ACBT(呼吸コントロール・胸郭拡張・ハフィング)とは?(結論)
呼吸リハの基本手技を「手順化」して、ベッドサイドの再現性を上げる。 PT キャリアガイド|臨床の組み立て方を見る
ACBT( Active Cycle of Breathing Techniques )は、①呼吸コントロール、②胸郭拡張( Thoracic Expansion Exercises )、③ハフィング( Forced Expiration Technique )をサイクルで回し、分泌物の移送と喀出を狙う呼吸理学療法です。気道クリアランスでは「全力の咳」を増やすほど疲労・低酸素・疼痛が問題になりやすいので、ハフィング+休息で“回数を減らして効率を上げる”設計がポイントになります。
臨床では、座位・セミファウラーでも実施しやすく、呼吸困難感や SpO₂ を見ながら段階的に負荷調整できるのが強みです。なお、徒手介入(胸郭の促通など)と組み合わせる場合は、関連:徒手胸郭伸張法(胸郭モビリゼーション)の手順と禁忌もあわせて確認すると、介入のつながりが作りやすくなります。
適応の目安(どんなときに ACBT を使う?)
ACBT は、痰貯留や無気肺リスクがあり「咳だけでは出せない/出すと疲れる」ケースで使いどころが明確になります。とくに、気管支拡張症や COPD の分泌物管理、術後や長期臥床で換気が落ちやすい場面などで、呼吸仕事量を増やしすぎずに排痰へつなぐ目的で選択されます。ガイドラインでも、気道クリアランス手技の一つとして ACBT の使用や、ハフィング( FET )の組み込みが推奨・推奨相当として位置づけられています。
一方、分泌物が少なく咳で十分に自己喀出できる場合は、長いセッションが不要になることもあります。目的(痰の移送/無気肺予防/呼吸困難の調整)を先に決め、短時間で効果が出る設計に寄せるのが現場向きです。
禁忌・注意(安全管理の前提)
ACBT 自体は非侵襲ですが、ハフィングや咳を伴うため、状態によっては悪化リスクがあります。禁忌・要注意は「強い呼吸困難」「循環不安定」「出血リスク」「胸部の構造的リスク」を軸に整理すると迷いにくくなります。
| 区分 | 例 | 現場の対応 |
|---|---|---|
| 中止・回避 | 血行動態不安定(ショック、重篤な不整脈など)、治療抵抗性の気胸、重篤な低酸素血症、意識障害で協力困難 | まず全身管理を優先。呼吸介助の範囲は医師・上位者と合意してから。 |
| 要注意 | 喀血/血痰、強い胸部痛、術後早期、骨粗鬆症・肋骨痛、頭蓋内圧亢進が疑われる状態 | 咳・ハフィング回数を最小化。体位調整、短時間、観察優先で段階的に。 |
| 悪化しやすい | 過換気、強い不安、咳が連発して止まらない | 呼吸コントロールへ戻す。休息・水分・加湿、説明で安心を作る。 |
中止基準(ベッドサイドでの実用ライン)
ACBT は「続ければ良くなる」ではなく、悪化サインが出たら即戻るのが安全です。目安は SpO₂ の低下、循環応答、呼吸困難感の増悪、疼痛、咳の制御不能です。
| 項目 | 観察ポイント | 中止・減量の目安 |
|---|---|---|
| SpO₂ | 安静比からの低下、回復の遅れ | 90% 未満、または安静比 −4% 以上の低下が持続する |
| HR/血圧 | 過剰な上昇、不整脈、めまい | HR 安静比 +20% 超、不整脈新規出現、SBP < 90 mmHg など |
| 呼吸困難感 | 会話困難、補助呼吸筋の過活動 | 増悪したら即中断→呼吸コントロールへ |
| 疼痛/咳 | 胸部痛、咳嗽の連発 | 疼痛増悪・咳の制御不能は中止(量・回数を落として再設計) |
手順(5〜10 分で回す “現場版 ACBT” )
ACBT は「正しい順番」よりも、疲労と SpO₂ を崩さずに移送→喀出へつなぐことが優先です。最初は短く、効果が出たら延長する方が失敗しにくいです。
0)準備(30〜60 秒)
- 体位:基本はセミファウラー〜端座位。息切れが強いなら前傾位で開始。
- 確認:SpO₂、HR、呼吸数、呼吸困難感(0–10)、疼痛。
- 目標:今日は「痰を 1 回まとめて出す」か「楽にする」か、ゴールを 1 つに絞る。
1)呼吸コントロール(Breathing Control)
肩すくみを抑え、静かな鼻吸気と口呼気を 2〜3 呼吸。ここは“休憩パート”です。息切れが落ち着くまで待てると、次の胸郭拡張とハフィングが安定します。
2)胸郭拡張(Thoracic Expansion Exercises)
深めの吸気を 2〜3 回(吸気末で 2〜3 秒保持を入れてもよい)。狙いは「空気を末梢へ入れて」「後の呼気流量差を作る」ことです。息切れが増えたら、回数を 1〜2 回に減らして OK です。
3)ハフィング(FET:Forced Expiration Technique)
小さく口を開けて「ハッ」と1〜2 回。ここで回数を増やすほど疲れやすいので、まずは最少回数で効率を狙います。
- 末梢狙い(低肺気量から):息を吐ききった付近→「ハッ」→分泌物を末梢から動かすイメージ。
- 中枢狙い(中〜高肺気量から):少し吸ってから→「ハッ」→大きい気道へ寄せるイメージ。
- 咳は「出せるところまで寄ってから」最小回数。咳が連発するなら、呼吸コントロールへ戻します。
4)休息→反復(2〜4 サイクル)
呼吸コントロールへ戻し、落ち着いたら次のサイクルへ。目安は 5〜10 分(長くても 10〜15 分程度)。「疲れてから続ける」より、「短く終えて次回につなぐ」方が定着しやすいです。
うまくいかない原因(詰まりどころ)
ACBT が効かないときは、手技そのものより「順番」「回数」「強さ」がズレていることがほとんどです。以下の 3 点を先に直すと改善しやすいです。
- ハフィングが強すぎる:息切れ・咳連発になり、休息が足りなくなる。
- 胸郭拡張が多すぎる:過換気で苦しくなり、次の FET が崩れる。
- 咳を早く使いすぎる:末梢から中枢への移送が作れず、疲労だけ増える。
よくあるミスと修正(早見表)
| よくあるミス | 起きやすい状況 | 修正ポイント |
|---|---|---|
| ハフィングを連発する | 痰を急いで出したい/息切れが強い | FET は 1〜2 回で止め、必ず呼吸コントロールへ戻す。回数より“質”。 |
| 胸郭拡張が多く過換気 | 深呼吸を頑張りすぎる | 胸郭拡張は 1〜2 回に減らす。吸気保持は短く、息切れが増えたら中止。 |
| 咳が止まらない | 刺激量過多/休息不足 | 即中断→呼吸コントロール→水分・加湿。再開は短時間・低回数。 |
| 痰が上がってこない | 末梢狙いがない/体位が苦しい | 低肺気量からの FET を 1 回入れる。体位は前傾やセミファウラーに戻す。 |
| SpO₂ が下がる | 長すぎる/強すぎる | サイクル数を減らす。休息を増やし、短時間で終了。必要時は上位者へ相談。 |
効果判定(Before/After の取り方)
ACBT は “やった感” が出やすい一方、再現性のある評価がないと介入がぶれます。最低限、以下の 4 点をセットで見ます。
- バイタル:SpO₂、HR、呼吸数、血圧(可能なら)。
- 主観:呼吸困難感(0–10)、疲労(0–10)、胸部症状(痰が動く感じ)。
- 分泌物:喀出量(少/中/多)、粘稠度、色調、咳の回数。
- 機能:会話耐性、起座・立位での息切れ、歩行許容量。
よくある質問(FAQ)
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Q1. ハフィングは「強く」やるほど痰が出ますか?
強さを上げるほど、息切れ・咳連発・疲労で破綻しやすくなります。まずは 1〜2 回の FET を丁寧に行い、必ず呼吸コントロールで落ち着かせます。回数と強さは “最小で効く” が基本です。
Q2. 咳は入れた方がいいですか?
咳は「中枢へ寄ってから」最小回数で十分なことが多いです。咳が連発する場合は、呼吸コントロールへ戻して一度落ち着かせ、次のサイクルを短く設計し直します。
Q3. 何分くらいやればいいですか?
目安は 5〜10 分です。長く続けるほど良いとは限りません。SpO₂ と呼吸困難感が安定していて「痰が動く」感触が出た時点で、短時間で切り上げて次回につなげる方が定着しやすいです。
Q4. 体位は座位が必須ですか?
必須ではありません。セミファウラーや軽い前傾位でも実施できます。重要なのは、息切れが増えない体位で呼吸コントロールが成立することです。
おわりに
ACBT は「安全の確認 → 呼吸を落ち着かせる → 胸郭を広げる → ハフィングで移送 → 最小の咳でまとめる → 再評価」というリズムを崩さないほど、短時間でも効果が出やすくなります。臨床での準備を整えたい方は、面談準備チェック&職場評価シート(ダウンロード)も活用して、判断の軸を手元に残しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Herrero-Cortina B, Lee AL, Oliveira A, et al. European Respiratory Society statement on airway clearance techniques in adults with bronchiectasis. Eur Respir J. 2023;in press. DOI: 10.1183/13993003.02053-2022
- Hill AT, Sullivan AL, Chalmers JD, et al. British Thoracic Society guideline for bronchiectasis in adults. BMJ Open Respir Res. 2018;5(1):e000348. DOI: 10.1136/bmjresp-2018-000348
- Strickland SL, Rubin BK, Drescher GS, et al. AARC clinical practice guideline: effectiveness of nonpharmacologic airway clearance therapies in hospitalized patients. Respir Care. 2013;58(12):2187-2193. DOI: 10.4187/respcare.02925. PubMed: PMID:24222709
- McCool FD, Rosen MJ. Nonpharmacologic airway clearance therapies: ACCP evidence-based clinical practice guidelines. Chest. 2006;129(1 Suppl):250S-259S. DOI: 10.1378/chest.129.1_suppl.250S. PubMed: PMID:16428718
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

