FACT(臨床的体幹機能検査)の要点|60 秒で把握
- 対象:主に脳卒中(片麻痺)の体幹機能を、端座位の静的・動的課題で段階的に評価します。
- 所要:おおむね 10–15 分。特別な機器は不要です(安全確保と転倒リスク管理を最優先)。
- 見たいもの:安定性、選択的運動、協調・タイミング、姿勢制御(代償の出方まで含めて観察)。
- 使いどころ:初回のベースライン、週単位の経過モニタ、介入の「効いた/効かない」を判断する再評価に向きます。
- 臨床のコツ:点数だけで終わらせず、「どの課題で」「どんな代償が出たか」を機能仮説に接続すると次の一手が速くなります。
脳卒中患者の体幹機能について
脳卒中では運動・感覚・高次脳機能の障害に加え、体幹の支持性や分離運動の低下が起きやすく、座位保持・立ち上がり・歩行の土台が崩れます。
体幹機能は歩行能力や転倒リスクとも関連しやすいとされるため、初期から「体幹が主因か/下肢や感覚が主因か」を切り分けておくことが、ゴール設定と介入設計の精度を上げます。
臨床的体幹機能検査:FACT とは
FACT(Functional Assessment for Control of Trunk)は、脳卒中患者の体幹機能を治療指向で捉えるための臨床検査です。端座位での静的保持から、骨盤・体幹の動的制御、回旋、上肢挙上に伴う姿勢制御までを段階的に観察します。
従来の尺度でも体幹を評価する項目はありますが、FACT は「所見がそのまま介入の手がかりになる」ように構成されている点が特徴です。点数化により、経時変化(治療効果)を同じ条件で追いやすくなります。
実施前にそろえる測定条件(再現性を上げる)
FACT は最大能力をみる検査なので、測定条件のズレが点数の変動につながります。端座位の環境と指示を揃えるほど、経過の解釈が正確になります。
| 項目 | 推奨 | よくあるズレ | 現場での調整 |
|---|---|---|---|
| 座位姿勢 | 端座位で足底を床へ接地(可能な範囲) | つま先接地、片脚が浮く、踵が浮く | 足台・台の位置調整で足底支持を確保し、左右差も記録 |
| 座面の条件 | 一定の硬さと高さ(目安 40–45 cm) | 柔らかいベッド端、沈み込みが大きい | 可能なら治療台を使用。難しければ条件をメモして固定 |
| 安全管理 | 転倒・ずり落ちのリスクを先に評価 | 見守り不足、疲労で後半に崩れる | 介助位置を決め、疲労兆候が出たら中止し所見として残す |
| 指示の出し方 | 短く具体的に。代償が出たら再指示 | 指示が長く理解が落ちる | 要点のみ 1 文で。失語・注意障害があればデモを併用 |
FACT の実施手順(流れ)
基本は課題 1 → 2 → 3 …の順に進めます。前半は座位の安定性、後半は動的制御・回旋・上肢挙上に伴う姿勢制御へ段階化されます。
最大能力を測るため、同じ課題を複数回行う場合は最大パフォーマンスを代表値として記録します(回数は施設運用に合わせて固定すると経過比較がしやすくなります)。
採点と解釈(0–20 点)
FACT は 10 項目で構成され、合計は 0–20 点です。得点が高いほど体幹機能が高いことを示します。評価は「できた/できない」だけでなく、代償の質(胸郭挙上や頚部過伸展、肩甲帯主導など)を同時にメモすると、次の介入が具体化します。
点数の目安は研究により異なりますが、例えば歩行自立と関連して FACT 14 点が一つの基準として示された報告や、急性期の経過で FACT が 4 点以上改善した場合を変化の目安として扱った報告があります。いずれも「カットオフに当てはめる」より、どの課題がボトルネックかを特定して介入に落とし込むほうが臨床では再現性が出ます。
現場の詰まりどころ(ミスを減らす)
FACT は簡便ですが、代償が強い症例ほど「できたように見える」落とし穴があります。点数と同じくらい、観察の粒度が大切です。
| 場面 | 典型的な代償 | 見逃しやすい観察ポイント | 次の一手(介入の当たり) |
|---|---|---|---|
| 端座位保持 | 胸郭挙上・頚部過伸展での「見かけの安定」 | 骨盤後傾(仙骨座り)、腹側支持の不足、足部支持のロス | 足底支持の最適化 → 骨盤前傾の誘導 → 呼気で体幹前面を起動 |
| 側方・後側方の重心移動 | 肩甲帯の過活動で体幹が固定、上肢で“逃げる” | 骨盤の挙上が出ているか、支持側の座骨がずれていないか | 小可動域から段階化し、骨盤主導の動きを先に学習 |
| 体幹回旋 | 肩甲帯だけ回って体幹は回っていない | 臍〜胸骨レベルの相対運動、骨盤固定の安定性 | 骨盤固定で胸郭の分離練習 → 成功範囲を少しずつ拡大 |
| 上肢挙上に伴う姿勢制御 | 腰椎伸展・肋骨外反で“挙がった”ように見せる | 体幹前面の支持が抜けていないか、肩甲帯の過緊張 | 呼気と下位胸郭のコントロールを先に作り、挙上は分割して増やす |
FACT を「点数」から「介入」に変える 3 手順
- 所見を仮説に接続:例)座位保持で骨盤後傾が強い → 体幹前面の支持不足と足底支持の崩れが主因か。
- 即時介入テスト:足底支持の調整、骨盤前傾の軽介助、呼気促通などを加えて同じ課題を再評価します。
- 病棟・自宅タスク化:「 1 日で回せる」形に落とし込み、次回の再評価で検証します。
よくある質問(FAQ)
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Q1. FACT は TCT や TIS とどう使い分けますか?
A. 目的で分けると整理しやすいです。短時間で粗く体幹コントロールを把握したいなら TCT、体幹の質(分離や協調)まで含めて「介入の当たり」を作りたいなら FACT、評価研究や構成概念として体幹障害を捉えたいなら TIS、という考え方が実装しやすいです。施設内で「いつ」「誰が」「どの尺度で」追うかを先に決めると、経過比較が安定します。
Q2. 端座位が不安定で開始できない場合はどうしますか?
A. まず安全を優先し、介助量や環境調整(座面の硬さ、足底支持、介助位置)を整えたうえで「どこまでなら実施できたか」を所見として残します。できないこと自体が重要な情報なので、中止基準(ずり落ち、強い疲労、血圧変動など)も含めて記録すると次回の比較がしやすくなります。
Q3. 点数が上がらないとき、どこを見直せばいいですか?
A. ( 1 )測定条件(座面・足底支持・指示)が前回と同じか、( 2 )代償が増えていないか、( 3 )ボトルネック課題に対して介入が刺さっているか、の順で確認します。点数が据え置きでも代償が減って動きの質が上がっていることがあるため、所見メモがあると判断がブレにくくなります。
Q4. 「評価用紙」はどこで確認できますか?
A. 原著論文や関連論文に図表として掲載されていることがあります。施設内の運用では、紙面そのものより「条件」「所見」「介入テスト」「変化」を同じ書式で残せる記録フォーマットを整えると、再評価の価値が上がります。
おわりに
FACT は、安全の確保 → 条件の統一 → 段階課題の実施 → 所見を仮説化 → 小さな介入で再評価 → 記録 → 次回へ検証という流れで回すと、点数が臨床の意思決定に直結します。
評価の結果をキャリア設計(職場選びや面談準備)にもつなげたい場合は、面談準備チェックと職場評価シートをまとめた マイナビコメディカル(固定ページ) も併せて活用してください。
参考文献
- 奥田 裕, 荻野 禎子, 小澤 佑介, ほか. 臨床的体幹機能検査(FACT)の開発と信頼性. 理学療法科学. 2006;21(4):357–362. doi:10.1589/rika.21.357
- Okuda Y, Owari G, Harada S, et al. Validity of functional assessment for control of trunk in patients with subacute stroke: a multicenter, cross-sectional study. J Phys Ther Sci. 2023;35(7):520–527. doi:10.1589/jpts.35.520
- Sato K, Maeda K, Ogawa T, et al. The functional assessment for control of trunk (FACT) and functional outcomes in neurological rehabilitation. NeuroRehabilitation. 2021;48(1):59–66. doi:10.3233/NRE-201533 PubMed
- Verheyden G, Nieuwboer A, De Wit L, et al. Trunk performance after stroke and the relationship with balance, gait and functional ability. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(7):694–698. doi:10.1136/jnnp.2006.101642 PubMed
- Verheyden G, Mertin J, Preger R, et al. The Trunk Impairment Scale: a new tool to measure motor impairment of the trunk after stroke. Clin Rehabil. 2004;18(3):326–334. doi:10.1191/0269215504cr733oa PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


