リハ前後の血圧チェック手順|中止基準と記録テンプレ

臨床手技・プロトコル
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リハビリ前後の血圧チェックを「迷わない手順」にする

臨床の安全管理を「型」で身につける(PT キャリアガイド)

血圧( BP )は「測る」より「条件をそろえて判断する」ほうが難しいバイタルです。リハ場面では、測定条件(姿勢・安静時間・カフサイズ・腕位置)を固定し、前後の変化と症状をセットでみると判断が揃います。

この記事では、リハ前後の血圧チェックを 準備 → 体位別の測定 → 判定 → 記録 の順に標準化し、チームで再現できるプロトコルとしてまとめます。

リハ前の血圧チェック:最初に見るべき 5 点

リハ開始前は「数値」よりも、測定の前提症状 を先に押さえると安全です。血圧の値だけで決めず、息苦しさ・胸部不快・めまい・冷汗などを必ず確認します。

まずは次の 5 点をチェックし、迷うポイントを先に潰します(施設プロトコルと主治医指示を優先)。

リハ開始前の血圧チェック:まず見る 5 点(成人の運用例)
チェック項目 見る理由 実務のコツ
① 症状 同じ BP でも「危険度」が変わる 息切れ、胸部不快、強いめまい、冷汗、悪心、顔面蒼白は最優先で再評価
② 直前の変化 薬剤・食事・排泄で BP が揺れる 降圧薬/利尿薬、食後、疼痛、発熱、排便直後など「揺れ要因」を 1 行メモ
③ 体位と安静 条件が違うと比較できない 臥位・座位・立位のどれで測ったかを固定し、安静 3〜5 分を確保
④ カフサイズ サイズ不適合は誤差が大きい 上腕周囲径に合うカフを使用(小さすぎると高く出やすい)
⑤ 腕位置と環境 腕位置・会話・緊張で変動 上腕を心臓の高さに、会話なし、冷え・騒音・急ぎ測定を避ける

測定準備:カフサイズ・姿勢・環境をそろえる

血圧測定は、条件のズレがそのまま誤差になります。とくに「カフサイズ」と「腕位置(心臓の高さ)」は、実務で抜けやすいポイントです。

測定の精度を上げたい場合は、同じ機器でも “準備の質” で安定します。測定の前提をもう一段深く整理したい方は、正しい血圧測定のポイントも併せて確認してください。

血圧測定の準備:よくブレる要素とそろえ方
ブレ要素 起きやすい問題 そろえ方(現場用)
カフサイズ 小さすぎると高めに出やすい 上腕周囲径に合うサイズを選び、衣類の上から巻かない
腕位置 心臓より低いと高めに出やすい 肘を支え、上腕を心臓の高さに(枕・タオルで固定)
安静不足 直前の動作で変動 可能なら 3〜5 分の安静後に測定(前回と同条件で)
会話・緊張 数値が揺れる/再現性が落ちる 測定中は会話なし、急かさない、深呼吸を 1 回入れる
機器の差 病棟・リハ室で値がズレる 「どの血圧計で測ったか」を記録に残す

体位別プロトコル:臥位 → 座位 → 立位で条件を固定する

離床や立位練習に入ると、体位変換による BP 低下(とくに起立時)で判断が難しくなります。ポイントは 同じ順番・同じ待ち時間 で測り、日ごとの変化を追える形にすることです。

以下はベッドサイドで再現しやすい「 3 ステップ」例です。患者の状態により座位止まり・立位なしの選択も含めて運用します。

体位別の測定プロトコル(例):臥位 → 座位 → 立位
ステップ 姿勢 タイミング 測るもの 観察ポイント
1 臥位 安静 5 分 BP / HR / 症状 息切れ、胸部不快、疼痛、冷汗
2 座位 座位 1〜3 分 BP / HR / 症状 ふらつき、視野狭窄、悪心、顔色
3 立位 立位 1 分 → 3 分 BP / HR / 症状 失神前兆、支持の増加、耐久性低下

判定と “やる/やめる” の線引き:数値より症状を優先する

運動の可否は「 BP が何 mmHg だから」と単独で決めるより、症状+トレンド(前後差)+他バイタル の組み合わせで判断すると安全です。とくに胸部症状、失神前兆、強い呼吸困難は数値に関係なく最優先で中断します。

ここでは “考え方の型” を示します。施設の中止基準(例:禁忌/即時中止/一時中断)に当てはめて運用してください。

リハの中断判断:現場で揃えたい「優先順位」
優先度 見るもの 判断の目安 次アクション
最優先 症状 胸部不快、強い息切れ、失神前兆(冷汗・眼前暗黒感など) 即時中止 → 安静 → 再測定 → 共有
次点 前後差 体位変換や運動で BP が大きく低下し、症状を伴う 座位・臥位へ戻す → 回復確認 → 条件調整
合わせて HR / SpO₂ 頻脈化、著明な不整脈、 SpO₂ 低下などを伴う 負荷を下げる or 中止、医師へ報告基準を適用

現場の詰まりどころ:どこで迷いやすいか

血圧チェックは「測る」より「次に何をするか」で迷いが出ます。迷いやすい場面を先に共有すると、チームの判断が揃いやすくなります。

よく詰まるポイントと、迷いを減らす工夫を表にまとめます。

血圧チェックの詰まりどころ:迷いを減らす整理
迷い場面 よくある原因 揃える工夫
数値は悪くないが “顔色が悪い” 症状評価が曖昧 症状を具体語で記録(めまい、冷汗、悪心、胸部不快など)
病棟とリハ室で BP が違う 機器・姿勢・安静が違う 「測定条件」をセットで記録(血圧計、姿勢、安静時間)
起立 1 分は大丈夫だが 3 分で崩れる 遅れて出る起立低血圧 立位は 1 分だけで終えず、 3 分まで測る日を作る
疼痛が強い日の BP が高い 痛み・不安・呼吸の乱れ 疼痛評価と介入(体位、支持、呼吸)を先に整えて再測定

記録・共有テンプレート:次回も同条件で再現できる形に

安全管理の質は、記録の “粒度” で決まります。次回の担当者が「同じ条件で測れる」ことを目的に、測定条件をセットで残します。

最低限、姿勢・安静時間・血圧計・ BP / HR・症状 を 1 行で残す運用にすると、引き継ぎが楽になります。

血圧チェックの記録(最小テンプレート):条件固定で残す
時点 姿勢 安静 BP(mmHg) HR(/分) 症状 備考
開始前 臥位 5 分 ___ / ___ ___ 有・無(___) 血圧計:___/疼痛:___/服薬:___
座位 端座位 2 分 ___ / ___ ___ 有・無(___) 支持:___/表情:___
立位 立位 1 分 ___ / ___ ___ 有・無(___) 介助量:___/中断:有・無
終了後 座位 2 分 ___ / ___ ___ 有・無(___) 回復:良・不良/申し送り:___

よくある測定エラーと防ぎ方

血圧の “ブレ” は、病態より測定条件の影響で起きることがあります。エラーを潰すだけで、不要な中止や過負荷を減らせます。

現場で頻度が高いものを、原因と対策で整理します。

血圧測定のよくあるエラー:原因と対策
エラー 起きる理由 対策
衣類の上から巻く カフ圧が伝わりにくい 可能な範囲で素肌に巻く(難しければ薄手に整える)
カフが小さい 高めに出やすい 上腕周囲径に合うサイズへ変更
腕が下がっている 心臓より低いと高めに出やすい 枕・タオルで上腕を支え、心臓の高さに合わせる
測定中に会話 交感神経の影響で揺れる 測定中は会話なし、説明は測定前に短く
連続測定で急いで判断 安静不足で値が安定しない 再測定は 1〜2 分あけ、可能なら安静を確保

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1.リハ室に来てすぐ測った BP は、どこまで信用していいですか?

移動直後は BP が揺れやすいので、可能なら 3〜5 分の安静を入れてから再測定します。難しい場合は「移動直後」と条件を記録し、次回は同条件で比較できるようにします。

Q2.起立で BP が下がりますが、症状がなければ続けてもいいですか?

症状がない場合でも、低下幅が大きい・遅れて症状が出る・歩行でふらつきが増えるケースがあります。立位は 1 分だけでなく、 3 分まで確認する日を作り、個人のパターンを掴むと安全です。

Q3.病棟とリハ室で BP が違うとき、どちらを優先しますか?

どちらが正しいかより「条件が違う」ことが多いので、姿勢・安静時間・血圧計を揃えた上で比較します。引き継ぎでは “数値+条件” をセットで共有してください。

Q4.血圧が高めの日に、完全中止以外の選択肢はありますか?

状態と施設基準によりますが、症状がなく安定している場合は、呼吸調整・疼痛調整・環境調整後に再測定し、低負荷(座位中心、休息多め、短時間)で反応をみる運用があります。最終判断は主治医指示と院内プロトコルに従います。

おわりに

血圧チェックは「安全の確保 → 条件固定で測定 → 症状と前後差で判断 → 記録して再評価」の順で型を作ると、迷いが減ってチームの判断が揃います。まずは “同じ条件で測り、同じ粒度で記録する” ところから整えてみてください。

面談準備チェックと職場評価シートも合わせて使うと、臨床の振り返りが次の行動に直結します:/mynavi-medical/#download

参考文献

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著者情報

rehabilikun(理学療法士) rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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