ALS リハ評価の全体像|初回 10 分スクリーニングから領域別アセスメントまで
ALS の評価で迷うときほど、“順番” を固定すると判断が速くなります。 臨床力を体系化するロードマップを見る 初回は「安全 → 10 分 → 優先順位 → 領域別」の型で十分です。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)のリハ評価は、“全部を詳しく” よりも「初回で方向性を決め、必要な領域を深掘りする」方が失敗しにくいです。結論として、①初回 10 分で “危険と優先” を決める → ②領域別(呼吸・嚥下・コミュニケーション・姿勢/座位など)を深掘り → ③記録を型で残して再評価の順に進めると、病棟・外来・訪問のどこでも再現できます。
この記事では、初回スクリーニングの手順、優先順位の決め方、領域別評価の要点と “次に読むべき小記事”を 1 ページにまとめます。
初回 10 分スクリーニング(まず “危険” と “最優先” を決める)
初回は、細かな測定よりも安全管理と生活の詰まりを先に押さえます。特に ALS は、呼吸と嚥下が絡むと急に状況が変わるため、ここを見落とすと介入が噛み合いません。
| 順番 | 見ること | 短い質問・観察(例) | 危険サイン | 次アクション |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 呼吸の負担 | 息切れ、会話の途切れ、肩呼吸、安静時の呼吸数 | 安静でも呼吸が苦しい、会話が続かない | 呼吸評価へ(測定・介入の優先度を上げる) |
| 2 | 嚥下の詰まり | むせ、食事時間の延長、疲労で食べられない | むせ増加、体重減少、脱水リスク | 嚥下スクリーニングと食形態・姿勢の調整 |
| 3 | 移動と転倒 | 歩行/立ち上がり、足部クリアランス、疲労で崩れるか | ふらつき増悪、転倒歴 | 補装具・歩行補助具・環境調整を検討 |
| 4 | 座位の保持 | 骨盤後傾、片側崩れ、頸部保持、痛み・しびれ | ずれ座り、皮膚トラブル、呼吸が浅くなる | シーティング調整で “持ち時間” を確保 |
| 5 | 意思疎通 | 聞く/話す/書く/操作(入力)が保てるか | 伝えたいのに伝わらない | AAC を “並走” で準備(低テクから) |
優先順位の決め方(迷ったら “ 3 つの軸” )
ALS の評価は領域が広く、優先順位が曖昧だと “測るだけ” になります。迷ったら、①安全(呼吸・嚥下) ②生活の詰まり(移動・姿勢・痛み) ③意思決定(コミュニケーション)の 3 軸で最優先を 1 つに絞ります。
| 軸 | 優先の理由 | 初回で見る指標(例) | 次の深掘り |
|---|---|---|---|
| 安全 | 悪化が早いと生活が一気に崩れる | 呼吸の負担、むせ、疲労で食べられない | 呼吸評価/嚥下評価の詳細へ |
| 生活の詰まり | 疲労・痛み・姿勢が “できる時間” を削る | 転倒、座位保持、痛み、ずれ座り | シーティング/福祉用具/動作評価へ |
| 意思決定 | 情報が伝わらないと支援が遅れる | 聞く/話す/書く/操作(入力) | AAC の導入と運用へ |
全体評価(機能の “見える化” ): ALSFRS-R の位置づけ
ALSFRS-Rは、症状の進行を “ざっくり同じ物差し” で共有できるのが強みです。初回は細部よりも、呼吸・嚥下・上肢・移動のどこが落ちているかを把握し、領域別評価の入り口にします。
運用のコツ(測るタイミング、家族への説明、記録の型)は、別記事にまとめています。
呼吸評価(最優先になりやすい領域)
ALS の呼吸評価は、数値の良し悪しだけでなく日常の負担(会話・更衣・移動で息が切れる)とセットで判断します。初回は “危険の拾い上げ” を優先し、必要に応じて測定と介入(呼吸介助、排痰、 NIV の検討など)につなげます。
嚥下評価(疲労と栄養が絡む)
嚥下は “むせ” だけでは測れません。ALS では疲労で一気に崩れることがあり、初回は食事時間・食形態・疲労の出方をセットで聞くと、次の介入が決まります。スクリーニングは短く、必要なら ST 連携で精査へ進めます。
コミュニケーション評価と AAC( “早めの並走” が効く)
ALS は「話せるけど伝わらない」期間が長くなりやすく、ここで AAC を並走できると、意思決定と生活の質を守りやすくなります。評価は “高機能機器を選ぶ” よりも、確実に意思が伝わる経路を複線化するのが目的です。
姿勢・シーティング(呼吸・痛み・褥瘡を同時に整える)
ALS は、体幹・頸部の支持性が落ちると、呼吸が浅くなり、痛みや疲労が増え、食事や会話の “持ち時間” が短くなります。初回は骨盤 → 体幹 → 頭頸部の順に整え、圧とずれを減らして再評価するだけでも変化が出やすい領域です。
記録の型( “次の人が再現できる” 書き方 )
ALS の評価記録は、専門職が変わっても再現できることが重要です。おすすめは、①最優先(安全/詰まり/意思決定) ②現状(短い観察) ③有効だった条件(姿勢・時間帯・設定) ④次回の確認項目( 2〜3 個)の 4 点だけを固定する方法です。
| 欄 | 書くこと | 例 |
|---|---|---|
| 最優先 | 安全/生活の詰まり/意思決定のどれか | 最優先:安全(呼吸) |
| 現状 | 短い観察( 2〜3 行) | 会話で息切れ、歩行後に強い疲労 |
| 有効条件 | 姿勢・時間帯・設定 | 午前/背角 ○° で呼吸が楽 |
| 次回 | 確認項目を 2〜3 個 | 呼吸の負担、座位保持時間、食事の疲労 |
よくある質問(FAQ)
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Q1. 初回は ALSFRS-R からやるべきですか?
初回は “測定の順番” よりも、まず安全(呼吸・嚥下)と最優先を決めるのが先です。そのうえで ALSFRS-R を使うと「どの領域を深掘りするか」が決まり、評価が “測るだけ” になりにくいです。
Q2. 何から優先すべきか迷います。
迷ったら「安全(呼吸・嚥下)→生活の詰まり(移動・姿勢・痛み)→意思決定(コミュニケーション)」の 3 軸で最優先を 1 つに絞ります。次回までの確認項目を 2〜3 個に固定すると、介入の効果判定がしやすくなります。
Q3. 訪問だと測定が難しいです。どうしますか?
訪問では “測れないこと” より “生活で困っていること” を起点にします。初回 10 分スクリーニングで危険と優先を決め、必要なときだけ領域別評価を追加する運用が現実的です。記録は「最優先・現状・有効条件・次回」の 4 点に絞ると共有しやすいです。
おわりに
ALS の評価は、安全の確認 → 初回 10 分スクリーニング → 最優先の決定 → 領域別の深掘り → 記録の型 → 再評価の “リズム” を固定すると、どの現場でも迷いが減ります。小記事を使って深掘り領域を増やしつつ、まずは「次回までに確認する 2〜3 項目」を決めて回してみてください。
あわせて、面談準備チェックと職場評価シートで “次の一手” を整理したい方は、こちらから確認できます:/mynavi-medical/#download
参考文献
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- Majmudar S, Wu J, Paganoni S. Rehabilitation in amyotrophic lateral sclerosis: Why it matters. Muscle Nerve. 2014;50(1):4-13. doi: 10.1002/mus.24202. PubMed: 24510737
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著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


