立ち上がれない患者への対応は無理に立たせないことから始める
昨日まで立ち上がれていた患者が急に立ち上がれなくなった場合や、立ち上がろうとしても殿部が離れない場合は、筋力低下だけを原因と決めつけてはいけません。疼痛、起立性低血圧、全身状態の変化、認知機能、薬剤の影響、足底接地や座面の高さなど、複数の要因が関係している可能性があります。
立ち上がれない状態で何度も動作を繰り返すと、転倒や膝折れ、患者・介助者双方の受傷につながります。まず安全な座位を確保し、「動作のどこで止まるのか」を観察して、原因に合った介助方法へ調整することが重要です。
この記事では、立ち上がれない患者への初期対応、最初の30秒で確認すること、原因の見分け方、安全な介助方法、中止基準、再評価、記録・申し送り例までを、理学療法士の臨床視点で解説します。
この記事の結論
- 立ち上がれない患者を力任せに引き上げない
- 昨日までとの違いと急な全身状態変化を確認する
- 動作が止まる場面から原因を切り分ける
- 足底接地・座面高・手の位置を先に整える
- 再試行は条件を修正し、回数を限定して行う
なお、「立ち上がれない」という結果だけでは、必要な介助方法は判断できません。動作を開始できないのか、前傾できないのか、殿部が浮かないのか、伸び上がれないのか、立位直後に座り込むのかによって、確認すべき原因は異なります。
立ち上がれない患者は無理に立たせない
患者が立ち上がれない場合は、「もう一度頑張れば立てる」と考えて反復させるのではなく、まず安全を確保します。殿部が浮かないまま身体を前方へ引っ張ったり、両上肢を強く引き上げたりすると、患者の転落や肩関節への負担、介助者の腰痛につながります。
最初に確認したいのは、以前から立ち上がりに介助が必要だったのか、今日になって急に立てなくなったのかという点です。急な変化であれば、疲労や筋力低下だけでなく、意識状態、循環動態、疼痛、発熱、脱水、新たな神経症状などを確認します。
立ち上がれなかった直後の対応
- 安全な座位へ戻す:前方へ滑り落ちない位置まで殿部を戻す
- 再試行をいったん止める:原因を確認せず何度も繰り返さない
- 普段との差を確認する:前回の介助量や病棟での様子と比較する
- 症状を確認する:めまい、息切れ、胸痛、疼痛、脱力の有無を聞く
- 環境を整える:座面高、足底接地、履物、手すり、補助具を確認する
注意:患者の腋窩や上肢だけを持って引き上げる介助は避けます。特に片麻痺や肩関節痛がある患者では、上肢を牽引することで疼痛や損傷を悪化させる可能性があります。
最初の30秒で急な状態変化と立ち上がり環境を確認する
立ち上がれなかった直後は、細かな筋力評価より先に、緊急性のある変化がないかを確認します。同時に、足が床に届いていない、座面が低すぎる、履物が滑るなど、環境による失敗がないかを短時間で見直します。
| 確認項目 | 見る内容 | 注意したい変化 |
|---|---|---|
| 意識・会話 | 呼びかけへの反応、理解、受け答え | 反応低下、急な混乱、指示が入らない |
| 呼吸・循環 | 息切れ、胸痛、冷汗、顔色、動悸 | 強い呼吸苦、胸部症状、蒼白、冷汗 |
| 神経症状 | 麻痺、構音、左右差、急な脱力 | 新たな片麻痺、呂律困難、急な支持不能 |
| 疼痛 | 腰、股関節、膝、足部の痛み | 急な強い痛み、外傷後の痛み、荷重不能 |
| 足底接地 | 両足が床につくか、足が前に出すぎていないか | 踵が浮く、足部が滑る、左右差が大きい |
| 座面 | 高さ、奥行き、殿部位置 | 座面が低すぎる、深く座りすぎている |
| 履物・床面 | 靴、スリッパ、床の滑りやすさ | 踵が抜ける、足底が滑る、床が濡れている |
| 介助条件 | 手すり、肘掛け、歩行器、介助者数 | 普段と異なる環境、補助具の位置不良 |

図版の流れは、すべての患者に同じ方法で再試行することを意味するものではありません。意識変化、胸痛、強い呼吸苦、新たな麻痺、荷重不能となる強い疼痛、介助者が支えきれない支持不能がある場合は、条件を調整して再試行するのではなく、動作を中止して施設の手順に沿って報告します。
立ち上がれない原因は動作が止まる場面から考える
立ち上がりは、開始姿勢を整え、体幹を前方へ移動させ、殿部を座面から離し、股関節・膝関節を伸展して立位を安定させる一連の動作です。原因を考える際は、「立てない」という結果だけでなく、動作のどこまで実行できているかを観察します。
| 動作が止まる場面 | 考えられる要因 | 最初に確認すること |
|---|---|---|
| 動作を開始しない | 指示理解の低下、恐怖心、傾眠、意欲低下 | 意識、理解、声かけ、動作目的の共有 |
| 体幹を前傾できない | 重心移動不足、体幹機能低下、疼痛、恐怖心 | 座位姿勢、股関節屈曲、足部位置 |
| 前傾できるが殿部が浮かない | 下肢筋力低下、座面が低い、足が前方にある | 座面高、足底接地、下肢支持性 |
| 殿部は浮くが途中で座る | 股関節・膝伸展不足、疼痛、筋力・持久力低下 | 膝折れ、疼痛、股関節・膝関節の伸展 |
| 立位直後に座り込む | 起立性低血圧、立位バランス低下、急な脱力 | めまい、血圧、顔色、立位保持能力 |
| 足が滑る | 足部位置不良、床面・履物、過度な後方重心 | 踵位置、摩擦、靴、座面との距離 |
| 後方へ倒れそうになる | 前方重心移動不足、恐怖心、伸展優位の動作 | 頭部・体幹の位置、足部位置、介助方向 |
複数の要因が重なることもあります。例えば、座面が低い患者に下肢筋力低下と膝痛が加われば、前傾はできても殿部離床が難しくなります。ひとつの所見だけで原因を断定せず、動作・身体機能・環境を組み合わせて確認します。
動作を開始しない場合は理解・覚醒・恐怖心を確認する
声をかけても動き始めない場合は、筋力を評価する前に、患者が指示を理解しているか、覚醒状態が保たれているかを確認します。長い説明よりも、「足を引きます」「手すりを持ちます」「前へ倒れます」のように、一つずつ短く伝える方が動作を引き出しやすい場合があります。
認知症や失語症がある場合でも、指示が入りにくいことと立ち上がる能力がないことは同じではありません。実物の手すりを示す、介助者が動きを見せる、トイレや食事など本人が理解しやすい目的を伝えるなど、入力方法を変えて反応を確認します。
体幹を前傾できない場合は足部位置と恐怖心を見る
体幹を前に移動できなければ、重心が足部の支持基底面へ移らず、殿部を離しにくくなります。患者が深く座りすぎている、足部が前に出ている、股関節を曲げにくい、前方へ倒れることを怖がっているといった要因を確認します。
介助者が患者の上体を強く引くのではなく、殿部を座面前方へ調整し、足部を引き、前方に目標物を置くなど、患者自身が前方へ重心移動しやすい環境を整えます。
「鼻をつま先より前へ出す」という声かけが使われることもありますが、患者の体格や関節可動域によって必要な前傾量は異なります。言葉だけに依存せず、重心が足部へ移動できているかを観察します。
殿部が浮かない場合は座面高と下肢支持性を確認する
前傾できても殿部が離れない場合は、下肢筋力低下だけでなく、座面が低すぎないか、足部が前方に位置していないか、座面が柔らかく沈み込んでいないかを確認します。
座面を適度に高くすると、立ち上がりに必要な下肢の負担を軽減できる場合があります。ただし、座面を高くしすぎて足底が床から離れると、重心移動や立位への移行が不安定になります。両足底が接地し、殿部が前方へ滑り落ちない範囲で調整します。
殿部離床後に伸び上がれない場合は膝折れと疼痛を確認する
殿部は浮くものの、股関節・膝関節を伸ばせず座り込む場合は、下肢伸展筋力、疼痛、関節可動域、感覚障害、疲労などを確認します。
膝折れが起きる場合は、大腿四頭筋の筋力だけでなく、股関節伸展、足部位置、体幹の位置、下肢への荷重感覚、装具の状態も観察します。力任せに立位まで引き上げても、立位保持に必要な支持性がなければ転倒リスクが残ります。
殿部離床後に介助量が急増する患者では、立位まで到達することより、安全に着座へ戻せる位置と介助者数を確保することが重要です。
立位直後に座り込む場合は起立性低血圧を確認する
殿部離床までは可能でも、立位直後にめまい、眼前暗黒感、冷汗、脱力を訴えて座り込む場合は、起立性低血圧を疑います。一般的には、起立後3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上低下する状態が定義の目安です。
数値だけでなく、症状、脈拍、顔色、臥位・座位・立位のどの段階で変化したかを確認します。立位保持を何度も繰り返して確認するのではなく、安全な姿勢へ戻して段階的に評価します。
起立性低血圧の評価と離床手順は、起立性低血圧のリハビリ対応と離床手順で詳しく整理しています。
原因評価は動作・身体機能・環境の3方向から進める
立ち上がれない患者の評価では、MMTだけを実施して終わるのではなく、実際の動作、身体機能、環境条件を組み合わせて確認します。赤旗がある場合や再現による危険が高い場合は、立ち上がり動作を再試行しません。
動作評価ではどこまで自力でできるかを見る
立ち上がり動作を段階に分け、それぞれの可否と必要な介助を記録します。
| 動作段階 | 観察ポイント |
|---|---|
| 開始姿勢 | 殿部位置、骨盤、足底接地、左右の荷重 |
| 体幹前傾 | 前方へ重心移動できるか、後方へ戻らないか |
| 殿部離床 | 座面から殿部が浮くか、足が滑らないか |
| 伸展 | 股関節・膝関節を伸ばせるか、膝折れがないか |
| 立位安定 | 立位を保てるか、めまい・動揺・疼痛がないか |
「前傾は自立、殿部離床から軽介助、伸展時に右膝支持が必要」のように段階ごとに記録すると、介助方法を他職種と共有しやすくなります。
身体機能は筋力以外も確認する
- 股関節・膝関節・足関節の筋力
- 股関節・膝関節・足関節の関節可動域
- 腰部・股関節・膝・足部の疼痛
- 足底感覚、位置覚、左右の荷重感覚
- 座位・立位バランス
- 体幹前傾と骨盤運動
- 疲労、呼吸状態、循環反応
- 理解力、注意、恐怖心
筋力検査上は一定の力を発揮できても、疼痛、感覚障害、恐怖心、タイミングのずれによって立ち上がれないことがあります。反対に、個別筋の筋力が低くても、座面や支持物を調整することで動作が可能になる場合もあります。
環境評価では座面・足部・支持物をそろえる
- 座面が低すぎないか
- 座面が柔らかく沈み込んでいないか
- 殿部が深く入りすぎていないか
- 両足底が接地しているか
- 靴や床面が滑りやすくないか
- 肘掛けや手すりを押せる位置にあるか
- 歩行器が遠すぎたり、不安定になっていないか
- 点滴、酸素チューブ、カテーテルが動作を妨げていないか
療養病棟や介護施設では、患者の能力よりもベッドや車椅子の設定変更が先に必要なケースがあります。担当者によって座面高や足部位置が変わると介助量も変化するため、再現できる条件を共有することが重要です。
安全な介助は環境調整から始めて必要な部分だけ補助する
立ち上がり介助では、最初から大きな力を加えるのではなく、患者が自力で行える部分を残し、動作が止まる段階だけを補助します。
開始姿勢を整える
- 殿部を座面の前方へ移す
- 両足底を床へ接地させる
- 足部を膝よりやや後方へ置く
- 手すりや肘掛けを押せる位置にする
- 進行方向と周囲の障害物を確認する
ただし、足部位置や左右差は患者の麻痺、疼痛、拘縮、装具、動作戦略によって調整します。すべての患者を同じ左右対称の姿勢にそろえる必要はありません。
声かけは一度に一つずつ伝える
「前に倒れて、足に力を入れて、手を離して立ってください」と一度に伝えると、患者が処理できないことがあります。動作を分けて、短い言葉で伝えます。
- 「足を少し引きます」
- 「手すりを押します」
- 「お辞儀をします」
- 「お尻を浮かせます」
- 「膝を伸ばします」
声かけで動作が変わらない場合は、同じ言葉を繰り返すのではなく、視覚提示、触覚誘導、支持物の位置変更など、入力方法を変えます。
介助者は前方移動と伸展を分けて補助する
体幹を前傾できない患者では、骨盤や体幹の前方移動を補助します。殿部離床後に伸び上がれない患者では、膝折れを防ぎながら骨盤の前上方移動を補助します。
患者の上肢を引っ張って立たせるのではなく、患者が支持物を押す力と下肢伸展を利用しながら介助します。介助者一人で支えられないと判断した場合は、二人介助や移乗機器を選択します。
介助量の考え方:立位まで引き上げられるかではなく、殿部離床後の膝折れや後方転倒を安全に制御し、必要時に着座へ戻せるかで判断します。
座面高は足底接地を保ちながら調整する
座面を高くすると立ち上がりに必要な下肢負担を軽減できますが、高くするほど安全になるわけではありません。足底接地が失われる、殿部が前方へ滑る、立位直後の支持が不安定になる場合があります。
座面高を変更する際は、次の点を確認します。
- 両足底が床へ接地する
- 殿部が座面上で安定している
- 体幹を前傾できる
- 手すりや肘掛けを安全に使用できる
- 立位直後に膝折れや後方動揺がない
補助具・福祉用具の使用を検討する
立ち上がり能力が不十分な患者に対して、毎回人力で全介助することが最善とは限りません。患者の残存能力と移乗目的に応じて、次の方法を検討します。
- 高さ調整可能なベッドや椅子
- 肘掛けや固定手すり
- 立ち上がり補助手すり
- 歩行器
- 移乗ボード
- スタンディングリフトなどの移乗機器
補助具を使用する場合も、患者が操作を理解できるか、支持物が固定されているか、介助者が適切に使用できるかを確認します。立ち上がり能力が乏しい患者に歩行器を引かせると、歩行器ごと手前へ動いて転倒する危険があります。
急な状態変化や支持不能があれば立ち上がりを中止する
立ち上がりの中止は、動作を完遂できるかだけでなく、継続による危険が高いかで判断します。次の所見がある場合は再試行を控え、施設の手順に従って医師・看護師などへ報告します。
| 分類 | 主なサイン | 対応 |
|---|---|---|
| 意識 | 反応低下、急な混乱、失神、会話困難 | 安全な座位・臥位を確保して応援を呼ぶ |
| 循環 | 胸痛、冷汗、蒼白、強い動悸、めまい | 動作中止、バイタル確認、院内手順に沿って報告 |
| 呼吸 | 強い息切れ、チアノーゼ、会話困難 | 安静を確保し、呼吸状態を確認する |
| 神経 | 新たな麻痺、呂律困難、急な脱力 | 再試行せず緊急評価につなげる |
| 運動 | 反復する膝折れ、足部の滑り、支持不能 | 立ち上がりを中止し介助方法を再検討する |
| 疼痛 | 急な強い疼痛、荷重不能、外傷が疑われる | 荷重を中止し必要な診察につなげる |
| 介助上の危険 | 一人で支えられない、介助者が姿勢を保てない | 応援要請、二人介助、移乗機器へ変更する |
中止判断のポイント:血圧・脈拍・SpO₂などに施設基準や個別指示がある場合は、その基準を優先します。ただし、数値が大きく変化していなくても、胸痛、意識変化、新たな神経症状、強い呼吸苦、支持不能があれば立ち上がりを繰り返しません。
再試行は原因を修正してから1回ずつ行う
立ち上がれなかったあとに再試行する場合は、同じ条件で何度も繰り返してはいけません。座面高、足部位置、手の位置、声かけ、介助量など、少なくとも一つの条件を修正します。
再試行前の確認項目
- 意識・会話が普段の状態である
- 胸痛、めまい、強い息切れがない
- 急な麻痺や支持不能がない
- 疼痛が許容範囲にある
- 両足底が接地している
- 座面高と殿部位置を調整している
- 必要な介助者数と補助具を準備している
修正後も同じ段階で動作が止まる場合は、反復回数を増やすのではなく、立ち上がり以外の移乗方法や機器の使用を検討します。
条件変更の例
| 確認された問題 | 変更する条件 | 再評価する内容 |
|---|---|---|
| 足が前方にある | 足部を後方へ調整する | 前傾と殿部離床が改善するか |
| 座面が低い | 足底接地を保てる範囲で高くする | 必要介助量と膝折れの有無 |
| 動作手順が分からない | 声かけを一工程ずつにする | 開始と動作の連続性 |
| 殿部離床後に膝折れする | 介助者数と膝支持を追加する | 伸展と立位保持の安全性 |
| 立位直後にめまいがある | 再試行せず循環状態を評価する | 症状、血圧、脈拍、全身状態 |
| 人力介助では支えられない | 二人介助や移乗機器へ変更する | 患者・介助者双方の安全性 |
記録は「立てない」ではなく止まった場面と介助条件を残す
「立ち上がり困難」「全介助」とだけ記録しても、次の担当者はどこを介助すればよいか判断できません。動作の止まった場面、環境条件、症状、介助方法、対応後の結果を具体的に記録します。
| 項目 | 記載する内容 |
|---|---|
| 開始条件 | 座面高、足部位置、履物、手すり、介助者数 |
| 動作段階 | 前傾、殿部離床、伸展、立位保持のどこで止まったか |
| 具体的所見 | 後方重心、膝折れ、疼痛、足部の滑り、左右差 |
| 症状・バイタル | めまい、息切れ、胸痛、血圧、脈拍など |
| 介助方法 | 声かけ、支持部位、介助量、補助具、二人介助 |
| 結果 | 修正後の可否、中止理由、次回の安全条件 |
記録例
記録例:端座位から固定手すりを使用して立ち上がりを実施。開始時は両足部が前方にあり、体幹前傾後も殿部離床できず。疼痛・めまい・胸部症状なし。座面を約5cm高くし、両足部を後方へ調整した。前方重心移動を促す声かけと骨盤前方への軽介助により殿部離床可能となったが、伸展途中で右膝折れを認めたため着座。以降の移乗は二人介助とし、右膝を支持して実施するよう病棟へ共有した。
申し送り例
現在の介助:立ち上がりは二人介助です。
止まる場面:殿部離床後に右膝折れが出ます。
介助方法:両足を後方へ置き、固定手すりを使用し、右膝と骨盤を支持してください。
中止条件:めまい、疼痛、支持不能があれば立ち上がりを繰り返さず共有してください。
立ち上がれない患者への対応でよくある失敗
立ち上がれない患者に対して、介助者が頑張るほど安全になるとは限りません。原因を修正せず反復したり、上肢を引っ張ったりすると、患者と介助者双方の危険が増えます。
| よくある失敗 | 問題点 | 修正方法 |
|---|---|---|
| 何度も反復させる | 疲労や転倒リスクが増える | 一度止まり原因と条件を修正する |
| 腕を引っ張る | 肩関節への負担が大きく体幹を制御しにくい | 支持物を押してもらい骨盤・体幹を補助する |
| 筋力低下と決めつける | 疼痛、循環変化、環境要因を見落とす | 普段との差と動作段階を確認する |
| 足部位置を見ない | 後方重心となり殿部が離れにくい | 足底接地と足部の前後位置を調整する |
| 座面を高くしすぎる | 足底が離れ、滑落や立位不安定につながる | 足底接地を保てる高さにする |
| 動く歩行器を引かせる | 支持物が移動して前方へ転倒しやすい | 固定支持物の使用や介助方法を再検討する |
| 介助者一人で抱える | 患者・介助者双方の転倒や腰痛につながる | 二人介助や移乗機器へ変更する |
| 立てないとだけ記録する | 次の担当者が介助方法を再現できない | 止まる段階・介助条件・結果を記録する |
立ち上がれない患者への対応に関するよくある質問
Q1.立ち上がれない場合は座面を高くすればよいですか?
座面を高くすると立ち上がりに必要な下肢負担を軽減できる場合があります。ただし、足底が床から離れるほど高くすると、重心移動や立位直後の支持が不安定になります。足底接地を保ち、患者が前方へ滑り落ちない高さで調整します。
Q2.足はどの位置に置くと立ち上がりやすいですか?
一般的には、足部が前方に出すぎるより、膝よりやや後方にある方が前方重心移動と殿部離床を行いやすくなります。ただし、麻痺、疼痛、拘縮、装具の有無によって適切な位置は異なります。
Q3.患者の手を引いて立たせてはいけませんか?
上肢だけを強く引く介助は、肩関節への負担が大きく、体幹や骨盤を十分に制御できません。固定された手すりや肘掛けを患者自身に押してもらい、介助者は骨盤・体幹・膝折れしやすい側を補助します。
Q4.MMTが低ければ立ち上がれないと判断できますか?
MMTは重要な情報ですが、立ち上がり能力は筋力だけでは決まりません。体幹前傾、足部位置、座面高、疼痛、感覚、バランス、理解力、循環状態などを合わせて確認します。
Q5.昨日まで立てた患者が急に立てない場合はどうしますか?
単純な疲労と決めつけず、意識、呼吸・循環、疼痛、新たな麻痺、発熱、食事・水分、薬剤変更などを確認します。急な神経症状、胸痛、強い呼吸苦、支持不能がある場合は再試行せず報告します。
Q6.看護師や介護士へ何を共有すればよいですか?
必要な介助者数、立ち上がりが止まる場面、使用する手すりや補助具、足部位置、支持する部位、中止条件を共有します。「全介助」だけでなく、次のスタッフが同じ方法を再現できる表現にします。
次の一手は立ち上がりを段階に分けて介助方法を統一すること
立ち上がれない患者を認めたら、まず無理な反復を止め、安全な座位で急な状態変化を確認します。その後、動作開始、体幹前傾、殿部離床、股関節・膝関節の伸展、立位安定のどこで止まるかを観察します。
足底接地や座面高を整えても立ち上がれない場合は、筋力だけでなく、疼痛、感覚、循環、理解力、環境を含めて再評価します。記録と申し送りでは、必要な介助量だけでなく、止まる場面と具体的な介助方法を共有することが重要です。
立位後や歩行開始後にふらつく患者への対応は、歩行時にふらつく患者への対応|原因・評価・安全な介助・中止基準で詳しく解説しています。
参考文献
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- Freeman R, Wieling W, Axelrod FB, et al. Consensus statement on the definition of orthostatic hypotension, neurally mediated syncope and the postural tachycardia syndrome. Clin Auton Res. 2011;21(2):69-72. doi:10.1007/s10286-011-0119-5
- Montero-Odasso M, van der Velde N, Martin FC, et al. World guidelines for falls prevention and management for older adults: a global initiative. Age Ageing. 2022;51(9):afac205. doi:10.1093/ageing/afac205
著者情報
rehabilikunblog編集部
理学療法士が、病院・施設で実践しやすい評価、臨床判断、介助方法、制度・実務情報を整理しています。本記事は医療・介護専門職への情報提供を目的としており、個々の患者に対する診断や治療、所属施設の緊急対応手順を代替するものではありません。患者の基礎疾患、医師の指示、施設基準を優先してください。

