重でも足部・後足部を制御できるか確認する
- 動的荷重:stepや方向転換で足部をコントロールできるか確認する
- 動作:歩行、階段、仕事、スポーツへつなげる
この流れは、全員が同じ順番で進む固定プロトコルではありません。対象者の症状、筋力、足部形態、目的動作に応じて必要な課題を選びます。
足関節底屈トレーニングそのものを詳しく確認したい場合は、下腿三頭筋トレーニングの種目選択と負荷調整もあわせてご覧ください。
後脛骨筋トレーニングのよくある質問
後脛骨筋を鍛えるならカーフレイズだけで十分ですか?
heel raiseでも後脛骨筋は活動しますが、腓腹筋・ヒラメ筋など複数の筋が大きく関与します。低負荷で後脛骨筋へ抵抗を加えたい場合はfoot adductionや回外運動、荷重下機能を高めたい場合はheel raiseなど、目的に応じて使い分けます。
カーフレイズではつま先を内側へ向けた方がよいですか?
健常者を対象とした筋電図研究では、足部内転位で後脛骨筋活動が高くなった報告があります。ただし、すべての患者で内向きにすれば臨床効果が高いと示されているわけではありません。足部・膝・股関節アライメントを含めて設定します。
short foot exerciseは後脛骨筋トレーニングですか?
short foot exerciseは主に足部アーチの制御を目的とした複合的な課題で、後脛骨筋だけを選択的に鍛える運動ではありません。後脛骨筋への抵抗運動とは目的を分けて考えます。
扁平足なら後脛骨筋を鍛えた方がよいですか?
後脛骨筋トレーニングが選択肢になる場合はありますが、扁平足の原因は後脛骨筋筋力だけではありません。柔軟性、足部形態、疼痛、荷重時の動きなどを評価したうえで運動を選びます。
内くるぶしの後ろが痛い場合もトレーニングしてよいですか?
後脛骨筋腱は内果後方を走行しますが、この部位の痛みだけで後脛骨筋腱障害とは判断できません。強い疼痛・腫脹、進行する足部変形、荷重困難などがある場合は、筋力トレーニングだけで対応せず病態評価が必要です。
まとめ
後脛骨筋トレーニングでは、単に「足を内側へ動かす」「カーフレイズをする」と考えるのではなく、低負荷で後脛骨筋へ抵抗を加えるのか、荷重下で底屈するのか、片脚支持・歩行で足部を制御するのかを先に整理すると種目を選びやすくなります。
抵抗下foot adduction、回外運動、両脚heel raise、single-leg heel raiseでは身体に求める課題が異なります。前脛骨筋優位、足趾屈曲、足部外反、前足部外側への荷重、膝・股関節代償などが増えた場合は、回数を増やす前に抵抗・荷重量・支持条件を調整します。
また、扁平足やPCFDを「後脛骨筋が弱いから」と単純化せず、足部形態・軟部組織・足内在筋・他の下腿筋群・荷重動作を含めて評価することが重要です。
前脛骨筋・下腿三頭筋・大臀筋など、ほかの筋別トレーニングはこちらから確認できます。
参考文献
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