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この記事は「痙縮の徒手的評価方法」をキーワードに内容を構成しております。こちらのテーマについて、もともと関心が高く知識を有している方に対しても、ほとんど知識がなくて右も左も分からない方に対しても、有益な情報がお届けできるように心掛けております。それでは早速、内容に移らせていただきます。
痙縮は、大脳から脊髄に至る中枢神経系内の様々なレベルに生じる機械的損傷、血流障害、変性などの幅広い障害により起こりうる症状であり、重大な健康上の脅威となります。
痙縮による運動障害には、軽度の筋硬直から重度の不随意運動まで様々な種類があります。症状しても、筋緊張、急激な筋肉収縮、深部腱反射亢進、筋痙攣、はさみ肢位、関節のこわばりなど多岐に渡り、いずれも厄介な症状になります。
このように健康上の脅威となる痙縮ですが、痙縮に立ち向かうために必要なこととして、しっかりと痙縮の評価を行い、評価に基づいた治療や対策を講じることが基本になると思います。
痙縮の評価にはご存知の方が多いと思いますが、modified Ashworth Scale(MAS)や欧米で良く使用されている modified Tardieu Scale(MTS)などが一般的になります。
これらの評価方法には細かな規定などもあり、評価方法や結果の解釈について、わからないこともあるかと思います。そんな人のために、こちらの記事をまとめました!
こちらの記事で痙縮についての理解を深め、臨床における痙縮の診療の一助になると幸いです。是非、最後までご覧になってください!
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士として働いていると、一般的な会社員とは異なるリハビリ専門職ならではの苦悩や辛いことがあると思います。当サイト(rehabilikun blog)ではそのような療法士の働き方に対する記事も作成し、働き方改革の一助に携わりたいと考えております。
理学療法士としての主な取得資格は以下の通りです
登録理学療法士
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
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筋緊張とは
筋緊張とは、神経生理学的に神経支配されている筋に、持続的に生じている筋の一定の緊張状態のことを意味します。
筋緊張は、生体の姿勢保持機構・体温調節機構に関与し、特に姿勢保持機構に関しては、運動あるいは姿勢保持の際に活動する骨格筋の準備状態に重要な意味を持ちます。
臨床場面において筋緊張の評価は、安静状態にある筋の他動的な伸張における抵抗の程度で評価されることが多く、modified Ashworth Scale(MAS)が評価尺度として最も使用頻度が高いのではないかと考えられます。
また、安静時だけではなく動作時における変化についても、十分な観察のもと評価する必要があります。
筋緊張の神経生理機構には、伸張反射・姿勢反射が大きく関与しています。筋緊張異常という症状の中でも、特に筋緊張亢進状態の痙縮については臨床上よく認められる症状になります。
基本動作や日常生活動作における筋緊張のコントロール、車椅子乗車姿勢や寝姿勢を整えるための筋緊張のコントロールといったように、臨床で筋緊張のコントロールが必要になる場面は多岐に渡りますが、筋緊張のタイプで考えると、臨床で最も多く直面し、かつ対応が難しいのが痙縮になります。
痙縮の定義
痙縮とは上位運動ニューロン症候群による症候の1つになります。
1980年に提唱された Lance の定義による痙縮とは「腱反射亢進を伴う緊張性伸張反射の速度依存性亢進を特徴とする運動障害」とされており、この定義は現在になっても広く使用されております。
つまり、痙縮といえば腱反射というイメージがあるかもしれませんが、痙縮の診断や評価において単なる腱反射亢進という現象だけでは痙縮と判定することはできません。
腱反射が亢進していることに加えて、徒手的な筋肉の伸張運動時に引っかかりや抵抗を認め、運動の停止で直ちに減弱する抵抗、伸張速度が高いほど強くなる抵抗を認めることが必要になります。
また、痙縮が高度になるとクローヌスや折りたたみナイフ現象をきたします。
痙縮の原因
痙縮の原因は、大脳から脊髄に至る中枢神経系内の様々なレベルに生じる機械的損傷、血流障害、変性などの幅広い障害になります。
つまり疾病でいえば、脳卒中・脳性麻痺・頭部外傷・低酸素脳症・脊髄損傷・多発性硬化症・神経変性疾患などが原因疾患となります。
疾病や障害部位によって、痙縮以外の多彩な症状が加わるため、より複雑なものとなります。主な 症状としては、運動麻痺・屈筋反射充進・病的反射・感覚障害などが挙げられます。これらの症状が複合して身体症状として出現することから、痙縮という症状の難しさを助長しております。
痙縮は上述したような原因疾患で生じるわけですが、痙縮の程度や分布は病変部位、その他の様々な要因で異なります。
例えば脊髄病変では、下肢の伸筋群に強い症状を呈することが多く、はさみ足歩行やクローヌス、屈筋スパスムを認める頻度が多いといえます。
脳卒中などの大脳病変の多くの症例では、上肢は屈筋の筋緊張が高く、下肢は伸筋の筋緊張が高くなります。このように、疾病の種類や病変部位によって、きたしやすい痙縮の症状があります。
Lance の定義による痙縮の範囲は比較的狭く、筋緊張亢進の中での「痙縮」という定義になります。
しかし、臨床では上位運動ニューロン症侯群で起こる陽性徴候のすべてを「痙縮」として扱うこともありますし、腱反射亢進やバビンスキー反射陽性だけで「痙縮」として扱うことも傾向もあり、療法士によって判断は様々であるといえます。
以上のように、痙縮とは非常に複雑な病態であり、まだまだ解明されていないこともありますので、どのような病態を「痙縮」と呼ぶのかを意識して、「痙縮」という表現を使用するのかを決めることが重要になると考えます。
痙縮の評価方法
脳卒中のリハビリテーションにおいて筋・腱の反射や筋緊張の評価項目については、 Fugl-Meyer Assessment や Stroke Impairment Assessment Set などの総合評価指標に含まれています。
痙縮のみを対象とした代表的な評価方法としては Ashworth scaleとその改変版である modified Ashworth scale や、Tardieu scaleとその改変版である modified Tardieu Scale(MTS)が挙げられます。
上述したような評価方法については、臨床で主に使用されている手法であり、徒手的手法と位置づけることができます。
modified Ashworth scale や modified Tardieu Scale(MTS)については痙縮に対する優れた評価方法であり、今までも今後も使用されていくことが予想されます。
しかし欠点を挙げるのであれば、どうしても主観に頼る部分があり、古くから客観性・信頼性・再現性についてを問題視されてきました。
そこで、生体工学的手法として客観性・信頼性・再現性の向上を目的とした評価装置の開発も進んでおります。多くの生体工学的手法に共通するのは、「徒手」を「機械」に置き換えることと、「抵抗感」を「抵抗力(抵抗トルク)」として測定することになります。
徒手的手法以外にも、生体工学的手法によって痙縮を評価する方法があることをご説明させて頂きましたが、こちらの記事では徒手的手法について詳しく後述させていただきます。
modified Ashworth Scale(MAS)アシュワーススケール
痙縮の臨床的評価法としては、最もポピュラーな評価尺度が modified Ashworth Scale(MAS)になるのではないでしょうか。現在のカリキュラムだと変わっているかもしれませんが、養成校でも学んだ記憶が残っています。
評価尺度作成の歴史を遡ると、Ashworth は 1964 年の報告において、多発性硬化症患者の痙性麻痺に対する抗痙縮薬や筋弛緩薬の投薬効果を評価するために簡便な痙縮評価法を開発したところから始まっております。
こちらの手法は、痙縮を認める四肢を徒手により他動的に動かし、その時の「抵抗感」を「0 = 筋緊張の亢進はない」から「4 = 患部が固まり他動屈曲・伸展が困難である」 までの 5 段階の順序尺度で評価するものであり、以降 Ashworth scale と呼ばれています。
その後、Bohannon と Smith は 1987 年にAshworth scale の「1 = 軽度の筋緊張の亢進がある。引っかかりと消失、または 屈曲・伸展の可動域の最終域でわずかな抵抗がある。」が示す症状が幅広いため、「1+ = 軽度の筋緊張の亢進がある。引っかかりが明らかであり、それに続くわずかな抵抗が可動域の 1/2 以下でみられる。」の項を加え 6 段階とする改変を行い modified Ashworth scale(MAS)となっております。
Bohannon と Smith は測定時の角速度についても記述を残しており、肘関節屈筋群の評価を行う場合では、最大屈曲位から最大伸展位まで約 1 秒かけて他動的に伸展させております。
Lance の定義でも痙縮を「腱反射亢進を伴う緊張性伸張反射の速度依存性亢進を特徴とする運動障害」としているように、筋肉を伸張させるときの速度的な話については、評価の信頼性や再現性を高めるという観点からも1つの論点になると考えます。
そのため、Bohannon と Smith の考えに則り、modified Ashworth scale(MAS)の評価においては、約 1 秒で関節を他動的に屈曲または伸展させることが妥当であると考えられます。
しかし可動域については関節によって異なりますし、どこの部位を動かすのかによって伸張させる筋肉のサイズも異なりますので、あくまで目安として扱えばよいのではないかと考えております。
modified Tardieu Scale(MTS)
modified Tardieu Scale(MTS)が作成された歴史を遡ると、もともとは 1954 年に Tardieu らが報告した Tardieu scaleという評価手法が始まりとなっております。
Tardieu scaleについてを 1969 年に Held らが修正、その後 1999 年に Boyd と Graham がさらに修正を加えたものが modified Tardieu scale(MTS)となっております。
現在はこちらの修正された modified Tardieu scale(MTS)が使用されることが多いと考えられます。MTS は本邦での使用報告は多くはありませんが、欧米では広く使用されており特に小児の痙縮評価に多く用いられております。
modified Tardieu scale(MTS)は modified Ashworth Scale(MAS)と同様に他動的に関節を屈曲・伸展させる手技になります。
modified Ashworth Scale(MAS)との違いとしては、modified Tardieu scale(MTS)では測定時刻の規定や、上肢の評価は座位、下肢では仰臥位といったように測定肢位の規定、測定時に他の関節を動かしてはいけない、といったように細かい規定が定められております。
他には、筋伸張の速度に関する規定も設けられております。「重力で自然に落下する速度よりも遅く(速く)」といったように、少し再現性に欠ける表現ではありますが、筋伸張速度の規定は痙縮評価にとって重要であるため、MTS の長所のひとつといえます。
MTS において、速度 V1(できるだけ遅く)での筋の伸張は受動 ROM を測定するために用いると規定されています。
速度 V2(重力で落下する程度)や速度 V3(できるだけ速く)の条件が痙縮評価に用いられ、V2 または V3 条件下で筋を伸長した際に「引っかかりを感じた角度」を R1、V1 条件下で評価した受動 ROM を R2 と定義し、検者がゴニオメータにて測定します。
この反応角度は筋の最小伸展位置に対する角度で示され、安静時の解剖学的位置とは相対的な位置関係となります。
Dietz らは痙縮を筋膜や筋線維の伸張性低下に基づく非反射性要素と伸張反射亢進に基づく反射性要素に分けられるとしておりますが、MTS で得られる R2 はこの非反射性要素を主に反映します。
一方、R2 と R1 の差(R2 – R1)が小さければ非反射性要素の影響が示唆され、逆に大きければ伸張反射による影響が示唆されます。
Boyd と Graham は、この R2 と R1 の関係がそれぞれの数値よりも重要であると述べています。
MAS では痙縮の速度依存成分について考慮しておらず、信頼性の低下要因のひとつとなっておりますが、MTS は低速・高速の 2 条件で評価を行うため、速度依存的な特徴を説明することが可能となっており、それが強みとなります。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
この記事では「痙縮の徒手的評価方法:MASとMTS」をキーワードに考えを述べさせていただきました。
こちらの記事が痙縮についての理解力向上をもたらし、臨床における痙縮の診療に少しでもお力添えになれば幸いです!
痙縮に対する治療法の選択やリハビリテーションの内容については、他の記事で更に詳しくまとめておりますので、こちらもご覧になって頂けると幸いです☺️ 【痙縮のリハビリテーションについての記事はこちらから】
参考文献
- 長谷公隆.痙縮の病態生理.バイオメカニズム学会誌.2018,Vol. 42,No.4,p199-204.
- 武田湖太郎.痙縮の評価法 : 徒手的手法と生体工学的手法.バイオメカニズム学会誌.2018,Vol. 42,No.4,p211-218.
- 正門由久.痙縮の病態生理.Jpn J Rehabil Med.2013,50,p505-510.